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江戸川区の給食アレルギー事故、学校のミスではなかった——アーモンドに紛れたくるみの正体

江戸川区の学校給食アレルギー事故——アーモンド粉末にくるみが混入した問題のイメージ

| 読了時間:約10分

「アーモンドの粉で焼いたパン」が、なぜくるみアレルギーの子どもたちを苦しめたのか。

2026年1月、江戸川区の学校給食で児童生徒4人が救急搬送される事態が起きた。
原因は「ビスキュイパン」に使われたアーモンドの粉末。
ところが問題はアーモンドではなく、そこに紛れ込んでいたくるみの粉末だった。

 

なぜアーモンドの粉にくるみが入っていたのか。
そして、なぜくるみアレルギーがこれほど深刻な問題になっているのか。
事故の全容から、製造段階に潜む盲点、くるみアレルギー急増の背景までを整理する。

 

 

 

 

江戸川区の給食で何が起きたのか——3校で16人が体調不良、4人搬送

2026年1月27日30日の2日間、江戸川区の区立小中学校3校で、給食を食べた児童生徒あわせて16人がアレルギー症状を訴えた。うち4人が救急搬送されている。原因とみられるのは、アーモンドの粉末に混入していたくるみの粉末だ。

体調不良を訴えたのは搬送された4人だけではない。
江戸川区の公式発表によると、1月27日に区立中学校1校でくるみアレルギーのある生徒3人が給食後に体調を崩し、うち1人が救急搬送された。

さらに1月30日には、区立小学校2校でナッツアレルギーのある児童13人が体調不良を訴え、うち3人が搬送されている。
合計16人が影響を受けた。

4人はいずれも蕁麻疹や嘔吐の症状が出たが、その後全員が回復している

 

ビスキュイパンとは?

取手市の給食レシピによると、ビスキュイパンはパンの上にビスケット生地を塗って焼いた、メロンパンに近い食感の甘いパンだ。この生地にアーモンドの粉末が使われていた。

TBS NEWS DIGの報道によれば、これまで同じ業者から仕入れたアーモンド粉末でアレルギーが出た子はいなかった。
今回のロットにだけ、くるみの粉末が紛れ込んでいた疑いがある。

 

 

 

事故の時系列

1月27日:区立中学校1校で生徒3人が体調不良、1人搬送
1月28日:教育委員会に報告
1月30日:区立小学校2校で児童13人が体調不良、3人搬送
2月2日:区が食材納入業者に成分検査を依頼
2月6日:納入業者・食品製造業者がくるみ粉末の混入の可能性を報告
2月10日:江戸川区がプレスリリースで公表

ここで気になるのが時系列だ。
最初の異変は1月27日。翌28日に教育委員会へ報告が上がっている。
にもかかわらず、30日に小学校2校で再び同じ食材による発症が起きた。

28日の報告から30日の再発まで、わずか2日
この間に同じ業者の食材を止める判断ができていれば、小学校での13人の体調不良は防げたのではないか。

2月2日、区は食材納入業者に成分検査を依頼。
そして2月6日、食材納入業者と食品製造業者の両者から、アーモンドプードルアーモンドの粉末の中にクルミローストパウダーくるみのロースト粉末が混入していた可能性があるとの報告が届いた。

だが、そもそもなぜ「アーモンドの粉」に「くるみの粉」が混入していたのか。
ここに今回の事故の核心がある。

 

 

 

なぜアーモンドの粉にくるみが混入したのか——製造段階の「見えない混入」

今回の混入は学校の調理現場ではなく、食品製造業者の段階で起きた。アーモンドの粉末の製造過程で、くるみの粉末が「コンタミネーション意図しない混入」として紛れ込んだとみられる。

給食のアレルギー事故と聞くと、「学校が原材料を確認しなかったのでは」「栄養士のミスでは」と思う人が多い。
実際、過去のアレルギー事故では調理現場での確認不足や誤配膳が原因になることが多かった。

ところが今回は事情が違う。
江戸川区の公式発表によると、混入の報告を寄せたのは「食材納入業者A及び食品製造業者」だ。
学校が調理の段階で間違えたのではなく、届いた食材の中にすでにくるみが入り込んでいたことになる。

学校は成分表どおりに調理していた。問題は、その成分表に載っていないものが紛れ込んでいたことだ。

 

 

 

コンタミネーションとは?

食品の製造現場では、意図しない混入が起きることがある。これを「コンタミネーション」と呼ぶ。たとえばナッツの粉末を作る工場で、くるみを加工したあとに同じ機械でアーモンドを加工すると、ラインに残った微量のくるみが次のアーモンド製品に混じる。機械を掃除しても完全には取り除けない場合がある。

今回も同様の仕組みで混入が起きたとみられる。
食品製造業者がアーモンドプードルを作る過程で、クルミローストパウダーの残留物が紛れ込んだ可能性がある。
ただし、江戸川区の公式発表は「混入していた可能性がある」という表現にとどまっており、具体的な混入経路は成分検査の結果を待つ必要がある。

ここで見落としてはならない事実がある。
江戸川区のアレルギー対応方針には、「明確な使用目的がある場合以外、落花生、くるみ、キウイの使用は避ける」と明記されている。

つまり、江戸川区は「くるみの使用を避ける」方針をとっていた。それでもくるみは入り込んだ。
避けていたのはくるみそのものであり、アーモンドの原材料に紛れ込むくるみまでは想定しきれていなかったのだ。

 

 

 

同じ方針文書には「コンタミネーションについての対応が必要とされる場合は、弁当対応も考慮する」との記載もある。
コンタミネーションのリスク自体は認識されていたが、それは個々の児童生徒の重症度に応じた弁当対応の判断材料としてであり、食材そのものの製造段階のリスクを積極的に防ぐ仕組みとは違う。

市販の食品で「本品製造工場ではくるみを含む製品を生産しています」という注意書きを見たことがあるだろう。
あれがまさにコンタミネーションの注意喚起だ。
だが、学校給食に届く業務用の食材で、こうした情報がどこまで現場に届いているかは定かでない。

製造段階でのくるみ混入が問題になった背景には、近年のくるみアレルギーの急増がある。

 

 

 

くるみアレルギーはなぜ急増しているのか——食物アレルギー原因の第2位に

くるみは今、鶏卵に次ぐ食物アレルギー原因の第2位に立っている。3〜6歳の子どもでは新規発症の原因食物として1位だ。

消費者庁の調査データ

消費者庁の令和6年度調査報告書によると、即時型食物アレルギーの原因食物として、くるみは全体の15.2%916例)を占めた。品目別では鶏卵(26.7%)に次ぐ2位
年齢別に見ると、3〜6歳ではくるみが28.3%で原因食物の1位7〜17歳でも17.2%1位になっている。

給食を食べる年齢の子どもたちにとって、くるみは最も注意すべきアレルゲンになった。

なぜこれほど増えたのか。
タムスわんぱくクリニック小岩の解説によると、くるみやカシューナッツの輸入量がここ20年で倍以上に増え、食べる機会が急激に広がったことが背景にある。
健康志向のナッツブームも拍車をかけた。パン、菓子、サラダ、おつまみ。くるみの入った食品はどこにでもある。

 

 

 

ここでひとつ、誤解されやすいポイントがある。
「ナッツアレルギーの子は全部のナッツがダメ」と思っている人は少なくない。
だが実際には、ナッツの種類ごとにアレルゲンとなるタンパク質が異なる

食物アレルギー研究会の解説によると、強い交差反応が確認されているのはくるみとペカンナッツ、カシューナッツとピスタチオの組み合わせだ。
くるみアレルギーの人がアーモンドを食べても症状が出ないケースは珍しくない。
今回の事故で搬送された子どもたちも、アーモンド自体は問題なく食べられるからこそ、ビスキュイパンを口にしていた。

この急増を受けて、2025年4月にくるみの食品表示が義務化された。
加工食品にくるみが含まれていれば、必ずパッケージに表示しなければならない。
特定原材料は「えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生」の7品目から、くるみを加えた8品目になった。

 

くるみ表示義務化

2025年4月施行

コンタミネーション

義務表示の対象外

しかし、今回の事故はその義務化が完全施行されてからわずか10か月に起きた。
しかも問題は「くるみを使ったのに表示しなかった」のではなく、「くるみを使っていないのに混入していた」という点にある。

コンタミネーション——意図しない混入——は、表示義務の直接の対象外だ。
義務化だけでは防げない領域にリスクが残っていることを、この事故は突きつけている。

 

 

 

学校給食のアレルギー事故は防げるのか——2012年の死亡事故からの教訓

今回、搬送された4人は全員が回復した。だが、学校給食のアレルギー事故は常にこの結末で終わるわけではない。

2012年12月、同じ東京都内の調布市で、給食アレルギーによる死亡事故が起きている。
乳アレルギーのある小学5年生の女児が、チーズの入ったチヂミを誤って食べ、アナフィラキシー全身に広がる重いアレルギー反応ショックで亡くなった。
この事故をきっかけに文部科学省は「学校給食における食物アレルギー対応指針」を策定し、全国の学校で対策が強化された。

2つの事故を並べると、原因の「質」が異なることに気づく。

 

 

 

2012年 調布市

調理現場の誤配膳

2026年 江戸川区

製造段階の混入

調布市の事故は、調理現場での誤配膳が引き金だった。
アレルギー対応の除去食が用意されていたにもかかわらず、女児がおかわりとして通常食のチヂミを受け取ってしまった。
つまり、現場の確認体制のなかで起きた事故だ。

一方、今回の江戸川区の事故は、食材そのものに原因があった。
学校は成分表を確認し、くるみを避ける方針どおりにアーモンドの食材を使った。
調理も配膳も手順どおりだったとみられる。それでも事故は起きた。

調布市事故のあと、調理現場の対策は大きく進んだ。
除去食は「提供するか、しないかの二者択一」が原則になり、配膳時の声出し確認やフードカバーによる誤配膳防止が標準化された。
江戸川区のアレルギー対応方針にも、こうした手順は細かく盛り込まれている。

調理現場の対策が進んだぶん、リスクは「見えにくい上流」へ移った。
今回の事故が示したのは、食品製造業者の段階で起きるコンタミネーションという、学校の対応マニュアルだけでは捕捉しにくい領域のリスクだ。

 

保護者ができること

給食を食べる子どもを持つ保護者なら、「うちの学校は大丈夫だろうか」と感じたはずだ。子どもにナッツアレルギーがある場合は、学校の給食対応方針を改めて確認してほしい。どのナッツが対象で、コンタミネーションへの対応はどうなっているのかを、学校側と話しておくことが大切だ。

2月2日に依頼された成分検査の結果はまだ出ていない。
江戸川区は「引き続き原因の究明を行い、再発防止に努めていく」としている
検査結果が出れば、混入の具体的な経路や責任の所在がより明確になるだろう。

今回の事故は、「くるみを使わない」という対策だけでは足りないことを示した。
原材料がどの工場で、どんなラインで作られているのか。
製造段階まで踏み込んだ管理が、学校給食にも求められる時代に入っている。

 

 

 

まとめ

  • 2026年1月、江戸川区の学校給食で児童生徒16人が体調不良を訴え、4人が救急搬送された。全員が回復している
  • 原因はビスキュイパンに使われたアーモンドの粉末に、くるみの粉末が混入していた疑い。学校のミスではなく、食品製造の段階で紛れ込んだとみられる
  • くるみアレルギーは鶏卵に次ぐ食物アレルギー原因の第2位。3〜6歳の新規発症では1位になっている
  • 2025年4月にくるみの食品表示が義務化されたが、コンタミネーション(意図しない混入)は義務表示の対象外。表示義務化だけでは防ぎきれないリスクが残っている
  • 子どもにナッツアレルギーがある保護者は、学校の給食対応方針を改めて確認してほしい。どのナッツが対象で、コンタミネーションへの対応はどうなっているのかを、学校側と話しておくことが大切だ

 

よくある質問(FAQ)

Q1. 江戸川区の給食アレルギー事故で何が起きた?

2026年1月、区立小中学校3校で給食を食べた16人が体調不良を訴え、4人が救急搬送されました。全員が回復しています。原因は給食のビスキュイパンに使われたアーモンドの粉末に、くるみの粉末が混入していた疑いです。

Q2. なぜアーモンドの粉にくるみが混入していた?

食品製造業者の段階で、アーモンドプードル(アーモンドの粉末)にクルミローストパウダー(くるみのロースト粉末)が紛れ込んだとみられています。製造ラインの共用によるコンタミネーション(意図しない混入)が原因の可能性があります。

Q3. くるみアレルギーが急増しているのはなぜ?

くるみの輸入量がここ20年で倍以上に増え、食べる機会が急増したことが主な背景とされています。消費者庁の調査では、くるみは食物アレルギー原因の第2位(15.2%)を占めています。

Q4. くるみはアレルギー表示が義務化された?

2025年4月に完全施行され、特定原材料8品目に追加されました。ただしコンタミネーション(意図しない混入)は義務表示の対象外であり、今回のような製造段階の混入を防ぐ直接の仕組みにはなっていません。

Q5. コンタミネーションとは?

食品の製造過程で、原材料として使っていないアレルゲンが意図せず混入することです。同じ製造ラインで異なる食材を加工する際、前の製品の微量残留が次の製品に紛れ込むケースがあります。

Q6. ビスキュイパンとは?

パンの上にビスケット生地を塗って焼いた給食メニューです。メロンパンに近い食感の甘いパンで、今回はこの生地にアーモンドの粉末が使われていました。

Q7. くるみアレルギーとアーモンドアレルギーは違う?

ナッツの種類ごとにアレルゲンとなるタンパク質が異なります。くるみがダメでもアーモンドは食べられる人がいます。強い交差反応が確認されているのはくるみとペカンナッツ、カシューナッツとピスタチオの組み合わせです。

Q8. 過去に給食アレルギーで死亡事故はあった?

2012年12月に東京都調布市で、乳アレルギーのある小学5年生の女児がチーズ入りチヂミを誤食し、アナフィラキシーショックで亡くなっています。この事故をきっかけに全国で対策が強化されました。

Q9. 学校給食でナッツアレルギーの事故は防げる?

調布市事故以降、調理現場での対策は大きく進みました。しかし今回のように製造段階でのコンタミネーションが原因の場合、学校の対応だけでは防ぎにくい課題が残ります。

Q10. 江戸川区の成分検査の結果はいつ出る?

2月2日に依頼された成分検査は約2週間かかる見込みとされています。2026年2月11日時点では結果はまだ公表されていません。

 

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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