
| 読了時間:約8分
「友達と旅行に行く」。
その一言を最後に、福岡の20代大学生がカンボジアで消えた。
闇バイトに応募したわけではない。
浮かび上がったのは、「無料の旅行」で誘い出す新たな手口だった。
「旅行に行く」がなぜ行方不明に変わったのか
闇バイトとは無関係の大学生が消えた。
読売新聞の報道によると、2025年12月、福岡県在住の20代男子大学生が「旅行に行く」と告げて自宅を出た。
アルバイト先の友人と2泊3日。行き先はアジアの近隣国で、初めての海外旅行だった。
ところが出国の翌日、LINEで「カンボジアにいる」と連絡が届く。
予定していた国とは違う場所だった。
母親が「なぜカンボジアに?」とメッセージを送ると、「心配ないよ」と返信があった。
スマートフォンの位置情報はカンボジア国内を移動していた。
3日目に、スマートフォンの電源が切れた。
2泊3日の旅行のつもりだった → 2か月以上、音信不通が続いている。
母親は福岡県警に行方不明者届を出し、外務省にも相談したが、有力な手がかりはないという。
⚠ 重要な事実
この大学生は闇バイトに応募していない。高額報酬の求人に釣られたわけでもない。「友達と旅行に行く」。きっかけはそれだけだった。
友人はSNSで数カ月かけて「信頼」を築かれていた
朝日新聞の報道で、勧誘の手口がさらに見えてきた。
同行した友人は、SNSで知り合った人物から誘われていた。
共通の趣味を通じて数カ月やりとりを重ね、信頼関係ができた頃に「旅行」を持ちかけられた。
「旅費は会社が出す」「現地には迎えや通訳がいる」。
そう説明されていたという。行き先は二転三転し、出発の直前にようやく決まった。
この手口を整理すると、3つの段階が浮かぶ。
勧誘から渡航までの3段階
① 信頼の構築
SNSで趣味を通じて接近し、数カ月かけて信頼を築く
② 安心材料の提示
「旅費は全額負担」「通訳もいる」と並べ、海外に誘い出す
③ コントロール下に置く
行き先は直前まで決めず、到着後に逃げ場をなくす
セキュリティの世界では、人間の心理を利用して行動を誘導する手法を社会工学と呼ぶ。
信頼の構築、偽りの安心感、行動の誘導。今回の勧誘はこの構造にぴたりと当てはまる。
福岡県警の幹部はこう証言している。
「最近は『闇バイト』ではなく、『費用負担のない旅行』などの誘い文句で海外に連れ出すケースが目立つ。犯罪に加担させられるおそれもあり、都合が良すぎる条件の渡航には注意してほしい」
──読売新聞報道より
闇バイトが社会問題として広く知られるようになり、「高額報酬」では警戒されるようになった。
そこで犯罪グループは「旅行」という別の入口を用意したのだろう。
では、カンボジアの詐欺拠点に連れて行かれた人には何が待っているのか。
福岡だけで10人が消えた ── 詐欺拠点の実態と韓国で起きた「最悪の結末」
この大学生だけの話ではない。
読売新聞によると、福岡県警が把握しているだけで、カンボジアで行方が分からなくなった県内の男性は約10人にのぼる。
直近約2年間の数字で、学生や無職の20〜30代が中心だ。
なかには「テレアポの仕事。月30万円」と誘われて渡航し、1年以上帰国していない男子学生2人も含まれている。
スマートフォンの位置情報が、警察当局が把握する特殊詐欺拠点で確認されたケースもあるという。
拠点では何が起きているのか
外務省の注意喚起は、拠点の実態をこう記している。
「パスポートを取り上げられて軟禁状態になってしまったり、自分自身や家族等の個人情報をもとに脅迫され、抜け出すことができなくなったりするばかりか、犯罪組織内で暴行を受ける等のおそれもあり、実際にそのような事例が発生しています」
──外務省 広域情報より
到着するとパスポートを取り上げられる。外出は許されない。
詐欺電話をかける実行役、いわゆる架け子として働かされ、逆らえば暴行が待つ。
「やめたい」と言っても、個人情報で脅され、逃げ場がなくなる。
外務省はさらに、未成年者が特殊詐欺に加担させられるケースも発生していると警告している。
被害の規模も深刻さを増している。
| 指標 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 特殊詐欺被害額(2025年) | 約1414億円(前年から倍増) | 警察庁発表 |
| 認知件数 | 2万7758件(過去最悪) | 警察庁発表 |
| 海外拠点での逮捕者(2025年) | 54人(カンボジア32人、他3カ国) | 朝日新聞報道 |
| 逮捕者の年齢層 | 8割が20〜30代 | 朝日新聞報道 |
現代ビジネスの報道によると、在カンボジア日本大使は「2023年頃から急に増えた印象」と語っている。
ここ2〜3年で状況が急速に悪化しているわけだ。
韓国では大学生が拷問で命を落とした
日本だけの話ではない。韓国ではもっと先に深刻化している。
🇯🇵 日本
福岡だけで約10人が不明
(全国は未公表)
🇰🇷 韓国
約80人が行方不明
22歳大学生が拷問死
中央日報や毎日新聞によると、2025年8月にカンボジア南部で韓国人大学生(22歳)の遺体が見つかった。
死因は拷問による心臓まひ。同じ大学の先輩が勧誘役だったことも判明している。
韓国では約80人の行方が分からなくなり、社会問題として大きく報じられた。
日本で今起きていることは、韓国が先に経験した事態と重なっている。
カンボジア政府は2026年に入り、「4月までに特殊詐欺を根絶させる」と宣言した。
1月から2月上旬までに約190カ所の詐欺拠点を摘発している。
ただし、摘発が進めば拠点がミャンマーやラオスなど別の国に移るだけではないか、という見方もある。
問題の根本は拠点の場所ではなく、日本の若者を海外に送り出す勧誘ルートにある。
では、こうした被害を防ぐために何ができるのか。
連れ出される前に気づくための「3つのサイン」
もし家族が「友達と海外旅行に行く。旅費はタダなんだ」と言い出したら。
その言葉に、どれだけの人が違和感を覚えられるだろうか。
今回の事案と過去の摘発事例から、勧誘には共通する特徴が浮かぶ。
🚨 危険な海外渡航を見抜く3つのサイン
① 旅費・滞在費が全額無料
「会社が出す」「経費で負担」と説明される
② 行き先が出発直前まで決まらない
二転三転し、直前にようやく確定する
③ SNSで知り合った人物が仲介
数カ月かけて信頼を築いた相手が間に入る
この3つのうち1つでも当てはまれば、立ち止まるべきサインだ。
今回の大学生の事案では、3つすべてが当てはまっていた。
なぜ「おかしい」と気づけないのか
行動心理学にコミットメントのエスカレーションという現象がある。
一度「行く」と決めた後では、条件が変わっても引き返しにくくなるという心理だ。
パスポートを取り、航空券も手配し、友人にも「行く」と伝えた。
その段階で行き先が変わっても、「もう準備したし」と流されてしまう。旅慣れていない若者ほど、この心理に陥りやすいだろう。
⚠️ 上記は行動心理学の知見に基づく推測であり、当事者の心理を断定するものではない。
しかも、ターゲットは若者に限らない。
2026年2月、75歳の知人をカンボジアの特殊詐欺拠点に送り込むため、関西空港まで連れて行った夫婦が「国外移送目的誘拐」の容疑で滋賀県警に逮捕された。
結果的にこの75歳は現地で拒否し3日で帰国したが、犯罪グループは年齢を問わず人を集めている。
家族が行方不明になったら、どこに連絡すべきか
📞 すぐに相談できる窓口
外務省領事サービスセンター
📞 03-3580-3311(内線2902, 2903)
警察相談専用窓口
📞 #9110
すでに渡航してしまった場合 → 現地の日本大使館・総領事館に連絡
外務省は「一人で悩まず、家族や警察に助けを求めてほしい」と呼びかけている。
母親は朝日新聞の取材に対し、同世代の若者や家族に向けてこう訴えた。
「SNSで知り合った相手の紹介による海外旅行、特に無料などと言われた場合は慎重に判断してほしい」
「旅費がタダ」「行き先が直前に変わる」「SNSで知り合った人の紹介」。
この3つを家族で共有しておくだけで、防げるケースがあるはずだ。
まとめ
- 福岡の大学生は闇バイトではなく「友人との旅行」として出国し、カンボジアで行方不明になった
- 友人はSNSで数カ月かけて信頼を築いた人物から「旅費無料」で誘われていた
- 福岡県だけで同様の不明者は約10人。韓国では大学生が拷問で死亡する事態に至っている
- 2025年の特殊詐欺被害額は約1414億円で過去最悪。海外拠点の摘発で54人が逮捕されたが、氷山の一角にすぎない
- 「旅費が無料」「行き先が直前に変わる」「SNS経由の紹介」が揃ったら危険信号。家族で共有してほしい
不安があれば、外務省領事サービスセンター(03-3580-3311)または警察相談専用窓口(#9110)に連絡を。
よくある質問(FAQ)
Q1. カンボジアで行方不明になった大学生はなぜ渡航したのですか?
友人に誘われた2泊3日の旅行として出国しました。闇バイトへの応募ではなく、旅費無料の海外旅行が入口でした。
Q2. カンボジアの特殊詐欺拠点ではどんなことが行われていますか?
パスポートを取り上げられて軟禁状態に置かれ、詐欺電話の「かけ子」として働かされます。暴行を受ける事例も外務省が確認しています。
Q3. 福岡県でカンボジアに行って帰ってこない人は何人いますか?
福岡県警が把握しているだけで約10人です。20〜30代の学生や無職の男性が中心で、1年以上帰国していない人もいます。
Q4. 普通にカンボジアを観光旅行するのは安全ですか?
SNSで知り合った人物の紹介や旅費無料の誘いでなければ、通常の観光旅行で詐欺拠点に巻き込まれた報告はありません。ただし渡航前に外務省の安全情報を確認してください。
Q5. 海外の詐欺拠点に連れて行かれる勧誘の特徴は?
旅費が全額無料、行き先が出発直前まで決まらない、SNSで知り合った人物が仲介している、の3つが共通する特徴です。
Q6. 家族がカンボジアで行方不明になったらどこに相談すべきですか?
外務省領事サービスセンター(03-3580-3311 内線2902)または警察相談専用窓口(#9110)に連絡してください。現地なら日本大使館へ。
Q7. 韓国でもカンボジアで行方不明者が出ていますか?
韓国では約80人が行方不明になり、22歳の大学生が拷問による心臓まひで死亡する事態に至っています。
Q8. カンボジア政府は詐欺拠点に対してどう動いていますか?
2026年4月までの根絶を目標に掲げ、1〜2月で約190カ所を摘発しています。ただし拠点が他国に移る懸念もあります。
Q9. 2025年の特殊詐欺の被害額はどのくらいですか?
警察庁によると約1414億円で前年から倍増し過去最悪です。認知件数も2万7758件で過去最多を記録しました。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
最新ニュースをわかりやすく、いち早くお届けします。
📚 参考文献
- 読売新聞「『旅行に行く』軽装で海外に行った大学生が行方不明、特殊詐欺拠点か『カンボジアにいる』…福岡県警『同様の不明者10人』」(2026年2月19日)
- 朝日新聞「カンボジアで息子不明、案じる母 『友人と旅行へ』犯罪組織と関連か」(2026年2月19日)
- 外務省 海外安全ホームページ「海外における闇バイトに関する注意喚起」(2025年12月16日)
- 現代ビジネス「大学生が心臓麻痺で死亡、続々と行方不明に…『韓国人闇バイト』の末路」(2025年12月20日)