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ぶつかりおじさんを受け止めた側にも暴行罪のリスクがある。
ただし「避けられなかった」場合と「あえて受け止めた」場合で、法的な評価はまるで違う。
2026年1月、剣道で全国大会に出場した経験を持つ女子大学生がXに投稿した。
正面から突っ込んできたぶつかりおじさんを体幹で受け止め、よろけたのは相手の方だった。
この投稿は2000万回以上表示され、称賛が殺到した。
ところが弁護士ドットコムニュースで寺岡慎太郎弁護士は「法的にはおすすめできない」と警鐘を鳴らした。
受け止めるだけでなぜ罪に問われうるのか。
逮捕された実例はあるのか。被害に遭ったときの正解は何か。
この記事でわかること
ぶつかりおじさんを「受け止めた」だけで暴行罪?——弁護士が示す3つの分岐点
「受け止め」はなぜ暴行に当たりうるのか
受け止める行為も、法律上は暴行罪になりうる。
多くの人は「ぶつかってきた側が悪い」「受け止めただけの自分に落ち度はない」と思うだろう。
SNSでも「お見事」「返り討ちにしてやれ」と称賛が集まった。
ところが寺岡弁護士の見解は違う。
弁護士ドットコムニュースによると、「相手がこちらに向かってくると認識しながら、あえて身をかわさずに受け止める行為」は暴行罪(刑法208条)に該当するとされる。
弁護士見解
暴行罪の「暴行」とは、殴る・蹴るに限らない。
相手の身体に物理的な力を加える行為すべてを含む。
故意にぶつかる行為もここに入る。
——弁護士ドットコムニュース・寺岡慎太郎弁護士
つまり「殴ったわけじゃない」は通用しない。
身体をぶつける行為自体が暴行に当たる。これは受け止めた側にも同じ理屈があてはまる。
正当防衛が認められる3つの条件
ただし、ぶつかられた側には正当防衛が成立する余地がある。
寺岡弁護士は正当防衛の成立に3つの条件を挙げている。
① 今まさに不当な攻撃が迫っていること(急迫不正の侵害)
② 守る気持ちで行動したこと(防衛の意思)
③ やりすぎていないこと(相当性)
問題は②と③だ。
「避けられたのに、あえて衝突を選んだ」と判断されれば、防衛の意思が否定される。
必要以上の力で押し返せば、相当性を欠く。
ここで重要なのが、避けられない状況だったか、あえて受け止めたかという線引きになる。
「避けようとした」なら評価は変わる
投稿者はまいどなニュースの報道によると、「私が相手を避けようと右斜め前へ進んでいたのに、相手が明らかにこちらへ向かってきた」と説明している。
「大股なのか、速いスピードで来たので、避けられる距離でもなかった」とも述べた。
この説明が事実なら、弁護士が言う「あえて積極的に衝突を選択した」場合とは状況が異なるだろう。
⚠️ ここからは推測
日本の刑法では、正当防衛に「回避義務」は原則として課されない。
つまり「逃げられたのに逃げなかった」というだけで正当防衛が否定されるわけではない。
とはいえ「わざとぶつかりに行った」と評価されれば話は別だ。
同じ「受け止め」でも、状況しだいで法的な結論が真逆になりうる。
ポイント
弁護士の「法的にはおすすめできない」は、最悪のケースを想定した慎重論だろう。
少なくとも報道ベースでは、ぶつかりおじさんの被害者側が暴行罪で立件された事例は確認できていない。
では、ぶつかりおじさんの加害者側が実際に逮捕されたケースではどうなったのか。
2ヶ月で3度逮捕の准教授、虚偽の被害報告も犯罪に——法のリアル
ぶつかりおじさんは「逃げ得」ではない
ぶつかりおじさんは捕まらない → 実際には逮捕に至ったケースが複数ある
そう思っている人は多いのではないか。
なかでも衝撃的なのが、2025年に福岡で起きた事例だ。
弁護士JPニュースによると、西南学院大学の59歳の男性准教授が、すれ違いざまに通行人にバッグをぶつける行為を繰り返し、わずか2ヶ月で3度逮捕された。
2025年4月に2回、5月に1回。いずれも暴行罪だ。
人事労務管理を研究する立場にありながら、通勤中に見知らぬ相手を攻撃していた。
「ぶつかりおじさん」というネットスラングの印象とはかけ離れた、れっきとした犯罪者の姿がそこにある。
逮捕の経緯
3度の逮捕容疑には、いずれも准教授が通勤中、すれ違いざまに他人にバッグをぶつけたという共通点がある。
近辺では同様の被害例や目撃談が確認されていたことから、県警は警戒を強め、捜査を進めていた。
——弁護士JPニュース
ぶつかりおじさんの行為は暴行罪(2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金)に該当する。
相手が怪我をすれば傷害罪に格上げされ、法定刑は15年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金まで跳ね上がる。
弁護士法人・響によれば、民事上の損害賠償請求も可能だ。
虚偽の被害申告は「名誉毀損」になる
この事案にはもう一つ見落とせない論点がある。
投稿者の女子大学生に対し、当事者を名乗る匿名アカウントが「女性にぶつかられ肩を怪我しました」とXに投稿した。
この投稿もまた2000万回以上表示されている。真偽は現時点で明らかではない。
寺岡弁護士は弁護士ドットコムニュースで、虚偽の被害申告がもたらすリスクをこう指摘している。
虚偽投稿のリスク
実際には存在しない加害行為をでっちあげ、「女性から故意に攻撃された」「怪我を負わされた」などと投稿した場合、それが特定の人物を想起させ、社会的評価を低下させる内容であれば、虚偽であっても名誉毀損罪の構成要件に該当する。
——弁護士ドットコムニュース
SNS時代は被害者の声が拡散しやすい。
だがそれは、虚偽の告発もまた同じ拡散力を持つことを意味する。
「相手が悪いから許される」「ネット上だから問題にならない」とは限らないのだ。
法的リスクはぶつかった側だけでなく、虚偽の投稿をした側にもある。
では、被害に遭ったとき私たちはどうすればいいのか。
「避ける」以外の選択肢はあるか——被害に遭ったときの正しい対処法
最善手は「避ける→記録する→通報する」
もし自分がぶつかりおじさんに遭遇したら、冷静に避けられる自信はあるだろうか。
弁護士JPニュースで雨宮知希弁護士は「警察に通報したうえで、安全な場所へ避難するのがもっとも確実な方法」と述べている。
やり返すのは気持ちいいかもしれない。
だが法的にはリスクが大きい。
| 対応 | 法的リスク | 実効性 |
|---|---|---|
| やり返す・追いかける | 過剰防衛→暴行罪・傷害罪に問われうる | 自分も立件されうる |
| 顔写真をSNSに晒す | 名誉毀損・プライバシー侵害 | 拡散後の取り消しが困難 |
| 避けて→記録して→通報 | なし | 防犯カメラで加害者特定 |
弁護士JPニュースによると、現行犯であれば一般市民による逮捕も法的に認められている(刑事訴訟法213条)。
ただし取り押さえ方が過剰になれば、自分が暴行罪に問われる。
だから現実的には「通報して警察に任せる」が最善手だ。
「ぶつかる直前の動き」を見抜く
避けるといっても、相手は狙いを定めて突っ込んでくる。
SNSの被害報告には共通するパターンがある。
ぶつかりおじさんは衝突の直前に肩を入れてくるという目撃が多い。
この「肩入れ」の動きが見えたら、その方向の肩を引いて斜めに身体をかわすと衝突を避けやすい。
もう一つ重要なのは証拠の確保だ。
スマホの録画をすぐ起動できるよう準備しておくだけで、万が一のときに状況が大きく変わる。
動画があれば通報時に警察が動きやすくなる。
「通報しても無駄」は思い込み
准教授が3度逮捕されたケースでは、周辺住民からの目撃情報が蓄積されたことで県警が警戒を強め、逮捕につながった。
1件の通報が、次の被害者を守る。
やってはいけないのは、感情に任せて追いかけたり、SNSで個人情報を晒したりすることだ。
弁護士JPニュースの雨宮弁護士も「過度な暴力は避け、警察への引き渡しを目的とする適切な方法をとる必要がある」と注意を促している。
ぶつかりおじさん被害で知っておくべきこと
- 受け止める行為は理論上、暴行罪に該当しうる。ただし正当防衛が認められる余地がある
- 「避けられない状況だったか」「あえて受け止めたか」で法的評価が変わる
- ぶつかった側は暴行罪・傷害罪で逮捕された実例がある。逃げ得ではない
- 虚偽の被害報告をSNSに投稿した場合、名誉毀損罪に問われうる
- 被害に遭ったら「避ける→記録する→通報する」が最もリスクの低い対処法
ぶつかりおじさんに遭遇した瞬間、「やり返したい」と思う気持ちは自然だ。
だが法律の知識を持っておくだけで、自分を守る選択肢は増える。
受け止めるより、避けて記録して通報する。それが自分にも次の被害者にも最善の行動になる。
よくある質問(FAQ)
Q1. ぶつかりおじさんは何罪になる?
暴行罪(刑法208条)に該当する。怪我をさせれば傷害罪(刑法204条)に格上げされる。
Q2. ぶつかりおじさんを受け止めたら暴行罪になる?
理論上は該当しうるが、避けられない状況だった場合は正当防衛が認められる余地がある。
Q3. 正当防衛が認められる条件は?
①不当な攻撃が迫っている②守る意思がある③やりすぎていない、の3つを満たす必要がある。
Q4. ぶつかりおじさんに被害届は出せる?
出せる。暴行罪は親告罪ではないため警察への通報・被害届の提出が可能。
Q5. ぶつかりおじさんが逮捕された事例はある?
2025年に西南学院大学の准教授が通勤中のぶつかり行為で暴行罪により3度逮捕されている。
Q6. ぶつかりおじさんに遭ったらどう対処すべき?
避ける→スマホで記録する→警察に通報する、の3ステップが法的リスクの最も低い対処法。
Q7. SNSで虚偽の被害報告をしたらどうなる?
特定の人物を想起させる内容であれば名誉毀損罪(刑法230条)に問われうる。
Q8. ぶつかりおじさんに損害賠償を請求できる?
怪我をした場合は民事上の不法行為として治療費や慰謝料の請求が可能。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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📚 参考文献
- 弁護士ドットコムニュース「『ぶつかりおじさんを正面から受け止めた』法的に問題ある? 弁護士『相手が悪いから許される、という単純な話ではない』」(2026年2月22日)——寺岡慎太郎弁護士の法的見解
- まいどなニュース(livedoor転載)「慶応大の剣道女子タレント、ぶつかりおじさん撃退」(2026年2月4日)——投稿者の経緯説明
- 弁護士JPニュース「"ぶつかりおじさん"福岡・名門大学准教授が3度目逮捕」(2025年5月28日)——逮捕事例・雨宮知希弁護士の見解
- 弁護士法人・響「迷惑な『ぶつかりおじさん』は罪に問える?」(2024年4月11日)——暴行罪の法定刑・民事損害賠償