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「高市総理を連れて来てよ」——21回目の竹島の日、会場にヤジが飛んだ。
高市首相は総裁選で「堂々と大臣が出て行ったらいい」と明言していた。
だが今年も派遣されたのは内閣府政務官だった。
ただし21年の歴史で初めて起きた「ある変化」もあった。
閣僚見送りの背景にある3つの理由と、その変化を読み解く。
この記事でわかること
21回目の竹島の日式典、会場に響いたヤジの正体
424人が集まった松江市の式典は、異様な空気に包まれた。
式典で飛んだヤジ
古川直季・内閣府政務官があいさつに立った瞬間、会場からヤジが上がった。
「高市総理を連れて来てよ」「大臣来るんじゃなかったのか」。
14年間、閣僚が来ない式典を見続けてきた地元の怒りが、声になった。
(産経新聞 2026年2月22日)
政府代表は14年連続で政務官だった。
政務官とは、大臣・副大臣に次ぐ「政務三役」の末席にあたる。
大臣はおろか副大臣すら、竹島の日に来たことがない。
地元が突きつけた「2点」という評価
島根県の丸山達也知事は式典前日の会見で、痛烈なひと言を残している。
丸山知事の評価
「竹島の領土権確立が100点だとすると、政務官が出席している状況は2点」。
閣僚が来ても5点、政府主催の式典が実現しても10点以下。
地元が求めているのは、式典の「格上げ」ではなく領土問題の解決そのものだ。
隠岐の島町議会の安部大助議長は産経新聞の取材に対し「期待していた分、より残念。高市首相は自ら隠岐の島を訪れ、現状を見るべきだ」と語った。
池田高世偉・隠岐の島町長も「この10年を振り返っても一向に進展が見られないことは痛恨の極み」と述べている(日テレNEWS NNN)。
北方領土の日との「格差」
ここで知っておきたい事実がある。
同じ領土問題でも、2月7日の「北方領土の日」は扱いがまるで違う。
| 竹島の日 | 北方領土の日 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 島根県条例(2005年) | 閣議了解(1981年) |
| 主催 | 島根県・県議会 | 政府(内閣府) |
| 政府出席者 | 政務官(14年連続) | 首相が出席 |
竹島の日は「県の行事」、北方領土の日は「国の行事」。
この制度的な格差が、閣僚を送りにくい構造をつくっている。
同町で生まれ育った21歳の長田睦樹さんは、中学時代に北方領土問題を学ぶため北海道根室市を訪ねた際、この格差に衝撃を受けたという(産経新聞)。
では、なぜ高市首相は「堂々と大臣が出て行ったらいい」と明言しながら方針を変えたのか。
「堂々と大臣が出て行ったらいい」——高市首相が方針を変えた3つの背景
日韓外交・安全保障・代替手段の3つが重なった結果だった。
総裁選での明確な発言
2025年9月の自民党総裁選。
高市氏はこう語っていた。
高市氏の総裁選発言(2025年9月)
「顔色をうかがう必要がない。日本の領土としてみんなが知っていかなければならない話だ」
(産経新聞 2025年9月27日)
閣僚が出席すべきとの認識も明言した。
支持者はこの言葉を信じて投票した人も少なくない。
Yahoo!知恵袋には2月中旬から「なぜ閣僚を送らないのか」「前言撤回ではないか」という投稿が相次いでいた。
就任後に変わった景色
ところが就任後、高市首相を取り巻く環境は総裁選のときとは別物になっていた。
産経新聞の分析によれば、日中関係が緊迫化する中、日韓・日米韓の連携が安全保障上ますます重要になっている。
閣僚派遣で韓国との関係が悪化すれば、安保面で悪影響が出かねない。
高市首相と李在明大統領は「シャトル外交」と呼ばれる首脳同士の相互訪問を重ねてきた。
この外交の流れを、式典ひとつで壊すリスクは取れなかったのだろう。
加えて、赤間二郎・領土問題担当大臣は2月20日の会見で自身の出席見送りを正式に発表。
閣僚見送りは組織的な判断だった。
「苦肉の策」としての党三役初投入
ただし、完全に「何もしなかった」わけではない。
21年の歴史で初の出来事
自民党の有村治子総務会長が式典に出席した。党三役が出席したのは、2006年に式典が始まって以来21回の歴史で今年が初めてだ。
これまで自民からは「組織運動本部長」が出席していた。
総務会長は党の最高幹部にあたる「党三役」のひとり。格として明確に上位だ。
超党派の領土議連会長を務める新藤義孝衆院議員は「初めて三役を出した。党姿勢の表れだ」と評価している(山陰中央新報)。
つまり政府は据え置き、党は格上げ。
韓国を刺激しすぎず、国内の保守層にも姿勢を見せるという二面作戦だった。
「公約違反」と切り捨てるだけでは見えない判断の構図がここにある。
では、この判断に韓国はどう反応したのか。
韓国の反応——好感度「過去最高」の直後に突きつけた「即時廃止」要求
韓国政府の反応は、予想どおり厳しかった。
韓国外務省の抗議
韓国外務省は式典当日の2月22日、在韓日本大使館の松尾裕敬総括公使を呼び出して抗議。
報道官声明で「独島は歴史的・地理的・国際法的に明白なわが固有の領土」と主張し、式典の「直ちに廃止」を要求した。
(産経新聞 2026年2月22日)
閣僚を派遣しなくても、このレベルの抗議が来る。
もし閣僚が出席していたら、反発はさらに激しくなっていただろう。
好感度56.4%と「即時廃止」の矛盾
驚くべきはタイミングだ。
日本の公益財団法人「新聞通信調査会」が2026年2月に発表した世論調査で、日本に好感を持つ韓国人は56.4%と過去最高を記録した。
前年から15.8ポイントも急上昇し、2015年の調査開始以来、初めて5割を超えた(産経新聞)。
韓国人の2人に1人以上が日本に好感を持っている。
しかし政府は公使を呼び出し「即時廃止」と迫る。
民間レベルの感情と、政府レベルの領土問題は完全に別のレイヤーで動いている。
| 韓国民間 | 韓国政府 | |
|---|---|---|
| 対日姿勢 | 好感度56.4%(過去最高) | 「即時廃止」要求・公使呼び出し |
昨年、当時野党だった「共に民主党」は竹島の日に対し「恥ずべき過去の歴史を美化し、覇権主義を夢見ている」と非難していた(同記事)。
現在は政権与党の立場に変わったが、国内世論の風向き次第で強硬姿勢に転じる余地は残る。
好感度が改善しても、領土問題はまったく別の話。
この構図を見れば、高市首相が閣僚派遣に踏み切れなかった理由もより明確になる。
では、竹島問題はこの先どう動くのか。
「100点中2点」の先——竹島問題が動かない構造的な理由
閣僚が出席すれば前進する。そう思いがちだが、当の島根県知事がそれを否定している。
丸山知事の「100点中2点」発言を改めて整理する。
政務官出席は2点、閣僚出席しても5点、政府主催の式典が実現しても10点以下。
つまり閣僚が来ても、100点中5点にしかならない。
地元が求めるもの
島根県が求めているのは式典の「格上げ」ではない。
竹島の領土権確立そのものだ。
閣僚出席はそのための手段のひとつにすぎず、ゴールからは程遠い。
「県の行事」にとどまる制度的な壁
⚠️ ここからは筆者の分析です。
竹島の日は島根県条例に基づく県主催の行事だ。
対して北方領土の日は閣議了解による政府制定で、式典も政府が主催する。
この違いは大きい。
県の行事に閣僚が出席すれば、政府が竹島問題を「国の問題」として正面から引き受けるシグナルになる。
そのシグナルの重さゆえに、歴代政権は14年間踏み切れなかったのではないだろうか。
韓国への配慮だけが理由ではない。「県主催行事に閣僚を出す前例をつくること」自体が、外交的に大きな一歩と見なされる制度的な壁が存在する。
82歳と21歳がつなぐ竹島問題の次の世代
戦前に隠岐島民が竹島周辺で漁をしていた歴史を描いた絵本「メチのいた島」の作者、杉原由美子さんは82歳。
式典に際して「一朝一夕で解決するものではない。高市首相だけでなく、他の国会議員にも竹島問題を訴え続けたい」と語った(産経新聞)。
一方、21歳の長田睦樹さんは昨年韓国に留学し、同世代の若者が政治に関心を持つ姿に刺激を受けた。
「一日本人として、日本のすばらしさを伝える振る舞いをしていこう」。
高市首相が衆院選後に述べた「領土、領海、領空を守り抜く」という言葉を、注視しているという(同記事)。
82歳と21歳。竹島に漁に出ていた世代の記憶を直接知る人はほとんどいなくなった。
記録を次の世代にどうつなぐか。閣僚出席の有無以上に、その問いが重みを増している。
変わりつつある啓発の形
古川政務官は式典で、領土主権展示館のリニューアルやVRゴーグルによる1934年の竹島映像の体験など、新しい啓発の取り組みを紹介した(FNNプライムオンライン)。
14年間変わらなかった「政務官」という肩書の裏で、問題を次の世代に届ける方法は少しずつ変わりつつある。
まとめ
- 2026年2月22日の竹島の日式典に閣僚は出席せず、14年連続で内閣府政務官の派遣にとどまった
- 高市首相が総裁選で明言した「閣僚出席」を見送った背景には、日韓シャトル外交の維持と日中関係の緊迫化がある
- ただし自民党三役の有村治子総務会長が初出席し、「政府は据え置き、党は格上げ」という二面作戦がとられた
- 韓国は好感度56.4%で過去最高にもかかわらず、政府は「即時廃止」を要求。民間と政府の乖離が鮮明になった
- 島根県知事は「閣僚が来ても100点中5点」と発言。閣僚出席の議論の先にある「領土権確立」という本質的な課題が浮き彫りになっている
よくある質問(FAQ)
Q1. 竹島の日の式典に閣僚が出席したことはある?
2013年から政府代表の派遣が始まったが、14年連続で内閣府政務官にとどまり、閣僚が出席した前例はない。
Q2. なぜ高市首相は閣僚出席を見送った?
日韓シャトル外交の維持と日中関係の緊迫化を背景に、安全保障上の悪影響を避ける判断をしたとされる。
Q3. 竹島の日と北方領土の日の違いは?
竹島の日は島根県条例に基づく県主催行事。北方領土の日は閣議了解による政府制定で、首相も出席する。
Q4. 竹島の日に韓国はどう反応した?
韓国外務省が駐韓日本大使館の総括公使を呼び出し抗議。式典の「直ちに廃止」を要求した。
Q5. 有村治子総務会長の出席はなぜ注目されている?
自民党の「党三役」が竹島の日式典に出席したのは2006年の開始以来21回の歴史で初めてだったため。
Q6. 島根県知事の「100点中2点」とはどういう意味?
丸山達也知事が領土権確立を100点とした場合、政務官出席は2点、閣僚出席でも5点と評価した発言。
Q7. 韓国人の対日好感度は改善している?
新聞通信調査会の2026年2月発表で56.4%と過去最高を記録し、調査開始以来初めて5割を超えた。
Q8. 来年の竹島の日式典で閣僚が出席する見込みは?
現時点で公式な見通しは出ていない。日韓・日中関係の推移が判断材料になるとみられる。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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📚 参考文献
- 産経新聞「『高市総理連れてきて』『大臣来るんじゃなかったのか』竹島の日記念式典 落胆する地元」(2026年2月22日)
- 産経新聞「『竹島の日』に抗議 『式典直ちに廃止を』」(2026年2月22日)
- 産経新聞「高市首相、竹島の日閣僚派遣見送り 党三役出席も激しいヤジ」(2026年2月22日)
- FNNプライムオンライン「2月22日竹島の日 古川内閣府政務官『韓国による不法占拠容認できない』」(2026年2月22日)
- TBS NEWS DIG(BSS山陰放送)「韓国による不法占拠続く中 21回目の竹島の日式典」(2026年2月22日)
- 日テレNEWS NNN「『竹島の日』島根・松江市で記念式典 閣僚の出席見送られる」(2026年2月22日)
- 産経新聞「竹島の日式典に閣僚が出席すべき 高市氏が自民総裁選で主張」(2025年9月27日)
- 山陰中央新報「竹島の日式典に有村氏 自民三役で初」(2026年2月22日)