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スロバキアがウクライナの電力を止めた理由 なぜ「影響なし」と返されたのか

スロバキアがウクライナへの電力供給を停止した背景とEU内対立の構図を解説するアイキャッチ画像

| 読了時間:約8分

NATO加盟国のスロバキアが、ロシアの侵攻で停電に苦しむウクライナへの電力供給を止めた。
報復の引き金は「友好」の名を持つ1本のパイプラインだ。
その対立はEU全体の結束をも揺るがし始めている。

 

 

 

「友好」のパイプラインが生んだ対立――スロバキアが電力を止めた理由

スロバキアのフィツォ首相が電力供給を止めた直接の理由は、ロシア産原油の輸送が止まったことへの報復だ。

📊 1月の緊急電力供給量

朝日新聞の報道によると、ロシアによるエネルギー施設への攻撃が相次いだ2026年1月、スロバキアからウクライナへの緊急電力の供給量は2025年通年の2倍に上った。

つまり、スロバキアは1カ月前までウクライナを助けていた側だった。
ところが2月23日、フィツォ首相はSNSに動画を投稿し、態度を一変させる。

FNNの報道によれば、フィツォ氏は「宣言どおり実行した」とだけ記した。
国有送電会社SEPSに電力供給の停止を要請したのだ。

火種は「友好」の名を持つパイプライン

ドルジバDruzhbaとはロシア語で「友好」を意味する。
1964年、ソ連が友好国へ石油を届けるために建設した。
62年たった今、その名とは正反対の対立を生んでいる。

Euronewsの報道によると、2026年1月27日、ウクライナ西部ブロディBrody近郊でこのパイプラインが損傷した。
ウクライナは「ロシア軍のドローン攻撃が原因だ」と主張している。


ドルジバ・パイプラインを通じた原油の輸送量は年々減り続けている。

輸送量
2022年 1,450万トン
2023年 1,350万トン
2024年 1,140万トン
2025年 970万トン

Investing.comの報道(Exproデータ)より。2025年にはスロバキアが490万トン、ハンガリーが435万トンを受け取っていた。

内陸国のスロバキアには、海から原油を運び入れるルートがほとんどない。
このパイプラインが止まることは、ガソリンや暖房の燃料が届かなくなることを意味する。

 

 

 

スロバキアとウクライナ、食い違う主張

パイプラインが壊れた原因をめぐり、両国の主張は真っ向から対立している。

  ウクライナの主張 スロバキアの主張
損傷の原因 ロシア軍のドローン攻撃 ウクライナが意図的に輸送を停止
パイプラインの状態 修理中。ロシア攻撃のリスクの中で作業 情報機関の調査では機能するはず
大使の視察 未確認 キーウ駐在大使の現場視察を拒否された

出典:AP通信の報道

AP通信によると、フィツォ首相はゼレンスキーZelenskyy大統領に直接協議を求めた。
しかし「水曜日以降にしてほしい」と先延ばしにされたと訴えている。

ロイターによれば、フィツォ氏は電力停止を「国際法に違反しない最初の報復措置だ」と位置づけた。
さらに、原油の輸送が再開されなければ「ウクライナのEU加盟を巡る建設的な姿勢を見直す」とまで警告している。

では、電力を止められたウクライナへの影響はどれほど深刻なのか。
答えは意外なものだった。

 

 

 

ウクライナ国営電力「全く影響を与えない」――18%停止の実態

ウクライナの国営送電会社ウクレネルゴは、スロバキアの決定に対して即座に反論した。

📌 ウクレネルゴの声明

ロイターによると、ウクレネルゴは「スロバキアの供給停止の可能性は、電力システムの状況に全く影響を与えない」と表明。
直近に緊急供給を要請したのは1カ月以上前で少量だったという。

18%の電力が止まれば大打撃実際にはウクライナ側が「全く影響なし」と即答
報道の見出しだけでは分からない構造がここにある。

「緊急供給」と「通常の電力輸入」は別物

FNNの報道Yahoo!ニュース(FNN)によると、2月の輸入電力のうちハンガリーが50%、スロバキアが18%を占める見込みだった。

ただし、フィツォが止めたのは「緊急供給」だ。
ウクライナ側が助けを求めたときだけ行われる短期的な電力融通にあたる。

ウクレネルゴ自身が「稀なケースだ」と認めている。
通常の電力取引とは別の枠組みなのだ。


では、ウクライナの電力事情が安全かといえば、そうではない。
ロシア軍は2026年に入ってからもエネルギーインフラへの攻撃を続けている。

首都キーウでは「最も寒く暗い冬」と呼ばれるほど停電が長期化した。

それでもウクレネルゴが「影響なし」と断言できるのは、スロバキアからの緊急供給がもともと頻繁ではなかったからだろう。

 

 

 

「効かない報復」を実行した狙いは何か

ここで1つの疑問が浮かぶ。
効果がないとわかっている報復を、なぜフィツォ首相はわざわざ実行したのか。

💡 政治的シグナリングという視点

国際政治の分野では、実際のダメージよりも「次はもっと重い措置を取る」というメッセージを送ること自体に意味があるとされる。
フィツォ自身がこの電力停止を「最初の措置」と呼んでいることが、その意図を裏づけているのではないだろうか。

しかもフィツォ氏は、次の段階として「ウクライナのEU加盟見直し」に言及している。
電力供給の停止は予告編にすぎず、本編はEU内の政治闘争にあるといえそうだ。

その答えは、同じ日に開かれたEU外相理事会の結末にはっきりと表れていた。

 

 

 

EU制裁不合意、16兆円の融資も阻止――「原油1本」が揺らす欧州の結束

電力停止と同じ2月23日、EU外相理事会でロシアへの制裁第20弾が合意に至らなかった。

⚠️ EU制裁の後退

ロイターによると、EUのカラス外交安全保障上級代表「対ロシア制裁第20弾について合意に至らなかった」と述べ、「望ましくない後退だ」と認めた。

ロシアの全面侵攻から丸4年を迎えるまさにその前日。
EUは足並みを揃えられなかった。
原因はハンガリーとスロバキアの反対だ。

ハンガリーと組んだ「パイプライン外交」

スロバキアのフィツォ首相だけではない。
ハンガリーのオルバン首相も同時に動いていた。

ロイターによると、ハンガリーのシーヤールトー外相はEUの900億ユーロ(約16兆4000億円)のウクライナ向け融資を阻止すると表明した。

オルバン首相もEUコスタ大統領宛ての書簡で述べた。
「原油供給が正常化するまでウクライナに有利な決定を支持できない」と。


フィツォとオルバンには共通点がある。
ともに親ロシアとして知られ、ウクライナ支援に懐疑的だ。

2人がエネルギー問題を切り札に足並みを揃えたことで、EUの意思決定が事実上まひしている。

ドイツのヴァデフル外相は、AP通信の取材に対しハンガリーの姿勢に「驚いている」と批判した。

 

 

 

同日、ウクライナはロシア領内を攻撃していた

📌 見落とせない同日の動き

ロイターによると、ウクライナ保安局SBUはこの同じ日、ドルジバ・パイプラインにつながるロシア領内タタールスタン共和国アルメチエフスク近郊の施設をドローンで攻撃したと表明した。

つまり、スロバキアが「パイプラインが壊れたのはウクライナのせいだ」と訴えている裏で、ウクライナはロシア側のパイプライン関連施設を攻撃していた。
三者の思惑が絡み合い、事態はますます複雑になっている。

今後の焦点は3つ

ロイター(2月17日付)によると、スロバキアとハンガリーには90日分の原油備蓄がある。
スロバキアはアドリア海パイプライン経由で代替調達する交渉も始めている。
すぐにガソリンが枯渇する状況ではない。

焦点 内容
パイプライン復旧 ウクライナ西部ブロディ近郊の損傷区間。復旧時期は未定
EU制裁の行方 第20弾が不合意のまま。ハンガリーの拒否権が壁
融資16兆円の実行 900億ユーロの対ウクライナ融資がハンガリーに阻止される恐れ

1本のパイプラインが壊れたことをきっかけに、NATO加盟国が同盟国の電力を止め、EUの制裁と融資が止まった。
エネルギーの供給ルートを断たれることは、資源を持たない国にとって生命線を失うことに等しい。

日本もまた、中東からのエネルギー輸送に頼っているという点で、この構造と無縁ではないだろう。

 

 

 

まとめ

  • スロバキアのフィツォ首相は2月23日、ドルジバ・パイプラインの原油停止への報復として、ウクライナへの緊急電力供給を停止した
  • ウクライナ国営電力ウクレネルゴは「全く影響なし」と反論。緊急供給と通常の電力輸入は別の枠組み
  • 同日のEU外相理事会では対ロシア制裁第20弾が不合意。ハンガリーは16兆円規模の融資も阻止する構え
  • 電力停止の本質はウクライナへの直接ダメージではなく、EU内の政治的圧力

よくある質問(FAQ)

Q1. スロバキアはなぜウクライナへの電力供給を停止したのですか?

ロシア産原油を運ぶドルジバ・パイプラインが損傷し原油供給が止まったことへの報復措置です。フィツォ首相が2月23日に発表しました。

Q2. ドルジバパイプラインとは何ですか?

ロシア語で「友好」を意味し、1964年にソ連が建設した原油パイプラインです。ロシアからウクライナを経由してスロバキアやハンガリーに原油を届けます。

Q3. ウクライナへの影響はどのくらいですか?

ウクライナ国営電力ウクレネルゴは「全く影響を与えない」と表明しています。直近の緊急供給要請は1カ月以上前で少量でした。

Q4. ハンガリーも同じ対応をとっていますか?

ハンガリーはディーゼル供給停止に加え、EU制裁第20弾と900億ユーロの対ウクライナ融資の阻止を表明しています。

Q5. スロバキアはNATOに加盟していますか?

2004年にNATOとEUに同時加盟しています。NATO加盟国でありながら、フィツォ首相は親ロシアの立場で知られます。

Q6. パイプラインはいつ復旧しますか?

復旧時期は未定です。ウクライナ西部ブロディ近郊の損傷区間が修理中ですが、スロバキアはウクライナが意図的に遅らせていると主張しています。

Q7. EU制裁に影響はありますか?

2月23日のEU外相理事会で対ロシア制裁第20弾は合意に至りませんでした。ハンガリーの拒否権行使が主因です。

Q8. 日本のエネルギーに影響はありますか?

直接の影響は限定的ですが、欧州の電力不足が拡大しLNG需要が高まれば、数カ月後に日本の電気代・ガス代を押し上げる要因になりえます。

Q9. フィツォ首相とはどんな人物ですか?

スロバキアの現首相で3期目。親ロシアの立場で知られ、2024年5月に暗殺未遂に遭いましたが回復しています。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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