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熱海土石流の証人尋問でなぜ証言が食い違うのか 責任はどこへ

熱海土石流訴訟の証人尋問で施工業者と前土地所有者の証言が対立した構図を示すイメージ

| 読了時間:約8分

熱海土石流の証人尋問で、施工業者と前土地所有者の証言が真っ向から食い違った。
業者は「依頼されて土砂を運んだ」と語り、前所有者は「土地を貸しただけ」と全面否定。

28人が亡くなった災害の責任は、発生から4年半経った今もたらい回しにされている。

 

 

 

施工業者は「行政に連絡した」、前所有者は「土地を貸しただけ」——真っ向から食い違う法廷証言

2026年2月24日、静岡地裁沼津支部で初めての証人尋問しょうにんじんもんが行われた。

証人尋問しょうにんじんもんとは、裁判所が証人を呼んで直接質問する手続きのこと。
これまで書面だけで進んできたこの裁判で、当事者が初めて法廷で口を開いた。

真相に近づく大きな一歩になるはずだった。
ところが、午前と午後で出廷した二人の証言は真っ向からぶつかった。


午前——施工業者が語ったこと

午前に証言台に立ったのは、実際に盛り土を造成した施工業者だ。

施工業者の証言

TBS NEWS DIGによると、施工業者は「本来入れてはいけない土砂が搬入されていることについて行政に連絡を入れた」と証言した。

つまり業者は、問題を知りながらも自分で対処せず行政に報告したという立場だ。
テレビ静岡の報道では「当然許可が下りていると思っていた」とも語っている。

業者の主張をまとめると3点になる。
「前所有者から依頼されて土砂を搬入した」「許可は出ていると信じていた」「問題に気づいて行政に連絡した」。

自分は指示に従っただけで、責任は指示した側にある——そういう構図だ。

 

 

 


午後——前土地所有者が全面否定

午後に証言台に立ったのは、前土地所有者の天野二三男容疑者(75)だ。

静岡朝日テレビによると、天野容疑者は施工業者の証言を全面否定した。

「盛り土が崩れることを想定できたか」と問われると「ありません」と即答。
理由を聞かれると「熱海市の指導を遵守しておりました。災害的な注意もありませんでした」と述べた。

さらに、自分はあくまで「造成許可を取って、別の業者に土地を貸しただけ」と主張。
市から「災害防止措置が取られていない」と通知された文書を見せられても「業者がやるべきことだ」と切り返した。

そして決定的な一言が飛び出す。
施工業者との間で交わされたとされる発注書について、天野容疑者はこう言い放った。

天野容疑者の主張

盛り土業者と交わした発注書は「偽造されたもの」だと語った。——静岡朝日テレビ

「知らない」「関与していない」にとどまらない。
相手側の証拠そのものを偽造だと否定する。これは単なる責任逃れとは次元が異なる主張だ。


二人の証言を並べると

争点 施工業者 前所有者
盛り土の依頼者 「前所有者から依頼された」 「土地を貸しただけ」
行政への報告 「行政に連絡を入れた」 「市の指導を遵守していた」
発注書の存在 証拠として提出 「偽造されたものだ」
災害の予見 (明確な証言なし) 「想定できなかった」

業者は「前所有者に指示された」と言い、前所有者は「業者に貸しただけ」と言う。
双方が互いに責任を押し付ける構図だ。

この対立構造こそ、4年半にわたって責任の所在が定まらない理由を映し出している。
では、この証言を遺族はどう受け止めたのか。そしてなぜコロナ詐欺で勾留中の人物が法廷に立てたのか。

 

 

 

「1から10まで嘘」——遺族の怒りと、勾留中の被告が法廷に立てた理由

天野容疑者は9日前の2月15日に逮捕されたばかりだった。容疑は土石流ではなく、コロナ協力金の詐欺だ。


遺族が法廷で聞かされた言葉

遺族は亡くなった家族の写真を手に、法廷へ入った。
TBS NEWS DIGはその様子を「亡くなった方の写真とともに証人尋問に臨みます」と伝えている。

4年半以上、真相と責任の所在を求め続けてきた遺族。
その目の前で天野容疑者は「反省は無い」と言い切った。

前所有者の発言

発災後、反省や心の痛みがあったのかを問われた前所有者は「心の痛みは感じた。反省は無い」と発言した。——静岡朝日テレビ

裁判後、遺族はこう語っている。
「きょうはいい茶番劇を見せてもらったというか、本当に何とも思ってないんだなって」。

「15メートルのことも知らないっていうのは、まったく素人よりもひどい」。

原告側弁護士の池田直樹弁護士テレビ静岡の取材で述べた。
「遵法意識・法律を守ろうという意識がさっぱりない。ああいえばこういう」。

別の弁護士は「土石流は起こるべくして起きてしまったのではないか。まさに人災だったんじゃないかという確信を強めた」とまで踏み込んでいる。

 

 

 


なぜ勾留中なのに出廷できたのか

天野容疑者は2026年2月15日、コロナ協力金の詐欺容疑で静岡県警に逮捕された。

逮捕容疑の詳細

共同通信によると、逮捕容疑は「経営していた小田原市のライブハウスが閉店状態で協力金の交付要件を欠いているのに、虚偽の申請をして神奈川県から約160万円をだまし取った」疑い。

注目すべきは、この詐欺が土石流の刑事捜査の過程で浮上した点だ。
盛り土の責任を追及する捜査が、まったく別の犯罪の発覚につながった。

逮捕・勾留こうりゅう中の人物が民事裁判に出廷するのは異例のことだ。
静岡放送は「勾留中のため出廷できるか不透明な状況でしたが、捜査機関側も了承した」と報じている。

背景には裁判所の事情がある。
この裁判は2022年5月に始まり、すでに3年半以上が経過している。

静岡放送は「裁判所は2026年7月には審理を終えたい考えで、これ以上の長期化を避けたい意向があった」と伝えており、スケジュールを優先した判断だったのだろう。

では、そもそもなぜ「許可された高さの3倍以上」もの盛り土が積み上がり、誰も止められなかったのか。

 

 

 

許可15mが50mに——止められなかった盛り土と、7月結審に向かう裁判の行方

許可された高さ

15メートル

実際に積み上がった高さ

約50メートル

許可されていたのは4〜5階建てビル程度。実際にはマンション17階分の高さに達した。
なぜこんなことが起きたのか。


盛り土が膨れ上がった経緯

①2007年:天野氏が不動産会社「新幹線ビルディング」の代表として、別荘地の造成を目的に盛り土を申請。許可された高さは15メートル

②2009年頃:谷を埋める形で土砂の搬入が本格化

③許可超過:盛り土は許可高さを大幅に超え、約50メートルにまで積み上がる。十分な安全対策は講じられなかった

④2011年:天野氏が土地を現在の所有者に売却。安全対策は不十分なまま引き継がれた

⑤2021年7月3日:豪雨により盛り土が崩落。土石流が発生し、災害関連死を含め28人が死亡

SBSの2023年の取材記事には、この経緯が詳しく記されている。
「許可された高さ15メートルを大幅に超える盛り土を造成し、十分な安全対策も講じられないまま、約50メートルにまで積み上げられました」という記述だ。

許可を出した行政は、なぜ止められなかったのか。
この疑問は今後の証人尋問で県や市の職員が問われることになる。

 

 

 


11億円の撤去費用、天野氏は「払うつもりは全くない」

災害後、崩落の起点には約2万立方メートルの盛り土が崩れ残っていた。
天野氏が撤去に応じなかったため、県が行政代執行ぎょうせいだいしっこうで撤去を進めた。

行政代執行とは、行政が所有者に代わって工事を行い、その費用を請求する仕組みだ。

撤去費用の行方

この撤去にかかった費用は約11億円。しかし天野氏は2023年のSBSの取材に対し、「もちろん、私は払うつもりは全くありません」と明言している。

損害賠償の約64億円に加え、行政代執行の11億円。
金銭的な責任は多層化している。


7月結審、そして判決へ

裁判は今回の証人尋問を皮切りに、今後6回の尋問が予定されている。

裁判の見通し

テレビ静岡によると、今後は県や市の職員、被災者などへの尋問が行われ、7月17日に結審する見通しだ。

産経新聞は「県警は業務上過失致死ぎょうむじょうかしつちし容疑などで捜査している」と報じており、民事裁判とは別に刑事捜査も続いている。

今回の証人尋問では、施工業者も前所有者も自分の責任を完全に否定した。
次の焦点は行政だ。

許可の3倍を超える盛り土がなぜ放置されたのか。
県や市の職員がどう証言するかによって、裁判の行方は大きく動くだろう。

 

 

 

まとめ

  • 2026年2月24日、熱海土石流訴訟で初の証人尋問が行われた
  • 施工業者は「前所有者から依頼された」と証言し、前所有者は「土地を貸しただけ」と全面否定
  • 前所有者は発注書を「偽造」と主張し、28人が亡くなった災害への「反省は無い」と発言
  • 裁判は7月17日に結審予定。今後は県・市職員への証人尋問が焦点

2021年7月の土石流から4年半以上が過ぎた。
遺族はいまだ誰からも責任の認知も謝罪も受けていない。

7月の結審に向けて、行政の対応を含む全体像がどこまで明らかになるか。
この裁判の行方を見届けたい。

よくある質問(FAQ)

Q1. 熱海土石流の裁判で証人尋問はいつ行われた?

2026年2月24日に静岡地裁沼津支部で初の証人尋問が行われた。今後6回の尋問が予定されている。

Q2. 熱海土石流で何人が亡くなった?

2021年7月の土石流で災害関連死を含め28人が死亡した。

Q3. 熱海土石流の損害賠償はいくら?

遺族らが前・現土地所有者や県、熱海市に約64億円の損害賠償を求めている。

Q4. 施工業者と前土地所有者の証言はどう食い違っている?

業者は「前所有者から依頼された」と証言し、前所有者は「土地を貸しただけ」と否定。発注書も「偽造」と主張した。

Q5. 天野二三男容疑者はなぜ逮捕された?

コロナ協力金約160万円を詐取した疑いで2026年2月15日に静岡県警に逮捕された。

Q6. なぜ勾留中なのに裁判に出廷できた?

捜査機関が了承したため。裁判所が長期化を避けたい意向も背景にあったとされる。

Q7. 熱海土石流の裁判はいつ結審する?

2026年7月17日に結審する見通し。今後は県や市の職員への証人尋問も予定されている。

Q8. 盛り土の許可された高さと実際の高さは?

許可は15メートルだったが、実際には約50メートルまで積み上げられた。

Q9. 行政代執行の費用はいくらかかった?

崩れ残った盛り土の撤去に約11億円。天野氏は支払いを拒否している。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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