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熱海土石流5年:28人の死に誰も裁かれず、危険な盛り土が今も全国に残る理由

| 読了時間:約5分

5年たっても、誰も刑事責任を問われていない。

2021年7月3日、静岡県熱海市の伊豆山地区で大規模な土石流が起きた。
28人が犠牲になった。

発生時に撮られた映像を覚えている人は多いだろう。

しかし「その後どうなったか」まで追えている人は、意外と少ない。

帰れない人がまだ全体の8割いること、法律が整備されたのに危険な盛り土の半数が今も野放しなこと、そして「28人の死」では逮捕者ゼロなのに「160万円の詐欺」では先に逮捕されたという逆転劇が起きていること——この3つが、5年後の現実だ。


熱海土石流5年:28人の死に誰も裁かれず、危険な盛り土が今も全国に残る理由

5年たっても5人に4人が戻れない

132 世帯 227 人が逃げ出したあの町に、5年後も戻れているのは 29 世帯 60 人だけだ。

2026年7月3日、土石流の発生から5年となったこの日、被災地の伊豆山地区で追悼式が開かれた。

遺族28人を含む約 50 人が参列し、発生時刻の 午前10時28分 に合わせて黙とうをささげた。

式典では 斉藤栄 市長が「二度と同じ悲しみを繰り返さないため、安全安心な地域づくりに全力で取り組む」と述べた。

共同通信 によると、避難した 132 世帯 227 人のうち、帰還したのは 29 世帯 60 人にとどまる。
約2割だ

12 世帯 25 人は今も避難生活を続けている。

227
避難者数
2021年発災時
60
帰還者数
2026年7月時点
25
今も避難中
12世帯が継続避難

「5年だからという節目は、遺族にはない」と長女を亡くした 小磯洋子 さん(76)は語った。

「まだ昨日のように思い、ああすればよかった、こうすればよかったと後悔している」という言葉が、復興のリアルを示している。

被害があった地区は 2023 年9月に立ち入り禁止区域が解除された。

しかし 区域の解除は「帰れる」ことを意味しない

土地の境界確定の難しさや地域コミュニティの崩壊への不安が重なり、住民が戻れない状況が続いていると考えられる。

では、この5年間で、そもそも誰かが法的な責任を問われたのか。

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▶ タップで再生(音声OFF)
【熱海土石流5年】責任押し付け合いに遺族の怒り 娘を亡くした母が訴える「これは災害ではなく事件」|TBS NEWS DIG

28人死んで誰も刑事責任を問われていない理由

28人が死んで逮捕ゼロ 160万円の詐欺では逮捕された

静岡県警 は現在も業務上過失致死などの容疑で関係者の捜査を続けている。

しかし 2026 年7月時点で、 土石流に関する刑事立件はゼロのまま だ。

日本経済新聞 によると、捜査幹部は「土砂崩れと人災の因果関係を示した裁判の前例が乏しく、盛り土の造成者などが危険を認識していたかどうかを立証するのに時間がかかる」と明かしている。

一方で、 2026 年2月には別の動きがあった。

静岡県警は土石流の起点となった土地の前所有者ら 3 人を、新型コロナウイルス感染拡大防止の協力金約 160 万円を不正に受け取ったとする詐欺容疑で逮捕した。

ただし、その後3月に処分保留で釈放されている。

逮捕ゼロ
28人の死・土石流責任
逮捕あり
160万円詐欺(後に釈放)

ここに、この事件の構造的な問題が凝縮されている。

日本の刑事法では「何かをしなかった責任」(法律用語で 不作為犯 という)を問うには、「やる義務があった」「やれる立場にあった」「やらなかったから死んだ」という3つの連鎖を書類と証拠で証明する必要がある。

山が崩れて人が死んだ場合、自然の力と人の行為をどこで切り分けるかは、現行法では判断の前例がほとんどない。

一方で「 160 万円の詐欺」は書類1枚で証明できる。

申請書と実態のズレを突けば立件できる。

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「28人の死には逮捕ゼロ、160万円の詐欺には逮捕あり」という逆転は、事件の悪質さの差ではなく、 証明の難しさの差 から来ているのではないか。

重大な結果が出ていても、その過程を証明できなければ刑事責任は問えない——という刑事司法の構造が、はからずも露わになった事態だといえるだろう。

静岡放送SBS は、刑事・民事のいずれも「責任の所在は明らかになっていない」と伝えている。

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刑事では裁けなかったなら、民事ではどうか。

実は行政が 11 億円かけて違法な盛り土を撤去したのに、その費用すら回収できないという事態が起きていた。

行政代執行で撤去したのに費用11億円が県の負担になった

片付けたのは行政、 費用を払ったのも行政だった

土石流が起きた後、崩れ残った土砂は県が 行政代執行 (業者に代わって行政が自ら撤去し、後から費用を業者に請求する仕組み)によって撤去した。

その費用は約 11 億円に上った。

静岡新聞 によると、静岡地裁はこの約 11 億円の納付命令を取り消し、 費用は県の負担とする判決 を下した。

理由は「残存した土砂がこの会社の盛り土だと証明できない」というものだった。

なぜ「証明できない」のか

行政代執行とは、業者が動かないとき行政が代わりに撤去して後から費用を請求できる仕組みだ。

しかし今回、裁判所は「残存した土砂がこの会社のものだと証明できない」として費用の返還命令を取り消した。

「土に名前は書いていない」という理屈が、法廷で通った形だ。

「当社の泥という証明をしてください。

その証明は一切ない。

もちろん土に名前が書いてあるわけではない」——前所有者がかつて語ったこの言葉が、そのまま法廷で通った形だ。

違法な行為があったことを立証する責任が、事実上は被害を受けた側(行政側)に課される構造になっているのではないか。

なお 静岡県 はこの判決を不服として控訴している。

刑事でも民事でも、責任の所在を証明できない。

では、そもそもなぜこんな危険な盛り土が許可されてしまったのか。

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そして、同じことは今も全国で起きているのか。

法律はできたのに、危険な盛り土の半分が今も放置されている

法律はできた。

でも 危険な盛り土の半分は、今も放置されている

熱海の土石流をきっかけに、 2023 年5月に「 宅地造成及び特定盛土等規制法 」(通称・盛土規制法)が施行された。

全国一律の基準で盛り土を規制する新しい法律で、違反した法人には最大 3 億円の罰金が科される。

かつての法律では「宅地なら宅地造成法」「農地なら農地法」「森林なら森林法」と、土地の種類によって適用される法律がバラバラで、どれにも当てはまらない盛り土が規制の網をくぐり抜けられた。

熱海の盛り土も、まさにその「すきま」に落ちた事例だった。

秋田魁新報 によると、 2021 年に実施された全国の「盛り土総点検」で不備が確認された 513 カ所のうち、 2026 年4月時点でも 254 カ所( 50 %)で 対策が取られていない ことが分かった。

総務省行政評価局が 2025 年7月から 2026 年4月にかけて調査し、同年4月22日に発表した結果だ。


対策済み
107カ所(21%)
 
対策中
27カ所(5%)
 
不要と判断
125カ所(24%)
 
未対策
254カ所(50%)
 

なぜ法律ができても対策が進まないのか。

未対策の主な理由として、「 業者に是正の意思がない 」「死亡・行方不明により連絡手段がない」といったケースが自治体から報告されているという。

法律がある以上、行政は「指導」はできる。

しかし業者が動かない場合、強制的に撤去させる手続きには時間とコストがかかる。

指導と法的強制の間には、今も大きな溝があるとされる

全国に 254 カ所、危険な盛り土が残っている。

その中に、あなたの家の近くが含まれていないと言い切れるか。


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あなたの家の上流に「第2の熱海」があるかもしれない

あの土砂は首都圏から運ばれてきた、とされている。

熱海の盛り土に使われた残土の多くは、 神奈川県 など首都圏の建設現場から運ばれてきた建設廃材だったとされる。

都市部でビルや道路を作ると大量の土砂が出る。

それをどこかに捨てなければならない。

山間部に運んで積む——これが全国で繰り返されてきた構造だ。

「首都圏の残土が地方の山へ流れる」構造

都市部の建設工事で出た土砂(建設残土)は、法律上は「再利用できる資源」とみなされ、産業廃棄物と違って処分を規制する法律がなかった。

そのため費用の安い地方の山林に積まれるケースが続いてきたとされる。

牛島総合法律事務所 によると、盛土規制法に基づく規制区域の指定は、 2025 年6月時点で 47 都道府県のうち 38 都道府県で完了している。

国土交通省 は「大規模盛土造成地マップ」を公開しており、自分の住む地域の周辺に盛り土がないかをウェブ上で確認できる。

ハザードマップと合わせて確認しておくことが、身を守る第一歩になりうる。

「静岡に 3 割超」という不備盛り土の集中度を見ると、首都圏から流れ込む建設残土の「行き先」として地方の山林が使われてきた構造は、あなたの住む地域にも無縁ではない可能性があるのではないか。

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では、この裁判と法律の問題は、今後どこへ向かうのか。

民事裁判は7月17日に結審するが、それでも終わらない

「判決に向け8合目」と裁判官が言った現地視察の2週間後、追悼式が静かに行われた。

民事裁判はこの5年間、長い道のりをたどってきた。

以下がその主な経緯だ。

2021年7月
発災

熱海市伊豆山地区で土石流発生。
28人が犠牲に

2021年9月
提訴

遺族らが損害賠償を求めて提訴。

原告100人超

2022年5月
口頭弁論

第1回口頭弁論。

その後、静岡県・熱海市も被告に

2026年2〜4月
証人尋問

旧所有者・行政職員らが相次いで証言台に立つ

2026年2月
刑事逮捕

旧所有者らがコロナ協力金詐欺容疑で逮捕(後に処分保留釈放)

2026年7月17日
結審予定

民事裁判が結審予定。

ただし判決はさらに先

熱海市伊豆山土石流災害真相究明の会 に記録された期日一覧を見ると、 4 年半をかけてようやく証人尋問が終わった段階だ。

しかし「 結審=終わり 」ではない。

結審後、裁判所が判決を出すまでには一定の時間がかかる。

そして判決が出れば、双方が控訴する可能性がある。

すでにその予兆はある。

2026 年3月に出た撤去費用をめぐる別の判決では、 静岡県 がすでに控訴している。

民事でも、「終わり」が見えるのはまだ先の話だろう。

遺族の言葉が刺さる。

「まだ道半ば」—— 5 年たっても、その言葉が正確に現実を表している。

「大きな事件」は時間が経てば解決する—— その思い込み自体が、問題を見えなくする


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まとめ

  • 警戒区域は2023年9月に解除されたが、2026年7月時点で避難した132世帯の約8割にあたる世帯がまだ戻れていない。解除と帰還は別の話だ
  • 28人が亡くなった土石流では5年間で刑事立件ゼロの一方、前所有者らがコロナ協力金160万円の詐欺で先に逮捕された。「山が崩れて人が死んだ因果関係」は書類で証明できず、「書類上の詐欺」は証明できるという刑事司法の非対称性が理由だ
  • 法律が整備された後も、全国の不備盛り土513カ所のうち半数の254カ所が今も未対策のまま。「是正の意思がない」業者には行政指導しか手がなく、法整備は問題の解決を保証しない
  • 民事裁判は7月17日に結審予定だが、判決後も控訴の可能性があり、最終決着は2027年以降にずれ込む見通しだ

よくある質問(FAQ)

Q1. 熱海土石流の原因は何だったのか?

土石流の起点にあった違法な盛り土が崩落したことが原因です。
2007年ごろから積み上げられた盛り土は許可された高さ15mを超え、約50mに達していたとされています。

Q2. 熱海土石流の裁判は今どうなっているか?

民事裁判は2021年9月に提訴され、2026年7月17日に結審予定です。

ただし判決後も双方が控訴する可能性があり、最終決着は2027年以降になるとみられています。

刑事立件は2026年7月時点でゼロのままです。

Q3. 熱海土石流の現在の被災地はどうなっているか?

警戒区域は2023年9月に解除されましたが、避難した132世帯227人のうち帰還したのは29世帯60人(約2割)にとどまります。
12世帯25人は2026年7月時点でも避難生活を続けています。

Q4. 熱海土石流で誰が責任を取ったのか?

2026年7月時点で、土石流に関する刑事責任を問われた人物はいません。

前所有者らがコロナ協力金詐欺(約160万円)で2026年2月に逮捕されましたが、処分保留で釈放されており、土石流との法的な因果関係は立証されていません。

Q5. 盛り土規制法とはどんな法律か?

2023年5月に施行された「宅地造成及び特定盛土等規制法」の通称です。

土地の用途に関わらず危険な盛り土を全国一律で規制し、違反した法人には最大3億円の罰金が科されます。

熱海の土石流をきっかけに制定されました。

Q6. 盛り土の危険性は全国でどのくらいあるのか?

2021年の全国点検で不備が確認された513カ所のうち、2026年4月時点でも254カ所(約50%)が未対策のままです。

総務省行政評価局が2026年4月に発表しました。

Q7. 熱海土石流の盛り土の土砂はどこから来たのか?

神奈川県など首都圏の建設現場から運ばれた建設残土が多くを占めていたとされています。

都市部の工事で出た土砂を山間部に積む構造が全国的に存在していたとされます。


📚 参考文献

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

reaitimenews.com

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