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粟根康智とは?広島県警カラ出張を内部告発した元巡査部長の経歴と現在

退職2分前に告発メールを送った広島県警元巡査部長・粟根康智の内部告発と公安の闇を解説するアイキャッチ画像

| 読了時間:約8分

広島県警の元巡査部長・粟根康智あわね やすともさん(46)は、退職日の就業終了2分前に公益通報こうえきつうほうの告発メールを送った。
娘の「警察官としてちゃんとして」という一言が、その決断を後押しした。

告発の背景には、公安警察の組織ぐるみの不正がある。
そして声を上げた者だけが代償を払い続ける構造がある。

 

 

 

粟根康智(あわねやすとも)さんは、広島県警の公安警察に所属していた元巡査部長です。上司の指示でカラ出張に6回加担し約5万5000円を受け取った後、退職日の就業終了2分前に公益通報の告発メールを送りました。

告発を受けた県警は関係者3人を書類送検しましたが、広島地検は全員を不起訴としています。一方で粟根さんは職を失い、2024年には福山市議選に立候補する道を選びました。

本記事では、粟根さんがカラ出張に加担した経緯から「退職2分前」の告発に至った理由、全員不起訴という結末、そして告発者だけが代償を払い続ける公益通報の構造的問題を時系列で解説します。

粟根康智はなぜ「退職2分前」に告発したのか

粟根さんは広島県警の公安警察に所属していた。
上司に指示されてカラ出張を繰り返した末、退職当日に告発メールを送信した。

内部告発と聞くと、不正に関わっていない正義の人物を想像しがちだ。
映画やドラマでも、告発者は清廉潔白に描かれる。

ところが粟根さんは違った。
告発者自身が、上司の指示でカラ出張を6回繰り返し、約5万5000円を受け取った「加担者」だったのだ。


「天職」から一転、カラ出張への加担

粟根さんは幼い頃から警察官にあこがれていた。
就職氷河期で倍率10倍近い試験を何度も受け、27歳で合格している。

配属先は警備課の「作業班」。
尾行や情報収集を担う、秘匿性の高い公安警察の部隊だ。

夜通しの張り込みも苦にせず、県警本部から複数回表彰された。

上司からの指示

弁護士ドットコムニュースの報道によると、転機は2019年。
直属の上司となったA警部から「朝も早いし、現場には来なくてよい。エアーでよい」「本部報告用の実績はいるから出張願は出しておけ」と指示されたという。

カラ出張とは、実際に出張していないのに出張したことにして旅費を受け取る不正だ。
粟根さんは2019年から2020年にかけて6回繰り返し、旅費と時間外手当の計約5万5000円を受け取った。

家族4人の外食2〜3回分にしかならない金額。
だがその少額の不正が、粟根さんの人生を大きく変えた。

 

 

 

娘の一言と「午後5時13分」の告発

眠れない日が半年以上続いた。
適応障害と診断され、2021年5月から休職。

その後に交通事故で内臓破裂の大けがを負い、両腕に後遺症が残った。

ストレスで家族に当たり散らす日々。
そんなある冬の日、小学6年の長女が言った。

娘の一言

うちら貧乏になってもええけ、警察官としてちゃんとして

子どもに見透かされていた。
粟根さんは退職を決意し、翌月に退職願を出した。

退職にあたって監察部門にカラ出張を告発しようとした。
だが警備・公安出身の監察官との面談を求めても連絡は来なかった。


そして2022年3月31日。
休職中のまま迎えた最後の勤務日。

就業終了時刻の午後5時15分のわずか2分前——午後5時13分に、県警の公益通報窓口へ告発メールを送信した。

「退職2分前」の意味

「退職2分前」は偶然のタイミングではない。
監察との面談が実現せず、メールが「証拠として残すための最後の手段」だった。
公益通報者保護法こうえきつうほうしゃほごほうは在職中の通報を前提に保護する仕組みであるため、退職日中に送る必要があったのではないだろうか。

告発メールを送った粟根さん。
では、その通報で組織はどう動いたのか。

結末は粟根さんの予想を裏切るものだった。

 

 

 

告発の結末——全員不起訴、そして「選挙という手段」

県警の調査は遅々として進まなかった。
そして最終的に、広島地検ひろしまちけんは告発された側の全員を不起訴にした。

上司の指示で不正をした側はほぼ無傷。
声を上げた側が職も収入も失う。

「告発すれば正義が実現する」と信じる人には衝撃的な結末だろう。


書類送検から不起訴までの経緯

TBS NEWS DIGの報道によると、広島県警は2023年12月にA警部ら3人を詐欺や虚偽公文書作成の疑いで書類送検した。

項目 内容
関与人数 5人
不正の回数 32回(2019年4月〜2021年2月)
不正受給の総額 16万7000円
A警部の処分 減給1カ月→依願退職
広島地検の判断 全員不起訴(「情状全般を考慮した」)

約16万7000円。
サラリーマンの手取り1カ月にも届かない額だ。

A警部への処分は減給1カ月にとどまり、同日付で依願退職いがんたいしょくしている。

粟根さんはこの結果に異議を唱えている。
「自分の不正受給額からみて県警が認定した5人の受給額は少なく、真相は解明されていない」と主張した。

 

 

 

口封じの録音と、告発者だけが払う代償

問題はカラ出張そのものだけではない。
SlowNewsの調査報道によると、県警の監察官室に寄せられた匿名の投書を、監察官が当の警備課長に見せていた

課長はこれをもとに部下の口封じに動いたという。
内部告発を受け付ける窓口が、告発の対象者に情報を横流ししていたことになる。

告発者(粟根さん)

退職(自主)
定職なし・妻の稼ぎで生活
実名で活動

被告発者(A警部)

減給1カ月→依願退職
不起訴・詳細非公開
匿名のまま

告発者の方が重い代償を払っている。
この非対称性こそ、粟根さんの事例が突きつける問題の核心だろう。

上司に不正を指示されたとき、あなたならノーと言えるだろうか。
「警察には上司の命令にノーと言える選択はない」と粟根さんは弁護士ドットコムニュースの取材で語っている。


「市議になりたかったわけではない」

粟根さんは2024年春、広島県福山市議選に立候補した。
選挙チラシに「元警察官 内部告発者」と記した。

だが市議になりたかったわけではない

毎日新聞の記事によると、目的はただひとつ。
選挙活動中に保障される街頭宣伝の権利を使い、かつて在籍した福山北署の前でマイクを握ることだった。

福山北署前での演説

朝礼の時間を見計らい、のぼりを立ててこう叫んだ。
「上の人間が不正をしてお前らが黙っていて、誰が得をするのか。お前らがちゃんとせんと、市民は誰を信じればいいのか」

選挙を「当選するための活動」ではなく「合法的に声を届ける手段」として使う。
前例のない発想だった。

現在、粟根さんは定職に就いていない。
妻の稼ぎと投資で娘2人を育てている。

平日はほぼ毎日、子ども約50人に勉強を教えるボランティアを続けている。

では、こうした告発者を守る仕組みは機能しているのだろうか。

 

 

 

公益通報者保護法は「もろい盾」なのか

全国12県警が5年間で公益通報を1件も受けていなかった。
毎日新聞の独自調査で判明した事実だ。

通報がゼロなのは、不正がゼロだからではない。
専門家が「あり得ない数字」と指摘するとおり、通報制度そのものが機能していない。


12県警「通報ゼロ」と広島県警「173件」

毎日新聞が全国の都道府県警を調査した結果、2020〜24年度の5年間で公益通報件数がゼロだった県警は12にのぼった。

12県警

通報ゼロ件

広島県警

173件(全国最多)

粟根さんの告発をきっかけに通報の文化が芽生えた面があるのではないだろうか。

この数字の落差が意味するのは明快だ。
通報件数の多さは不正の多さではなく、制度が実際に使われているかどうかを映す鏡にすぎない。

ゼロ件の県警は「不正がない」のではなく「声を上げられない」のだろう。

 

 

 

「5万5000円を隠す」ことが示す公安の闇

粟根さんの代理人を務める清水勉弁護士は、弁護士ドットコムニュースの報道のなかでこう述べている。

清水弁護士の指摘

「今回の捜査費の不正経理は金額的には小さく、普通は隠す必要がない。しかし、これに組織として対応できないということは公安に相当の闇があると理解をして良いと思う」

5万5000円。
わずかな金額を必死に隠す行為そのものが、氷山の一角を暗示している。

少額だからこそ、表に出すと「他にもある」と連鎖的に露呈する構造があるのではないか——清水弁護士の指摘はそういう意味だろう。

公益通報者保護法は2022年に改正され、通報者への不利益な扱いが禁止されている。
だが罰則が弱く、実効性を疑問視する声は根強い。

毎日新聞はこの制度を「もろい盾」と表現し、報復を受けた告発者の事例を連載で報じている。

この事例が問いかけること

粟根さんの事例は「正義の代償」をいつまで個人に背負わせるのかという問いを投げかけている。
制度を変えなければ、声を上げた人だけが損をする構造は変わらない。

 

 

 

まとめ

  • 退職2分前の告発は偶然ではなく、監察との面談が実現しないなかでの「最後の手段」だった
  • 告発者自身もカラ出張の加担者であり、「清廉な正義の人」という単純な構図には収まらない
  • A警部ら3人は全員不起訴。告発者の方が重い生活上の代償を払っている
  • 全国12県警が5年間で公益通報ゼロ。制度が機能していない現実がある
  • 「困っている人を助けたい」——粟根さんは今も毎日子どもたちに勉強を教え続けている

よくある質問(FAQ)

Q1. 粟根康智とはどんな人物ですか?

広島県警の公安警察に所属していた元巡査部長です。上司の指示によるカラ出張を退職日に公益通報した内部告発者です。

Q2. なぜ退職2分前に告発メールを送ったのですか?

監察部門に面談を求めたが連絡がなく、在職中に証拠を残す最後の手段として就業終了2分前に送信しました。

Q3. 広島県警のカラ出張はどのくらいの規模でしたか?

5人が関与し計32回、旅費と時間外手当の合計約16万7000円が不正受給されました。

Q4. 告発された側はどうなりましたか?

A警部ら3人が詐欺容疑で書類送検されましたが、広島地検は全員を不起訴処分としました。

Q5. 粟根康智さんは現在何をしていますか?

定職に就かず妻の稼ぎで生活しながら、子ども約50人に勉強を教えるボランティアを続けています。

Q6. 公益通報者保護法は警察の内部告発者を守れていますか?

全国12県警が5年間で公益通報ゼロ件であり、制度が機能していないと専門家も指摘しています。

Q7. 粟根康智さんはなぜ市議選に立候補したのですか?

当選が目的ではなく、選挙活動の街頭宣伝権を使って福山北署前で警察官に訴えるためでした。

Q8. カラ出張の口封じとは何ですか?

監察官室への匿名投書を監察官が警備課長に見せ、課長が部下に不正を黙るよう圧力をかけたことです。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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