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白黒になったポテチの袋が教える、ナフサ備蓄制度の盲点

| 読了時間:約5分

コンビニの菓子棚が、突然モノクロになった。

2026年5月29日の夕方、北海道・札幌市内のコンビニエンスストアに、カルビーの白黒パッケージのポテトチップスが並んだ。

全国初の店頭陳列だ。

カラフルな袋が当たり前だった売り場で、その一角だけが別世界のように白と黒だけで構成されていた。

きっかけは中東情勢の緊迫化による印刷原材料の調達難。

しかし、この「袋の白黒化」の背景には、ほとんどの人が気づいていない構造的な問題が潜んでいる。


白黒になったポテチの袋が教える、ナフサ備蓄制度の盲点

5月29日夕方、コンビニに白黒の袋が並んだ

見慣れたカラフルな菓子売り場の一角だけが、突然モノクロになった。

ギズモード・ジャパン の報道によると、 カルビー は2026年5月12日、「ポテトチップス」「かっぱえびせん」「フルグラ」など合計 14品 について、パッケージに使用する印刷インクの色数を従来仕様から2色に変更すると発表した。
5月25日 の週から出荷を順次切り替えている。

対象にはポテトチップスのうすしお味・コンソメパンチ・のりしお、かっぱえびせん(77g)、フルグラ(330g・700g)などが含まれる。

堅あげポテトは 6月22日 週以降の切り替え予定だ。

白黒ポテチ誕生までの経緯
2026年2月28日
米国・イスラエルによるイラン攻撃を契機にホルムズ海峡が事実上の封鎖状態へ
封鎖
2026年5月12日
カルビーが14品のパッケージを白黒2色に変更すると正式発表
発表
2026年5月25日週
白黒パッケージの出荷が全国で順次開始
出荷開始
2026年5月29日
北海道・札幌市内のコンビニに白黒パッケージが全国初陳列
店頭初登場

変更の背景にあるのは、 2026年2月28日を起点とした中東情勢の急変 だ。

米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃を契機に、ホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に陥った。

印刷に使う原材料の調達が不安定になり、「安定供給を最優先とする当面の対応策」としてパッケージの仕様変更に踏み切った形だ。

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では、なぜ「インク」が足りなくなると、あのカラフルな袋が作れなくなるのか。

白と黒のインクだけが「使える」理由には、意外な化学の事情がある。

白と黒だけ使える、化学的な理由

色が消えたのは、デザインの問題ではなく、顔料の「出身地」の問題だった。

「白黒なら節約になる」と思う人は多いだろう。

しかし 白黒化=コスト削減策 というのは正確ではない。

白と黒のインクだけが引き続き使えるのは、 顔料を作る「原料の種類」がカラーインクと根本的に異なる ためだ。

食品パッケージの鮮やかな印刷には、グラビア印刷(食品袋の内側を均一に着色する方式)が使われる。

インクは大きく「顔料(着色剤)」「樹脂・溶剤(ワニス)」「添加剤」の3要素で構成される。


白・黒インク
無機顔料
石油依存度が低い
カラーインク
有機顔料
ナフサ由来・調達難

ギズモード・ジャパン の解説によると、白インクの顔料「酸化チタン」はチタンという金属の酸化物、黒インクの顔料「カーボンブラック」は炭素の微粒子だ。

いずれも鉱物・炭素由来の 無機顔料 であり、石油系溶剤への依存度が低い。

一方、赤・青・黄・緑のカラーインクに使われる「アゾ系顔料」は、石油(ナフサ)から合成する 有機顔料 だ。

さらにカラー印刷では、この有機顔料をフィルムに均一に塗るために大量の有機溶剤も必要になる。

この有機溶剤もナフサ由来だ。

つまり「色が消えた= 石油に依存している有機成分だけが消えた 」ということになる。

そして見落とされがちな事実がある。

カルビーはパッケージを白黒に切り替えながら、同時に6月1日納品分から別途 17品 5〜30%値上げ する予定だ。

じゃがビーは 30% 程度の大幅な引き上げになる。

白黒化によって節約した分が価格に還元されるわけではない。

原材料が物理的に調達しにくい状況への対応と、原材料価格の高騰による価格転嫁は、別々に進行しているとみられる。

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では、なぜ政府が備蓄を放出しても、この状況はすぐに解消しないのか。

原油に250日分の備蓄があるのに、なぜポテチの袋の色は戻らないのか。

「備蓄があるから大丈夫」は正しいか

原油の国家備蓄は約 250日分

しかしナフサの民間在庫はわずか 20日分 だ。

原油の備蓄
250日分
国家備蓄制度あり
ナフサの在庫
20日分
国家備蓄制度なし

この数字の非対称さが、今回の問題の核心を示している。
20日分とは年間の約 5.5% にすぎない。

冷蔵庫の食材が3週間分しかないまま、近所の食料品店が閉まった状態に近い。

Spectee(スペクティ) の分析によると、日本はナフサの約 6割 を輸入しており、その輸入分の約 7割 が中東産だ。

ホルムズ海峡封鎖は、この経路を直撃した。

さらに深刻なのが 制度設計の問題 だ。

原油には約250日分の国家備蓄が整備されている。

しかし ナフサには国家備蓄制度そのものが存在しない

過去の石油ショックを教訓に「燃料としての石油」の備蓄制度は作られたが、その下流にある「石油化学原料としてのナフサ」は制度の対象外のまま放置されてきた。

加えて、精製段階での経済合理性が問題を複雑にしている。

原油を精製すれば理論上はナフサも作れる。

しかし精製業者にとって、政府の補助金対象となっているガソリン等の燃料生産は採算が取れる。

一方、ナフサはスポット販売で採算が悪化しやすい。

価格高騰下では燃料生産を優先するのが企業として合理的な判断だ。

結果として、備蓄原油が放出されてもナフサへの供給効果は限定的になる。

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原油の備蓄制度は「燃料の国民生活」を守るために設計されており、プラスチックやインクの原料である石油化学用途には制度の網がかかっていなかった——今回のナフサ不足は想定外の事態ではなく、 設計上の穴が初めて顕在化した とみられる。

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こうした構造的な急所が生活の棚に出てきたとき、影響はポテチの袋だけで止まらない。

さくらんぼのパック、パン屋の袋、納豆のトレー——あなたの日常のどこに届いているか。

ポテチだけじゃない、広がる影響

収穫間近のさくらんぼが高くなる理由が、ポテチの白黒化と同じ原料にある。

さくらんぼの実そのものが値上がりしているわけではない。

問題は「入れ物」だ。

ナフサを原料とするプラスチック製のパック容器が 2〜3割値上がり しており、農家や販売者のコストを直撃している。

旬を前にした収穫期に重なったことで、影響が可視化されやすくなっている。

食品パッケージ大手の TOPPANホールディングス は、包装資材の仕入れ値が 2〜3割 増えているとして、食品・日用品メーカーへの値上げを打診している、と 日本経済新聞 は報じた。

調味料大手の ミツカン も、中東情勢の影響で納豆のトレーやフィルムの原料となるナフサが高騰したとして、6月1日から納豆 19品 6〜20%値上げ すると発表している。

帝国データバンク の2026年4月30日の調査では、食品値上げの要因別集計で「包装資材」が 7割 を占めた。
2023年の集計開始以来、最も高い比率だ。

食品の値上がりの「 3件に2件以上がパッケージ代の問題 」という状況が生まれている。

包装資材の値上げ幅(TOPPAN)
2〜3割増
食品・日用品メーカーへ打診中
シンナーの価格(2026年2月以降)
3.75倍
1缶4,000円→15,000円超のケースも
値上げ要因に占める「包装資材」比率
7割
2023年集計開始以来の最多比率

建材・塗装の現場にまで波及している。

シンナーはナフサ由来の溶剤がほぼ 100% を占める。

actibook(クラウドサーカス) の業界解説によると、2026年2月以降、1缶4,000円程度だったシンナーが実勢価格で 15,000円を超えるケースも出ているとみられる

3.75倍 の急騰だ。

「ポテチの袋の話」が、工事現場や自動車塗装の現場まで同じ経路で届いている。

6月以降も食品を中心に値上げラッシュが再燃する懸念がある。

影響はナフサ不足が解消されるまで止まらない構造だ。

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では、この状態はいつまで続くのか。

そしてどんな条件が揃えば変わるのか。

この状態はいつまで続くのか

代替調達率 50% が維持できれば、政府の試算では 2026年末まで供給は確保できる

政府の確保できるとの試算は「代替調達率50%」が維持され続けることが条件だ。

民間のナフサ在庫は約 20日分 であり、 国家備蓄制度の対象外 でもある。

状況の長期化や追加の価格転嫁は今後も続く可能性があると考えられる。

ホルムズ海峡の事実上の封鎖は、 2026年2月28日 から継続中だ。

通航再開の見通しは、中東情勢の推移に左右される。

カルビーの白黒パッケージという判断の本質は、 actibook(クラウドサーカス) が指摘するように「 資材が無い」ではなく「価格が高すぎて従来仕様では使い続けられない 」という企業判断だ。

これは一時的な対症療法ではなく、原材料の供給状況が続く限り恒常化する形を取る。

棚に並んだ白黒のポテチは、「石油化学産業の備蓄制度の設計」という普段は目に見えない構造問題が、初めてコンビニの棚に現れた瞬間として記憶される。

インクの色がなくなることで、制度の穴が「見える化」されたとも言えるだろう。

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過去の石油ショックは「原油の量」の問題だったが、今回は「精製後の分配と備蓄制度の設計」の問題という点で、性質が根本的に異なる。

まとめ

  • カルビーの白黒パッケージは節約策ではなく、カラーインクに使うアゾ系有機顔料がナフサ由来のため物理的に調達困難になったための措置で、同時にじゃがビーなど17品の6月値上げも進む
  • 原油の国家備蓄は約250日分あるが、ナフサに国家備蓄制度は存在せず、民間在庫は約20日分(年間の約5.5%)にすぎない。備蓄原油を放出しても精製段階で燃料生産が優先されるため、石油化学原料への即効は限定的だ
  • 影響はポテチにとどまらず、さくらんぼのプラ製パック・納豆のトレー・建材のシンナー(1缶4,000円→15,000円超)まで同じ経路で波及している
  • 帝国データバンク調査では2026年5月の食品値上げ要因の7割が「包装資材」で、2023年の集計開始以来最多。6月以降もラッシュが再燃する懸念がある

よくある質問(FAQ)

Q1. ナフサとは何ですか?

原油を精製して取り出す石油製品の一種で、プラスチック・合成繊維・印刷インクなど化学製品の原料となる油。

石油化学産業の根幹を支える基礎原料だ。

Q2. なぜポテチのパッケージが白黒になるのですか?

カラーインクのアゾ系有機顔料はナフサ由来で調達が困難になった。

白(酸化チタン)・黒(カーボンブラック)は鉱物・炭素由来の無機顔料で石油依存度が低いため使い続けられる。

Q3. ナフサ不足はいつまで続きますか?

政府は代替調達率50%維持を前提に2026年末まで供給確保できるとするが、ホルムズ海峡封鎖が継続中で民間ナフサ在庫は約20日分しかなく、長期化のおそれがある。

Q4. ナフサ不足で値上がりする商品・日用品はどんなものですか?

さくらんぼのプラ製パック・納豆トレー・食品包装フィルム全般が2〜3割値上がりしており、建材のシンナーは1缶4000円程度から15000円超に急騰しているケースもある。

Q5. 原油に備蓄があるのになぜナフサ不足が解消しないのですか?

ナフサには国家備蓄制度が存在しない。

備蓄原油を精製してもガソリン等の燃料生産が経済的に優先されるため、石油化学原料のナフサへの即効性は限定的になる。

Q6. カルビー以外のメーカーも白黒包装に変わりますか?

伊藤ハム米久ホールディングスも白黒包装への切り替えを検討していると報じられており、複数の乾麺メーカーが無地包装に切り替えを進めているとされ、広がる可能性がある。

Q7. パン屋が値上げしているのはナフサとどう関係しますか?

パン店は小麦などの原材料高騰に加え、包装袋の原料となる包装資材がナフサ不足で2〜3割値上がりしており、二重のコスト増が価格転嫁につながっている。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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