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父親と教師の両方が加害者——子どもが「言えなかった」ほんとうの理由

| 読了時間:約5分

「守ってくれるはずの人」が二人ともいなかった。

それがこの事案の出発点だ。

文春オンライン が2023年12月に報じたルポには、ノンフィクションライター・ 中村淳彦 が取材した女性の告白が記されている。

彼女が小学生だったとき、父親と担任教師の両方から性的虐待を受けた。

家庭でも学校でも——ふつうの子どもが「安全」だと感じる場所が、両方同時に危険だった。

なぜ子どもは何十年も声を上げられないのか。

そして2026年12月に始まる新しい法律は、この種の加害を本当に防げるのか。

父親と教師の両方が加害者——子どもが「言えなかった」ほんとうの理由

「守る人」が加害者だったとき何が起きるか

「守ってくれるはずの人」が二人ともいなかった——それがこの事案の出発点だ。

子どもへの性的虐待は、知らない大人から起きる 」。

多くの人がそう思っている。

だが、 内閣府政府広報オンライン によると、加害者の 8割 は顔見知りだ。

「知らないおじさんに気をつけて」という教育が、根本的にズレている理由がここにある。

⚠️ 顔見知りからの被害が圧倒的多数
「知らない人に近づかない」だけでは子どもを守れない。

加害者の 8割 は家族・教師・知人など 信頼関係のある大人 だと内閣府の資料は示している。

本件では父親(家庭)と教師(学校)という、子どもが最も信頼し、かつ逆らえない立場の人物が 両方加害者 だった。
文春オンライン が2023年12月24日に配信した記事は、ノンフィクションライター・ 中村淳彦 の著書『私、毒親に育てられました』(宝島社新書)と連動したルポとして公開された。

こうした手口は「 性的グルーミング 」と呼ばれる。

やさしくして信頼を得てから加害を続けるため、子どもは「これはおかしい」と気づくことさえ難しい。

内閣府 も公式の啓発資料でこの手口を明示し、注意を呼びかけている。

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父親と教師が同時に加害者だった場合、子どもが逃げ込める場所は最初から存在しなかったのではないか。

なぜ何年も「言えなかった」のか

性被害に最初に遭った年齢が 中学生以下 の割合は約 37%

しかし大人になって告白するケースが後を絶たない。

「なぜすぐに言わなかったの?」——被害者が最もつらいこの問いへの答えは、心理学にある。

強い恐怖に直面した生き物は「戦う・逃げる」以外に「 凍りつく(フリーズ) 」という反応を示すことが動物行動学や神経科学で知られている。

人間でも同様の状態が起きるとされており、被害者が「抵抗も声も出なかった」と語るのは 意志の弱さではない

凍りつき反応(フリーズ)とは

強い恐怖や脅威に直面したとき、戦うことも逃げることもできず思考と体が止まってしまう状態のこと。

本件のように、子どもが最も信頼する大人から繰り返し加害を受ける環境では、この状態が長期間継続し、「声が出なかった」「体が動かなかった」という証言につながりやすいとされる。

さらに、父親と教師という「この人の言うことを聞くのが当然」な存在からの加害は、心理的な服従状態を強める。

「これは普通のことかもしれない」と子ども自身が判断を狂わせてしまうのではないか。

二つの権威が同時に重なることで、逃げる方向を考える力そのものが育たなかった可能性がある。

日本財団ジャーナル で新生児科医・ 今西洋介 氏はこう語っている。

「子どもが自分で被害を認識できないケースもある」と。

幼少期の性的虐待は、成人後に うつ病やPTSD(心に深く刻まれたトラウマ)のリスクを高め 、脳の構造にも影響することがある。

何十年も経ってから証言できたのは、それだけ深い場所に封印されていたということだ。

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では、社会の仕組みはこうした被害を事前に防ぐために何かできているのか。

実は2026年末に始まる新しい法律には、大きな「届かない部分」がある。

新しい法律でも防げなかった「穴」

学校の先生には効くが、家の親には届かない—— 2026年末に始まる新制度の限界 がここにある。

2024年6月に「 こども性暴力防止法 (通称・日本版DBS)」が成立した。
2026年12月25日 から施行される。

学校や保育所など、子どもと接する職に就く人が過去に性犯罪を犯していないかを、事業者が国のデータベースに照会できる仕組みだ。

教師
✔ 制度が届く

採用・配置転換の際に性犯罪歴を確認できる。

再犯防止に機能する。

父親
✕ 制度の外

家庭内の親は「雇用関係のある職場」ではないため、そもそも対象に入っていない。

この制度が機能する部分は明確にある。
こども家庭庁 によると、2022年度に性犯罪で懲戒処分・訓告を受けた教員 242人 のうち、担当する子どもが被害者だったケースは 119人 と半数近い。

こうした加害者が別の学校に移って同じことをするのを、日本版DBSは防ぐ力を持つ。

📌 日本版DBSが届かない場所がある

学校の先生の性犯罪歴は新法でチェックできるようになる。

でも家の親がやっていたら、法律では止められない。

「法律ができた=解決した」という安心感は、半分しか正しくない。

本件のように「父親と教師の両方が加害者」だった場合、日本版DBSは教師側への再発防止には機能しても、父親側の加害を事前に止める手段にはならないのではないか。


これは制度への批判ではない。

「職場における性加害を防ぐ制度」として設計された以上、家庭という別の空間は 射程の外にある ——それが現実だ。

子どもにとって最も身近な「家庭」は、新しい法律の射程の外にある。

では実際に、表に出ていない被害はどのくらいの規模なのか。

その数字を見ると、「うちの子に限って」という感覚が揺らぐかもしれない。


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表に出る被害はたった1%

推定 39万人 に対し、警察の把握は 4,850件
99%は表に出ない

39万人
推定被害
年間・厚労省
1,000人
1日あたり
換算値
4,850件
警察検挙
2023年

日本財団ジャーナル によると、厚生労働省の2021年調査では日本で年間約 39万人 の子どもが性被害に遭っていると推定されている。
1日あたりに換算すると、 1,000人以上 だ。

今日も、明日も、大型フェスの来場者数ほどの子どもたちが、どこかで被害に遭っている計算になる。

一方、警察が2023年に把握した18歳未満への性犯罪の検挙件数は 4,850件 だ。
4,850÷390,000×100で計算すると、約 1.2%

表に出る被害は、全体の100人中1人程度にすぎないのではないか。


【計算式】4,850件(検挙)÷ 390,000人(推定被害)× 100 ≈ 1.2%
→ 推定98%以上の被害が統計に表れていない

なぜこれほど表に出ないのか。

性的虐待は露見しにくい特性を持つ。

子どもが自分の被害を被害と認識できない。

加害者が家族や教師など 「信頼できる大人」であれば言い出せない

体への傷が残りにくい。

こうした特性が重なり、統計に映らない被害が大量に存在する。

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今回のルポで証言した女性の体験も、長年にわたってこの「 99%の中 」にあったといえるだろう。

子どもが出せるSOSと大人の義務

「うちの子に限って」—— その感覚こそが、最も危ない思い込みかもしれない

内閣府政府広報オンライン によると、性被害を受けた子どもは以下のようなサインを出すことがある。

ただし「サインが全く出ない子もいる」とも同資料は記しており、サインの有無だけで判断することはできない。

ℹ️ 性被害を受けた子どもが出すサインの例(内閣府資料より)

  • 頻尿・おねしょ(急に増えた場合)
  • 不眠・悪夢・一人で眠れない
  • 自傷行為・急に乱暴になる
  • 人との距離感がおかしくなる
  • 食欲不振または急な過食

※ サインが全く出ない子どもも多い。

サインの有無だけで判断しない。

「自分には関係ない」と感じるかもしれないが、日本では職業・立場を問わず、すべての人に 通告の義務 がある。
文部科学省 が示す通り、 児童虐待防止法 第6条により、「虐待を受けたと思われる子どもを発見した者は、速やかに 児童相談所などに通告しなければならない 」。

確証がなくても、疑いがある時点で連絡してよい。

今すぐ使える相談先

  • 189 (いちはやく)—— 24時間つながる児童相談所の虐待対応ダイヤル
  • #8891 (はやくワンストップ)——性的な被害の相談窓口

確証がなくても通告してよい。

通告者の情報は守られる。

厚生労働省 の法令が示す通り、守秘義務よりも通告義務が優先されるとされており、「知らせたことで責任を問われる」ことは基本的に想定されていない。

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子どもが声を上げられない構造は変わらない。

だからこそ大人が動く仕組みが、法律として存在している—— それを知っているかどうかが、分かれ目になる

まとめ

  • 性被害の加害者の8割は顔見知り。父親と教師の両方が加害者だったこの事案では、子どもが逃げ込める場所が最初から存在しなかった。
  • 「なぜ言えなかったのか」の答えは意志の弱さではなく、心理学で知られる「凍りつき反応」や権威への服従という、生物として自然な反応にある。
  • 2026年12月施行の日本版DBSは学校教師への性犯罪歴確認には機能するが、家庭内の父親による加害は制度の対象外——「法律で全部解決」とはならない。
  • 年間推定39万人の被害に対し警察が把握するのは約4,850件。表に出る被害は1%程度にすぎないとみることができ、残る99%は今も誰にも届いていない可能性がある。
  • 虐待の疑いを発見した人は「189(いちはやく)」に連絡する義務が法律で定められている。確証がなくても通告してよい。

「法律が守ってくれる」と「家庭の中まで届く」は、同じことではない。

よくある質問(FAQ)

Q1. 父親と教師の両方が性的虐待の加害者になれるのはなぜ?

加害者の8割は顔見知りとされており、父親と教師は子どもが最も信頼し逆らえない立場にある。

「やさしくして信頼を得てから加害を続ける」手口(性的グルーミング)により、子どもは被害と気づきにくくなる。

Q2. 子どもが性的虐待を何年も言えないのはなぜ?

心理学で「凍りつき反応(フリーズ)」と呼ばれる状態が働くとされており、強い恐怖に直面すると戦うことも逃げることもできなくなる。

父親や教師という権威ある立場からの加害では、服従状態がさらに強まるのではないかと考えられている。

Q3. 日本版DBS(こども性暴力防止法)はいつから始まる?

2024年6月に成立し、2026年12月25日から施行される。

学校や保育所などこどもと接する職場に就く人の性犯罪歴を、事業者が国のデータベースに照会できる仕組みだ。

Q4. 日本版DBSは家庭内の性的虐待を防げる?

防げない。

日本版DBSは「こどもと接する職場」への就業時の確認制度のため、家庭内の親は対象外だ。

父親による家庭内加害は、この制度の射程の外にあると考えられている。

Q5. 子どもの性被害は日本にどのくらいある?

厚生労働省の2021年調査では年間約39万人、1日1,000人以上と推定されている。

一方で警察が把握した2023年の検挙件数は4,850件で、表に出るのはごく一部にとどまる。

Q6. 子どもの性被害を発見したらどこに連絡すればいい?

「189(いちはやく)」に電話すると最寄りの児童相談所の虐待対応窓口につながる。

性的な被害の相談は「#8891(はやくワンストップ)」でも受け付けている。

確証がなくても通告してよい。

Q7. 虐待を発見した人に通告の義務はある?

ある。

児童虐待防止法第6条により、虐待を受けたと思われる子どもを発見した者は職業・立場を問わず速やかに児童相談所などに通告しなければならない。

確証がない段階での通告も認められている。

📚 参考文献

N

リアルタイムニュースNAVI 編集部

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