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中途採用が新卒を超えたのはなぜ?初任給が生む逆説の連鎖

中途採用が新卒を超えたのはなぜ?初任給が生む逆説の連鎖

| 読了時間:約7分

今年の春、大手損保会社の採用の7割は転職者だった。

帝国データバンクの2026年度調査によると、正社員採用予定のある企業で中途社員が52.4%、新卒新入社員は36.9%だ。その差は15ポイント以上に開いている。

この変化の背景には、初任給引き上げをめぐる意外な連鎖がある。

 

 

 

大手こそ変わった──中途採用が新卒を逆転した実態

大手・一流企業は新卒中心のはず数字はその前提を覆す

日本経済新聞の調査では、大手企業の中途採用比率が51.1%と、2年連続で採用全体の過半を超えた。大手約2,000社の新卒と中途の採用比率はすでに概ね5対5だ。

損保業界が示す「圧倒的な転換」

変化が最も鮮明なのが損害保険業界だ。

日本経済新聞の報道によると、東京海上日動火災保険は2025年度の中途採用を24年度の80人から200人規模へ一気に拡大した。採用計画全体に占める中途の割合は1割から3割に跳ね上がった。

損害保険ジャパン70人から200人へと約3倍に増やした。三井住友海上火災保険に至っては、採用の7割が中途とされる。これはもはや「逆転」ではなく「圧倒」だ。

 

企業名 2024年度 2025年度
東京海上日動 約80人(1割) 約200人(3割)
損害保険ジャパン 約70人 約200人
三井住友海上 未公表 採用の約7割

 

富士通が示した「象徴的な転換点」

さらに象徴的な動きが2025年3月に起きた。

富士通が新卒一括採用の廃止を発表したのだ。新卒と中途の採用区分をなくし、職務に応じた通年採用へ移行した。

Business Insiderのインタビューで時田隆仁社長はこう語っている。「ヘッドカウント(人員数)ベースの事業はもう持たない」。採用権限は各事業部門に委ねられ、人事主導の採用から完全に脱した。

データで見る「逆転」の全体像

大手約2,000社の新卒:中途比率は概ね5対5。帝国データバンクの全企業調査では中途52.4%、新卒36.9%と差はさらに広がっている。これは一社だけの特例ではなく、産業全体の構造変化だ。

今や大手企業こそが採用の根本を変えている。では、なぜこれほど急激に変わったのか。その引き金には、意外なことに「初任給引き上げ」が絡んでいる。

 

 

 

初任給が上がれば先輩が辞める──賃上げが生む逆説の連鎖

あなたが入社した年の初任給と、今年4月に入ってきた新人の月給を比べてみてほしい。もし「ちょっと待って」と感じたなら、その感覚はデータが裏づけている。

7割の企業が初任給を引き上げた現実

帝国データバンクの調査(産経新聞報道)によると、2026年4月入社の新卒社員の初任給を引き上げた企業は67.5%に上る。平均の引き上げ額は月9,462円だ。

初任給が上がることは、一見よいことに見える。ところが、ここに深刻な問題が潜んでいる。


「逆転現象」が先輩社員の不満を生む

初任給だけを引き上げると、数年前に入社した先輩社員との給料が逆転する。同調査で帝国データバンクはこうコメントした。

帝国データバンク(2026年2月調査)

「既存社員より新入社員の給与が高くなる逆転現象への懸念に対応できず、引き上げに踏み切れない企業もみられた」

3年間働いてきた先輩が、今日入ってきた新人と同じか、それ以下の給料になる。この状況が職場のいたるところで静かに起きている。

3年前入社の先輩

入社時の初任給のまま

今年入社の新人

月+9,462円スタート

⚠️ ここからは事実に基づく考察であり、確定情報ではありません

行動経済学の公正理論では、人は絶対額よりも「相対的な不公平感」に強く反応するとされる。3年間黙って働いてきた先輩が今年の新人と逆転する状況は、この理論が予測する強い離職動機の一つと見られる。


「先輩の離職→中途採用需要増」という連鎖

マイナビの調査によると、2025年に退職者が発生した企業は49.3%に上った。退職により業務や経営に最も大きな影響を与えた属性は「勤続5年以上の中堅社員(68.8%)」だ。

こうした中堅社員の穴は、新卒を育てて埋めるには時間がかかりすぎる。即戦力となる経験者、つまり中途採用で補うしかない。

連鎖のしくみ

初任給引き上げ → 既存社員の不満・逆転現象 → 中堅層の離職中途採用需要の増加 → さらなる採用競争へ

賃上げ競争は採用を活性化しながら、同時に在職者の不満と離職を促す。中途採用増は「景気がいい」だけでは説明できない、複合的な連鎖の産物だ

この連鎖は個々の企業を超え、採用市場全体の構造を書き換え始めている。特に注目すべきは、「大学卒を採用しない」という選択を選ぶ企業が増えてきたという、もう一つの地殻変動だ。

 

 

 

大学を出ても採用されない時代──採用地殻変動の全体像

知ってる? 今、大学を4年かけて卒業した人よりも、高卒のほうが企業から引く手あまたな時代になっている。

「大卒採用を諦めた」企業が過去最高に

リクルートワークス研究所の分析によると、大学卒を「以前も今後も採用しない」と回答した企業の割合が、2012年卒以降の統計で過去最高の14.0%に達した。

15年前の2012年卒時点では7.5%だったから、ほぼ倍になった。人手不足は深刻なのに、大学卒採用をやめる企業が増えている。

中小企業に広がる「あきらめ」

同研究所の研究員はその背景に「あきらめ」があると分析する。大手企業の初任給が月30万円を超える今、中小企業は条件面で太刀打ちできず、何年採用活動を続けても大学生が来ない状況が続いているというのだ。


高校卒の求人倍率がバブル期を超えた

さらに驚くデータがある。

同報告によると、高校卒の求人倍率は2026年3月卒で3.69倍に達した。バブル期の最高倍率は3.08倍(1992年3月卒)だ。それを大きく上回っている。

就活生1人に対し3.69件もの求人がある計算になる。大卒採用に苦戦する企業が、高卒採用にシフトした結果だ。

 

比較項目 大学卒 高校卒
求人倍率(2026年3月卒) 1.66倍 3.69倍
採用しない企業の割合 14.0%(過去最高) 30.8%(減少傾向)
15年間のトレンド 採用諦め企業が増加 積極採用企業が1.5倍に

 

大卒・中途・高卒という三つの採用市場が、同時に全く異なる方向で動いている。これはもはや人事部の話ではなく、働き方そのものの再定義だ

 

 

 

「新卒一括採用の崩壊」が問いかけるもの──採用変化の深層

⚠️ ここからは事実に基づく考察であり、確定情報ではありません。以下は筆者の考察を含みます。

報道されている文脈

メディアの多くは今回の変化を「人手不足」と「賃上げ競争」の文脈で報じている。企業が即戦力を求め、大手が中途採用を増やし、富士通が新卒一括採用をやめた。確かにその通りだ。


別の文脈から読み替えると

しかし、もう一つの読み方がある。

新卒一括採用しんそついっかつさいようは、日本型雇用の「入り口の儀式」だった。毎年4月に同じ服を着た若者を一斉に採り、同じ研修を受けさせ、配属は会社が決める。このしくみは終身雇用・年功序列・企業別組合という三点セットと一体だった。

入り口が崩れるとは、この三点セット全体が揺らぐことを意味するという見方もある。富士通の時田社長が「ヘッドカウントベースの事業はもう持たない」と語った言葉は、単なる採用方針の変更ではないのではないか。

富士通・時田社長の証言(Business Insider Japan)

「人材流動性は向上した。一方で、知識の蓄積や組織の一体感、ロイヤリティーといった新たな課題も浮き彫りになった」

速さと引き換えに何かを失うリスクは、どの企業にも共通しているだろう。新卒一括採用の廃止を「雇用哲学の転換」と読み替えると、今起きていることの輪郭がくっきりと見えてくる。


読者への問い

「安定した会社に就職して定年まで働く」というモデルは、長らく多くの人が信じてきたレールだ。そのレールの基盤だった新卒一括採用が崩れ始めた今、採用される側もまた、「どんな仕事をしたいか」を先に考えることが求められる時代に入りつつあるのではないだろうか。

変わったのは企業だけではない。採用市場全体が、問いを突きつけている。

まとめ

  • 2026年度の採用計画で中途採用(52.4%)が新卒採用(36.9%)を15ポイント以上上回った(帝国データバンク)
  • 東京海上日動は中途採用を80人→200人、損保ジャパンも70人→200人へ拡大した
  • 初任給引き上げ(平均月9,462円増)が既存社員との逆転現象を生み、中堅層の離職を促す連鎖が起きている
  • 大卒採用を「諦めた」企業が過去最高の14.0%に達した一方、高卒の求人倍率はバブル超えの3.69倍となった

よくある質問(FAQ)

Q1. 新卒採用と中途採用の割合はどうなっている?

2026年度の採用計画で中途が52.4%、新卒が36.9%と、差が15ポイント以上に開いている(帝国データバンク調査)。

Q2. なぜ大手企業が中途採用を増やしているのか?

即戦力となる経験者の需要が高まったためだ。東京海上日動は1年で中途採用を80人から200人規模へ拡大した。

Q3. 初任給の逆転現象とはどういう意味?

新卒の初任給だけ引き上げた場合、数年前に入社した先輩社員の給料が新人を下回る状態のことをいう。

Q4. 富士通はなぜ新卒一括採用をやめたのか?

人事主導ではなく事業部門が必要な人材を必要なときに採る体制に移行するためだ。ジョブ型人事制度への転換が背景にある。

Q5. 中途採用が増えると転職は有利になるか?

求人数は増えているが、企業は即戦力・スキル重視に移行中で、経験のある人材への需要が特に高まっている。

Q6. 高校卒の求人倍率はなぜバブル期を超えたのか?

大卒採用に苦戦した企業が高卒採用にシフトしたためだ。高卒の求人倍率は2026年3月卒で3.69倍に達した。

Q7. 中小企業が大学卒採用をやめているのはなぜ?

大手企業の初任給高騰で条件面で競えなくなり、採用活動が長年うまくいかず「あきらめ」が広がったとされる。

Q8. 新卒採用はなくなるのか?

すぐになくなることはないが、新卒と中途の区別をなくす通年採用へ移行する大手企業が増えている。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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