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デンソーがロームに約1.3兆円規模の買収を提案した。
日本経済新聞が2026年3月6日に報じている。
自動車部品メーカーが半導体専業メーカーを丸ごと飲み込もうとするのは、パワー半導体の世界市場で欧州勢に大差をつけられた日本勢の危機感が背景にあるのだろう。
この記事でわかること
なぜデンソーはロームを買収するのか——「部品屋」が半導体メーカーを飲み込む理由
デンソーの狙いは、パワー半導体の世界市場で日本勢が抱えるスケールの壁を壊すことにある。
「自動車部品メーカーが半導体メーカーを買う」と聞くと、多くの人は部品の調達先を囲い込みたいのだろうと想像する。
たしかにデンソーはトヨタグループ最大の部品メーカーであり、半導体の「買い手」として知られてきた。
日本勢のシェアは欧州王者の4分の1以下
ところが、数字を見ると話は変わる。
英調査会社オムディアによると、パワー半導体の世界シェアで首位に立つのはドイツのインフィニオンで22.8%。
2位は米オン・セミコンダクターの11.2%、3位はスイスのSTマイクロエレクトロニクスで9.9%だ。
| 順位 | 企業名 | シェア |
|---|---|---|
| 1 | インフィニオン(独) | 22.8% |
| 2 | オン・セミコンダクター(米) | 11.2% |
| 3 | STマイクロ(スイス) | 9.9% |
| — | 三菱電機(日本) | 5.5% |
| — | 東芝(日本) | 3.2% |
| — | ローム(日本) | 3.2% |
日本勢トップの三菱電機でも5.5%にとどまり、東芝やロームは3.2%。
インフィニオン1社に対して日本のトップ3社を足しても及ばない。
各社がバラバラに戦っていては勝ち目がないという構図が、このシェア表からはっきり見える。
デンソーは「隠れた半導体メーカー」でもある
ここで見落とされがちな事実がある。
デンソーは自らSiCパワー半導体を製造し、富士電機と2116億円の投資で生産体制を築いている。
デンソー・富士電機のSiC協業
デンソーと富士電機の公式発表によると、両社は2024年11月に経済産業省から「半導体の供給確保計画」の認定を受けた。EE Times Japanの報道では、デンソーは愛知県の大安製作所と幸田製作所でSiCウエハーやSiCパワー半導体を生産する。
つまりデンソーは半導体を買う側 → 半導体を作る側でもある。
この文脈で見ると、ローム買収は単なる調達先の囲い込みではない。
半導体メーカー同士の統合として読むべきだろう。
さらに興味深いのは、2024年11月のダイヤモンド・オンラインの報道だ。
1年前の「予告」
同記事は「デンソーには、日本のパワー半導体メーカーの再編を後押しするもう一つの計画がある。関係者によると、早ければ年内にも明らかになる」と書いている。
この「もう一つの計画」が今回の買収提案だったのではないか。
1年以上前から布石は打たれていたことになる。
では、なぜこのタイミングで買収に踏み切ったのか。
そこにはロームの急速な業績悪化と、わずか18か月で進んだ段階的な接近がある。
わずか18か月で提携から買収へ——1.3兆円の根拠とロームの「弱み」
デンソーは2024年秋から約18か月で、ロームとの関係を4段階に引き上げた。
通常の大型M&Aでは提携から買収まで数年かかる。このスピードは異例だ。
📅 デンソーの段階的接近
① 2024年9月:提携検討に合意(ロームの一部株式を取得)
② 2025年5月:戦略パートナーシップの基本合意を発表。「資本関係の強化も引き続き検討」と明記
③ 2025年7月:ローム株の出資比率を0.3%から5%弱に引き上げ(約380億円相当)
④ 2026年3月:日本経済新聞が1.3兆円規模の買収提案を報道
なぜ「今」だったのか——ロームの500億円赤字
このスピード感の裏には、ロームの急激な体力低下がある。
日本経済新聞によると、ロームの2025年3月期の最終損益は赤字500億円だった。
前年は539億円の黒字。パワー半導体事業で300億円規模の減損損失を計上し、12年ぶりの赤字に転落した。
2024年3月期
黒字 539億円
2025年3月期
赤字 500億円
原因は「SiCパワー半導体バブル」の後遺症だ。
2022〜2023年にかけてロームはSiCの世界トップを目指して巨額の設備投資に踏み切ったが、EVの販売減速と中国勢の台頭で需要が急減した。
積極投資が裏目に出た形だ。
⚠️ ここからは推測です
ロームの弱体化は、デンソーにとって「千載一遇」のタイミングだっただろう。
巨額投資で築いたSiC生産設備を持ちながら業績は低迷し、株価も低水準にある。
攻め時と映ったのではないか。
1.3兆円はどこから来た数字か
Yahoo!ファイナンスによると、ロームの時価総額は2026年3月5日時点で約1.1兆円。
発行済み株式数は約4億株だ。
1.3兆円という買収金額は、時価総額に対して約18%のプレミアムを上乗せした水準になる。
TOBでは通常20〜50%のプレミアムが付くため、18%はやや控えめな印象もある。
ただし、デンソーはすでに5%弱の株式を保有しており、買い増しの余地を残した提案なのかもしれない。
デンソーの財務体力
ロイターによると、デンソーの2026年3月期の連結純利益予想は4200億円(下方修正後)。
1.3兆円の買収資金をどう賄うかは今後の焦点になるだろう。
もっとも、この買収が実現すれば影響を受けるのはデンソーとロームだけではない。
経産省の補助金でつながるローム・東芝連合、そしてパワー半導体の世界的な勢力図そのものが塗り替わる。
パワー半導体の勢力図はどう変わるか——東芝、経産省、そして世界の構図
この買収の影響は、2社の枠を大きく超える。
デンソーがロームを傘下に収めた場合、そこに巻き込まれるのは東芝、富士電機、経済産業省、さらにはドイツのインフィニオンまで及ぶ。
ローム・東芝連合はどうなるのか
最も直接的な影響を受けるのは、ロームと東芝の協業関係だ。
ロイターによると、両社は2023年12月にパワー半導体の共同投資計画を発表した。
事業総額は3883億円にのぼり、経産省が最大1294億円を補助した。
| 企業 | 担当 | 投資額 |
|---|---|---|
| ローム / ラピスセミコンダクタ | SiCパワー半導体 | 2892億円 |
| 東芝デバイス&ストレージ / 加賀東芝 | シリコンパワー半導体 | 991億円 |
| 合計 | — | 3883億円 |
しかもこの連合は一度、崩壊の危機にあった。
日本経済新聞によれば、東芝が2025年8月に中国企業と技術協力で合意したことにロームが激怒し、協議が中断。
東芝は異例の1か月で合意を破棄し、関係修復に動いた。
この不安定な連合の上にデンソーが買収者として入ってくる。
ロームがデンソーの傘下に入れば、東芝との力関係は一変するだろう。
「日の丸パワー半導体連合」は実現するか
東洋経済オンラインは2026年1月の記事で、パワー半導体は「ロジックやメモリーは外部に切り出しても、パワー半導体部門はなお自社で抱え込む構図が続いている」と指摘している。
三菱電機も富士電機も東芝も、パワー半導体を手放そうとしない。
⚠️ ここからは推測です
デンソーがロームを買収すれば、富士電機とのSiC協業(2116億円)とあわせ、パワー半導体の国内最大勢力が誕生する。
さらにロームは2025年9月、世界シェア首位のインフィニオンとSiCパワーデバイスのパッケージ共通化で覚書を締結している。
この国際連携もデンソーが引き継ぐことになれば、国内再編と国際連携の二つの軸を同時に手にする。
デンソーを軸にした「日の丸パワー半導体連合」が現実味を帯びてくる。
ただし、ハードルも多い。
独占禁止法の審査、経産省の補助金スキームとの整合性、ローム既存株主の判断、そして東芝との関係再構築。
どれひとつ欠けても話は進まない。
国策としての半導体再編
デンソーのローム買収は、パワー半導体を「国家安全保障」の対象として位置づける2020年代の潮流と軌を一にしている。
米中対立で供給網の再構築が進む中、自動車とエネルギーの基幹部品であるパワー半導体を国内に確保する意味は大きい。
提案の成否にかかわらず、日本のパワー半導体業界が大きな転換点に立っていることは間違いない。
まとめ
- 買収規模:約1.3兆円(ローム時価総額約1.1兆円+プレミアム約18%)
- 買収の目的:パワー半導体の世界市場で欧州勢に対抗する規模の確保
- 背景①:インフィニオン22.8%に対し、日本勢は分散。三菱電機でも5.5%
- 背景②:ロームが500億円赤字に転落し、SiC過剰投資の後遺症で弱体化
- 今後の焦点:東芝との関係、経産省補助金1294億円の扱い、独禁法審査、株主判断
なお、日経電子版の元記事は有料記事のため、買収スキームの詳細(TOBか協議買収か、条件、時期など)は現時点で未確認だ。
続報が出しだい内容が明らかになるだろう。
よくある質問(FAQ)
Q1. デンソーとロームが半導体分野で協業する理由は?
パワー半導体の世界シェアで欧州勢に大差をつけられており、国内メーカー同士が連携して規模を拡大する必要があるためです。
Q2. デンソーがローム株を5%弱取得したのはいつ?
2025年7月に出資比率を0.3%から5%弱に引き上げました。約380億円相当です。
Q3. ロームの業績悪化の原因は?
SiCパワー半導体への過剰投資が裏目に出て、2025年3月期に500億円の最終赤字を計上しました。
Q4. 1.3兆円という買収金額の根拠は?
ロームの時価総額約1.1兆円に対し、約18%のプレミアムを上乗せした水準です。
Q5. 東芝とロームの協業はどうなる?
ロームがデンソー傘下に入れば、経産省が最大1294億円を補助した東芝との協業に影響が出る見込みです。
Q6. デンソーに1.3兆円の買収資金はある?
2026年3月期の連結純利益予想は4200億円。資金調達の方法は現時点で未確認です。
Q7. パワー半導体の世界シェア1位はどこ?
ドイツのインフィニオンが22.8%で首位です。日本勢トップの三菱電機は5.5%にとどまります。
Q8. ローム株価への影響は?
買収提案にはプレミアムが含まれるため株価上昇の要因になりますが、成立するかは未確定です。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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📚 参考文献
- デンソー公式「デンソーとローム、半導体分野における戦略的パートナーシップ構築に向けて基本合意」(2025年5月8日)
- EE Times Japan「富士電機とデンソーがSiCパワー半導体生産強化で協業、2116億円投資」(2024年11月29日)
- デンソー公式「デンソーと富士電機が共同申請した半導体の供給確保計画が経済産業省に認定」(2024年11月29日)
- ロイター「ロームと東芝がパワー半導体で協業、投資総額3883億円」(2023年12月8日)
- 日本経済新聞「東芝がロームと関係修復急ぐ パワー半導体協業、中国企業と合意破棄」(2025年11月21日)
- 日本経済新聞「ローム最終赤字500億円 25年3月期、パワー半導体で減損」(2025年5月13日)
- 東洋経済オンライン「パワー半導体も生き残りの条件は『規模』に」(2026年1月30日)
- Bloomberg「東芝パワー半導体、30年に世界シェア『2桁は絶対必要』」(2024年10月28日)
- ダイヤモンド・オンライン「デンソーが仕掛けるパワー半導体"再々編"」(2024年11月14日)
- EE Times Japan「ロームとInfineon、SiCパワー半導体のパッケージ共通化で協業」(2025年9月25日)
- ロイター「デンソー、通期純利益予想を下方修正」(2026年2月3日)