リアルタイムニュースNAVI

話題の出来事をリアルタイムで深掘り

障害者雇用70万人なのになぜ「戦力外」?配慮とやりがいのすれ違いを解説

障害者雇用70万人超なのに当事者が戦力外と感じる構造を解説するアイキャッチ画像

| 読了時間:約8分

障害者雇用は70万4,610人で過去最高を更新した。
だが特例子会社で働くASDの男性は「やりがい欲しい」と訴えている。
なぜ数が増えるほど「戦力外」が生まれるのか、その構造に迫る。

 

 

 

雇用率は過去最高なのに、なぜ「戦力外」が生まれるのか

雇用の「数」が増えても、任される仕事が単純作業ばかりなら意味がない。いま企業と当事者の間に、深い溝がある。


22年連続で過去最高、なのに当事者は「やりがい欲しい」

厚生労働省の令和7年集計結果によると、民間企業で働く障害者の数は70万4,610人
22年連続で過去最高を更新した。

数字だけを見れば、障害者の就労環境は着実に前へ進んでいるように映る。

ところが2026年2月24日、毎日新聞の連載「となりの発達障害」が、ある特例子会社で働くASD(自閉スペクトラム症)の男性の声を伝えた。
部署のメンバーのほとんどに発達障害や精神障害がある。
話しかけられるのが苦手な人が多く、「原則チャット」というルールが設けられていた。

📰 毎日新聞の報道より

ASD男性は「やりがい欲しい」と語った。配慮された環境で働きながらも、任される業務に物足りなさを感じている姿が報じられている。

配慮はある。居場所もある。
だが「自分の力を発揮できている」という手応えがない。
こうした声は、この男性だけのものではないだろう。


企業と当事者の「すれ違い」の構造

TBSの報道は、企業と障害者の間にある意識のズレを指摘している。

  企業側 当事者側
求めるもの 安定して長く働いてほしい 成長したい、活躍したい
配慮の方向 負荷を減らし、無理させない 力を試せる仕事を任せてほしい
結果 単純作業に業務を絞る やりがいを感じられない

企業は「配慮」のつもりで業務を限定する。
しかし当事者にとって、その配慮が「排除」に映ることがある。

特例子会社の当事者の声をまとめたサイトには、「シュレッダーや清掃だけ」「キャリアが停滞する」という訴えが並ぶ。
Yahoo!知恵袋でも「暇すぎて苦痛」「仕事を任せてもらえない」という相談が繰り返し投稿されている。

もし毎日、自分の能力の半分も使わない作業だけを繰り返すとしたら、どう感じるだろうか。

💡 このセクションのポイント

配慮が行き届いているからこそ、やりがいの欠如が際立つ。数の拡大は進んだが、質の設計が追いついていない。それが「戦力外」を生む構造だ。

では、この構造的なすれ違いの背景にある数字を、もう少し詳しく見てみよう。

 

 

 

数字が映す現実 ─ 未達成企業54%、発達障害の定着率は意外に高い

達成企業はわずか46%。過半数の企業が法定雇用率を満たしていない。一方で、発達障害者の定着率には意外な数字が隠れている。


半数以上の企業が「ルール違反」状態

厚生労働省の公式資料によると、民間企業の法定雇用率ほうていこようりつは現在2.5%。
2026年7月には2.7%に引き上げられる。
対象も従業員37.5人以上の企業に拡大する。

だが令和7年の集計結果では、法定雇用率を達成した企業は全体の46.0%
裏を返せば、54%の企業が未達成だ。

令和7年の詳細データを見ると、さらに驚く事実がある。

⚠ 見落とせない数字

未達成企業6万5,033社のうち、57.3%は障害者を1人も雇っていない。
一方で、あと1人雇えば達成できる企業が64%を占める。

「あと1人」で解決する問題が、6万社以上で放置されている。
この数字が、日本の障害者雇用の現在地だ。

パーソルダイバースの調査では、2026年7月の2.7%達成について57.9%の企業が「困難」または「やや困難」と回答した。
量を増やすこと自体が、企業にとって重い課題であり続けている。

 

 

 


「続かない」は本当か ─ 定着率データの意外な真実

発達障害のある人は「仕事が続かない」。
そんなイメージを持っていないだろうか。

障害種別の定着率をまとめたデータが、その思い込みを覆す。

障害種別 3カ月後 1年後
発達障害 84.7% 71.5%
知的障害 85.3% 68.0%
身体障害 77.8% 60.8%
精神障害 69.9% 49.3%

発達障害のある人は仕事が続かない1年後定着率は71.5%で、精神障害の49.3%を22ポイントも上回る。

発達障害のある人は「辞めやすい」のではない。むしろ「辞めずに留まっている」のに、力を活かされていない。
これが「戦力外」問題の核心だろう。

数字が示すのは、量の拡大がすでに限界に近づいているという事実だ。
では、いま始まりつつある「質」への転換とは何か。

 

 

 

「量から質へ」─ 始まった転換と、残る課題

企業は数合わせだけをしている。そう思うかもしれない。だが75.8%の企業が採用拡大に前向きと回答している。変化の兆しはすでにある。


やりがい重視の動きが広がりつつある

2025年11月、日本経済新聞は「障害者雇用、やりがい重視」と題した記事で、学びの場やマッチングを通じて雇用の「質」を高める動きを報じた。
単に席を用意するだけでなく、スキルアップや個人の強みを活かす取り組みが広がり始めている。

厚生労働省も「障害者雇用の質」をテーマにした研究会を重ねている。
雇用代行ビジネスへの規制強化と並行して、質の向上に向けた制度設計が進みつつある。

📊 企業の意識も変化

パーソルダイバースの調査によると、企業への相談内容は「法定雇用率の達成」から「評価制度の再設計」「社内理解の促進」など、質の向上に関するテーマへ変化している。


就労選択支援という「光と影」

2025年10月、新たに就労選択支援という制度が始まった。
障害のある人の働く力を専門家がアセスメント(評価)し、最適な就労先につなげる仕組みだ。

一見すると、当事者のための制度に見える。
だがTBSの報道は、構造的な矛盾を指摘している。

アセスメントで「静かな個室が必要」「専門スタッフの常時サポートが不可欠」と判定されたとする。
都心のオフィスで、それをすぐ用意できる企業は少ない。
結果として「自社では対応できないから、外部の専門施設に委託する」という判断が正当化されてしまう。

⚠️ ここからは推測です

国が「質を高めよう」と作った制度が、企業の外部委託を後押しする根拠になるという皮肉な構造が生まれている可能性がある。自社で「やりがいのある仕事」を設計する企業と、外部に丸投げする企業との二極化が進むのではないだろうか。

 

 

 

「配慮」だけでは足りない理由 ─ 二要因理論で読み解く

なぜ配慮が整っているのに、当事者は不満を感じるのか。
この問いに、心理学のフレームワークがひとつの答えを与えてくれる。

アメリカの心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した二要因理論によれば、職場の満足と不満足は別々の要因から生まれる。

衛生要因(不満を防ぐ)

職場環境、給与、人間関係、安全性
→ バリアフリー、原則チャット、短時間勤務

動機づけ要因(満足を生む)

達成感、承認、仕事の面白さ、成長
→ やりがいのある業務、スキルアップ、評価

企業が整えている「配慮」は、ほとんどが衛生要因に当たる。
不満を減らす効果はあるが、それだけでは満足にはつながらない。

配慮は「不満を防ぐ装置」であって「やりがいを生む装置」ではない。

ASD男性の「やりがい欲しい」は、まさにこの動機づけ要因の欠如を指している。
衛生要因が整った「次」のステージとして、業務設計や評価制度の見直しが必要になっている。

ただし注意も必要だ。
障害特性によっては「安定して働けること」そのものが最優先という人もいる。
全員にやりがいを求める画一的な設計もまた、別のミスマッチを生むだろう。

🔑 このセクションのポイント

雇用率の引き上げで「量」は前へ進んだ。次に問われるのは「質」だ。配慮の先にある「やりがい」をどう設計するか。企業にも、制度にも、その答えはまだ見つかっていない。

 

 

 

まとめ

  • 雇用の現状:障害者雇用は70万人超で過去最高だが、達成企業は46%にとどまる
  • 戦力外の構造:企業の「配慮」が業務を限定し、当事者の「やりがい」を奪っている
  • 意外なデータ:発達障害の1年定着率71.5%は精神障害49.3%を大きく上回る
  • 制度の転換:2026年7月に雇用率2.7%へ引き上げ、「量から質へ」の議論が始まっている
  • 残る課題:就労選択支援が外部委託を正当化するリスク。配慮の先のやりがい設計が急務

障害者雇用の数字は年々伸びている。
だが、数字の中にいる一人ひとりが何を感じているかに、もっと目を向ける必要がある。
「やりがい欲しい」という声に、制度も企業も、まだ十分には応えられていない。

よくある質問(FAQ)

Q1. 2026年に障害者雇用率はどうなる?

2026年7月に現在の2.5%から2.7%に引き上げられ、対象企業も従業員37.5人以上に拡大する。

Q2. 障害者雇用で「戦力外」とはどういう意味?

雇用率達成のために採用されたが、単純作業しか任されずやりがいを感じられない状態を指す。

Q3. 発達障害のある人の職場定着率はどのくらい?

1年後の定着率は71.5%で、精神障害の49.3%を大きく上回り、知的障害の68.0%よりも高い。

Q4. 障害者雇用率の達成企業はどのくらいある?

2025年時点で達成企業は全体の46.0%にとどまり、未達成企業の57.3%は1人も雇用していない。

Q5. 特例子会社とは何か?

障害者雇用に特化した子会社で、そこでの雇用者数を親会社の法定雇用率に算入できる仕組み。

Q6. 障害者雇用でやりがいを得るにはどうすればいい?

配慮だけでなく業務設計や評価制度の見直しが鍵。就労移行支援やマッチング重視の動きも広がっている。

Q7. 就労選択支援とはどんな制度?

2025年10月に始まった制度で、障害者の就労能力を専門家が評価し最適な就労先につなげる仕組み。

Q8. 障害者雇用率2.7%達成は企業にとって難しい?

パーソルダイバースの調査では57.9%の企業が「達成困難」または「やや困難」と回答している。

Q9. なぜ配慮が整っているのに不満が出るのか?

心理学の二要因理論では、配慮は不満を防ぐ衛生要因にすぎず、やりがいには動機づけ要因が必要とされる。

Q10. 障害者雇用で社内ニートになるのはなぜ?

企業が配慮を優先して業務を絞りすぎた結果、能力を活かせず仕事が与えられない状態に陥りやすい。

N

リアルタイムニュースNAVI 編集部

最新ニュースをわかりやすく、いち早くお届けします。

📚 参考文献