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高齢者39人から約7億4500万円をだまし取ったとして、不動産会社の代表ら9人が逮捕された。
使われていたのは「数万人分の高齢者名簿」。
誰が、どうやって、なぜここまでの被害を広げたのか。
この記事でわかること
何が起きたのか――住吉会系組幹部ら9人逮捕
警視庁が動いたのは2026年2月25日。
暴力団対策課が9人を詐欺容疑で逮捕した。
逮捕の概要
時事通信の報道によると、逮捕されたのは不動産会社「寿不動産」(東京都新宿区)代表取締役の石井寛一容疑者(42)と、会社役員の臼居崇容疑者(43)ら計9人。
石井容疑者は指定暴力団・住吉会系組幹部でもある。
被害額は約7億4500万円にのぼる。
被害にあったのは70〜94歳の高齢者39人で、52もの物件を買わされていた。
逮捕容疑はこうだ。
2023年5〜8月ごろ、東京都内の70代女性と埼玉県の80代男性に「不動産投資をすれば安定した家賃収入を得られる」と説明した。
約260万〜300万円で仕入れた3物件を、それぞれ約2000万円で売りつけた。
だまし取った額は計約6200万円。
9人全員の認否について、警視庁は明らかにしていない。
毎日新聞の報道では、臼居容疑者がグループの実質的なトップだった。
石井容疑者は実体のない「寿不動産」の代表として名義を貸していたにすぎないという。
だまし取った金は暴力団に流れていたとみて、警視庁が全容解明を進めている。
なぜ高齢者はだまされたのか――「お久しぶりです」から始まる5段階の罠
詐欺グループは押し売りをしたわけではない。
時間をかけて信頼を築き、高齢者を囲い込んでいた。
被害者の親族がTBS NEWS DIGの取材にこう語っている。
初対面なのに、男の第一声は「お久しぶりです」だった。
認知症を患っていた80代の女性は、会った覚えがないまま相手を信用してしまったという。
手口の5段階
①電話で探る ── 不動産会社の社員を名乗って営業電話をかけ、反応のある高齢者を選別する
②旧知を装って訪問 ── 「新入社員のころにお世話になった」「近くに来たので」と訪問。初対面でも親しげに振る舞う
③信頼を築く ── 体調や困りごとを聞き、何度も訪問して距離を縮める
④口止めする ── 「家族には言わないで」と周囲から孤立させる
⑤契約させる ── 「銀行より利益が出る」と勧誘し、老朽マンションを数倍の価格で売りつける
この流れで、被害者は「親切な人に助けてもらっている」と思い込まされる。
親族が気づいたときには契約が終わっていた。
毎日新聞の報道によると、容疑者らが使っていた名簿には「一人暮らし」「ヘルパーなし」といった情報まで記載されていた。
家族や介護者がそばにいない高齢者だけを、意図的に選んで狙っていたことになる。
被害者の親族はこうも語っている。
「本人は全く不動産を買ったという認識がないまま。本当に最後の最後まで信じていた」。
被害の実態――仕入れ130万円、販売1600万円
300万円の物件を2200万円で。
これが逮捕容疑になった取引だ。しかし、もっと極端なケースもある。
最大の価格差
毎日新聞の報道によると、容疑者らは物件を計1億3400万円で調達し、最大で仕入れ値の16.9倍の価格で販売していた。
130万円で買ったマンションを1600万円で売りつけたケースもある。
130万円のワンルームマンションとは、軽自動車1台とほぼ同じ値段だ。
それを1600万円、つまり高級車1台分の値段に化けさせて売っていた。
築30〜50年の老朽物件ばかりだったにもかかわらず。
仕入れ値
130万円
販売価格
1,600万円
被害者39人の平均年齢は84歳。
犯行期間は2022年6月から2023年10月までの約1年半にすぎない。
この短期間に52物件、7億4500万円もの被害が生まれた。
そして重い事実がある。
39人の被害者のうち、8人がすでに亡くなった。
被害を訴えることすらできないまま、命を終えた人がいる。
時事通信の報道によると、販売額は平均して仕入れ値の約5倍だった。
高齢者の資産状況に応じてだまし取る金額を変え、「取れるだけ取る」やり方を徹底していたとみられている。
家族にできること――成年後見制度という「盾」
もし自分の祖父母が狙われたら、どうすれば防げるのか。
TBS NEWS DIGの取材で、高齢者の詐欺被害にくわしい坂井崇徳弁護士がひとつの対策を挙げている。
それが成年後見制度だ。
成年後見制度とは
判断能力が低下した本人に代わり、家庭裁判所が選んだ後見人が財産を管理する仕組み。
後見人がついていれば、本人が結んだ不当な契約を取り消せる。
坂井弁護士は「財産管理があやしくなってきたら、成年後見制度を使うことも検討してほしい」と話す。
後見人は、いわば「財産の番人」だ。
たとえ本人がだまされて契約書にサインしても、後見人が「取り消します」と言えば無効にできる。
ただし、この制度は本人や家族が申し立てなければ使えない。
今回の事件では「家族には言わないで」と口止めされ、家族が気づけなかったケースもあった。
制度があっても、孤立させられた高齢者にはたどり着かない。
離れて暮らす家族は日頃から連絡を取っておくことが大切だ。
不審な訪問や買い物がないか、さりげなく聞ける関係が最初の防波堤になる。
この事件が映し出すもの――「数万人の名簿」が流通する社会
ここまで手口や対策を見てきた。
しかし、ひとつの問いが残る。そもそもなぜ数万人分の高齢者の名簿が、詐欺グループの手に渡るのか。
毎日新聞の報道によると、名簿には氏名、住所、電話番号に加え、「一人暮らし」「ヘルパーなし」という情報まで載っていた。
不正に入手されたとみられている。
⚠️ ここからは推測です
こうした名簿は、過去の通販購入履歴や健康食品のサンプル請求などから流出したものが、闇市場で売買されているとの指摘がある。
一度流出した個人情報は回収できず、複数の詐欺グループに転売され続ける。
今回の事件は「寿不動産」というひとつのグループの摘発にすぎない。
同じ名簿を使った別の詐欺が、すでに動いていてもおかしくはない。
個人や家族が気をつけるだけでは、限界がある。
名簿の流通そのものを断たなければ、次の「寿不動産」が現れるだけだ。
この事件は、1社の詐欺にとどまらない。
高齢者の個人情報が大量に売買される構造そのものが問われている。
まとめ
| 逮捕 | 寿不動産の石井寛一容疑者、臼居崇容疑者ら9人。詐欺容疑 |
| 被害 | 高齢者39人から約7億4500万円。物件52件 |
| 手口 | 高齢者名簿で独居者を選別し、旧知を装って接近。老朽物件を最大16.9倍で販売 |
| 背景 | 住吉会系暴力団への資金流入の疑い |
| 対策 | 成年後見制度の活用、家族との日常的な連絡 |
自分の家族や周囲の高齢者に、不審な電話や訪問がないか。
この記事を読んだあなたが一声かけることが、被害を防ぐ最初の一歩になる。
よくある質問(FAQ)
Q1. 寿不動産の事件で逮捕されたのは誰?
代表取締役の石井寛一容疑者(42)と会社役員の臼居崇容疑者(43)ら計9人。石井容疑者は住吉会系組幹部。
Q2. 被害額はいくら?
高齢者39人から計約7億4500万円。物件52件を平均で仕入れ値の約5倍で販売していた。
Q3. どんな手口で高齢者をだましていた?
高齢者名簿で独居者を選び、旧知を装って訪問。信頼を築いた後、老朽マンションを数倍の高値で売りつけた。
Q4. なぜ高齢者はだまされた?
初対面で「お久しぶりです」と切り出し、何度も訪問して信頼関係を構築。認知症の被害者もいた。
Q5. 高齢者の不動産詐欺を防ぐにはどうすればいい?
成年後見制度の活用が有効。後見人がつけば不当な契約を取り消せる。家族との日常的な連絡も重要。
Q6. だまし取った金はどこに流れた?
警視庁は暴力団に資金が流れていたとみて全容解明を進めている。
Q7. 成年後見制度とは何?
判断能力が低下した本人に代わり、裁判所が選んだ後見人が財産を管理する制度。不当な契約の取消権がある。
Q8. 被害者の年齢層は?
事件当時70〜94歳で平均84歳。39人のうち8人がすでに亡くなっている。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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📚 参考文献
- TBS NEWS DIG「39人の高齢者から約7億5000万円を詐取か…高齢者狙った不動産詐欺で社長の男ら9人逮捕」(2026年2月25日)
- 日テレNEWS「仕入れ値の約7倍…高齢者にマンション価値を誤信させ販売か 不動産会社の社長ら9人逮捕」(2026年2月25日)
- 時事通信「詐欺容疑で不動産会社代表ら9人逮捕 高値で物件売り付け」(2026年2月25日)
- 毎日新聞「『ヘルパーなし』『独居』高齢者情報共有か 高額マンション販売詐欺」(2026年2月25日)