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衆院選で出回った偽情報を、触れた人の8割が事実と信じていた。
しかも最初にその情報を見たのは、SNSではなくテレビだった人が最も多い。
何が出回り、なぜ信じられ、どうすれば防げるのか。
この記事でわかること
衆院選のフェイク情報、2人に1人が触れて8割が信じた
東洋大学の小笠原盛浩教授(情報社会学)が投票日直後に約1800人へ行った調査で、有権者の51.4%が少なくとも1件の偽情報に触れていた。
触れた情報のうち79.9%が「事実」だと誤認されていた。
2人に1人が何らかの偽情報と接触し、そのうち8割近くが騙されていた。
時事通信の報道がこの数字を伝えると、大きな反響を呼んだ。
調査の対象は、選挙期間中に出回り報道機関が「誤り」と判定した5件の偽情報だ。
朝日新聞の報道によれば、調査は2月8日の投票締め切り直後から10日にかけて行われた。
18歳〜79歳の有権者が対象で、1793人から回答を得ている。
5件の中身と、それぞれの「信じた率」
最も多くの人が目にしたのは「マンション高騰は外国人の投機買いが原因」という情報だ。
回答者の44.4%がこの話に触れ、そのうち89.6%が事実だと信じた。
10人中9人が騙されていた計算になる。
| 偽情報の内容 | 触れた割合 | 信じた割合 |
|---|---|---|
| マンション高騰は外国人の投機買い | 44.4% | 89.6% |
| こども家庭庁廃止で減税財源をまかなえる | 15.6% | 72.8% |
| 中道共同代表が問題発言をした(捏造) | 10.7% | 72.9% |
| 中道の演説動画はAIで生成された | 11.8% | 67.0% |
| 高市首相の聴衆写真は渋谷の映像 | 5.9% | 65.1% |
生活に身近で怒りを刺激する情報ほど誤認率が高い。
マンションの話は住宅価格への不満と結びつきやすく、「外国人のせい」という分かりやすい原因に飛びつきやすい構造がある。
「静かな誤認」——信じても広めない人が大半だった
ここで注目したいのは拡散率だ。
偽情報に触れた後、SNSや家族との会話で広めた人はわずか6.5%にとどまった。
「静かな誤認」という本当の問題
8割が信じたのに、広めたのは15人に1人だけ。
偽情報は「バズって拡散する」だけではない。
声を上げず、静かに事実として記憶に残り続ける。
この「静かな誤認」こそ、今回の調査が浮かび上がらせた最大の問題だろう。
LINEヤフーが別に行った調査でも、40%が選挙中に偽情報を見聞きしたと答えている。
さらに77%が「啓発や情報提供は不十分」と感じていた。
問題の深刻さは、複数の調査で裏づけられている。
では、これらの偽情報はどこから届いたのか。
その経路に、意外な事実が隠れていた。
フェイク情報の最大の入口はSNSではなく「テレビ」だった
偽情報を最初に見聞きした媒体はテレビ(32.7%)が最多だった。
ニュースサイト・アプリ(22.7%)が続き、SNS(20.0%)は3位にとどまった。
偽情報の温床はSNS——多くの人がそう思っているだろう。
XやTikTokで広まるデマを、テレビが正してくれるという安心感を持つ人もいるはずだ。
ところが今回の調査は、その前提を根底から覆した。
SNSが最多
…ではなかった
テレビが最多
32.7%
テレビ経由の誤認率は全媒体で最も高い
媒体別の誤認率を見ると、構造はさらにはっきりする。
| 最初に触れた媒体 | 信じた割合 |
|---|---|
| テレビ | 84.9% |
| 友人・家族との会話 | 82.4% |
| ニュースサイト・アプリ | 80.3% |
テレビ経由の誤認率は84.9%。
全媒体の中で最も高い。
友人や家族から聞いた場合(82.4%)よりも上回っている。
なぜこうなるのか。
小笠原教授は時事通信の取材に対し「短い選挙期間に大量の偽情報が拡散しており、テレビなどの検証報道が対応しきれなかったのではないか」と述べている。
ファクトチェック報道が逆に誤認を助けた皮肉
ここに皮肉な構造がある。
テレビが偽情報を「これは誤りです」と検証して放送する。
視聴者はその内容を見る。
しかし番組の趣旨が正確に伝わらず、偽情報の中身だけが記憶に残ってしまう。
朝日新聞の報道も「デマへの注意を呼びかける番組内容が視聴者に正確に伝わらなかったケースなどが考えられる」と指摘している。
⚠️ ここからは推測を含みます
認知心理学では、同じ情報に繰り返し触れるほど「事実だ」と感じやすくなる現象が知られている。
真実性の錯覚効果と呼ばれるものだ。
テレビのニュース番組は同じ話題を朝・昼・夜と繰り返し伝えるため、この効果を意図せず増幅させた面があるのではないだろうか。
「テレビで見た」という信頼感と、繰り返し接触による刷り込みが重なり、偽情報が事実として定着しやすい環境が生まれていた——そう見るのが自然だろう。
テレビだろうとSNSだろうと、なぜ人はこれほど偽情報を信じてしまうのか。
そこには媒体の問題だけでは説明できない構造変化がある。
参院選の2倍以上——偽情報が「効きやすくなった」3つの変化
2025年参院選では偽情報の誤認率は約35%だった(読売新聞報道の見出しに基づく数値で、本文は未確認のため慎重に扱う)。
それがわずか半年で79.9%へ跳ね上がった。
この急激な悪化には、3つの構造変化が重なっている。
変化①:戦後最短の選挙戦でファクトチェックが半減した
今回の衆院選は解散から投票まで16日、公示から投票までわずか12日だった。
日本ファクトチェックセンター(JFC)の分析によると、今回集まったファクトチェック記事は96本。
2025年参院選ではFIJ(ファクトチェック・イニシアティブ)が236本を収集しており、半分以下に急減した。
検証体制のギャップ
偽情報は増えた。しかし検証する側の体制は縮んだ。
このギャップが、79.9%という数字の背景にある。
変化②:AIが作った偽動画が急増し「何も信じられない」状態が生まれた
JFCの検証記事によれば、今回の衆院選でディープフェイクに関する検証記事は16本にのぼった。
2025年参院選ではほぼゼロだった分野だ。
生成AIの進化で、政治家の顔をすげ替えた偽動画や、政見放送を改ざんした映像が次々と出回った。
ここで注目すべきは、偽情報の方向が逆転したケースだ。
中道改革連合の街頭演説に集まった聴衆の動画が「AIで生成されたものだ」とSNSで拡散された。
しかしJFCが検証したところ、別の角度から撮影された映像が複数見つかり、実際の映像だと判定された。
本物の映像が偽物と疑われる。
この現象をJFCは嘘つきの分け前(Liar's dividend)と呼んでいる。
偽情報が多すぎると、本物の情報まで信用されなくなる。
得をするのは嘘をばらまいた側だ。
⚠️ 本物まで疑われる悪循環
「中道の演説動画はAI生成だ」を見聞きした人のうち67.0%が事実と信じていた。
実際にはこの情報こそが誤りだった。
偽物が増えた結果、本物まで疑われるという悪循環が起きている。
変化③:外国からの介入が具体的に確認された
2月25日、米OpenAIが報告書を公開した。
中国当局と関わりのある人物が、高市早苗首相の評判を落とす計画をチャットGPTに求めていたという内容だ。
チャットGPT側は不適切な指示への協力を拒否し、OpenAIはこの人物のアカウントを停止した。
しかし別経路で計画が実行された形跡もあり、選挙への外国介入が「疑惑」から「証拠つきの事実」へと移りつつある。
JFCの集計では、衆院選後に拡散した「不正選挙」を示唆する投稿は参院選比で約3倍に増えた。
偽情報が疑心暗鬼を生み、疑心暗鬼がさらなる偽情報を呼ぶ。
この負の連鎖が加速している。
では、この環境の中で個人に何ができるのか。
専門家が勧める防御策は、意外なほど単純だった。
専門家の提言「感情が動いたら、立ち止まれ」
すべての情報をファクトチェックするのは無理だ。
小笠原教授は「感情が揺り動かされる情報は、あえて真偽を判断しないことも大切だ」と語る。
fptrendy.comの記事の中で、教授は「何が事実で、何がうそか非常にわかりづらくなっている」とも述べている。
たった1つの習慣
感情が動いたら、立ち止まる。
怒りや恐怖を感じたとき、すぐにシェアするのをやめる。
これだけでも、誤情報の連鎖は止まる。
「全部を検証しなくていい」という言葉は一見消極的に聞こえる。
しかし検証が追いつかない時代において、これは合理的な戦略だ。
手洗いが感染症を防ぐように、「感情で動かない」という習慣が偽情報から自分を守る。
情報の確認で押さえたい3つのポイント
もう一歩踏み込みたい人のために、研究者たちが挙げる確認のコツがある。
❶ 情報の出どころを確認する
官公庁の資料や候補者の公式発表など、一次情報に近いものをたどる。
❷ 画像・動画は「日時・場所・出どころ」の3点を見る
切り抜きや別の日の映像が転用されていることが多い。
❸ 打ち消し報道にも注意する
「○○は誤りだった」という報道の見出しだけ見ると、逆に誤った印象が残ることがある。
制度面の対応はどこまで進んでいるか
松本デジタル大臣は2月24日、SNS上の偽情報で選挙結果が左右されることはあってはならないとして、対策の検討が必要だという認識を示した。
| 国・地域 | 主な対策 |
|---|---|
| 日本 | SNS事業者への要請、情プラ法(権利侵害中心) |
| 韓国 | 選挙日90日前からディープフェイク使用の選挙運動を禁止 |
| EU | デジタルサービス法で透明性確保・リスク評価を義務化 |
韓国やEUと比べると、日本の制度的対応は偽情報そのものを直接取り締まる仕組みを持たない。
個人の努力だけでは限界があるのも事実だろう。
しかしまず自分にできることから始めるしかない。
怒りを感じたら、一呼吸おく。
出どころを確かめる。
「テレビで見たから本当だろう」という思い込みを手放す。
その小さな習慣の積み重ねが、一票の判断を守ることにつながる。
まとめ
- 衆院選で出回った偽情報を、触れた人の79.9%が事実だと信じていた
- 偽情報の最初の入口はテレビが最多(32.7%)で、SNS(20.0%)を上回った
- 参院選の誤認率(約35%)から半年で倍増以上。ディープフェイクの急増と検証体制の縮小が背景にある
- 本物の映像を偽物と疑わせる「嘘つきの分け前」現象が確認された
- 専門家の提言は明快だ。感情が動いたら、立ち止まる
JFCや各報道機関のファクトチェック記事は無料で読める。
「あの話、本当だったかな?」と気になったときの確認先として、ブックマークしておくだけでも防御力は上がる。
よくある質問(FAQ)
Q1. 衆院選で広まったフェイク情報は具体的に何ですか?
「マンション高騰は外国人の投機買い」など5件です。最も信じられたのはマンション関連で、触れた人の89.6%が事実だと信じていました。
Q2. なぜフェイク情報をテレビ経由で見た人が最も多かったのですか?
テレビがファクトチェック報道をする際、検証が追いつかず偽情報の内容だけが視聴者の記憶に残った可能性があると、小笠原教授は指摘しています。
Q3. フェイク情報を見分けるにはどうすればいいですか?
感情が動いたら立ち止まり、情報の出どころ・画像の日時と場所・打ち消し報道の3点を確認するのが有効です。
Q4. 参院選と比べてフェイク情報の問題はどれくらい悪化しましたか?
2025年参院選の誤認率は約35%でしたが、衆院選では79.9%に急増しました。
Q5. ディープフェイクは衆院選でどれくらい増えましたか?
JFCの集計でディープフェイク関連の検証記事は16本にのぼりました。2025年参院選ではほぼゼロだった分野です。
Q6. ファクトチェックはどこで確認できますか?
日本ファクトチェックセンター(JFC)や各報道機関のファクトチェック記事が無料で閲覧できます。
Q7. 選挙の偽情報を規制する法律は日本にありますか?
情報流通プラットフォーム対処法はありますが、権利侵害が中心で政策デマを直接取り締まる仕組みはまだありません。
Q8. 「嘘つきの分け前」とはどういう意味ですか?
偽情報が増えすぎて本物の情報まで疑われる現象です。衆院選では本物の演説動画が「AI生成」と疑われました。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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📚 参考文献
- nippon.com「偽情報、8割を『事実』と誤認識=情報源『テレビ』が最多―衆院選で東洋大調査」(2026年2月17日)【権威:時事通信】
- 朝日新聞(dメニュー転載)「衆院選で触れた偽情報、8割が事実だと誤認される 東洋大教授が調査」(2026年2月19日)【権威:朝日新聞】
- fptrendy.com「3人に2人が『事実』と思った 選挙フェイク情報、信じてしまう理由」(2026年2月22日)【補完】
- 日本ファクトチェックセンター(JFC)「踊りだす中道…急増したAIによる偽画像/動画」(2026年2月12日)【専門:JFC】
- 日本ファクトチェックセンター(JFC)「自民党が圧勝した衆院選、最も検証された政党も自民党」(2026年2月10日)【専門:JFC】
- LINEヤフー「選挙に関する偽・誤情報についての意識調査を実施」(2026年2月6日)【専門:LINEヤフー】
- 産経新聞「高市首相の評判落とす助言をチャットGPTに求める 米社が悪用事例公開」(2026年2月27日)【権威:産経新聞】
- 日本ファクトチェックセンター(JFC)「不正選挙を示唆する投稿が急増した衆院選」(2026年2月22日)【専門:JFC】