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衆院選「不正選挙」デマはなぜ9割が信じたのか——拡散の実態と見分け方

衆院選後にSNSで拡散した不正選挙デマの実態と見分け方を解説するアイキャッチ画像

| 読了時間:約10分

「衆院選は不正だ」——投開票から3週間たった今も、SNSにはこの主張が残り続けている。

日本ファクトチェックセンター(JFC)の調べでは、不正選挙を示唆する投稿は2025年参院選の約3倍に急増した。
だが東京大・鳥海不二夫教授のSNS分析や東洋大の1800人調査、総務省の公式見解をたどると、その実態は「根拠のないデマ」だった。

 

 

 

衆院選後にSNSで拡散した「不正選挙」デマの全体像——投票終了1時間で「懐疑」が「応援」を逆転

2月8日の衆院選投開票後、チームみらいの躍進や投票用紙読み取り機「ムサシ」を標的にした不正選挙デマがSNSで大量に拡散した。その規模は2025年参院選の約3倍にのぼる。

標的になったのは、0議席から11議席へ躍進したチームみらいだ。

「チームみらい不自然すぎます」「大躍進は不正選挙の証」。
こうした投稿がXで相次いだ。
兵庫県では候補者を1人も立てていなかったにもかかわらず比例で15万票以上を得たとして、「どこから票が入ったのか」と疑う投稿が440万回表示された


開票前から始まっていた「懐疑」の波

読売新聞の報道によると、東京大の鳥海不二夫教授(計算社会科学)は投開票日の2月8〜10日に投稿された約8万3000件のX投稿を分析した。
チームみらいに関する投稿を「懐疑」と「応援」に分類した結果、「懐疑」は2840件で「応援」1095件の2.59倍だった。

注目すべきは時間の推移だ。
8日午後8時の投票終了直後は「応援」が多かった。
ところがわずか1時間後の午後9時には「懐疑」が逆転し、以降一度も下回らなかった。

ポイント

投票終了からたった1時間で「懐疑」が「応援」を逆転。
開票結果の検証ではなく、感情的な反応が先に広がっていた。

開票作業すら終わっていない段階で「不正だ」の声が圧倒していた。
結果を検証した上での疑問ではなく、感情が先行した反応だったのではないだろうか。


拡散したのは「幅広い層」ではなかった

「不正選挙」の声は国民全体から上がったわけではない。

鳥海教授が「懐疑」投稿を拡散したアカウントのフォロー先を調べたところ、幅広い層特定の政党支持者に偏りがあった。
参政党が17.5%で最も高く、日本保守党が16.8%、れいわ新選組が10.7%と続いた。

自分が支持する党と競合する新興政党の躍進に反発した層が、デマ拡散の中心にいた構図が浮かぶ。

J-CASTニュースによると、投開票後4日間でチームみらい関連のX投稿は約9万件にのぼり、ネガティブな投稿が85%を占めた。
「#チームみらいに騙されるな」などのハッシュタグも1300件以上投稿されている。

ムサシの投票用紙読み取り分類機を「不正選挙システム」と呼ぶ投稿も再燃し、約28万回表示されたものもあった。

では、なぜこれほど多くの人がデマを「事実」と信じてしまうのか。
東洋大の調査が突きつけた数字は、想像以上に深刻だった。

 

 

 

デマに触れた10人中9人が「事実」と誤認——東洋大調査が突きつけた数字

有権者の89.4%がデマを「事実だ」と信じ込んでいた

東洋大の小笠原盛浩教授(情報社会学)は、投票日翌日から10日にかけて18〜79歳の有権者1800人を対象にネット調査を行った。
南日本新聞が報じた調査結果によると、回答者1793人のうち51.4%にあたる921人が選挙中の偽情報に触れていた。

そしてこの921人のうち823人、つまり89.4%が「その情報は事実だ」と誤認していた。
デマに触れた10人のうち、正しく見抜けたのはたった1人だけという計算になる。

衝撃の調査結果

偽情報に触れた有権者の89.4%が「事実」と誤認。
件数ベースでも誤認率は79.9%にのぼった(東洋大・小笠原教授の調査)。


偽情報の最大経路はSNSではなかった

選挙のデマといえばSNSが温床だと思っていないだろうか。

たしかにXには数万件の不正選挙投稿があふれた。
ところが時事通信が報じた同調査によると、有権者が偽情報に触れた経路で最も多かったのはテレビの32.7%だった。
ニュースサイト・アプリが22.7%で2位。SNSは20.0%で3位にとどまる。

さらに誤認率もテレビが84.9%と最も高い。
テレビで見た情報には「報道機関が伝えているのだから正しいだろう」という信頼が上乗せされているのだろう。

接触経路 接触割合 誤認率
テレビ 32.7% 84.9%
ニュースサイト 22.7% 80.3%
SNS 20.0% 70%台
友人・家族 82.4%

小笠原教授は「短い選挙期間に大量の偽情報が拡散しており、テレビなどの検証報道が対応しきれなかったのではないか」と分析している。

 

 

 

繰り返し目にすると「本当」に見える心理

なぜ人はデマを信じてしまうのか。
認知心理学では「真実性の錯覚効果しんじつせいのさっかくこうか」と呼ばれる現象が知られている。
同じ情報を何度も目にすると、「見覚えがある=正しい情報だ」と脳が誤認してしまう仕組みだ。

SNSのアルゴリズムがこの効果を加速させる。
自分の関心に合った投稿ばかりが表示される「フィルターバブル情報の泡」の中にいると、同じ主張に繰り返し触れやすくなる。
チームみらい自身もJ-CASTの取材に対し「SNSのフィルターバブルにより、偏った情報に触れる傾向がある」と指摘している。

テレビで見て、SNSでも見て、知人との会話でも耳にする。
こうして複数の経路から同じデマに触れるうちに、「みんなが言っているなら本当だろう」と信じてしまう。
偽情報がこれほど広く信じられた背景には、こうした心理の連鎖がある。

では肝心の開票作業は、本当に不正が入り込むすきがあるのか。
標的にされた「ムサシ」の実態を確かめてみよう。

 

 

 

「ムサシの機械で票を操作」は本当か——開票現場の5段階チェック

ムサシの機器は票の「読み取りと分類」しか行わない。最終確認は人の目と立会人の監視で行われている。

選挙のたびにSNSで名前が挙がる株式会社ムサシ
投票用紙に書かれた文字を読み取り、候補者ごとに仕分ける装置を手がけている。
全国約1200の自治体に3000台が導入されている。

読売新聞の報道によると、ムサシの担当者は「半世紀以上前から選挙業務に関わっている。正確な作業を支援するための機器で不正はない」と回答した。

総務省の公式見解

「立会人がいて、機械が分類した票を人間の目で確認している。不正は起こりえない」——総務省選挙部管理課


開票作業は5段階の多重チェックで守られている

実際の開票作業はどう進むのか。
読売新聞の報道と公明党サイトの解説をもとに整理する。

①空箱確認
投票箱を開封する前に、立会人の前で中身が空であることを全員で確認する。


②機械による分類
ムサシの読み取り分類機が文字を識別し、候補者ごとに仕分ける。


③職員の目視確認
複数の職員が分類結果を目で確認し、誤読がないかチェックする。


④立会人の監視
候補者や政党が届け出た3〜10人の立会人が全工程を監視。不審な点があればその場で異議を申し立てられる。


⑤最終確認・封印
票の束を封印し、記録を残す。

機械は「補助」にすぎない。
最終判断は必ず人間の目で行われ、複数の立場の人が同時に監視している。

 

 

 

「ムサシは与党に有利」——では2009年はどうだったのか

ムサシ陰謀論には致命的な矛盾がある。

ニフティニュースが指摘するとおり、ムサシは与党に有利な機械2009年に民主党が政権交代した選挙でも同じ機器が使われていた
「与党に有利に操作する機械」が、なぜ野党の圧勝を許したのか。
この一点だけで陰謀論は論理的に破綻する。

さらに興味深いのは、「ムサシでれいわの票が奪われた」と主張するれいわ支持層の存在だ。
しかし当のれいわ新選組に所属する出雲市議の長島和孝氏は、自ら開票立会人を務めた上で「不正選挙はあり得ません」とXで断言している。

チームみらいの兵庫県での比例得票率は6.36%。
読売新聞などが投開票日に行った出口調査では、比例の投票先にチームみらいを挙げた人は7%だった。
ほぼ一致しており、得票に不自然な点は見当たらない。

ただし、選挙事務のミスが「ゼロ」かといえば、そうではない。
まさに3月2日、ある事件が明るみに出た。

 

 

 

「本物の不正」と「デマ」の決定的な違い——大田区選管の書類送検が示す教訓

3月2日、大田区の選管職員4人が書類送検された。だがこの事件とSNSで拡散する「大規模な不正選挙」デマは、まったく性質が異なる。

2025年7月の参院選で投票者総数と投票総数にずれが生じた際、帳尻を合わせるために無効票を水増ししたとされる公職選挙法こうしょくせんきょほう違反の容疑だ。
複数の報道によれば、候補者の票数や当落に影響はなかった

「やはり不正選挙はある」と感じた人もいるだろう。
だが、この事件とSNSで拡散するデマが描く「不正」は、まったく性質が違う。


4つの軸で見る「本物の不正」と「デマの不正」

比較軸 大田区の不正 デマが主張する不正
規模 1つの開票所 全国規模の組織的操作
動機 集計ミスの隠蔽 特定政党を勝たせる陰謀
証拠 捜査で立証・書類送検 具体的証拠なし
当落への影響 なし ひっくり返すと主張

大田区の事件は、職員がミスを隠すために数字を操作した人為的な不正だ。
対してSNSで広がるデマは「全国の開票所でムサシが票を書き換えている」「特定政党に票が横流しされている」といった、証拠のない大規模陰謀を主張している。

見方を変えると

不正が発覚し処罰される事実こそ、制度が機能している証拠だ
チェック機能が壊れていれば、そもそも不正は明るみに出ない。

兵庫県西宮市でも衆院選で、開票数が投票者総数を118票上回るトラブルがあった。
読売新聞によれば原因は職員の集計ミスで、不正ではなかった。
ミスは起きる。だがミスが発覚し、調査され、是正されること自体が制度の健全さを示している。


デマを見分けるための3つの問い

選挙制度に詳しい選挙制度実務研究会の小島勇人理事長は、読売新聞の取材で次のように警鐘を鳴らす。

「支持しない政党の躍進に対し、政策の議論ではなく、根拠のない誤情報で不当におとしめることはあってはならない」

次の選挙でも、不正選挙のデマはほぼ確実に広がるだろう。
SNSで選挙に関する情報を見かけたとき、3つの問いを自分にぶつけてほしい。

❶ 根拠は何か
「おかしい」「不自然だ」という感想ではなく、具体的なデータや証拠が示されているか。


❷ 発信者は誰か
選挙管理委員会や報道機関、ファクトチェック団体の情報と一致しているか。


❸ 感情で拡散していないか
怒りや不安で反射的にリポストしようとしていないか。

デマに触れた10人中9人が事実と信じた。
この数字が示すのは、「自分だけは騙されない」という思い込みこそが最大のリスクだということだ。

 

 

 

まとめ

  • 不正選挙を示唆するSNS投稿は2025年参院選の約3倍に急増し、チームみらいとムサシが主な標的になった
  • 東洋大の1800人調査では、偽情報に触れた有権者の89.4%が事実と誤認。接触経路の最多はテレビだった
  • 開票作業は5段階の多重チェックで守られており、総務省は「不正は起こりえない」と明言
  • 大田区選管の書類送検は「本物の不正」だが、規模も性質もデマが描く「陰謀」とはまったく異なる
  • 不正が発覚し処罰されること自体が、制度のチェック機能が働いている証拠

選挙の信頼を守るのは、制度だけではない。
情報を受け取る一人ひとりが「根拠はあるか」「発信者は誰か」と立ち止まれるかどうかにかかっている。

よくある質問(FAQ)

Q1. チームみらいの11議席は不正選挙の結果ですか?

兵庫県での比例得票率6.36%は出口調査の7%とほぼ一致しており、不自然な点は確認されていない。

Q2. ムサシの投票用紙読み取り機で票を操作できますか?

ムサシの機器は読み取りと分類のみ。最終確認は職員の目視と立会人の監視で行われ、総務省は「不正は起こりえない」としている。

Q3. なぜ選挙のたびに不正選挙のデマが広がるのですか?

支持政党が負けた不満にフィルターバブルが重なり、同じ主張に繰り返し触れることで「本当だ」と信じやすくなるため。

Q4. 偽情報に触れた人のうち何割が事実と誤認しましたか?

東洋大・小笠原教授の1800人調査で、偽情報に接触した有権者の89.4%が事実と誤認していた。

Q5. 大田区の選管不正は不正選挙デマの裏付けになりますか?

大田区の事件はミスの帳尻合わせで当落に影響なし。SNSで拡散する全国規模の組織的陰謀とは性質がまったく異なる。

Q6. 選挙デマを見分ける方法はありますか?

「根拠は何か」「発信者は誰か」「感情で拡散していないか」の3つを自分に問いかけることが有効。

Q7. 不正選挙デマを拡散しているのはどんな層ですか?

鳥海教授の分析では、懐疑投稿の拡散者のフォロー先は参政党17.5%、日本保守党16.8%、れいわ10.7%と特定層に偏りがあった。

Q8. 次の選挙でもデマは広がりますか?

ムサシ陰謀論は2012年から繰り返し発生しており、次回以降も再燃するだろう。情報の見極めが重要になる。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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