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住宅街を歩いていたら、クマに噛まれた。
治療費300万円は、自分持ちだった。
2021年6月18日、北海道・札幌市東区の普通の住宅街。
通勤中の男性がヒグマに背後から突然襲われ、肋骨6本が折れ、全身に140針を縫う大けがを負った。
5年が経っても痛みは消えない。
そして、国からも自治体からも、1円の補償も出ていない。
クマを撃った銃弾で建物が壊れたら自治体が補償する。
しかしクマに噛まれた人間の治療費は、誰も補償しない——そんな「逆転した法律の穴」が、現実に存在する。
この記事でわかること

143年ぶりの住宅街クマ、その朝に何が起きたか
山のない住宅街の、出勤中の朝7時に、ヒグマは来た。
2021年6月18日の朝。
札幌市東区に住む 安藤伸一郎 さんは、いつもの通勤路を歩いていた。
突然、背後から衝撃が走った。
「最初は車か何かが突っ込んできたのかと思うくらいの勢いでした」と、安藤さんは後に語っている。
倒されてカバンを揺らされ、噛まれた後に初めて「クマだ」とわかった。
その個体は体長 161 cm、体重 158 kg(成人男性のおよそ 2.4 人分)のオスだった。
未明から 5 時間近く住宅街をさまよい、安藤さんを含む男女 4 人を次々と襲って重軽傷を負わせた後、猟友会のハンターに駆除された。
北海道大学大学院獣医学研究科 野生動物学教室 によると、東区で人がヒグマに襲われたのは 1878 年(明治 11 年)以来 143年ぶり のことだった。
「東区にクマはありえない」という先入観が、被害の拡大を招いた可能性も指摘されている。
なぜ山のない住宅街にヒグマが来られたのか。
専門家は、繁殖期(交尾期)のオスが行動圏を広げ、河川や防風林を伝いながら市街地に迷い込んだ可能性がある、という見方を示している。
ただし当時の個体が「たまたま進みたい方向にいる人を襲った」という説も出ており、通常の「人慣れ」とは異なる行動だったとされる。
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では、4人を傷つけた被害の、その後はどうなったのか。
肋骨6本折れ、5年後も痛みが消えない
「労災が認められた以外の治療費は自己負担。
誰が襲われても補償はないそうです」
安藤伸一郎さん(事故から2年後の取材にて)
安藤さんが負った傷は深刻だった。
一撃で肋骨 6 本を骨折し、右肺に穴が開く「肺気胸(はいきはい気胸)」(肺に穴が開いて空気が漏れる状態)になった。
背中に 80 針、両腕・両足に 60 針、合計 140 針を縫う大けがで、ICU(集中治療室)に 10 日間入院した。
退院後もリハビリが続き、職場に復帰できるまでに 7 か月かかった。
事故から 5 年が経った今も、後遺症は消えていない。
STVニュース北海道(Yahoo!ニュース配信) によると、安藤さんは毎日 3 回、強い鎮痛剤を飲み続けている。
痛みが完全に消えることはないという。
担当医の 禎心会病院・表圭一副院長 は「この神経の障害自体は戻るということはない。
治療を自費でやれということはもう無理なので、やはり保険というのは必要だ」と語っている。
治療費はこの 5 年間で約 300 万円にのぼった。
これを 60 か月(5年分)で割ると、 月5万円のペースで出費が続いてきた 計算になる。
一般的な月収の1割前後が、5年間まるごと治療費に消えていったイメージだ。
治療費の実感換算
約300万円 ÷ 60か月(5年間)= 月あたり約5万円
痛みが消えない後遺症とともに、この出費が今も続いている
Smart FLASH によると、安藤さんへの見舞金は 札幌市から出ていない 。
通勤中の事故だったため労災(通勤災害)として一部が認定されたが、それ以外の費用は全て自己負担だ。
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なぜ、住宅街で何もしていないのに襲われた人が、1円も補償されないのか。
クマに噛まれても「誰も補償しない」法律の穴
クマの駆除で流れ弾が建物に当たったら自治体が補償する。
しかしクマに噛まれた人間の治療費は—— 誰も補償しない 。
「ヒグマに襲われたなら、行政がなんとかしてくれるはず」 ——しかしその前提は、現行法では成り立っていない。
野生動物に法律上の「持ち主」はいない。
民法上、ヒグマは誰にも属さない 「無主物(むしゅぶつ)」 (持ち主のない物)だ。
加害者がいなければ損害賠償を請求する相手もいない。
国や自治体に「管理が悪かった」として賠償を求める国家賠償法という制度もあるが、「行政が何もしなかったことが違法だ」と立証するのは法的に極めて難しいとされている。
参議院の調査資料 でも、ヒグマ被害者への損害補償について「損失補償の在り方については検討課題」と記しており、現時点では制度が整っていないことを認めている。
無主物(むしゅぶつ)とは
誰の所有物でもない物のこと。
民法上、野生動物はこれにあたる。
クマに噛まれても「クマの持ち主に損害賠償を請求する」ことが法律的にできないため、被害者は自己負担を余儀なくされる。
2025年9月、 鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律 (野生動物の保護と管理を定めた法律、通称「鳥獣保護管理法」)が改正された。
これにより、市町村長の判断でクマなどを市街地でも銃器で駆除できる「 緊急銃猟(きんきゅうじゅうりょう) 」という制度が新たに始まった。
この駆除の際に流れ弾で建物が壊れた場合は、 自治体が補償する 仕組みも盛り込まれた。
自治体が補償する(2025年法改正で整備済み)
公的な補償制度なし(法改正後も未整備)
被害者への補償は今回の改正の対象外だった。
クマを管理するコストは行政が引き受けたが、クマに噛まれた人間の回復コストは 「誰にも属さない費用」のまま になっているのではないか。
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クマを撃った銃弾で窓ガラスが割れたら市役所が払ってくれるのに、クマに噛まれた人間の治療費は誰も払わない——これが今の日本の法律の穴だ。
「クマを保護する生き物を管理する費用」と「その生き物に傷つけられた人間が回る費用」が、法律の中で全く別の扱いをされているのではないか、という見方ができる。
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そもそも、なぜこれだけ市街地にクマが来るようになったのか。
ヒグマはなぜ住宅街に来るのか、これからも来るのか
北海道のヒグマは、この 30 年で推定生息数がおよそ 2 倍に増えた。
しかし被害者への補償制度は、 2021年から一歩も変わっていない 。
環境省の資料によると、令和2年(2020年)時点での北海道のヒグマ推定生息数は約 11,700 頭にのぼる。
北海道庁のヒグマ対策室 が認めるように「近年、市街地に出没するヒグマが増加している」のは事実だ。
背景には、戦後から続いた「保護政策」がある。
かつてクマは毛皮や食料として大量に捕獲され、個体数が大きく減少した時代があった。
そのため国は長年、クマを保護する方向で政策を組んできた。
その結果、ヒグマは数を回復させ、生息域を広げていった。
2024 年になってようやく、国はクマ類を「 指定管理鳥獣 」(個体数の積極管理が必要な動物)に指定し、 「保護から管理へ」 と政策の方向を転換した。
ヒグマを大量捕獲した反省から「保護」重視の政策が続く。
個体数が回復・増加へ
札幌市東区の住宅街でヒグマが男女4人を襲撃。
143年ぶりの市街地被害。
被害者への補償ゼロ
全国のクマ類による人身被害が219人・死者6人と過去最多を記録
クマ類を「指定管理鳥獣」に指定。
「保護から管理へ」方針が変わる
緊急銃猟が解禁。
駆除時の物損補償は整備されたが、被害者個人への補償は依然なし
しかし個体数増加と生活圏への拡大が続く中、今後も市街地への出没は減らないだろう。
2023年度の全国のクマ類による人身被害は 219 人・死者 6 人と、統計を取り始めた2006年度以降で過去最多を記録した。
これは週あたり 4 人以上がクマに襲われた計算になる。
2025年度はさらに悪化し、死者数・被害者数ともに過去最悪を更新したとされている。
では、もし今の制度のまま自分がクマに遭遇したら、何ができるのか。
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今すぐ確認すべき「もしも」への備え
クマに備えた公的な保険はない。
でも「 自分がすでに入っている保険 」が使える場合がある。
最初に確認すべきは、 労災 (労働者災害補償保険)の対象になるかどうかだ。
安藤さんのように通勤中に被害に遭った場合は「 通勤災害 」として認定を受けられる可能性がある。
ただし安藤さんのケースが示すように、労災でカバーされる部分には限界があり、 残りの治療費は自己負担になりうる 。
ℹ 状況別・使える制度の目安
- 通勤中に被害 :労災(通勤災害)が一部適用される可能性あり
- 休日・旅行中に被害 :民間の傷害保険・医療保険が頼り(加入内容による)
- 公的な被害者補償制度 :現時点で存在しない
次に確認すべきは、民間の傷害保険や医療保険だ。
多くの保険会社は野生動物による被害を「不慮の事故」として補償対象に含めている場合がある。
ただし加入している保険の内容によって適用可否は異なるため、自分の保険証券を確認してみることをおすすめしたい。
北海道へ旅行に行く予定がある人や、アウトドア活動をよくする人は、今のうちに保険の見直しを検討する価値がある。
農林水産省の鳥獣被害対策コーナー が示すように、国の政策は「捕獲・駆除の強化」に向かっている。
しかし被害を受けた後の「自分の身を守るセーフティネット」は、今のところ個人で用意するしかない状況だ。
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まとめ
- 2021年6月18日、札幌市東区の住宅街で安藤伸一郎さんがヒグマに襲われ、肋骨6本骨折・140針縫合の重傷を負った。東区でのヒグマ被害は143年ぶりだった
- 治療費は5年間で約300万円にのぼったが、労災認定外の費用は全額自己負担。札幌市からの見舞金もない
- 2025年9月の法改正で市街地での緊急銃猟(クマを速やかに駆除できる制度)が始まり、駆除時の物損補償は自治体が担うことになった。しかし被害者個人への治療費補償は「検討課題」のままで、法改正後も整備されていない
- 北海道のヒグマ推定生息数は約11,700頭で増加傾向にあり、市街地出没は今後も続く可能性がある
- クマ被害への公的補償制度がない現状では、通勤中なら労災、それ以外は民間の傷害保険・医療保険が頼りになる。今すぐ保険証券の確認を
「クマを管理する費用」だけが行政負担になり、「クマに傷つけられた人間の費用」は個人負担のまま——この非対称な構図が変わらない限り、次の被害者も同じ問いを抱えることになる。
よくある質問(FAQ)
Q1. ヒグマに襲われた場合、治療費は誰が払うのですか?
現行法では、野生動物被害への公的補償制度は存在しない。
通勤中であれば労災(通勤災害)として一部が認定される場合があるが、それ以外の治療費は基本的に自己負担になる。
Q2. ヒグマに噛まれても国や自治体から補償金は出ないのですか?
出ない。
野生動物は法律上「誰の所有物でもない」ため、損害賠償を請求できる相手がいない。
参議院の調査資料も「損失補償の在り方は検討課題」と記しており、制度は未整備のままだ。
Q3. 2025年の鳥獣保護管理法改正でクマ被害の補償は変わりましたか?
駆除の際に流れ弾で建物が壊れた場合の物損補償は自治体が担うことになった。
しかし被害者個人への治療費補償は今回の改正の対象外で、2026年時点でも制度は整備されていない。
Q4. ヒグマ被害に使える保険はありますか?
公的な専用保険はない。
ただし民間の傷害保険や医療保険が「不慮の事故」として適用される場合がある。
加入内容によって異なるため、自分の保険証券を確認することが重要だ。
Q5. なぜ札幌市の住宅街にヒグマが来たのですか?
専門家によると、繁殖期のオスグマが行動圏を広げ、河川や防風林を伝って市街地に迷い込んだ可能性がある。
北海道のヒグマ推定生息数は約11,700頭(2020年時点)で増加傾向にある。
Q6. ヒグマに襲われたら労災は使えますか?
通勤中の事故であれば「通勤災害」として労災保険が使える可能性がある。
2021年の事故の被害者も一部は労災認定を受けたが、労災でカバーされない治療費は自己負担だった。
Q7. 今後も市街地へのヒグマ出没は増えるのですか?
北海道のヒグマ生息数は過去30年で大幅に増加しており、今後も市街地への出没は減らないだろうという見方がある。
2023年度の全国クマ被害は219人・6人死亡と過去最多を記録した。
📚 参考文献
- STVニュース北海道(Yahoo!ニュース)「公的補償なく治療費300万円 ヒグマに襲われた男性『100針以上縫う大けが』襲撃から5年 札幌」 (2026年6月18日)
- Smart FLASH「町でヒグマに襲われた男性『一撃で右肋骨が6本折れ、右肺に穴』背中80針縫っても『治療費は自己負担、見舞金もなし』」 (2023年8月)
- 北海道新聞「東区ヒグマ襲撃(その2) 市民に警告が伝わらなかったワケ<デジタル発>」 (2022年4月14日)
- 北海道大学大学院獣医学研究科 野生動物学教室「札幌市東区で4人に重軽傷を負わせたヒグマ騒動(お知らせ)」 (2021年)
- 北海道庁「ヒグマ対策室トップページ」 (参照:2026年)
- 参議院「人の日常生活圏に出没したクマ等への対応——鳥獣保護管理法改正案をめぐる国会論議——」 (2025年7月)
- 農林水産省「鳥獣被害対策コーナー 関係規則(法律・省令・告示等)」 (参照:2026年)
- citizensassembly.jp
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リアルタイムニュースNAVI 編集部
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