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広島県の虚偽公文書なぜ64件に?調査の8割が偽造だった背景

広島県の虚偽公文書なぜ64件に?調査の8割が偽造だった背景

| 読了時間:約8分

広島県が災害復旧工事で作った公文書のうち、調査した83件の約8割にあたる64件が虚偽だった。

横田美香知事は「組織のガバナンスが十分に機能されていなかった」と謝罪し、約7300万円の国費返還が見込まれている。

だが、件数や返還額だけがこの問題の本質ではない。
2021年の内部告発は、なぜ握りつぶされたのか。

 

 

 

調査した83件の約8割が虚偽——「借地協議録(嘘)」の衝撃

2026年3月3日、広島県は災害復旧工事に関する虚偽の公文書が計64件確認されたと発表した。
調査対象83件の約8割が虚偽という異常な結果だ。

64件の内訳が示す「組織ぐるみ」

一部の職員が個人的に不正をした——そう思うかもしれない。
だが数字は別の姿を映し出す。

朝日新聞の報道によると、2026年3月3日に県の調査チームが公表した1次調査の結果はこうだ。

1次調査の結果

調査対象83件のうち64件——約8割が虚偽と確認された。
内容自体が虚偽だったもの55件、内容は事実だが協議日や協議者が虚偽だったもの9件
偽造は復旧工事が本格化した2020〜2021年度に集中していた。

偽造は1つの部署に限らない。
5つの建設事務所にまたがっていた。

建設事務所 虚偽件数
西部事務所(広島市南区) 26件
西部事務所 呉支所 24件
東部事務所 三原支所 8件
西部事務所 東広島支所 3件
西部事務所 廿日市支所 2件
北部事務所(三次市) 1件
合計 64件

西部事務所と呉支所だけで50件。
だが三原支所でも8件、北部事務所でも1件ある。

特定の支所だけの問題ではなく、県の土木部門に横断する構造的な問題だったことがわかる。

 

 

 

なぜ「偽造する必要」があったのか

ここで疑問が浮かぶ。
災害復旧という正当な工事で、なぜ嘘の書類が必要だったのか。

広島県の公式資料第三者調査報告書から仕組みを整理する。

偽造が生まれた流れ

① 2018年の西日本豪雨で広島県は甚大な被害を受けた

② 県が復旧工事を計画し、国の補助金を申請した

③ 工事の途中で内容の変更が必要になった

④ 変更を国に認めてもらうために「設計変更協議」を行い、地権者との協議録きょうぎろくを添付した

この協議録が偽造された

第三者調査報告書のヒアリングで、職員Dはこう述べている。

「協議録の内容は事実ではなく、国へ説明しやすい理由を記述したもの」

つまり、国から変更の承認を早く得るために「都合のよい記録」を作った。
地権者と話し合った事実がないのに、協議したことにしたのだ。

産経新聞の報道では、調査に携わった弁護士が2018年の西日本豪雨による業務過多と法令遵守ほうれいじゅんしゅの意識の欠如を指摘している。


朝日新聞によると「明確な決裁ルールがない」状態で、決裁者の印鑑が無断で押された疑いもあるという。
別の職員Cは「押さざるを得なかったので判をついた」と証言した。

 

 

 

「嘘」と名付けて共有していた異常

偽造がどれほど常態化していたか。
それを象徴する事実がある。

広島県の公式資料によると、偽造された協議録の中には共有ファイルサーバ上に「借地協議録(嘘)」というファイル名で保存されていたものがあった。
呉支所だけでなく、廿日市支所で2件、東広島支所で1件、計3件が「嘘」のファイル名を持っていた。

偽造の常態化を示す事実

通常、偽造文書は隠すものだ。
ところが「嘘」とファイル名に書いて、複数の職員がアクセスできるサーバに置いていた。
嘘であることを全員が知りながら、誰も止めなかった。

調査チームは「組織としてのチェック機能が働いていなかった」と指摘。
横田知事も「組織全体でのコンプライアンス法令遵守の順守ができていなかった」と認めた。

ここまでで「何が」「なぜ」は見えてきた。
だが、この問題には4年以上前から内部告発があった。なぜ組織は動かなかったのか。

 

 

 

4年放置された公益通報——人事課が握りつぶした経緯

最初に声を上げた人がいた。
2021年11月の公益通報こうえきつうほうは、約3年半にわたって事実上握りつぶされていた。

2021年の告発と、1年半後の冷淡な回答

第三者調査報告書によると、2021年11月30日、広島県庁の内部窓口に公益通報が届いた。
西部建設事務所呉支所の職員が「国庫補助災害復旧工事に係る偽造文書作成」を告発したのだ。

公益通報とは、組織の不正を内部から告発する法的な仕組みだ。
通報者は公益通報者保護法によって守られる。


通報を受けた人事課は調査を始めた。
すると2022年3月、調査員が「実際に行っていない協議録を作成した」と報告してきた。

同年7月には県が依頼した弁護士が「刑法第156条 虚偽公文書作成等きょぎこうぶんしょさくせいとうの構成要件に該当する」「コンプライアンス上の大問題」と指摘した。

人事課の内部認識

2022年9月9日、人事課は「公益通報内容は事実であると認められる」前提で対応を協議していた。
行政経営部長と総務局長にも報告された。

ここまでは筋が通っている。
不正は事実だと認められ、対応が動き始めた——はずだった。

ところが、通報者に届いた回答はこうだ。
2023年4月11日付で通知された文面は「事実認定の有無に関する特定には至ることができませんでした」

人事課の内部判断(2022年9月)

「事実と認められる」

通報者への回答(2023年4月)

「確認できなかった」

内部では事実と認めていた通報者には「確認できなかった」と突き返した。

 

 

 

なぜ「確認できなかった」ことになったのか

2022年9月と2023年4月の間に何があったのか。
第三者調査報告書のヒアリングから、ひとつの転機が見える。

2022年10月、調査員が職員Aに再ヒアリングを行った。
職員Aは最初の聞き取りでは「実際の協議録ではない」と認めていた。

ところが再ヒアリングでは態度が一変した。

「前回ヒアリングの際に『実際の協議録ではない』と答えたのは、『そうではないか』ということであり、自分が『真実ではない』ことを確認した訳ではない」

「事実でない」と述べた供述を「そう思っただけ」と翻した。
この供述変遷の後、人事課は「事実の特定ができない」という結論に至っている。


この経緯が公の目にさらされたのは、2025年4月のマスコミ報道がきっかけだった。
報道後、県は一転して偽造を認めた。

公益通報が機能しなかった構造

通報から報道発覚まで約3年半。
通報と懲戒の担当が同じ人事課だったことが、公益通報を機能不全に追い込んだ構造的な原因のひとつだろう。

では、この問題は64件の発表で区切りがついたのか。
残念ながら、話はここで終わらない。

 

 

 

まだ序章——573件の二次調査と7300万円返還の行方

64件で全体像が判明した——そう受け取るのは早い。
未調査の災害復旧事業は573件。今回の約9倍の規模で残っている。

64件の約9倍が未調査

RCC中国放送の報道によると、県は他の災害復旧事業573件についても今後、二次調査を行う。
今回の64件は1次調査の結果にすぎない。

1次調査では83件中64件が虚偽だった。
虚偽率は約8割にのぼる。

同じ割合が二次調査にもあてはまるかは分からない。
だが、数十件単位で新たな虚偽が見つかっても驚くには値しないだろう。

 

 

 

返還額7300万円の中身

共同通信の報道によると、県は3月3日付で国土交通省に報告済みだ。
64件のうち21件、約5000万円分の補助金申請に虚偽記載が影響した。

返還見込み額の内訳

補助金 約5000万円 + 加算金(利息にあたるペナルティ)約2300万円約7300万円

朝日新聞の報道によると、1次調査の弁護士費用だけで830万円かかっている。
二次調査573件の費用がどこまで膨らむかは未定だが、返還額だけでは済まない県民負担が生じるのではないか。

制度改正と百条委員会を求める声

県はすでに動き始めている。
中国新聞の報道では、2026年4月に公益通報制度を改正し、通報と懲戒の担当部署を分離する方針だとされている。

事実認定の権限も課長級から局長級に引き上げるという。

県の再発防止策

これまでなかった決裁ルールの策定、研修の見直し、公益通報制度の改正が含まれている。

一方、県議会に百条委員会ひゃくじょういいんかいの設置を求めるオンライン署名もchange.orgで進んでいる。
元県庁職員の佐藤周一氏が呼びかけ人で、証人喚問を含む強制力のある調査を求めている。

⚠️ ここからは推測

二次調査573件の結果しだいでは、虚偽の総件数は100件を超える事態になるかもしれない。
百条委員会が設置されるかどうかは県議会の判断だが、件数の増加や世論の高まりによっては無視できなくなるだろう。
懲戒処分についても、1次調査報告書が出た段階で本格的な検討が始まるとみられる。

 

 

 

まとめ

  • 広島県の災害復旧工事で、調査対象83件中64件の虚偽公文書が確認された
  • 偽造の背景には西日本豪雨後の業務過多と、決裁ルールの不在がある
  • 2021年の公益通報は人事課に約3年半握りつぶされ、2025年の報道で発覚した
  • 約7300万円の国費返還が見込まれ、573件の二次調査がこれから始まる
  • 県は4月に公益通報制度を改正し、通報と懲戒の部署を分離する方針

被災地の復旧のために投じられた税金と、不正を告発した職員の勇気。
その両方が、組織のなかで踏みにじられていた。
二次調査の結果と、関係者の処分がどう進むか。広島県のガバナンスが本当に変わるのか、注視する必要がある。

よくある質問(FAQ)

Q1. 広島県の虚偽公文書は全部で何件ですか?

2026年3月3日の1次調査で計64件が確認されました。調査対象83件の約8割にあたります。

Q2. なぜ災害復旧工事で公文書を偽造する必要があったのですか?

国の補助金の変更承認を早く得るため、地権者と協議していないのに協議したとする記録を作成しました。

Q3. 7300万円の返還額の内訳は?

不正に受け取った補助金約5000万円と、利息にあたる加算金約2300万円の合計です。

Q4. 公益通報はなぜ機能しなかったのですか?

通報と懲戒を同じ人事課が担当する構造で、2022年に事実と認めながら通報者に「確認できなかった」と回答しました。

Q5. 二次調査の対象は何件ですか?

他の災害復旧事業573件が対象です。1次調査の64件の約9倍の規模になります。

Q6. ファイル名に「嘘」と書かれていたのは本当ですか?

呉支所・廿日市支所・東広島支所の計3件で「借地協議録(嘘)」のファイル名が共有サーバ上に確認されました。

Q7. 広島県の公益通報制度はどう変わりますか?

2026年4月に改正予定で、通報と懲戒の担当部署を分離し、事実認定権者を課長級から局長級に引き上げる方針です。

Q8. 職員の懲戒処分はどうなりますか?

2026年3月時点では未定です。1次調査報告を受けて今後本格的に検討されるとみられます。

Q9. 百条委員会は設置されますか?

change.orgで設置を求める署名活動が進行中ですが、県議会の判断は未定です。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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