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政府が絶賛「日立の裁量労働制」で起きていたこと

| 読了時間:約5分

政府が「お手本」と呼ぶ会社の社内で、PCの記録を消す裏技が社内メールで流れていた。

裁量労働制(実際の残業時間に関係なく、あらかじめ決めた時間だけ働いたとみなして給与を払う制度)の「成功例」として、政府の会議に名前が挙がった 日立製作所

しかし、その現役社員がまったく別の実態を証言している。

100 時間の残業があっても、記録上はきっちり 80 時間以内に収まっていた。

「健康を守るための仕組み」が、逆に「記録を 80 時間以内に収める動機」を生み出していたのだ。

政府が絶賛「日立の裁量労働制」で起きていたこと

「月100時間残業しても記録は80時間以下」

手当分の残業時間内に仕事が終わった月はない 」——これは日立製作所の現役エンジニアが明かした言葉だ。

東京新聞デジタル (2026年6月21日付)によると、証言したのは同社の 30代のエンジニア男性社員 だ。

プロジェクトが重なって月 100 時間の残業になっても、「 80時間を超えて勤怠記録をつけることはない 」と明かした。

残業が月 80 時間を超えると幹部に報告され「大問題になる」という圧力が、社内にはあるのだという。

⚠ 月 80 時間の残業は、過労死リスクが高まるとされる「過労死ライン」と同じ水準だ。

それを超えた事実を記録できない状態が、常態化していた可能性がある。

大企業は制度をちゃんと運用しているはず——そう思いがちだが、実態は違う。

政府が「お手本」として選んだ会社の現場で、 申告時間を抑えるよう促す空気 が生まれていた。

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これはなぜなのか。

日立が政策の議論の場でどんな役割を担っているかを知ると、話が見えてくる。

政府が「見本」と呼ぶ企業の二重構造

政府の会議で「成功例」を紹介する側と、その議論に参加する側が同じ会社だとしたら。

実際にそれが起きている。
東京新聞デジタル の記事によると、 日立製作所 はWG(政府の規制改革を議論する会議体)で「 導入企業の代表例 」として内閣府の担当者から紹介された。

さらに、厚生労働相の諮問機関「 労働政策審議会 」の分科会にも、使用者側の代表として名を連ねている。

情報提供側
WGで「成功例」として紹介
審議参加側
労政審分科会に使用者代表として参加

つまり日立は、制度の広告塔でありながら、拡大をどう進めるかという議論にも関わっている。

「成功例」の情報を政府に提供している当事者が、その政策議論の場で審議権を持つ—— この構造は、情報の客観性を損なっているのではないか

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政府がなぜこの制度を急いで広げようとしているのかを知るには、もうひとつの数字を見ておく必要がある。

裁量労働制の適用率はたった1.4%なのに

全労働者の 1.4 %しか使っていない制度が、いま急いで広げられようとしている。

厚生労働省の令和7年就労条件総合調査によると、実際に裁量労働制が適用されているのは専門型で 1.1 %、企画型で 0.3 %にすぎない(合計 1.4 %)。
日本経済新聞 も同調査を引用している。

1.1 %
専門型
適用率
0.3 %
企画型
適用率
1.4 %
合計
100人中1〜2人

しかも、労働者側の要望はそれとは逆を向いている。
日本弁護士連合会 の会長声明が引用した厚生労働省の調査では、労働時間について「このままでよい」と答えた労働者は約 6 割。

「増やしたい」「やや増やしたい」は合わせて 10.5 %にとどまった。

現場の声より経済界の要望を優先して制度を広げようとしているのではないか ——そういう見方が広がっている。

そしてその「現場」では、具体的に何が起きているのか。

社内メールで流れていたという「裏技」の正体に迫ろう。


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「裏技」が社内メールで流れた本当の理由

月の残業の上限を超えそうなときに使った 」——PCを起動していないように見せる裏技が、社内メールで広まっていた。

東京新聞デジタル の記事によると、PCの設定などを変えて起動時間の管理システムを「 起動していないことにできる 」手法が社内メールで出回っていた。

男性社員は実際にそれを使ったと話している。

なぜこんな裏技が生まれたのか。

日立のWG資料によると、同社の労働時間管理はPCの起動時間を基にした自己申告制だ。

そして 月80時間を超えると、制度の適用が一定期間外れる仕組み がある。

ここに構造的な矛盾がある。

80 時間超の残業を記録すると制度適用が外れるという「労働者保護のための仕組み」が、逆に「 80時間以内に記録を収めれば制度を維持できる 」というインセンティブ(行動の動機)を生み出している可能性がある。

行動経済学に「 コブラ効果 」と呼ばれる現象がある。

インドでコブラが増えたため、コブラを捕まえると懸賞金を出すルールを作ったところ、報酬目当てにコブラを育て始める人が出て逆に数が増えたという話だ。

問題を防ぐために作ったルールが、人の行動を変えることで逆効果になる——この構造が、日立の「 80 時間ライン」にも作用しているのではないか。


コブラ効果(Cobra Effect)とは

害を防ぐために設けたルールが、当事者の行動変容を通じて逆に害を大きくしてしまう現象のこと。

行動経済学で広く知られる概念だ。

今回のケースでは、「月80時間超で制度適用が外れる」という健康保護のルールが、「80時間以内に記録を収める」という動機を社員に生み出し、記録操作の温床になっているのではないかと考えられる。

早稲田大学・東京大学の研究グループの分析 でも、裁量労働制は「 労働者の裁量が小さい場合に長時間労働リスクが高まる 」ことが示されている。


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「残業しすぎを防ぐためのルール」が、「残業した記録を消す動機」に変わってしまっているのだろう。
裏技は個人の不正ではなく、制度設計が生み出した必然かもしれない。

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実はこの「政府に都合の良い情報で制度を広げようとする」という構図は、2026年が初めてではない。

2018年にも起きた「政府と数字」の問題

8 年前にも、政府は都合の良いデータを使って制度拡大を推し進め、首相が撤回を余儀なくされた。

2018 年、 安倍政権 が裁量労働制の拡大を進めようとした際、 厚生労働省 が国会で用いたデータに大きな問題があることが発覚した。

「裁量労働制で働く人の方が一般の労働者より労働時間が短い」という答弁の根拠となったデータが、 比べる対象をそろえていない不適切なもの だったのだ。

安倍首相は国会で答弁を撤回した。

2018年
データ問題

安倍政権が裁量労働制の拡大を推進。

厚労省が国会で不適切なデータを使用し、首相が答弁を撤回

2024年
制度改正

適用には本人の個別同意が義務化。

同意撤回の手続きも要件に追加

2026年2月
見直し表明

高市首相が施政方針演説で裁量労働制の見直しを表明。

経団連も対象拡大を要求

2026年6月
実態発覚

政府が「成功例」と呼ぶ日立製作所で、PC起動記録を消す裏技が社内メールで流通していたと現役社員が証言

それから 8 年が経った 2026 年、今度は「モデル企業」の実態が問われている。
日本経済新聞 によると、政府は同年5月に「夏以降の 労働政策審議会 で議論する」という方針を示すにとどまり、拡大の結論は年末まで持ち越しになった。

2018 年と 2026 年で、「 政府が都合の良い情報をもとに制度拡大を正当化しようとした 」という構図が繰り返されているのではないか——そういう見方が広がっている。

では、こうした流れのなかで、自分が裁量労働制を適用される立場になったら何を知っておくべきか。


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自分が裁量労働制になったら何を確認すべきか

2024 4 月から裁量労働制には本人同意が必要になった。

撤回も権利として認められている。

これ以前は、専門業務型の裁量労働制では本人の個別同意は必須ではなかった。

しかし 2024 4 月の制度改正によって、適用する際には労働者本人への説明と同意取得が義務づけられた。

同意しなかったことを理由とした解雇や降格などの不利益な取り扱いも、厳格に禁じられている。

  • 会社から「裁量労働制に同意してほしい」と言われたら、内容を書面で確認する
  • 業務量が多すぎて自分の裁量で時間を決められないと感じたら、同意を撤回できる
  • 同意しないこと・撤回することを理由にした不利益な扱いは法律で禁止されている
  • 実際の労働時間を記録しておく(メール・PCログなど)と後から役に立つ

さらに、 日本弁護士連合会 の声明では「裁量が確保されない業務への制度適用は問題がある」という立場が明確に示されている。

厚生労働省の通達でも、業務量に対して適切な処遇がなければ制度の趣旨を損なうものだとされている。

同意したからといって、実態とかけ離れた状況を受け入れ続ける義務はない。
撤回するという選択肢が、法的に存在するのだ。

制度拡大の議論が続くなかで、あなた自身の働き方を守る鍵は「 同意した記録と撤回の手続きを知っているか 」にある。

ℹ 「自分には関係ない」と思っていても、制度が拡大されれば対象になる可能性がある。

今のうちに「同意」と「撤回」の仕組みを知っておくことが、自分を守る第一歩だ。

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「成功例」の内側にある矛盾が社員の証言で明らかになったいま、制度を広げる前に問われるべきは、今ある運用の実態をどう直すかという問いのはずだ。

まとめ

  • 日立製作所では「月100時間の残業があっても、勤怠記録は80時間以内に収める」という圧力が現役社員によって証言されており、PCの起動記録を消す裏技が社内メールで出回っていた
  • この「裏技」は個人の問題ではなく、月80時間超で制度適用が外れる仕組みが、逆に「記録を80時間以内に見せる動機」を生み出した結果とみることができる
  • 政府が「成功例」として紹介している日立は、同時に制度拡大の政策議論に使用者代表として参加しており、情報提供者と審議参加者が同一という構造がある
  • 裁量労働制の実際の適用率は全労働者の合計1.4%(専門型1.1%+企画型0.3%)にすぎないが、政府と経済界は拡大を急いでいる
  • 2024年4月から、裁量労働制の適用には本人の同意が必須となり、後から撤回することも権利として認められている

よくある質問(FAQ)

Q1. 日立製作所の裁量労働制にはどんな問題があった?

現役社員の証言によると、月100時間の残業があっても勤怠記録は80時間以内に収めるよう圧力があり、PCの起動記録を消す方法が社内メールで広まっていたとされる。

Q2. 裁量労働制で労働時間を過少申告させることは違法?

実際の労働時間を意図的に少なく記録させる行為は、労働基準法が定める労働時間の適正な把握義務に反する可能性がある。

使用者には実態に即した労働時間の管理が求められている。

Q3. 裁量労働制の実態はどうなっているの?

厚生労働省の調査では、裁量労働制を適用された労働者の週平均労働時間は45時間18分で、適用されていない労働者の43時間2分より長い。

裁量が小さい場合に長時間労働リスクが高まるとの研究もある。

Q4. 裁量労働制の適用率はどのくらい?

令和7年就労条件総合調査によると、専門業務型が1.1%、企画業務型が0.3%で合計約1.4%にとどまる。
100人いる職場で1〜2人しか使っていない制度だ。

Q5. 裁量労働制に同意したくない場合や撤回したい場合はどうする?

2024年4月から適用には本人の同意が必須になった。

同意しないことや同意を後から撤回することを理由とした解雇や降格などの不利益な取り扱いは法律で禁止されている。

Q6. 政府はなぜ裁量労働制を拡大しようとしているの?

高市首相が2026年2月の施政方針演説で見直しを表明し、経団連も対象業務の拡大を求めている。

人口減少のなかで生産性を高める手段として位置づけられているが、労働者側は長時間労働を助長するとして反対している。

Q7. 裁量労働制で残業代は出るの?

基本的には実際の残業時間に関係なく、あらかじめ決めたみなし時間分の給与が支払われる。

ただし、みなし時間が1日8時間の法定労働時間を超える場合や深夜・休日労働の場合は割増賃金が発生する。

📚 参考文献

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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