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ホルムズ封鎖でなぜ停電しない?でも電気代は上がる理由

夜間の臨海工業地帯に立ち並ぶLNG貯蔵タンク群。遠方に炎が上がり、ホルムズ封鎖と日本の電力需給問題を象徴する報道写真風の画像。

| 読了時間:約8分

ホルムズ海峡が事実上封鎖されている。
それでも今夏、日本が電力不足で停電する可能性は低い。

米・イスラエルによるイラン攻撃から34日が経った。
火力発電の燃料となる LNG 液化天然ガス の調達ルートが脅かされるなか、 経済産業省 は4月上旬から発電事業者の燃料在庫を常時チェックする異例の体制を整えた。

「夏の電気は大丈夫なのか」——最大のリスクは停電ではなく、別のところにある。

ホルムズ封鎖なのに「停電しない」のはなぜか

ホルムズ海峡が封鎖されていても、今夏に日本が停電する可能性は低い。
LNGの輸入でホルムズ海峡を経由する割合は 約6%にとどまり 、発電事業者の在庫は月間消費量を大幅に上回っているからだ。

「ホルムズが封鎖されたら電気が止まる」と感じた人は多いだろう。

日本は原油の 95% 以上を中東から調達している。
そのうち約 73.7% がホルムズ海峡を経由する。
これほどの依存度なら、封鎖が続けば電力供給が崩壊するように思える。

ところが、発電の主力燃料である LNG 液化天然ガス に限れば話が違う。


LNGのホルムズ依存は「約6%」だった

情熱電力が経産省資料をもとにまとめた記事 によると、日本のLNG輸入のうちホルムズ海峡を経由する割合は 約6%(約400万トン) にとどまる。

主な調達先はオーストラリア( 33.8% )とアメリカ( 11.4% )だ。
地政学リスクが比較的低い地域からの調達が進んでいる。
原油と電力燃料では、まったく異なる依存構造がある。

さらに、すでに手元在庫が積み上がっている。
同資料によると、発電事業者のLNG在庫は 月間消費量を大幅に上回る水準 を2026年3月中旬時点でも維持している。
冷蔵庫に1か月以上分の食材が入っている状態に近い。

 

 

 


カタールのLNG生産停止が「別の問題」を引き起こした

JETROの報告 によれば、LNG主要輸出国の カタールエナジー が2026年3月2日、天然ガス施設への軍事攻撃を受けてLNG生産停止と不可抗力事態を宣言した。

IEA によると、ホルムズ海峡を通るLNGはカタール・UAEあわせて世界全体の 約20% にのぼる。
日本へのカタールからの輸入シェアは5%程度だが、世界市場の2割が滞れば価格への影響は避けられない。

つまり問題は「量が足りなくなる」ことより、 「価格が上がる」ことの方が直撃しうる。
この点は後の電気代のセクションで詳しく触れる。

また2026年4月3日には、 共同通信の報道 商船三井 のLNG運搬船がホルムズ海峡を通過したと伝えられた。
米・イスラエルによるイラン攻撃以降、日本関係の船舶が通過したのは初めてとみられる。

現時点の結論

LNG在庫は月間消費量を大幅に上回る水準。
今夏の停電リスクは低い。

ただし、世界のLNG価格高騰は日本の調達コストにも波及する。
問題は「停電」より「値上がり」だ。

 

では、在庫が十分にあるにもかかわらず、政府がなぜ今夏に向けた追加対策を急いでいるのか。
その答えは燃料の「量」ではなく「価格」と「予防的備え」の問題にある。

政府の緊急対策2本柱——石炭火力の「脱炭素一時休止」とkWhモニタリング

「石炭を増やす」と「脱炭素」は矛盾しないのか。
政府は 2026年度限定 という時間的制約を設け、緊急措置として対応している。

TBSニュースの報道 によると、 高市首相 は2026年3月27日に「石炭火力の稼働を高め、LNGの使用を節約していく」とSNSで表明した。
一見、環境目標に逆行するように見える。

しかし政府の設計をよく見ると、単純な「逆行」ではない。


石炭を増やす「数字の根拠」

ロイターの報道 によると、 経済産業省 は2026年3月27日、非効率な石炭火力の稼働率上限 50% 規制を 2026年度限定 で適用しない案を 総合エネルギー調査会 に提示した。

その効果は年間 約50万トン のLNG節約だ。
これはホルムズ海峡を経由するLNG輸入量(約400万トン)の約1割強に相当する。
石炭の主な調達先はオーストラリア(約65%)とインドネシア(約15%)で、地政学リスクが原油・LNGと異なる。

つまり「 中東リスクの高い燃料を、中東リスクの低い燃料で代替する 」という設計だ。
「脱炭素」という長期目標と「安定供給」という短期緊急の間で、政府は 1年限定 という時間的制約を設けてバランスを取った。

 

 

項目 長期目標(脱炭素) 今回の緊急措置
方向性 石炭火力フェードアウト 稼働率規制を1年凍結
期間 2050年までの継続目標 2026年度の1年限定
目的 CO2削減 LNG消費の節約
石炭調達先 豪州65%・インドネシア15%

「kWhモニタリング」とは何をするのか

もう一つの対策が、4月上旬から始まった kWhモニタリング だ。

従来の燃料在庫管理は「タンクに何リットル残っているか」を把握する、量(kL)ベースのチェックだった。
新しいモニタリングはそこから一歩進む。

情熱電力が経産省資料をもとに報告 したところによると、発電事業者の燃料在庫から導出される国全体の「発電可能量(kWh)」と、過去データから予測される需要量を定期的に比較する。
「燃料が何リットルあるか」ではなく 「それで電気を何kWh作れるか」を直接把握する仕組み に切り替えた形だ。

夏季の予備率見通し

猛暑を想定した場合でも全エリアで予備率3%以上を確保できる見通し。
(経産省・電力広域的運営推進機関の最新データ)
予備率3%とは、たとえるなら300人乗りの飛行機に空席が9つある状態だ。
満員に近いが、飛ぶことはできる。

政府の対策が追いついているとしても、一般家庭が気になるのは「電気代はいくら上がるのか」という現実的な問題だ。
燃料費調整制度 ねんりょうひちょうせいせいど の仕組みが、今夏以降の電気代にどう影響するかを見ていく。

「停電しないが電気代は上がる」——家計への波及はいつ、どれくらいか

今夏の電気が止まるリスクは低い。
しかし電気代は、これから数か月で上昇するとみられる。


電気代に「時差」がある仕組み

電気代の中には 燃料費調整額 という項目がある。
燃料の輸入価格の変動を毎月の電気代に上乗せする仕組みで、3か月分の平均を集計して約2か月のタイムラグをもって請求書に反映される。

つまり、 今月の電気代にホルムズ危機の影響はまだ反映されていない。
2026年2月末に始まった危機が電気代に転嫁されるのは、早くても 2026年6月以降 とみられる。

さらに、 Global SCMの分析 によれば、政府は2026年4月1日でエネルギー補助金を終了した。
燃料価格高騰が補助金というバッファなしに、 直接電気代として家計・企業に転嫁される局面 に入っている。

 

 


電力会社で異なる「ダメージ」の大きさ

環境エネルギー政策研究所(ISEP)の飯田哲也所長による分析 は、電力3社のシナリオ別料金影響を定量的に示している。

化石燃料依存度が高いほど打撃は大きい。
東京電力 の依存度は 72% で、中期封鎖シナリオ(LNGスポット価格+120%)では月額が 約10%増 と試算されている。
標準的な家庭で月1,500円超の上昇だ。

一方で 関西電力 (依存度38%)と 九州電力 (依存度25%)は、同じシナリオで料金がむしろ下がる計算になる。
理由は次の逆説にある。

電力会社 化石燃料依存度 中期封鎖シナリオでの料金変化
東京電力 72% 約+10.3%(↑)
関西電力 38% 約−3.3%(↓)
九州電力 25% 約−1.1%(↓)

「嫌われ者の賦課金」が実はヘッジになる

再エネ賦課金 は「電気代を上げるコスト」として批判されがちだ。
2026年度の単価は1kWhあたり 4.18円 で、標準世帯の年間負担は2万円を超える。

ところが、この賦課金には意外な仕組みが内蔵されている。

算定式を見ると、化石燃料が高騰してJEPX(日本の電力市場)の価格が上がると、火力発電を代替した場合のコストが増加する。
すると賦課金の計算式の分子が縮小し、 コストが増える 自動的に下がる

ISEPの分析によると、長期封鎖シナリオでは再エネ賦課金が現行の4.18円から 0.46円程度 まで低下し、月額で最大 約900円 の家計保護効果が生じると試算されている。

「嫌われ者」の逆説

燃料価格が上がって苦しいまさにその局面で、賦課金だけが自動的に下がる。
「電気代のコスト」と思われていたものが、エネルギー危機の緩衝材として機能する逆説的な構造だ。

あなたが毎月払っている電気代には、中東情勢が時差をもって転嫁される仕組みが組み込まれている。
しかし同時に、最も苦しくなった時に賦課金が和らげる設計も組み込まれている。

電気代への影響まとめ

今夏の電気代上昇が家計に届くのは2026年6月以降とみられる。

東京電力エリアでの月額上昇幅は中期封鎖シナリオで約10%超。
ただし再エネ賦課金の自動低下が一部を緩衝する。

政府の対策と家計への影響という2つの軸から事態を見てきた。
ここで視点を変え、今回の騒動が浮き彫りにした構造的な問いを考えてみたい。

この危機が照らし出す「日本の電力構造」という本当の問題

ここからは、報道された事実をもとにした構造的な考察だ。
確定情報ではなく、「別の角度から見る」試みとして読んでほしい。


報道が語ること——「緊急対策で乗り切れる」

Global SCMの分析 が示すように、日本の石油備蓄は 254日分 ある。
発電用LNGの在庫は月間消費量を大幅に上回る。
石炭火力の規制を1年凍結すれば年間50万トンのLNGを節約できる。

これらの事実を並べると、「日本は今回の危機を乗り切れる」という安心感が生まれる。
報道の大半はこの文脈で語られている。

それは正しい。
しかし同時に、別の読み方ができる。

 

 


もう一つの読み方——「何度でも同じ弱点を突かれる構造」

「254日分の備蓄」は裏を返せば、 254日を超えれば尽きる ということだ。
「LNG在庫が月間消費量を上回る」は、裏を返せば、調達が途絶すれば数か月で底をつくことを意味する。

今回の政府対策は「在庫があるうちに石炭で代替しLNGを節約する」という時間稼ぎの設計だ。
これは正しい対応だが、根本的な問いを先送りにしている。

この構造への対処を怠れば、次のホルムズ危機(あるいは別のルートでの供給途絶)で同じ局面が繰り返されるだろう。
報道された事実をもとに考えると、今回の事態は「緊急対策で凌いだ成功事例」であると同時に、 「同じ脆弱性が恒久化している警告」 として読むこともできる。


この問いは10年前から存在していた

日本の火力発電は全体の 7割弱 を占め、そのうちLNG火力が3割強、石炭火力が3割弱だ。
ロイターの報道 でも示されたこの数字は、実は2011年以来ほとんど変わっていない。

原発停止の穴を火力で埋め、火力の燃料は中東依存のままにする——この構造は危機が起きるたびに問い直されてきた。
2022年のロシア・ウクライナ戦争でも同じ議論が起きた。

問いは静かに積み上がっている

石炭火力を1年凍結して乗り切った後、日本の電力構造は本当に変わるのか。
それとも次の危機でまた同じ対応をするのか。
「停電はしない」という安心の裏で、問いは繰り返される。

まとめ——今夏の「本当のリスク」

  • 停電リスクは低い: LNGのホルムズ依存は約6%で、発電事業者の在庫は月間消費量を上回る水準にある
  • 政府は2本の対策を実施中: 石炭火力の規制を2026年度限定で凍結(年間LNG50万トン節約)とkWhモニタリングの開始
  • 電気代への影響は2026年6月以降: 燃料費調整制度の時差により、今夏以降の請求書に中東情勢が転嫁される
  • 東京電力エリアは特に要注意: 中期封鎖が続けば月額約10%増の見通し

知っておきたい逆説

再エネ賦課金は化石燃料高騰時に自動的に低下する構造を持つ。
「嫌われ者のコスト」が危機の緩衝材として機能する点は、電気代の見方を変える視点になる。

よくある質問(FAQ)

Q1. ホルムズ海峡が封鎖されたら日本の電力は大丈夫?

停電リスクは低い。
LNG輸入のホルムズ経由は約6%で、発電事業者の在庫は月間消費量を大幅に上回る水準にある。

Q2. 2026年夏の電力予備率はどのくらい?

経産省の見通しでは、猛暑を想定した場合でも全エリアで安定供給に必要な予備率3%以上を確保できるとしている。

Q3. 政府はどんな緊急対策を打ったの?

非効率な石炭火力の稼働率規制を2026年度限定で凍結し、年間約50万トンのLNG節約を図っている。

Q4. kWhモニタリングとは何をする取り組み?

発電事業者の燃料在庫から「電気を何kWh作れるか」を定期的に算出し、国が燃料不足の兆候を早期に把握する仕組み。

Q5. 電気代はいつから上がるの?

燃料費調整制度のタイムラグにより、ホルムズ危機の影響は早くても2026年6月以降に電気代へ転嫁されるとみられる。

Q6. 日本のLNG輸入でホルムズ経由はどのくらい?

全輸入量の約6%(約400万トン)にとどまる。
主な調達先はオーストラリア(33.8%)やアメリカ(11.4%)だ。

Q7. 節電要請は出るの?

現時点での見通しでは節電要請は出ない予定。
猛暑や燃料調達状況が悪化した場合は状況が変わりうる。

Q8. 再エネ賦課金とホルムズ危機はどう関係する?

化石燃料が高騰するほど再エネ賦課金の単価が自動的に下がる仕組みがあり、危機深刻化時には家計の緩衝材になる。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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