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負債62億円の老人ホーム運営会社から、約4000万円のランボルギーニが「消えて」いた。
埼玉県警は2026年3月4日、元代表取締役の男を民事再生法違反の疑いで逮捕した。
隠匿に使われたのは、世界1499台限定の高級スーパーカーだった。
年金で入居できる低価格路線を掲げていた介護施設で、なぜこんなことが起きたのか。
事件の手口、容疑者の知られざる経歴、そして会社のその後を追った。
この記事でわかること
ランボルギーニ隠匿の全容——約4000万円の限定車を他人名義に
埼玉県警が逮捕したのは、有料老人ホーム運営会社日本ヒューマンサポートの元代表取締役・久野義博容疑者(62)。容疑は民事再生法違反(詐欺再生など)だ。
逮捕容疑と手口の詳細
📰 逮捕容疑の核心
毎日新聞の報道によると、逮捕容疑は2024年2月29日、会社の資金で購入した高級スポーツカー「ランボルギーニ・ウラカン・ステラート」(販売価格3950万円)を、同社に勤める70代男性の名義で登録して財産を隠匿した疑い。
さらに同年5月24日、裁判所が選んだ監督委員から300万円の支出について説明を求められた。
実際はこの300万円がランボルギーニの申込金だったにもかかわらず、監督委員には虚偽の報告をしていた。
NTVによると、久野容疑者は「今は話すことはありません」と認否を留保している。
世界1499台の希少車が「財産隠し」の道具に
「ランボルギーニ」とだけ聞くと高級車を思い浮かべるだろう。
だが今回の隠匿対象は、ただのランボルギーニではない。
🏎️ ウラカン・ステラートとは?
世界1499台限定で製造されたオフロード走行対応のスーパーカー。
通常のウラカンより車高が44mm高く、ダート(未舗装路)も走れる全天候型モデルとして2023年から納車が始まった。
新車価格は3428万円から。0-100km/h加速は3.4秒、最高速度260km/h。希少性が高く、中古市場でもほとんど値崩れしない。
つまり容疑者は「持っていても値下がりしにくい資産」を、名義を変えることで会社の帳簿から消そうとしたことになる。
毎日新聞によると、名義にされた車両は購入価格とほぼ同額で第三者に転売されたという。
共同通信も同様の容疑内容を報じている。
名義変更から逮捕まで——約2年の時系列
手口の計画性は、日付を並べると浮き彫りになる。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2024年2月29日 | ランボルギーニを70代男性名義で登録(名義偽装) |
| 2024年3月29日 | 日本ヒューマンサポートが東京地裁に民事再生法の適用を申請 |
| 2024年4月10日 | 東京地裁が再生手続 開始を決定 |
| 2024年4月11日 | 久野容疑者が代表取締役を退任 |
| 2024年5月24日 | 監督委員への虚偽報告 |
| 時期未確認 | 車両が第三者に転売 |
| 2026年3月4日 | 埼玉県警が久野容疑者を逮捕 |
名義変更は、民事再生申請のちょうど1カ月前だった。
民事再生が近づいていることを知ったうえで財産を移したのだとすれば、極めて悪質な行為といえる。
では、約4000万円のスーパーカーを隠そうとした久野容疑者とは、どんな人物だったのか。
「介護業界の顔」から転落——久野義博の経歴と会社崩壊の軌跡
久野義博容疑者は単なる老人ホーム経営者ではなく、全国介護事業者政治連盟の会長として介護業界の政策に影響力を持つ人物だった。
国会議員秘書からトラック運転手、そして介護へ
介護施設の経営者と聞くと、福祉畑一筋の人物を想像するかもしれない。
久野容疑者の経歴は、まったく違う。
大洗町の公式サイトによると、久野容疑者は埼玉県生まれ。
外資系企業、国会議員秘書を経て日本ヒューマンサポートの代表取締役に就いた。
LEADERS' AWARD 2021年の掲載記事では、久野容疑者自身がこう語っていた。
「私が国会議員の秘書をやっていたころ、父の経営する会社が破綻し、すべてを失いました。その後、夜間のトラックドライバーに転じ、マイナスからのスタートを切った」
福祉畑一筋の経営者 → 外資→議員秘書→父の破綻→トラック運転手→介護参入という異色の経歴だった。
父の会社の破綻を経験した人物が、自らの会社の民事再生で財産を隠した。この事実は皮肉というほかない。
介護業界の政治連盟会長として大臣と面会
久野容疑者は「年金の範囲内で入居できる」低価格路線の有料老人ホームを展開していった。
1984年に設立された日本ヒューマンサポートは、埼玉県東部と茨城県を中心に16施設を展開し、従業員は780名にのぼった。
だが経営者としての顔はそれだけではなかった。
⚡ 意外な肩書
久野容疑者は2019年に設立された全国介護事業者政治連盟の会長を務め、介護業界全体のロビイスト的存在だった。
LEADERS' AWARD 2024年の記事によると、久野容疑者は西村康稔 経済産業大臣、加藤勝信 厚生労働大臣、萩生田光一 政務調査会長(いずれも肩書は当時)と面会し、介護報酬の改定や処遇改善を直接要望していた。
年金で入れるホームを頼りにする入居者やその家族にとって、経営者が裏で4000万円の高級車を隠していたという事実は、信頼の根幹を揺るがすものだろう。
なぜ会社は傾いたのか——M&A拡大と負債膨張
日本ヒューマンサポートの経営破綻には、介護業界に共通する構造的な問題が絡んでいる。
介護報酬は国が決める公定価格だ。
つまり企業努力で料金を上げられない。利益を伸ばすには、施設を増やすしかない。
久野容疑者も同業他社や医療機関のM&A(企業買収)を積極的に進め、グループの規模を急拡大させた。
帝国データバンクの報道によると、施設の開設や法人買収に必要な借入金が膨らみ、利息の支払いが経営を圧迫。
さらに人手不足や物価高も重なり、本業は赤字が常態化していた。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 設立 | 1984年 |
| 施設数 | 16施設 |
| 従業員数 | 780名 |
| 2023年3月期の年収入 | 約45億円 |
| 負債総額 | 約62億円 |
年収入45億円に対して負債は約62億円。
収入を大きく超える借金を抱えていたことになる。
事業譲渡やスリム化を試みたものの、不適切な会計処理が表面化して対外的な信用が崩壊。
金融機関や取引先の支援も限界に達し、2024年3月29日に民事再生法の適用を申請した。
🔍 皮肉な座右の銘
LEADERS' AWARDの掲載記事に記された久野容疑者の座右の銘は「疑うな 信じるな 確認しろ」。
まさにその「確認」——監督委員による300万円の使途確認——が、虚偽報告の発覚につながった。
久野容疑者は2024年4月11日に代表を退任。
会社は新体制で再建に動き出した。では、その後どうなったのか。
会社はベネッセ傘下へ——詐欺再生罪の重さと事件の今後
日本ヒューマンサポートは投資ファンドの支援を経て、2025年12月にベネッセスタイルケアグループの子会社となった。施設の運営は継続されている。
日本ヒューマンサポートは消滅していない
経営破綻した会社はそのまま消えてしまう——そう思うかもしれない。
だが日本ヒューマンサポートは現在も形を変えて存続している。
2024年8月、投資ファンドの支援のもと新会社に事業を承継して再スタートを切った。
✅ 会社の現在
日本ヒューマンサポートの公式リリースによると、2025年12月5日、ベネッセスタイルケアグループが全株式を取得し子会社化。
2026年1月には社名を「ベネッセヒューマンサポート」に変更した。
ベネッセスタイルケアグループは「アリア」「グラニー&グランダ」など360を超える有料老人ホームを運営する業界トップクラスの企業グループだ。
入居者や取引先との契約はそのまま引き継がれており、再契約の必要はないと公式にアナウンスされている。
施設は存続し、入居者の生活は守られた。
だが元代表の久野容疑者が問われている罪は軽くない。
詐欺再生罪とは何か——最大で懲役10年
久野容疑者の逮捕容疑は「民事再生法違反(詐欺再生など)」だ。
これは民事再生法255条に定められた犯罪にあたる。
⚖️ 詐欺再生罪の罰則
企業法務ナビの解説によると、民事再生法255条1項では「再生手続 開始の前後を問わず、債権者を害する目的で財産を隠匿する行為」を詐欺再生罪としている。
法定刑は10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、または両方が科される。
倒産手続きに関わる犯罪のなかで最も重い部類にあたる。
さらに注目すべきは、協力者も同罪になるという点だ。
名義を貸した70代の男性が事情を知っていた場合、同じ詐欺再生罪に問われうる。
今後の焦点——余罪と量刑
毎日新聞は、県警が「余罪についても慎重に調べる」と報じている。
逮捕はランボルギーニ1台をめぐる容疑だが、負債62億円の会社でほかにも隠された資産がなかったかどうか、捜査が広がるだろう。
⚠️ ここからは推測です
過去の同種事案では、民事再生法違反で懲役3年の実刑判決が出た例がある。久野容疑者の場合、名義偽装に加えて監督委員への虚偽報告という二重の悪質性があるため、量刑がどうなるかは注目される。
ただし起訴されるかどうかも含めて、司法の判断はこれからだ。
まとめ
- 久野義博容疑者は、民事再生申請の1カ月前にランボルギーニ・ウラカン・ステラート(3950万円)を他人名義にして隠匿した疑いで逮捕された
- 容疑者は全国介護事業者政治連盟の会長を務め、大臣級の政治家とも面会する介護業界の有力者だった
- 詐欺再生罪の法定刑は10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金。名義を貸した協力者も同罪となりうる
- 日本ヒューマンサポートは2025年12月にベネッセスタイルケアグループの子会社となり、施設の運営と入居者の契約は継続されている
- 県警は余罪についても捜査を進めている
よくある質問(FAQ)
Q1. 日本ヒューマンサポートの民事再生はいつですか?
2024年3月29日に東京地裁へ民事再生法の適用を申請し、同年4月10日に手続開始が決定されました。
Q2. 日本ヒューマンサポートの親会社はどこですか?
2025年12月にベネッセスタイルケアグループが全株式を取得し子会社化。2026年1月に社名を「ベネッセヒューマンサポート」に変更しています。
Q3. 久野義博容疑者は何をして逮捕されたのですか?
会社資金で購入したランボルギーニ(約4000万円)を他人名義にして隠し、監督委員に虚偽報告した民事再生法違反の疑いです。
Q4. 詐欺再生罪の刑罰はどのくらいですか?
民事再生法255条により10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、または両方が科されます。名義を貸した協力者も同罪です。
Q5. ランボルギーニ・ウラカン・ステラートとはどんな車ですか?
世界1499台限定のオフロード走行対応スーパーカーです。新車価格は3428万円から。0-100km/h加速3.4秒を誇ります。
Q6. 日本ヒューマンサポートの入居者への影響はありますか?
施設の運営は継続中です。ベネッセグループ傘下で入居者・取引先との契約はそのまま引き継がれ、再契約は不要です。
Q7. 久野義博容疑者の経歴は?
埼玉県生まれ。外資系企業、国会議員秘書を経て介護事業へ。全国介護事業者政治連盟の会長も務めていました。
Q8. 久野容疑者に余罪はあるのですか?
県警は余罪についても慎重に調べると報じられています。現時点で追加容疑は公表されていません。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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📚 参考文献
- 日本テレビ「民事再生手続開始前に財産隠したか 有料老人ホーム運営会社の元代表取締役を逮捕」(2026年3月5日)
- 毎日新聞(t-com配信)「『ランボルギーニ』で資産隠匿容疑 元会社代表を逮捕 民事再生前に」(2026年3月4日)
- 共同通信(静岡新聞配信)「民事再生法違反疑いで男逮捕 高級車隠したか、埼玉県警」(2026年3月4日)
- シニアライフ「日本ヒューマンサポートが民事再生法の適用を申請」(2024年4月2日)
- 日本ヒューマンサポート公式「民事再生手続の開始決定ならびに代表者変更について」(PDF)(2024年4月)
- 日本ヒューマンサポート公式「ベネッセスタイルケアグループによる株式取得について」(PDF)(2025年12月5日)
- 企業法務ナビ「アパレル会社役員らを逮捕、詐欺再生罪とは」(2019年11月21日)
- 大洗町公式「『ソト』から見たおおあらいVol.12(久野義博様)」
- LEADERS' AWARD 2024「株式会社日本ヒューマンサポート 久野義博」
- 帝国データバンク(livedoor配信)「老人ホーム運営の日本ヒューマンサポート(埼玉)が民事再生」(2024年4月1日)
- LEADERS' AWARD 2021「株式会社日本ヒューマンサポート 久野義博」