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兵庫県が外郭団体への貸付金662億円の債権を放棄する。
60年以上つづいた「分収造林事業」が破綻し、つぎ込んだ税金の大半が戻らない。
その裏には、借金の半分近くが利息で膨れ上がった異常な構造と、全国26都県にまたがる「8000億円の時限爆弾」があった。
この記事でわかること
兵庫県が662億円を「回収不能」と認めた——分収造林事業の正体
朝日新聞の報道によると、兵庫県は2026年2月20日、この議案を県議会に提出する。
対象は県の外郭団体ひょうご農林機構への貸付金だ。
682億円にのぼる借金のうち、303億円は利息だけで膨れた数字だった。
元金より利息が大きい——この異常な構造が、60年にわたって放置されてきた。
📄 兵庫県公式報告書より
「兵庫県の分収造林事業の借入金残高は682億円(県営分収育林事業を合わせると727億円)であり、全国最多の額。残高のうち過去利息が303億円。」
——分収造林事業のあり方検討に関する報告書
そもそも分収造林事業とは何か
仕組みは4つのステップで成り立つ。
❶ 県の関連組織が土地の持ち主から山を借りる
❷ お金を借りて木を植え、数十年かけて育てる
❸ 木が育ったら売り、利益を持ち主と分け合う
❹ その利益で借金を返す
「木を植えて、育てて、売って、分け合う」。
1962年に設立された兵庫県造林公社(現ひょうご農林機構)は、この計画のもとに約1万9400ヘクタールの森を管理してきた。
⚠ 破綻の構造
ところが木材の価格が下がりつづけ、売っても借金を返せない状態に陥った。
返せないから利息がさらに積み上がる。
682億円のうち303億円、約45%が利息の累積という数字が、その悪循環を物語っている。
県民1人あたり約1万2500円が消える
662億円を兵庫県の人口約530万人で割ると、県民1人あたり約1万2500円になる。
家族4人なら約5万円だ。
兵庫県の公式資料によれば、2025年7月末時点の負債は県への分が452億1000万円、日本政策金融公庫への分が271億3000万円。
県への負債
452.1億円
公庫への負債
271.3億円
このうち公庫分は県が肩代わりする方針がすでに決まっている。
2025年12月には大阪地裁に特定調停が申し立てられた。
裁判所を通じた借金の整理が進み、2026年2月の県議会で承認されれば調停が成立する。
なぜ、木を売って返すはずだった借金が、ここまで膨らんだのか。
国策が生んだ「全国8000億円の時限爆弾」——破綻した3つの原因
「兵庫県が勝手に始めた無謀な事業」と映るかもしれない。
700億円もの借金をつくった外郭団体が悪い——そう感じるのも自然だろう。
ところがこの事業は、全国39都道府県で一斉に始まった国策だった。
📄 兵庫県公式報告書より
「昭和33(1958)年に国が分収造林特別措置法を制定したことを受け、全国各地で林業公社が設立(39都道府県計44法人)され、本県においても昭和37(1962)年に県が認定して兵庫県造林公社が設立された。」
——分収造林事業のあり方検討に関する報告書
原因①:木材価格が想定から大幅に下落した
戦後の日本は木材が足りなかった。
「今植えれば、数十年後に高く売れる」。その前提で全国に木が植えられた。
だが1960年代から外国産木材の輸入が増え、国産材の価格は下がりつづけた。
林野庁のデータによると、2024年のスギ素材価格は1万5900円/㎥だ。
ピーク時の1980年ごろは約8万円/㎥だったとされており、ざっと5分の1の水準になる。
| ピーク時(1980年頃) | 2024年 | |
|---|---|---|
| スギ素材価格 | 約8万円/㎥ | 1万5900円/㎥ |
| 価格水準 | 基準 | 約5分の1 |
100万円返す計画で植えた木が、売っても20万円にしかならない。
返済が行き詰まるのは当然だった。
原因②:兵庫だけが「有利子の借金」に頼った
全国共通の制度なのに、なぜ兵庫が突出して借金が多いのか。
💡 兵庫だけが全国最大の負債を抱えた理由
兵庫県の報告書はこう指摘する。
多くの県では、公庫の貸付上限を超える分を県が無利子で貸し付けていた → 兵庫は民間金融機関から有利子で借りていた。
この違いが利息303億円という全国最大の負担を生んだ。
他県が利息ゼロで資金を回した一方、兵庫は民間銀行への利払いがかさんだ。
木が売れないから返せない、返せないから利息が増える。そのループが半世紀つづいた。
原因③:60年間、誰も止められなかった
問題はずっと前から見えていた。
兵庫県は2008年に新行革プランを策定し、森林を「経済林」「環境林」「自然林」に分けて収支を改善しようとした。
分収割合も6対4から8対2に変え、土地の持ち主との交渉も進めた。
だが主伐計画835ヘクタールに対し、実績はわずか66ヘクタール。
達成率8%に満たない。改革は名ばかりだった。
神戸経済ニュースによると、斎藤元彦知事は2025年7月の全国知事会で次のように発言した。
🏛 斎藤知事の発言
「26都県で総額8000億円を超える債務が隠れている」
兵庫だけの話ではない。全国の林業公社が同じ構造的な問題を抱えている。
「もう少し待てば木材価格が戻る」。
そう信じて撤退の判断を先送りしつづけた結果が、全国8000億円という数字だろう。
県民1人あたり約1万2500円——662億円の「その後」と兵庫県財政の行方
662億円を放棄すれば、それで終わりなのか。答えはノーだ。
起債許可団体への転落が迫る
兵庫県が2026年2月に公表した県政改革方針の変更案によると、実質公債費比率が2025年度決算で18%を突破する見通しだ。
この数字は、自治体の借金返済の重さを示す指標だ。
18%を超えると新しい借金に国の許可が必要になる。
兵庫県は14年ぶりの「起債許可団体」への転落が確実視されている。
| 年度 | 実質公債費比率 | 収支不足額 |
|---|---|---|
| R7(2025) | 19.0% | 0億円 |
| R8(2026) | 21.7% | ▲130億円 |
| R9(2027) | 21.1% | ▲180億円 |
| R10(2028) | 23.3% | ▲220億円 |
2028年度には23.3%に達する見込みで、財政健全化の道のりは長い。
分収造林事業の清算は1500億円ともいわれる「隠れ負債」の片方にすぎず、地域整備事業でも数百億円規模の処理が控えている。
662億円を放棄しても、2万ヘクタールの森は残る
見落としがちな事実がある。
約2万ヘクタールの森林管理は、債権放棄後もつづけなければならない。
山を裸のまま放置すれば土砂災害のリスクが高まる。
水源を守る機能も失われる。
🌲 今後の森林管理
兵庫県は新たに「兵庫県森づくり支援センター(仮称)」を立ち上げ、ひょうご農林機構に代わる管理体制を築く方針だ。
662億円は「過去の失敗の清算」であると同時に、「今後の森林管理の出発点」でもある。
60年間の「もったいない」が生んだ構造
⚠️ ここからは推測です
行動経済学では「サンクコストの罠」と呼ばれる現象がある。
すでに投じた費用が大きいほど、損だとわかっていても撤退できなくなる心理だ。
兵庫の分収造林事業は、まさにこの罠にはまっていたのではないか。
「これだけ投資したのだから、もう少し待てば回収できる」——その判断が60年間くり返された。
主伐計画の達成率8%という数字は、撤退の決断がいかに難しかったかを示している。
もちろん、森林には水源を守り土砂災害を防ぐ公益的な役割がある。
単純に「やめればよかった」とは言い切れない。
だがそれでも、利息だけで303億円が積み上がる前に手を打つことはできたはずだ。
⚠️ 推測ここまで
まとめ
- 兵庫県は分収造林事業の破綻で662億円の債権を放棄する。2026年2月20日に県議会に議案を提出
- 借入金682億円のうち303億円(約45%)は利息の累積。民間有利子での調達が全国最大の負債を生んだ
- 分収造林は国策として全国39都道府県で実施された制度。26都県で8000億円超の「隠れ借金」が指摘されている
- 兵庫県は起債許可団体に転落する見通し。財政悪化は長期化が避けられない
- 約2万ヘクタールの森林管理は今後もつづく。662億円は「終わり」ではなく「仕切り直し」
よくある質問(FAQ)
Q1. 分収造林事業とは何ですか?
山に木を植えて育て、売った利益を土地の持ち主と分け合う仕組みです。国の法律に基づき全国39都道府県で始まりました。
Q2. なぜ兵庫県は662億円を債権放棄するのですか?
木材価格の低迷で事業が破綻し、外郭団体ひょうご農林機構の借金を回収できなくなったためです。
Q3. 借金682億円のうち利息はいくらですか?
303億円で全体の約45%です。他県が無利子で借りた中、兵庫は民間銀行から有利子で調達していました。
Q4. 県民の負担はどうなりますか?
662億円を人口約530万人で割ると1人あたり約1万2500円です。直接の増税ではなく県の財政悪化を通じて影響します。
Q5. 他の県でも同じ問題は起きていますか?
斎藤知事によると全国26都県で総額8000億円超の債務があります。兵庫だけでなく全国的な構造問題です。
Q6. 起債許可団体とは何ですか?
借金返済の重さを示す数値が18%を超えた自治体のことです。新たな借金に国の許可が必要になります。
Q7. 債権放棄後、山の管理はどうなりますか?
約2万ヘクタールの森林は引き続き管理が必要です。県は「森づくり支援センター(仮称)」で新体制を築く方針です。
Q8. 兵庫県の財政は今後どうなりますか?
2028年度に実質公債費比率が23.3%に達する見込みです。収支不足は3年間で530億円と試算されています。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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