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イラン「専門家会議」はなぜ攻撃された?88人が握る後継者選出の仕組み

イラン専門家会議の施設がコムで攻撃を受けた背景と後継者選出の仕組みを解説するアイキャッチ画像

| 読了時間:約8分

最高指導者を殺しても、まだ足りなかったのか——。

2026年3月3日、イラン中部の聖地コムで、次期最高指導者を選ぶ唯一の機関「専門家会議」の施設が攻撃を受けた。
ハメネイ師の殺害からわずか3日。
攻撃の矛先は、指導者個人から、後継者を生み出す仕組みそのものへと向いた。

88人の聖職者が握る後継者選出のプロセスと、戦時下で初めて試される制度の限界を読み解く。

 

 

 

なぜ「専門家会議」の建物が攻撃されたのか——最高指導者を選ぶ"装置"への一撃

コムで何が起きたのか

イラン中部コムで3月3日、最高指導者の後継者を選出する機関「専門家会議」の施設が攻撃された。ハメネイ師殺害から3日、攻撃は指導者個人から後継体制そのものへ広がった。

共同通信の報道によると、3月3日、イラン中部コムにある専門家会議の施設が攻撃を受けた。
専門家会議は、イランの次期最高指導者を選ぶ唯一の機関だ。
攻撃時に会議が開かれていたかどうかは分かっていない。

タスニム通信・Times of Israelの報道

タスニム通信は、攻撃を「アメリカ=シオニストの犯罪者による専門家会議への攻撃」と報じた。Times of Israelの報道では、現地メディアの映像として建物は深刻な被害を受けたとされている。

そもそも「専門家会議」とは何か

最高指導者が殺されれば、体制は崩壊に向かう。
そう思うのが自然だろう。

実際、ハメネイ師の死後、イラン各都市では歓喜する市民の映像が流れた。
BBCの解説は「多くの人にとって、ハメネイ師の排除は歴史の断裂を象徴する出来事のようだった」と伝えている。


ところが、イランの憲法にはこの事態への「自動復旧装置」が組み込まれていた。

ロイターの解説によれば、憲法は最高指導者の死亡後、3カ月以内に後継者を選出するよう義務づけている。
選出を担うのが専門家会議だ。
Wikipediaの記述では、イスラム法の専門家である聖職者88人で構成される合議体とされる。

体制が「ひとりの死」で倒れない理由

指導者が死んでも、臨時評議会りんじひょうぎかいが即日発足し、専門家会議が後継者を選ぶ。
この自動的な権力移行こそ、イランの体制が指導者の死だけでは倒れない理由だ。

だからこそ、米国とイスラエルは「次の一手」として、後継者を選ぶ機関そのものを攻撃したのだろう。
攻撃の矛先は「人」から「仕組み」に変わった

なぜ「コム」だったのか

攻撃された場所にも意味がある。

コム(ゴムとも表記される)はテヘランの南約135キロにある都市だ。
シーア派第2の聖地として知られ、イスラム法学の教育機関が集中する聖職者養成の中枢でもある。

軍事拠点への攻撃とは質が違う

専門家会議の施設がコムにあるのは、構成員がイスラム法学者だからだ。
つまりコムへの攻撃は、宗教的・政治的な中枢への攻撃であり、イラン国民の信仰に触れる行為でもある。

では、88人の聖職者はどのようにして次の最高指導者を選ぶのか。
そして、有力候補は誰なのか。

 

 

 

88人の聖職者はどう後継者を選ぶのか——非公開の密室プロセスと「入れ子構造」

選挙なのに結果は公表されない

専門家会議による最高指導者の選出は、一般的な選挙とはまるで違う。投票は非公開。結果も公表されない。

BBCの解説によれば、候補者の審査と絞り込みは小委員会が担う。
外部からの監視は限られている。

ロイターの分析

ロイターは「ハメネイ師は好ましい後継者を指名しておらず、現実的にはハメネイ師の下で統治に携わってきた最も高位の聖職者によって決められる公算が大きい」と報じている。

しかも、立候補できる人物はあらかじめ絞られる。
候補者は監督者評議会かんとくしゃひょうぎかいという12人の機関の審査を通らなければならない。
Arab Newsの報道によると、2024年3月の専門家会議選挙ではロウハニ元大統領がこの審査で締め出されている。

死んだ前任者が後継者選びを支配する「入れ子構造」

ここに、この制度のもっとも特異な点がある。

BBCの解説によれば、監督者評議会の12人のうち6人は最高指導者が直接任命する。
残りの6人は司法府が指名し、その司法府のトップもまた最高指導者が任命する。

なぜ「入れ子構造」なのか

「後継者を選ぶ機関のメンバーを審査する機関」を、死んだ前任者が事実上コントロールしていた。
ハメネイ師は死後も、間接的に後継者選びに影響を及ぼしている

 

 

 

有力候補は誰か——消えた息子と浮上した「革命の孫」

Forbes Japanの報道によると、ハメネイ師の死後、存命の幹部は直ちに3人の臨時評議会を立ち上げた。
ペゼシュキアン大統領、モフセニ・エジェイ司法府長官、聖職者アラフィ師の3人が国政を代行している。

テレビ朝日の報道がロイター通信を引用して伝えたところでは、有力候補は3人とされる。

候補者 立場 特徴
モジュタバ師 ハメネイ師の息子 軍とのパイプが太いが、世襲への反発が強い
ハッサン・ホメイニ師 初代ホメイニ師の孫 改革派と近く、穏健路線を象徴する存在
ロウハニ元大統領 高位聖職者 強硬派からの不信感がある

注目すべきはモジュタバ氏の状況だ。
ロイターによると、モジュタバ氏の妻は2月28日の空爆で死亡が確認されたが、本人の安否は分かっていない

Arab Newsは、世襲について「新たな宗教王朝を作ることにつながるという見方もある」と指摘している。
息子が候補から外れれば、ホメイニ師の孫であるハッサン師の存在感が増すだろう。

1989年の前例が示すこと

1989年の前回選出では、有力候補とはみなされていなかったハメネイ師が選ばれた。
BBCはこの前例を挙げ、「結果が予想を裏切る可能性をうかがわせる」と分析している。
今回もまた、下馬評とは異なる人物が浮上する展開はあり得る。

だが、この精緻な制度は1つの前提に立っている。
88人が安全に集まれること、だ。
攻撃が続く中、後継者選出は本当に実現するのか。

 

 

 

後継者選出は実現するのか——戦時下で初めて試される「憲法の想定外」

外相の楽観と、その翌日の爆撃

「1〜2日で新たな最高指導者を任命する」その翌々日、専門家会議の施設が攻撃された

Forbes Japanによれば、アラグチ外相は3月1日、アルジャジーラのインタビューで「1〜2日で新たな最高指導者を任命する」と語った。

その翌々日、専門家会議の施設が攻撃された。

メンバーの安否は不明

読売新聞は「後継の最高指導者を選出する専門家会議(定数88)を構成するメンバーらの安否は不明だ」と報じている。
外相が語った楽観的な見通しと、現場の状況には大きな隔たりがある。

ロイターも「攻撃が続いているため、会議がいつ、どのように開かれるかは不明だ」と伝えている。

1979年以来、一度もなかった事態

1989年にホメイニ師が亡くなったとき、イランは戦時下ではなかった。
イラン・イラク戦争は前年の1988年に終結している。
専門家会議は比較的平穏な環境で集まり、後継者を決めた。

今回は根本的に状況が異なる。
2月28日から米国とイスラエルの攻撃が続いている。
革命防衛隊トップのパクプール司令官をはじめ、複数の上級司令官が殺害された。
BBCは「司令拠点は損傷し、指導部は壊滅し、意思決定は危機的な状況にある」と指摘する。

  1989年の選出 2026年の選出
社会状況 平時(戦争終結の翌年) 戦時(空爆が継続中)
前任者の死因 病死(86歳) 空爆による殺害(86歳)
軍の状態 健在 上層部が次々と殺害
選出機関 安全に集まれた 施設が攻撃を受けた
結果 有力候補でないハメネイ師が選出 未定

1979年のイスラム革命から47年間で、戦時下に最高指導者を選出した前例はない。
イランの憲法は、ここまでの事態を想定していなかったのではないか。

3つのシナリオ

⚠️ ここからは推測です

以下の3つのシナリオは、報道された事実に基づく推測であり、確定情報ではありません。

今後の展開は大きく3つに分かれるだろう。

シナリオ①:数日以内に後継者決定
攻撃の合間を縫って専門家会議が緊急招集され、短期間で後継者が決まる。
アラグチ外相の発言はこの線を示唆している。


シナリオ②:臨時評議会の長期化
88人の集結が困難な状態が続き、臨時評議会の集団指導体制が長期化する。
安全な場所の確保が鍵になる。


シナリオ③:体制そのものが揺らぐ
攻撃の激化と国内の抗議運動が重なり、体制が大きく動揺する。
BBCは「治安部隊の一部が分裂したり命令を拒否したりすれば、地上で情勢が急速に変化する」と指摘している。

いま確かなこと

事態は数時間単位で動いている。
どのシナリオになるかは、攻撃がいつ止むか、88人が無事に集まれるかにかかっている。
確かなのは、イランの体制は過去にない試練の只中にあるということだ。

(推測パートはここまでです)

 

 

 

まとめ

  • イラン中部コムで3月3日、最高指導者の後継者を選ぶ「専門家会議」の施設が攻撃された
  • 専門家会議は88人のイスラム聖職者で構成され、最高指導者の選出・罷免を担う憲法上の機関
  • イランの憲法には指導者死亡時の「自動復旧」の仕組みがあり、臨時評議会が即日発足した
  • 攻撃が「人」から「仕組み」へ向いたことは、体制転換を狙う明確な意図を示唆している
  • 1979年以来47年間で、戦時下の最高指導者選出は前例がなく、憲法の想定を超えた事態になっている

よくある質問(FAQ)

Q1. イランの専門家会議とは何ですか?

イスラム法学者88人で構成される合議体で、最高指導者の選出・監督・罷免を担うイラン憲法上の機関です。

Q2. イランの最高指導者はどのように選出されますか?

専門家会議が非公開の投票で選出します。候補者は監督者評議会(12人)の審査を通過する必要があります。

Q3. 専門家会議の建物はなぜ攻撃されたのですか?

ハメネイ師殺害後も体制が自動復旧する仕組みを断つため、後継者選出機関そのものが標的になったとみられます。

Q4. コム(ゴム)とはどんな場所ですか?

テヘランの南約135キロにあるシーア派第2の聖地で、イスラム法学の教育機関が集中する聖職者養成の中枢都市です。

Q5. イランの次期最高指導者の候補は誰ですか?

ハメネイ師の息子モジュタバ師(消息不明)、ホメイニ師の孫ハッサン師、ロウハニ元大統領の3人が有力候補です。

Q6. 専門家会議のメンバーは無事ですか?

2026年3月3日時点で88人の構成メンバーの安否は不明と報じられています。

Q7. イランの後継者はいつ決まりますか?

アラグチ外相は「1〜2日」と発言しましたが、施設攻撃後の情勢では見通しは不透明です。

Q8. 1989年の前回選出はどうだったのですか?

平時に行われ、有力候補でなかったハメネイ師が予想に反して選出されました。

Q9. イランの体制は崩壊するのですか?

憲法上の権力移行制度は機能していますが、継続的な攻撃下での維持は47年間で前例がなく不透明です。

Q10. 臨時指導評議会とは何ですか?

最高指導者の死亡後に発足する暫定の国政代行機関で、大統領・司法府長官・聖職者の3人で構成されます。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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