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通販会社が、赤字続きの家電メーカーを年商まるごとの金額で買いに来た。
2026年6月19日、 ジャパネットホールディングス (長崎県佐世保市)が新潟県燕市の家電メーカー・ ツインバード へのTOBを発表した。
買収総額は最大約 87億円 。
ツインバードの2026年2月期の年間売り上げは 89.9億円 だったから、ほぼ1年分の稼ぎと同じ金額を出して、会社ごと手に入れようとしていることになる。
しかも相手は 2年連続で赤字 を出している会社だ。
テレビで商品を売り続けてきたジャパネットが、なぜそこまでするのか。
株を持っている人はどう動けばいいのか。
その答えは、ジャパネットがずっと抱えてきた「作れない」という問題にある。
この記事でわかること

TOBって何?ツインバード株はどうなる
391 円の株が 800 円になる——それがTOBという手続きの、最もシンプルな意味だ。
TOB(株式公開買い付け)とは
市場の外で株主に直接「この値段で株を売ってください」と声をかけて会社を買い取る手続き。
普通は証券取引所(マーケット)を通じて売り買いするが、TOBはそのルートを使わず、買い手が直接「○○円で買います」と全株主に向けて提示する。
今回の場合、買い手はジャパネット、提示価格は 1株800円 だ。
TOBが発表された 6月19日 のツインバードの終値は 391円 だった。
市場価格の 約2倍超 の値段を付けたことになる。
この「上乗せ分」のことをプレミアム(割増金)と呼ぶ。
ジャパネットホールディングス の公式発表でも、この数字が明示されている。
TOBが成立してジャパネットが全株を取得すれば、ツインバードは東証スタンダード市場から 上場廃止 になる。
ジャパネットの完全な子会社になるからだ。
なお、成立の条件として全株の 66.67% (3分の2以上)を集める必要がある。
下限に届かなければTOBは不成立になる。
TOBが不成立になった場合、株価はTOB発表前の水準かそれ以下に下落するリスクがあるだろう。
では、なぜジャパネットはわざわざツインバードを選んだのか。
その答えは「ジャパネットが今まで持っていなかったもの」にある。
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ジャパネットはなぜ「作る会社」がほしいのか
テレビで商品を売るのが得意なのに、 ジャパネットには「自分で作る力」がなかった 。
ジャパネットはこれまで、プライベートブランド(PB、自社ブランドの商品)の企画・開発を強みにしてきた。
しかし 製造は外部のメーカーへの委託(外注)が中心 だった。
M&A Online の報道がその実態を伝えている。
- 商品の企画・開発は自社
- 製造は外部メーカーに依頼
- スピード・品質が外部に左右される
- 製造から販売まで一社でまかなう
- 顧客ニーズをすぐ商品に反映できる
- 品質・コストを自社で管理できる
外注に頼り続ける限り、「こういう商品がほしい」という顧客の声があっても、それをすぐに形にできない。
外部メーカーのスケジュール、コスト、品質管理に左右されるからだ。
外注依存が続く限り、顧客ニーズへの反映速度や品質管理に限界があるというのがジャパネットの判断ではないか。
ジャパネットが目指すのは「 製販垂直統合モデル 」だ。
製造から販売、アフターサービスまでを全部一社でまかなう仕組みのことで、 朝日新聞 の報道にもその表現が使われている。
物流の効率化やコールセンターの相互活用なども利点として挙げられている。
「燕三条という世界に誇る職人文化の土壌で、卓越した技術から素晴らしい製品を生み出されてきたツインバード様への深い敬意があります」
——ジャパネットホールディングス公式発表より
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製品そのものより、作る力と場所への関心が透けて見える。
「では、赤字が続くツインバードに、なぜそこまで高い値段を出すのか」——そこにこそ、この買収で一番見落とされがちな話がある。
赤字の会社を「年商まるごと」で買う理由
87億円 。
ツインバードが1年間働いて稼ぐ全収入とほぼ同じ金額で、会社ごと買おうとしている。
ツインバードの 2026年2月期 の純損益は 12.1億円 の 赤字 だ。
売り上げ 89.9億円 のうち約 13.5% が消えた計算になる。
しかもこれは2年続けての赤字で、当初「1億円の黒字」と見込んでいたが大幅に下方修正した。
ツインバードの公式IR決算説明資料 がその数字を示している。
【数字で見る買収規模】
買収総額 87億円 ÷ 年間売上高 89.9億円 = 約0.97倍
→ ツインバードが1年間まるごと働いた収入と、ほぼ同じ金額
それでも終値の 2倍超 のプレミアムをジャパネットが提示したのはなぜか。
その答えは「決算書には出てこない資産」にある。
燕三条の工場、職人のネットワーク、そして独自の製造技術——市場はそこに 391円 しか値段を付けていなかったが、ジャパネットは 800円 という別の値段を付けた。
ツインバードが持つ「もう一つの顔」——FPSC技術とは
FPSC(フリー・ピストン・スターリング・クーラー)は、マイナス 80度 以下まで冷やせる独自の超低温冷凍技術だ。
一般的な冷蔵庫とは全く別の仕組みで、医療・バイオ・コールドチェーン(低温で荷物を運ぶ物流)の分野で使われている。
燕三条の職人技術とネットワークによって量産に成功した、ツインバード固有の強みだ。
さらに見落とせないのが、ジャパネットの企業史における「 初 」という事実だ。
今回のツインバードへのTOBは、ジャパネットにとって 上場企業への買収として初めてのケース だ。
もともとジャパネット自体が「上場しない会社」として知られており、代表の 髙田旭人 氏も非上場主義を公言してきた会社だ。
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ジャパネットが赤字会社に年商まるごと分の金を出したのは、製造能力への投資であると同時に、外注依存という構造的なボトルネック(問題の詰まり場所)を解消するための「垂直統合の入場料」だったのではないか。
工場や機械への支払いではなく、 「自分たちで好きに作れる会社になるための権利」を買った とも読める。
「販売が得意な会社が製造を内製化しようとする」という動きは、コスト圧力と消費者ニーズの多様化が進む業界で今後も起きやすいパターンだろう。
ただし、この計画が動き出すには大前提がある。
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ツインバードが「OK」と言うことだ。
「合意していない」ツインバードの本音
「 一方的な公表を行わないよう要請していた 」——ツインバードがTOB発表当日に出したコメントの、最初の一文だ。
ジャパネットのTOB発表を受け、ツインバードは同日、「両社で合意されたものではない」という言葉を含むコメントを発表した。
朝日新聞 によると、ツインバードは「企業価値ひいては株主共同の利益を確保し、向上させるかという観点から慎重な検討を行い、見解を公表する予定」とも述べている。
交渉の流れを整理すると、ジャパネットは 2026年2月 にツインバードへの完全子会社化を打診し始めた。
工場の視察なども行い、最初は資本業務提携(お金と事業の協力をセットで結ぶこと)から進める方向で検討が進んでいた。
しかしツインバード側が「資本構成(株の持ち方)の変更を前提にした提案には応じられない」と返答した。
M&A Online がその経緯を伝えている。
両社社長が面談。
ジャパネット側が完全子会社化の可能性を打診
工場視察・アフターサービス現場の視察などを通じて協議。
資本業務提携から着手する方向で検討
ツインバード側が「資本構成の変更を前提にした提案には応じられない」と返答。
協議が実質的に途絶える
ジャパネットがツインバード取締役会に意向表明書を提出
ジャパネットがTOB開始予定を公表。
ツインバードは「合意していない」と反発。
特別委員会が審議開始
その後、ジャパネットは協議を再開する機会を得られなかった。
だからTOBという形に切り替えた——それがジャパネット側の説明だ。
現在、ツインバードは社外取締役で構成する特別委員会を設け、賛否を審議している。
取締役会が賛同するかどうかは、まだ見通せない状況だろう。
賛同しない、もしくは 2026年10月30日 までに意見表明がなければ、ジャパネットはTOBを取り下げる。
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TOBが成立するかどうかはまだわからない。
ではツインバード株を持っている人や「ジャパネットの家電が変わるかも」と思っている人には、この先何が起きるのか。
株主にとって「今できること」と今後の焦点
10月30日 が、ツインバードがジャパネットの傘下に入るかどうかの、まず最初の分かれ道になる。
ツインバード株を持っているなら、今後の動きはシンプルだ。
- ツインバードの取締役会が 賛同意見を表明 すれば、TOBは 10月下旬 から 30営業日間 行われる
- 公開買付代理人(手続きを仲介する証券会社)は みずほ証券 だ
- TOBに応募すれば、 1株800円 で売ることができる
- 上場廃止後は市場での売買ができなくなるが、最終的には強制的に買い取られることが多く、その価格はTOB価格と同額になることが一般的だ
注意が必要なのは TOBが不成立になった場合 だ。
ツインバードが賛同しなければ株価は発表前の水準に戻りうる。
「 800円 で売れると思って買った」という判断が 裏目に出るリスク がある。
消費者目線でも変化はありそうだ。
ジャパネットの公式発表 が示す「製販一体」の方針が実現すれば、今後のジャパネットのテレビ通販でツインバード製品が以前より多く登場するようになるのではないか。
「ジャパネットが自分で作った家電」がどんな形で画面の前に並ぶか、という話が現実になる可能性がある。
⚠️ この先の焦点は1点に絞られる。
ツインバードの特別委員会がいつ、どんな見解を出すか だ。
賛同が出なければ、約87億円をかけたこの計画はそのまま白紙になる。
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「販売が得意な会社」と「作るのが得意な会社」が本当に一つになれるかどうかは、まだ2026年の秋にかかっている。
まとめ
- ジャパネットがツインバードに提示した買付価格は1株800円で、TOB公表日の終値391円の2倍超。成立すれば株主は全株をその価格で売れるが、不成立なら株価は発表前に戻るリスクがある
- 買収額の約87億円はツインバードの年間売り上げとほぼ同規模。赤字会社に年商まるごとの金を出す理由は「工場を買う」のではなく「自分たちで作れる会社になるための権利を買う」という垂直統合の入場料だったのではないか
- ツインバードは「一方的な公表を行わないよう要請していた」と反発しており、取締役会の賛否は未定。10月30日までに賛同しなければTOBは取り下げられる
- ツインバードはコーヒーメーカーや掃除機だけでなく、医療・バイオ分野で使われる超低温冷凍技術(FPSC)も持つ。ジャパネットがこの技術に何を見ているかが今後の焦点になりうる
よくある質問(FAQ)
Q1. ツインバード株はTOBで800円になる?今から買っても利益が出る?
ジャパネットは1株800円でTOBを提案しています。
ただしツインバードの取締役会が賛同しない場合はTOBが実施されず、株価がTOB発表前の水準に下落するリスクがあります。
Q2. ジャパネットはなぜツインバードを買収したいの?
ジャパネットはこれまで製品の製造を外部メーカーへの委託に頼ってきました。
ツインバードの工場と技術を取り込み、製造から販売まで一社でまかなう仕組みを作るのが狙いです。
Q3. TOBが成立したらツインバードは上場廃止になる?
ジャパネットが全株を取得した場合、ツインバードは東証スタンダード市場から上場廃止になります。
その後はジャパネットの完全な子会社になります。
Q4. ツインバードの取締役会はTOBに賛成するの?
現時点では賛否は決まっていません。
ツインバードは社外取締役で構成する特別委員会で審議中です。
賛同しない場合や2026年10月30日までに意見表明がなければ、TOBは取り下げられます。
Q5. TOBに応募しなかったらどうなる?
TOBが成立して上場廃止になった後は、市場で株を売ることができなくなります。
最終的には強制的に買い取られることが多く、その価格はTOB価格と同額になることが一般的です。
Q6. ジャパネットがツインバードに出した買収額87億円は高い?安い?
ツインバードの年間売り上げは約90億円で、買収額の87億円とほぼ同規模です。
2期連続赤字の会社に対して終値の2倍超を提示しており、市場が評価していない工場や技術に高い値段を付けた形です。
Q7. ツインバードはどんな会社?何を作っている?
新潟県燕市に本社を置く家電メーカーです。
掃除機・コーヒーメーカー・トースターなどの小型家電のほか、医療・バイオ分野で使われる超低温冷凍技術(FPSC)も持っています。
📚 参考文献
- ジャパネットホールディングス「株式会社ツインバード(証券コード:6897)の普通株式に対する公開買付けの開始予定に関するお知らせ」 (2026年6月19日)
- M&A Online「ツインバード<6897>、テレビ通販大手のジャパネットホールディングスによるTOB実施予定を発表」 (2026年6月19日)
- 時事通信「ツインバードにTOB=家電製造に参入―ジャパネット」 (2026年6月19日)
- 朝日新聞「通販大手のジャパネット、家電メーカーのツインバードにTOB提案」 (2026年6月19日)
- ツインバード「2026年2月期 通期決算説明資料」 (2026年4月14日)
- nikkei.com
- khitc.com
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