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なぜ風が弱いとロケットは飛べない?カイロス3号機中止の理由を60秒で解説

カイロス3号機が風の弱さで打ち上げ中止になった理由を解説するアイキャッチ画像

| 読了時間:約7分

「風が弱いからロケットが飛ばせない」。
直感に反するこの理由で、2026年3月1日、カイロス3号機の打ち上げが中止になった。
鍵をにぎるのは風の「強さ」ではなく「想定との差」だ。

 

 

 

ロケットにとって怖いのは「強風」ではなく「想定外の風」

風が弱いのに、なぜ飛ばせないのか。

打ち上げ中止と聞けば、暴風で飛ばせなかったと想像する人がほとんどだろう。
風がおだやかなら問題ない、と考えるのが自然だ。

ところが3月1日にカイロス3号機を止めたのは「風が弱すぎた」という理由だった。

記者会見での説明

朝日新聞の報道によると、スペースワンの阿部耕三・渉外しょうがい本部長は記者会見でこう説明した。
「向かい風を秒速60メートルと見込んでいたのに実際は30メートルほどだった」。

秒速60メートルは時速216キロ。
秒速30メートルは時速108キロ。

つまり新幹線並みの向かい風が、高速道路の車程度にまで落ちた計算になる。

「半分に減ったなら楽になるのでは?」と思うかもしれない。
だが話はそう単純ではない。


高度10キロ付近で何が起きるのか

ロケットは打ち上げ前に「この風の中をこう飛ぶ」と飛行計画を立てる。
機体の姿勢や方向を調整する制御も、その風を前提にあらかじめ設定される。

産経新聞の報道では、3号機は冬のジェット気流じぇっときりゅうを前提に飛行経路を組んでいた。
ところが当日は春先のような気象に変わり、高度10キロ付近の風が大幅に弱まった。

 

 

 

その結果「事前に設定していた機体制御のままでは正常な飛行が困難になった」という。

高度10キロ=ロケットが最も強い力を受ける区間

この高度10キロ付近は、ロケットが上昇中に空気から最も強い力を受ける区間に近い。
航空宇宙工学では最大動圧点さいだいどうあつてん(Max-Q)と呼ばれる。
Wikipediaの解説によれば、スペースシャトルでもMax-Qは高度およそ11キロだった。

ロケットは上がるにつれて速度が増す一方、空気は薄くなっていく。
この二つがぶつかり合う高度で、空気がロケットを押す力がピークに達する。

旅客機が飛ぶのとほぼ同じ高さだ。

この区間で風が想定と大きくずれると、機体にかかる力の方向や大きさが変わる。
朝日新聞によれば「細長いロケットは風の当たり方が少し変わるだけで揺れ方や力のかかり方が変わり、段の切り離し部などが傷むおそれがある」。

ロケットにとって怖いのは風の強さそのものではなく、想定とのずれだ

車なら追い風でも向かい風でも同じ道を走れる。
だがロケットは風の条件をあらかじめ計算に織り込んで飛び方を決める。

だから風が弱くなるだけで計画が狂う。

強くてもダメ、弱くてもダメ。実はカイロスの2号機は、今回とまったく逆の理由で打ち上げを延期していた。

 

 

 

2号機は「強風」で延期、3号機は「弱風」で延期――本質は同じだった

2号機と3号機の延期理由は真逆に見える。
だがどちらも「想定との差」が原因だ。

2024年12月、カイロス2号機は打ち上げ当日に延期が決まった。
日経新聞によれば、理由は「射場上空の高度10キロメートル以上の風速が非常に強く、打ち上げに適さない」ためだった。

そして2026年3月の3号機は「風が弱すぎる」。

2号機(2024年12月)

風が強すぎた

3号機(2026年3月)

風が弱すぎた

  2号機 3号機
延期理由 風が強すぎた 風が弱すぎた
季節 真冬 冬→春の移行期
問題の高度 10キロ付近 10キロ付近
本質 想定との差 想定との差

理由は真逆なのに、問題が起きた高度はどちらも10キロ付近。
そしてどちらも本質は同じで、事前の想定と実際の風のずれにある。


固体燃料ロケットが風に敏感な理由

ここで一つ疑問がわく。
なぜカイロスはこれほど風のずれに弱いのか。

⚠️ ここからは推測を含みます

背景の一つとして、カイロスが固体燃料こたいねんりょうロケットであることが挙げられるだろう。
固体燃料は、いわばロケット花火と同じ原理だ。
一度火をつけたら燃え尽きるまで止められない。

 

 

 

液体燃料ロケットならバルブを開閉して推力を調節できる。
飛行中に「風が想定と違う」と分かれば、エンジン出力を変えて対応する余地がある。

一方、固体燃料にはその柔軟さがない。
だからこそ事前の飛行計画の精度がより重要になり、風の予測が外れた場合の対応余地が狭くなるのではないか。

2回の打ち上げ失敗と2度の延期を経て、カイロスは3度目の挑戦を待つ。このロケットがなぜこれほど注目されるのか。その背景には、日本の宇宙輸送が抱える深刻な事情がある。

 

 

 

3度目の正直を待つカイロス――日本の宇宙輸送は「空白期」にある

カイロスへの期待が大きいのは、今の日本には、すぐに衛星を打ち上げられるロケットがほぼないからだ。

初号機は爆発、2号機は飛行中断

カイロスの歩みは苦難の連続だ。

Wikipediaの情報によれば、初号機は2024年3月に発射わずか5秒後に爆発した。
推進薬すいしんやくの燃焼速度の予測にずれがあり、安全システムが「飛行範囲を逸脱した」と判断して自ら機体を破壊した。

続く2号機は2024年12月に打ち上げられたが、3分7秒後に飛行中断
ノズルの角度を検知するセンサーが誤った信号を出し、姿勢を制御できなくなった。

到達高度は110.7キロだった。

3号機の搭載衛星

sorae.infoによると、3号機にはテラスペースの「TATARA-1R」(約70キロ)など超小型衛星5基を搭載。
台湾の宇宙機関TASA広尾学園の高校生が関わった衛星も含まれている。

民間の小型ロケットに、国家機関の衛星から高校生の衛星まで託されている。
この多様さ自体が、カイロスへの期待の大きさを物語っている。

 

 

 

なぜカイロスに期待が集中するのか

産経新聞はこう報じている。
大型基幹ロケットH3は8号機が2025年12月に打ち上げ失敗し、原因を調べている最中だ。

小型のイプシロンはすでに運用を終え、後継のイプシロンSも開発が難航している。

日本の宇宙輸送の現状

つまり現時点の日本は、国が運用するロケットで衛星をすぐに打ち上げる手段がない。
産経新聞の表現を借りれば「日本の宇宙輸送への信頼は大きく揺らいでいる」状態だ。

そんな中で、民間企業スペースワンのカイロスが衛星の軌道投入きどうとうにゅうに成功すれば、日本の宇宙輸送にとって大きな突破口になる。

スペースワンは次回の打ち上げを最も早くて3月4日以降と発表している。
予備期間は3月25日まで。

3度目の挑戦がどうなるか、風の条件も含めて注目が集まる。

 

 

 

まとめ

  • カイロス3号機の打ち上げ中止理由は「上空の風が想定より弱かった」こと
  • ロケットにとって問題なのは風の強弱ではなく「事前の想定との差」
  • 高度約10キロ付近はロケットが最も強い空気の力を受ける区間で、ここでの風のずれが致命的になる
  • 2号機は「強風で延期」、3号機は「弱風で延期」。理由は真逆だが本質は同じ
  • 次回打ち上げは3月4日以降。日本の宇宙輸送が空白期にある今、3度目の挑戦に注目が集まっている

よくある質問(FAQ)

Q1. なぜ風が弱いのにロケットを打ち上げられないのですか?

ロケットは事前に風の条件を計算して飛行計画を立てるため、風が想定より弱いと制御の設定が合わなくなり飛べなくなります。

Q2. カイロス3号機の打ち上げ中止の原因は何ですか?

高度約10キロ付近の風が想定より大幅に弱く、冬型のジェット気流を前提にした機体制御では正常な飛行が困難になったためです。

Q3. カイロス3号機の次回打ち上げはいつですか?

スペースワンは最も早くて2026年3月4日以降と発表しています。予備期間は3月25日までです。

Q4. カイロス初号機が打ち上げに失敗した原因は何ですか?

推進薬の燃焼速度の予測にずれがあり、安全システムが飛行範囲を逸脱したと判断して発射5秒後に機体を自ら破壊しました。

Q5. カイロス2号機も風で打ち上げ延期されたのですか?

2024年12月に「上空の風速が強すぎる」として延期されました。3号機の弱風延期とは真逆の理由ですが、本質は同じ「想定との差」です。

Q6. カイロスロケットは何回失敗していますか?

初号機(2024年3月)と2号機(2024年12月)の2回連続で打ち上げに失敗しており、成功率は0%です。3号機が3度目の挑戦になります。

Q7. ロケット打ち上げ時の風の制限はどうなっていますか?

JAXAの基準では地上風は最大瞬間風速20m/s以下。高層風は機体の荷重が設計荷重を超えないことが条件とされています。

Q8. カイロス3号機にはどんな衛星が搭載されていますか?

テラスペースのTATARA-1R(約70kg)など超小型衛星5基。台湾TASAや広尾学園の高校生が関わった衛星も含まれています。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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