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神奈川から東京への分水が半減しても、東京の水道はすぐには困らない。
この分水量は、東京の水源全体のうち数%にすぎないからだ。
ただ、その裏には意外と知られていない県をまたぐ水の融通の仕組みがある。
神奈川からの分水が半分に――東京の水道への影響はどれほどか
東京都への給水に影響はない。
都の水道局がそう明言している。
「分水が半分になる」と聞けば、東京の蛇口から出る水がいきなり減ると身構えるだろう。
しかし実態は違う。
神奈川県企業庁の公式発表によると、削減されるのは日量22万立方メートルから11万立方メートルへの変更だ。
東京都水道局の見解
東京都水道局の発表では「利根川・荒川水系など他の水源も活用しており、現状、都民の皆さまへの給水に影響はありません」としている。
なぜ影響が限定的なのか
東京の水源は約8割が利根川・荒川水系で、残り約2割が多摩川水系だ。
神奈川からの分水は、都の水源全体のうち数%を占める程度にすぎない。
毎日新聞の報道でもこの点が明記されている。
日量11万立方メートルという削減量を別の角度で見てみる。
tvkニュースによると、これは神奈川県民の約23万世帯が1日に使う水道水に相当する。
神奈川にとっては大きな温存策だが、東京全体から見れば割合は小さい。
むしろ苦しいのは神奈川のほうだ
3月3日時点の貯水率を比べると、構図がはっきりする。
| 水系 | 貯水率 |
|---|---|
| 利根川水系上流9ダム(東京の主力) | 37% |
| 荒川水系4ダム | 38% |
| 多摩川水系・小河内ダム | 36% |
| 相模川水系3ダム(神奈川) | 33% |
| 神奈川県内4湖合計 | 34% |
数値の出典は国土交通省 関東地方整備局と神奈川県企業庁の発表による。
神奈川のほうが東京より貯水率が低い。
自県の水を守るために、東京への融通を削らざるを得なかった。
蛇口をひねれば当たり前に水が出る日常は、こうした県をまたぐ水の融通の上に成り立っている。
では、そもそもなぜ神奈川が東京に水を送っているのか。
川崎経由で世田谷へ――知られざる「東京分水」70年の仕組み
川崎市の中に東京都の浄水場がある。
この事実を知る人はどれくらいいるだろうか。
神奈川県・川崎市・東京都の三者は1955年に分水協定を結んだ。
戦後の急速な人口増で東京の水道需要が爆発し、都が神奈川に水の融通を求めたことがきっかけだ。
横浜水道みちの調査記録によると、1959年に川崎市多摩区の長沢浄水場が完成し、分水が始まった。
分水のルート
相模ダム(相模湖)で取水した水は、津久井導水路から自然流下で川崎市の長沢浄水場に届く。
その隣に東京都の長沢浄水場があり、浄水された水は多摩川を渡って世田谷区の砧浄水場へ送られる。
つまり相模湖の水が、相模原市・町田市・川崎市を経て多摩川を越え、世田谷区まで届いている。
この分水は1964年の東京オリンピックの水も支えた。
当時は「東京砂漠」と呼ばれる深刻な渇水のさなかだった。
「渇水に強い神奈川」を支えてきた4ダムの連携
神奈川県の公式ページによると、県内の水需要の9割以上は相模川水系と酒匂川水系の2つでまかなわれている。
相模湖・津久井湖・宮ヶ瀬湖が相模川水系に、丹沢湖が酒匂川水系に属する。
この4つのダム湖は導水管でつながっている。
片方の水系で水が減れば、もう片方から融通する。
テレ朝NEWSの取材で相模川水系ダム管理事務所の筒井部長は「それぞれの湖の水を有効に使えるようにしている」と語った。
2001年に宮ヶ瀬ダムが完成してからは、この連携がさらに強まり、県内で給水制限は一度も行われていない。
30年ぶりの非常措置
ところが今回の記録的な少雨は、そのネットワークでも追いつかない規模だった。
国土交通省の記録によると、1996年にも分水50%制限と取水10%制限が行われており、それ以来30年ぶりの非常措置となった。
30年ぶりの分水半減を強いられた神奈川。
では、この渇水はいつまで続くのか。
渇水の行方――春の雪解け水は救いになるか
取水制限は、すぐに蛇口の水が減るわけではない。
取水制限は川からくみ上げる水の量を減らす措置だ。
ダムの水を温存する目的で行われる。
一方、蛇口の水圧が下がったり時間帯で断水したりするのは給水制限と呼ばれる。
段階がまったく異なる。
取水制限
川からの取水量を減らす
給水制限
蛇口の水圧低下・断水
東京の回復を左右するのは利根川の雪解け
毎日新聞の報道によると、都水道局は「春先の雪解け水で、都の貯水率はある程度回復する見込み」との見方を示している。
東京の水源の8割を占める利根川・荒川水系の上流には冬場に積もった雪がある。
春の気温上昇でこれが溶け出せば、ダムへの流入量が増える。
水系によって回復力に大きな差がある
ただし全ての水系が同じように回復するわけではない。
| 水系 | 貯水率 | 雪解けの恩恵 |
|---|---|---|
| 利根川上流9ダム | 37% | 大きい |
| 鬼怒川4ダム | 80% | 大きい |
| 荒川4ダム | 38% | 中程度 |
| 多摩川・小河内ダム | 36% | 限定的 |
| 相模川水系(神奈川) | 33% | 限定的 |
数値は国土交通省 関東地方整備局の3月3日時点データによる。
注目すべきは鬼怒川4ダムだけが貯水率80%と突出して高い点だ。
同じ関東でも水系ごとの差は極めて大きい。
相模川水系は富士山麓の雪解けに頼る面があるが、今冬の積雪が少なければ回復は鈍いだろう。
⚠️ ここからは推測
神奈川県が分水量を元に戻すには、県内4湖の貯水率がある程度まで持ち直す必要がある。
春の降水量が平年並みに回復しなければ、削減措置は長引くのではないか。
一方で東京は利根川系の雪解けが見込めるぶん、神奈川ほどの深刻さには至らないだろう。
東京都水道局も神奈川県も、ともに節水を呼びかけている。
黒岩知事は動画メッセージで「むだづかいに気をつけて水を大切に使ってほしい」と述べた。
すぐに断水や給水制限になる状況ではない。
ただし蛇口をひねるたびに「この水はどこから来ているのか」と想像してみるだけで、節水への意識は変わる。
まとめ
- 神奈川県は3月5日から東京都への分水を日量22万㎥から11万㎥に半減。1996年以来30年ぶりの措置
- 東京の水道への影響は限定的。分水は都の水源全体の数%にすぎず、都水道局は「給水に影響はない」と明言
- むしろ神奈川のほうが苦しい。県内4湖の合計貯水率は34%まで低下し、自県の水を温存するための決断
- 東京は春の雪解け水で回復が見込まれるが、相模川水系の神奈川は楽観できない。日々の節水がいま私たちにできる一番の備え
よくある質問(FAQ)
Q1. なぜ神奈川県は水不足にならないと言われているのか?
相模川水系と酒匂川水系の4ダムが導水管でつながり、水を相互に融通できる仕組みがあるため。
Q2. 神奈川から東京への分水はいつから始まったのか?
1955年に三者協定が締結され、1959年に川崎市の長沢浄水場完成とともに分水が始まった。
Q3. 分水半減で東京の水道は大丈夫なのか?
東京都水道局は「給水に影響はない」と明言。分水は都の水源全体の数%にすぎない。
Q4. 取水制限と給水制限の違いは何か?
取水制限は川からの取水量を減らす措置。蛇口の水圧低下や断水を伴う給水制限とは段階が異なる。
Q5. 渇水はいつまで続くのか?
都水道局は春の雪解け水で貯水率が回復する見込みとしているが、降水量次第で長引く場合もある。
Q6. 神奈川県のダムの貯水率は現在どのくらいか?
2026年3月1日時点で県内4湖の合計貯水率は34%。相模川水系3ダムは33%まで低下している。
Q7. 東京の給水制限はいつから始まるのか?
現時点で給水制限の予定はない。都水道局は利根川・荒川水系など他の水源で対応できるとしている。
Q8. 家庭でできる節水方法はあるか?
東京都水道局と神奈川県がそれぞれ節水を呼びかけ中。各公式サイトで具体的な方法を紹介している。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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📚 参考文献
- 神奈川県企業庁「神奈川県企業庁渇水対策本部の設置について」(2026年3月3日)
- 東京都水道局「水源の状況について」(2026年3月3日)
- 毎日新聞「神奈川から東京への『分水』、30年ぶり半減 5日から 渇水が影響」(2026年3月3日)
- 国土交通省 関東地方整備局「首都圏の水資源状況(リアルタイム)」(2026年3月3日)
- 国土交通省「平成8年 相模川水系・酒匂川水系の渇水」(PDF)
- 神奈川県「少雨時の『水系間の連携』のしくみ」
- テレ朝NEWS「なぜ?貯水率11%の隣は73% 神奈川のダム"最後の砦"」(2026年2月18日)
- 横浜水道みちを行く「相模川の水が東京へ・東京分水の話」