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絆ホールディングス150億円不正の手口とは?なぜ可能だったのか解説

絆ホールディングス150億円不正受給の手口と仕組みを解説する報道写真風イメージ

| 読了時間:約11分

障がい者支援の税金が、合法に見える抜け穴で消えた。

2026年3月27日、大阪市は福祉事業会社「絆ホールディングス」グループ4事業所に指定取り消し処分を下した。不正受給の総額は約150億円。約2年間で、これほどの規模の税金が引き出されていた。

なぜこれほどの巨額が、長期間にわたって見抜けなかったのか。「36ヶ月プロジェクト」と呼ばれた手口の仕組みから、利用者・職員50人の証言、そして監査体制の実態まで整理する。

 

「就労移行支援体制加算」と「36ヶ月プロジェクト」——150億円を生んだ手口の全貌

150億円という不正を可能にしたのは、制度の仕組みを逆手に取った「グループ内での就職・出戻りローテーション」だった。

架空の利用者を作る単純な偽造実在する利用者を使い、書類の上では制度の文言通りに見える申請を繰り返す——これが今回の不正の核心だ。

「成果報酬」がすべての利用者の単価を上げる

まず舞台となった「就労継続支援A型」から押さえておく。一般企業での雇用が難しい障がいのある人と雇用契約を結び、最低賃金以上の給与を支払いながら就労訓練を行う事業所だ。運営費は国や自治体からの給付金が柱になっている。

その給付金には基本報酬に上乗せされる「加算金」がある。今回の不正の核心となったのが、就労移行支援体制加算しゅうろういこうしえんたいせいかさんという制度だ。利用者が一般企業に就職し6か月以上続けて働いた実績が認められると、事業所に「成果報酬」が入る。

ここで多くの人が誤解するポイントがある。

⚠️ 制度の核心:乗数効果

加算は就職した利用者1人の給付金が増えるだけではない。在籍する全利用者分の1日あたりの基本報酬が上がるのだ。就職実績が多ければ多いほど、事業所全体の収益が雪だるま式に膨れ上がる。

たとえば定員40人の事業所が年間10人の就職実績を作ると、翌年度は40人全員の給付単価が上乗せされる。仮に1人あたり1日800円の加算なら、月20日稼働で月64万円だ。年間では768万円の追加収入になる。複数の大型事業所で同時に動かせば、年間で数億円規模の利益になる。

 

 

 

「36ヶ月プロジェクト」の5ステップ

不正を生み出すサイクルの流れ

  1. 障がいのある人をA型事業所の「利用者」として受け入れる
  2. 同じ事業所内またはグループ内の別会社に「スタッフ(職員)」として雇用形態を切り替える
  3. 6か月後、「一般就労に定着した」として加算条件を達成し、加算金が発生する
  4. その後、再びA型事業所の「利用者」に戻す
  5. 一定期間を空けて再びスタッフとして雇用し、同じサイクルを繰り返す

絆ホールディングスの公式声明には、大阪市からの処分理由として「利用者の障害特性や就労能力ではなく、事業所の主導により計画的に自社雇用への移行を繰り返した」と明記されている。

同社はこのプロジェクト自体の不正認定には「見解を異にする」として法的手続きで争う姿勢だ。ただ大阪市は「定着に向けた継続的な支援体制が構築されているとは評価できない」と断じた。


なぜこの手口で150億円という規模に達したのか。そこには制度設計のもう一つの落とし穴があった。

大阪府平均1.3人 vs 絆グループ157〜253人——見過ごされた桁違いの「異常値」

大阪府内のA型事業所が年間に一般就労へ移行させられる利用者は、平均でわずか1.3人だ。

ところが、複数の報道や行政向け解説記事によると、絆グループの各事業所は同年度に157〜253人を申告していた。

桁違いの数字が意味するもの

大阪府内A型 平均

1.3人

年間就労定着申告数

絆グループ 各事業所

157〜253人

約120〜190倍

普通の高校で年間1〜2人しか合格しない最難関大学に、毎年160〜250人が合格したと申告するようなものだ。この数字が何年間も放置された

📊 データ出典

「大阪府内のA型事業所における2024年度の就労定着者は、1事業所あたり平均1.3人でした。ところが絆グループの各事業所は、同年度に157人から253人もの就労定着者を申請していました」
(出典:他人事ではない——絆ホールディングス150億円不正受給事件から

 

 

 

なぜ被害が全国に広がったのか

coki.jpの解説によると、被害が膨らんだ理由は2つある。

一つ目は加算の「乗数効果」だ。就職実績の人数と在籍する全利用者数の掛け算で加算額が決まる。同グループは大量の障がい者を雇用して事業を急拡大していた。一件の実績が生む加算が、利用者数の多さで何倍にも跳ね上がった。

二つ目は「居住地主義」による全国への波及だ。給付金は事業所の所在地ではなく、利用者が住む市町村が支払う仕組みになっている。絆グループはリモートワークを活用し、全国から利用者を集めていた。

💰 被害の全国規模

大阪市への不正請求が約79億円、その他75自治体への請求が約71億円14都府県・75市町村に被害が広がり、合計約150億円に達した。「大阪市の問題」ではなく全国規模の問題だった。

発覚のきっかけは、この「異常な数字の申請」だった。大阪市が2025年8月から本格的な監査に乗り出したことで、実態が明るみに出た。


では、その間に事業所へ通っていた障がいのある利用者たちは、実際に何をしていたのか。50人以上への取材から浮かび上がった実態は、想像を超えるものだった。

「全く支援していない」——利用者・職員50人が語った事業所の実態

MBSが2026年4月1日に公開した取材記事によると、接触した50人以上の元利用者・職員らの多くが「仕事の実態はほとんどなかった」と証言した。

就職支援の事業所で、何が行われていたのか。

「架空の仕事」と「動画を見るだけ」の日々

💬 元利用者の男性(MBS取材)

「仕事はしてないです。自己学習してほしいっていうような感じでしたね。勉強方法もYouTube使っている人もいるし、自分で教材を買ってやっている人もいるし」

交通安全ポスターの制作を命じられたという元利用者の女性は、採用か不採用かも伝えられなかったと話している。「会社が意図的に、時間つぶしのために作った架空の仕事なんじゃないかなって」——その言葉は重い。

さらに深刻なのは、支援する側の職員からの証言だ。

💬 グループの現役職員(MBS取材)

「利用者さんが何年後か、何か月後かに就職する、その能力をつけるためにこういう支援をしましょうということは、一度も言われたことがないですね。1日利用者と話す時間は5〜10分程度だったりするので、まったく支援はしていません

加害者側の組織にいる現役職員が「全く支援していない」と認めた。これは単なる批判ではなく、組織的な問題であることを示す一次情報だ。

 

 

 

利用者は「コマ」だったのか

テレビ朝日の報道でも、事業所を利用した人がこう語っている。

「私たちはお金を稼ぐためのコマなのかなって。性善説に基づいて作られている制度。その隙を突いた稼ぎ方というか」

加算の要件を満たすまで引き留められた利用者もいた。ある女性は「もう少しでいいからいてくれ」と職員に頼まれたと証言している。障がいのある人の自立支援という目的は、完全に形骸化していた


これほどの不正が数年間見抜けなかったのはなぜか。監査体制の問題と今後の行方を見ていこう。

「書類を提出して、はい終わり」——見過ごされた監査体制と今後の行方

テレビ朝日の報道で、絆HD元社員がこう指摘する。「監査の人数がどう考えても少ないです。書類を提出して、はい終わり」。この言葉が今回の問題の構造を端的に表している。

「優良企業の認定」が逆に働いた

実は絆ホールディングスは、障がい者雇用に優れた中小企業を国が認定する「もにす認定もにすにんてい」を受けていた会社だ。2024年9月に認定を取得していたが、今回の問題を受けて2026年3月23日付で取り消された。

障がい者雇用の「優良企業」として国から折り紙つき最大規模の不正業者だった。書類審査中心の行政チェックの限界を、この逆説は示している。

広がる波紋と返還請求

coki.jpの解説によると、大阪市は今回の事件を受けて市内全1649事業所の実態調査を行った。その結果、34事業所で規定への抵触の可能性が浮上している。

大阪市が絆グループに求める返還額は約110億円だ。支給した約79億円に、障害者総合支援法が定める4割のペナルティを上乗せした金額になる。刑事告訴・告発についても弁護士と協議中だ。

📋 行政・国の対応

大阪市の横山英幸市長は「制度の信頼を揺るがしかねない。厳しい態度を持って臨んでいく」と表明した。厚生労働省も監査頻度の引き上げや抜き打ち検査の導入を検討している

一方で、最も深刻な影響を受けるのは利用者だ。4事業所は2026年4月末に閉鎖される。突然職場を失う障がいのある人たちへの支援が、急務となっている。

 

 

 


ここまでは報道で確認できた事実だ。次は、この事件の「構造的な問題」に踏み込んで考えてみたい。

この事件が問いかける本当の問題——「性善説の制度」と「成果主義の罠」

⚠️ ここからは事実に基づく考察であり、確定情報ではありません。以下は筆者の構造分析です。

報道されている文脈

報道の多くは「悪徳企業が制度の抜け穴を意図的に悪用した」という文脈でこの事件を伝えている。確かに今回の手口は緻密で組織的だ。

ただ、この見方だけだと「特殊な悪人の話」として終わってしまう。テレビ朝日の取材で利用者が語った「性善説に基づいて作られている制度。その隙を突いた稼ぎ方」という言葉には、より深い構造問題が含まれているとみられる。

「善意の設計」が「悪用の設計」になるとき

福祉の給付制度は本来、支援者が正直に動くことを前提に設計されている。就労移行支援体制加算も「一般就労を頑張って支援した事業所を評価したい」という善意から生まれた仕組みだ。

ところがこの制度には構造的な脆弱性があったとみられる。成果(就職実績)に報酬を連動させ、その成果が「在籍全利用者の収益」に跳ね返る乗数効果を持つ設計だ。これは熱心な事業所へのインセンティブとして機能する一方で、「数字を作ることへの強力な動機」も同時に生み出す

行動経済学では「インセンティブは意図しない行動を引き起こす」という原則がある。成果主義の報酬設計が本来の目的を逸脱させる事例は、医療・教育・金融など多くの分野で繰り返されてきた。福祉の世界でも同じ構造が働いたという見方もできるだろう。

⚠️ さらに踏み込んだ考察(推測)

「誰が何の情報を得たか」という観点でみると、この問題は行政側の「監査能力の限界」という情報も露わにした。書類が整っていれば異常値でも通過するという現実だ。この弱点は福祉分野に限らず、給付金行政全般に共通するリスクだという指摘もある。

あなたが考えてほしいこと

この問題で最終的な被害を受けたのは、突然職場を失った障がいのある利用者たちだ。制度を「ハック」した代償は、最も弱い立場の人々が払わされている

「性善説の制度」を維持しながら不正を防ぐにはどうすればいいのか。この問いに答えを出すのは行政だけの仕事ではないだろう。福祉ビジネスへの民間参入が進む今、制度の恩恵が本当に届くべき人に届いているかを問い続けることが、社会全体に求められているといえるのではないか。

📝 まとめ

  • 絆ホールディングスの不正は架空請求ではなく、実在利用者を使った「グループ内での就職・出戻りローテーション」だった
  • 「就労移行支援体制加算」は就職実績が在籍全員の給付単価を上げる乗数効果を持ち、不正の規模を拡大させた
  • 大阪府平均1.3人に対し絆グループは157〜253人を申告。この桁違いの数字が何年も放置された
  • 元利用者・現役職員50人以上が「全く支援していない」と証言。利用者は加算金を生み出す「コマ」として扱われたとの声が相次いだ
  • 大阪市は110億円の返還を請求し、刑事告訴も検討中。市内34事業所で規定抵触の可能性が浮上している

❓ よくある質問(FAQ)

Q1. 就労移行支援体制加算とはどんな制度?

障がい者が一般企業に就職して6か月以上定着した際、事業所に支払われる加算金。在籍する全利用者の給付単価が上がる仕組みで、就職実績が多いほど事業所の収益が増える。

Q2. 「36ヶ月プロジェクト」の手口とは?

利用者をグループ内でスタッフとして半年雇用し「就職実績」を作成。その後利用者に戻してサイクルを繰り返すことで、加算金を何度も引き出していた手口。

Q3. なぜ150億円という巨額になったのか?

就職実績が全利用者の給付単価を上げる乗数効果と、利用者の居住地(全国75自治体)に請求が広がったことが原因。大阪市だけでなく14都府県に被害が及んだ。

Q4. 絆ホールディングスは逮捕されるのか?

大阪市は刑事告訴・告発について弁護士と協議中。同社は一部の不正認定に異議を唱えており、法的手続きで争う姿勢を示している。

Q5. 利用者(障がい者)はどうなるのか?

4事業所は2026年4月末に閉鎖。厚生労働省が大阪労働局に出張相談会の実施を指示し、ハローワークに特別相談窓口を設置するなど受け入れ先確保を急いでいる。

Q6. 同様の不正をしている事業所は他にもある?

大阪市が市内全1649事業所を調査したところ、34事業所で規定への抵触の可能性が浮上している。

Q7. 「もにす認定」とは何か?

障がい者雇用に優れた中小企業を国が認定する制度。絆HDは2024年9月に取得していたが、今回の問題を受けて2026年3月23日付で取り消された。

Q8. 今後、制度はどう変わるのか?

厚生労働省は監査頻度を年1回に引き上げ、抜き打ち検査の導入を検討している。書類審査だけに頼らない実態確認の仕組み作りが急務となっている。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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