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困窮世帯の40.2%が、子どもの入学費用を借金で用意していた。
2026年2月27日に公表されたあすのばの調査が、その実態をあぶり出した。
「無償化」が広がるこの時代に、なぜ入学前から家計が追い詰められるのか。
5世帯に2世帯が借金——あすのば調査が映す「入学費用」の重さ
借金で入学費用をまかなう世帯は、5世帯に2世帯にのぼる。
調査の結果
あすのばの調査報告書(2024年度)によると、住民税が非課税の世帯や生活保護世帯の保護者813人のうち、「親族や知人からの借金」が19.8%、「銀行やカードローン」が15.0%、「社会福祉協議会の貸付」が10.8%。
重複を除いた結果、40.2%にあたる326人が何らかの借金をしていた。
調査の対象は、公益財団法人あすのばの給付金を受け取った2,248人。
回答率は36.1%だった。
前年度から悪化している
あすのばの2023年度調査では、借金をした世帯は37.8%だった。
前年度(2023年度)
37.8%
今年度(2024年度)
40.2%
調査の対象人数が異なるため単純比較はできない。
ただ、物価上昇が続くなかで負担が増している傾向は読み取れる。
食事を減らし、医療費を削る
借金以上に多かったのが「節約」だ。
42.1%がほかの生活費を切り詰めて入学費用にあてていた。
| 費用の捻出方法 | 割合 |
|---|---|
| 節約して充当 | 42.1% |
| 貯金の取り崩し | 31.5% |
| 親族・知人からの借金 | 19.8% |
| 銀行・カードローン | 15.0% |
| 社会福祉協議会の貸付 | 10.8% |
※毎日新聞報道および調査報告書より。複数回答。
節約の中身はさらに深刻だ。
誕生日やクリスマスの支出をあきらめた保護者が約4割。
食事の回数を減らした人も約4割。
医療費を削った人は2割弱いた。
しかもこの調査の回答者には、週41時間以上働く保護者が20.0%、31〜40時間が25.8%含まれている。
フルタイムに近い働き方をしていても、入学費用を賄えていない。
入学式に新品を着せられない
入学式に新しい制服を着せたい。
親なら誰でもそう思う。
だが自由記述欄には、それがかなわない声があふれていた。
「お金が間に合わなくておさがりをもらったから、新しいカバンや制服や体操服を入学式に着せてあげられなかった」(山口県・ひとり親世帯)
——あすのば調査報告書 自由記述より
「電車の定期券を買う余裕がないので、自転車で通える距離の学校を選ぶようにお願いした」という声もあった。
岐阜県のひとり親世帯だ。
費用負担が最も重い項目
「制服・標準服」が最多で、中学入学時の平均は63,157円。
体操服、教科書、入学金、パソコン・タブレットと続く。
では、なぜ制度があるのにこれほどの負担がのしかかるのか。
「無償化」でも足りない——制度がすり抜ける3つの穴
高校無償化が広がっても借金が減らない。その背景には構造的な問題がある。
無償化されたから、もう教育費は大丈夫 → 52.1%が授業料の立て替え払いを経験。
これが今回の調査で明らかになった現実だ。
大学入学時は70.0%に跳ね上がる。
無償化されたはずの費用を、なぜ自分で立て替えなければならないのか。
制度に3つの穴がある。
穴①:無償化の対象は「授業料」だけ
無償化がカバーするのは授業料だ。
制服、体操服、教科書、パソコン。これらは全て自己負担になる。
中学入学時の制服代は平均63,157円。
セーブ・ザ・チルドレンの調査でも、2025年度の制服代は中1・高1ともに前年から約1万円上がっていた。
つまり
授業料が無料になっても、制服代だけで6万円超。
体操服、教科書、パソコンを足せば、入学時の自己負担は一気にふくらむ。
穴②:支援金が入学に間に合わない
低所得世帯の高校生には高校生等奨学給付金という制度がある。
授業料以外の教育費に充てられる返済不要の給付金だ。
ただし申請は入学後の7月ごろ。
支給は12月までかかる。
| 項目 | 時期 |
|---|---|
| 制服代の支払い | 入学前(2〜3月) |
| 奨学給付金の申請 | 入学後(7月ごろ) |
| 奨学給付金の支給 | 12月まで |
調査では、高校に進学した子どもがいる世帯の71.3%が支給時期を「遅い」と回答。
入学前支給があれば使いたいと答えた世帯は87.6%にのぼった。
10世帯中9世帯近くが「入学前にほしい」と訴えている。
奨学給付金は在籍確認のあとに申請する仕組みだ。
行政手続きの構造上、入学前に届けるのが難しい。
ただし就学援助では入学前支給を導入した自治体もあり、技術的に不可能というわけではないだろう。
穴③:就学援助の金額が実態に追いつかない
小中学生向けの就学援助には、入学前に支給される自治体もある。
だがここにも落とし穴がある。
驚きの事実
入学前支給を受けた世帯でも、約7割が「まかなえなかった」と回答している。
あすのば調査報告書の学識者講評で、千葉工業大学の福嶋尚子准教授はこう指摘する。
就学援助の利用率は88%、入学前支給の利用率は84.3%と高い。
それでも費用をまかなえない世帯が大半だ。
中学の制服代だけで平均63,157円。
就学援助の新入学学用品費は多くの自治体で6万円前後。
制服を買うだけで支給額がほぼ消える計算になる。
体操服や教科書にはもう回らない。
さらに深刻な事実がある。
2023年度の調査では、奨学給付金を利用していない世帯のうち約60%が「制度を知らなかった」と答えていた。
金額とタイミングの問題に加えて、そもそも情報が届いていない。
制度の穴は3つどころか、「知らない」という4つ目の穴も口を開けている。
では、当事者はこの現実にどう向き合っているのか。
「進学をあきらめた」——当事者の声と制度改善の行方
自由記述欄に並ぶのは、我慢と断念の記録だ。
「進学をあきらめ就職した」。
千葉県のひとり親世帯の声だ。
「全日制の高校に行かせてあげられなかった」という兵庫県の保護者もいる。
「ブラウスを1枚で着回し、下着も2枚。生理用品だけは充分に準備したかったので、削れるものは削った」(広島県・ひとり親世帯)
——あすのば調査報告書 自由記述より
セーブ・ザ・チルドレンの調査でも、高1保護者の約半数が「経済的な理由で就学を続けられない」不安を抱えていた。
中高生の約8割が「親がお金のやりくりに苦労していた」と答えている。
子ども自身が家計の苦しさを感じ取っている。
2026年度の制度変更で何が変わるか
2026年度から高校の授業料支援が大きく動く。
3党合意にもとづき、私立高校でも所得制限なしの無償化が始まる見通しだ。
奨学給付金も中間所得層まで対象が広がる方向にある。
ただし
拡充の中心は「授業料」と「対象世帯の拡大」。
制服代や教材費といった授業料以外の自己負担が大幅に軽くなるわけではない。
入学前支給の仕組みも制度化されていない。
つまり今回の調査が突きつけた「授業料以外の壁」は、2026年度以降もそのまま残る。
見落とされている「就職する子ども」
もうひとつ、調査の自由記述が浮き彫りにした盲点がある。
当事者の声
「進学への助成はたくさんあるが、就職への助成は一切ない。通勤に必要な自動車学校への支払いに苦労する」(新潟県・ひとり親世帯)
川崎医療福祉大学の直島克樹講師も講評で触れている。
就職する若者にはスーツ代や自動車免許、ひとり暮らしの初期費用といった負担がある。
だが支援制度はほぼ存在しない。
進学の話題に注目が集まりがちだが、高校を卒業して社会に出る子どもたちも、スタートラインで同じ壁にぶつかっている。
福嶋准教授は調査への講評で、制服の学校備品化や市販品・お下がりの活用促進、公費予算の拡充を求めている。
制度の金額を上げるだけでなく、そもそも家庭に求める費用を減らす発想が必要だという指摘だ。
まとめ
- 困窮世帯の40.2%が入学費用のために借金。前年度の37.8%から上昇した
- 節約42.1%の中身は食事・医療費・イベント費の切り詰め。フルタイムで働いても足りない
- 無償化の対象は授業料だけ。制服代・教材費・パソコン代は自己負担のまま
- 奨学給付金は入学に間に合わず、就学援助は金額が足りない。制度を知らない世帯も多い
- 2026年度の制度拡充は授業料中心。「授業料以外」の壁と入学前支給の未整備は残る
あすのばの給付金は、住民税非課税世帯・生活保護世帯を対象に3万〜5万円を届ける事業だ。
申し込みや詳細はあすのば公式サイトで確認できる。
よくある質問(FAQ)
Q1. 困窮世帯の4割が借金とはどんな調査の結果ですか?
公益財団法人あすのばが住民税非課税・生活保護世帯の保護者813人に行った2024年度調査の結果です。
Q2. 入学費用で最も負担が大きい項目は何ですか?
制服・標準服が最多で、中学入学時の平均は63,157円。体操服、教科書、入学金、パソコンと続きます。
Q3. 高校無償化なのになぜ借金が必要なのですか?
無償化の対象は授業料のみ。制服・教材・パソコンは自己負担で、支援金の支給も入学後のため間に合いません。
Q4. 高校生等奨学給付金とは何ですか?
住民税非課税世帯等の高校生に授業料以外の教育費を支給する返済不要の国の制度。申請は入学後の7月ごろです。
Q5. 就学援助の入学前支給で費用はまかなえますか?
あすのば調査では入学前支給を受けた世帯でも約7割が「まかなえなかった」と回答しています。
Q6. あすのばの給付金はいくらもらえますか?
住民税非課税世帯・生活保護世帯を対象に、小中学校入学で3万円、中学卒業で4万円、高校卒業で5万円です。
Q7. 2026年度から入学費用の負担は軽くなりますか?
授業料の無償化は拡充されますが、制服代や教材費など授業料以外の自己負担は大きく変わらない見通しです。
Q8. 前年度と比べて借金の割合は増えていますか?
2023年度調査では37.8%でしたが、2024年度は40.2%に上昇。ただし調査対象が異なるため単純比較には注意が必要です。
Q9. 困窮世帯の保護者は働いていないのですか?
フルタイムに近い働き方をしている保護者が約半数。働いていても入学費用を賄えない実態があります。
Q10. 就職する子どもへの支援制度はありますか?
進学向けの支援は増えていますが、スーツ代や自動車学校の費用など就職時の支援制度はほぼ存在しません。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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📚 参考文献
- あすのば「住民税非課税・生活保護世帯における入学・新生活の費用負担に関する実態調査報告書(2024年度)」(2026年2月27日)【権威:公益財団法人公式調査】
- あすのば「住民税非課税・生活保護世帯における入学・新生活の費用負担に関する実態調査報告書(2023年度)」(2026年2月27日)【権威:公益財団法人公式調査】
- あすのば「入学・新生活応援給付金 アンケート結果公表」(2026年2月27日)【権威:公益財団法人公式ページ】
- 毎日新聞「制服に入学金…困窮世帯の4割、新生活で借金 公的支援届かず」(2026年2月27日)【専門:大手新聞報道】
- セーブ・ザ・チルドレン「経済的に困難な子育て世帯の中高生の教育費負担 実態調査」(2025年10月30日)【専門:国際NGO調査】