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草津市の老老介護殺人はなぜ実刑か──6人家族なのに妻は孤立していた

草津市の老老介護殺人事件──6人家族の中で起きた介護者の孤立と実刑判決の背景

| 読了時間:約8分

体が不自由な71歳の妻が、認知症の夫をひもで絞めた。
子どもや孫と暮らす6人家族の自宅で。

2025年1月、滋賀県草津市で起きたこの事件は、同年12月に懲役2年6月の実刑判決で幕を閉じた。
被告自身も要介護の身であり、同居家族がいたにもかかわらず介護はひとりに集中していた。

事件の経緯から判決の分岐点、そして9日に1件のペースで起きている介護殺人を防ぐ手がかりまで、整理していく。

 

 

 

要介護の妻が認知症の夫を殺害──6人家族の中で起きた孤立

2025年1月、滋賀県草津市のマンションで71歳の妻が認知症の夫(当時76歳)の首をひもで絞めて殺害した。被告自身も要介護2の身で、同居家族がいながら介護はひとりに集中していた。

「ダブル要介護」という異常な状況

毎日新聞の報道によると、殺人罪に問われたのは無職の山田かなえ被告(71)。
2025年1月11日夜から12日朝にかけ、草津市内の自宅マンションで夫・義則さん(当時76歳)の首をひもで絞め、窒息死させた。

📌 毎日新聞の報道より

山田被告は2023年2月に脳出血で倒れ、左半身が不自由になった。
事件当時は自身も要介護2の認定を受けていた。

介護殺人と聞くと、高齢者2人きりの世帯を思い浮かべる人が多いだろう。
頼れる家族がいなかったからこそ追い詰められた、と。

ところが、この事件の被告は長男、次女、孫2人と暮らす6人世帯だった
京都新聞の報道でも、遺体発見時には全員が在宅していたと伝えられている。

同居していれば助けになる。そう考えるのは自然だ。
だが弁護側は法廷で「同居する長男や次女らのサポートも見込めない」状況だったと述べた。

 

 

 

認知症の急激な悪化と「あの夜」

事件に至るまでの経緯を時系列で整理する。

① 2023年2月
山田被告が脳出血で倒れる。左半身が不自由になり、要介護2の認定を受ける

② 認知症の夫を介護する日々
自身の体が不自由なまま、義則さんの世話を続ける

③ 2024年12月ごろ
義則さんの認知症が急激に進行する

④ 2025年1月11日〜12日
夜間に何度も呼ばれたことに追い詰められ、犯行に及ぶ

⑤ 2025年5月2日
産経新聞の報道によると、大津地検が殺人罪で起訴。約3か月の鑑定留置を経ていた

⑥ 2025年12月11日
大津地裁が懲役2年6月の実刑判決を言い渡す

認知症が2024年12月に急激に悪化した。
その前後を境に、夜間に繰り返し呼ばれる状態が続いたとされる。

左半身が不自由な体で、眠れない夜が何日も重なった。

🗣️ 姉の法廷証言(毎日新聞より)

「あまり他人に相談しない性格。(苦しい状況を)知らせてくれたら何とかできたかもしれない」

6人で暮らしていても、介護の負担は被告ひとりに集中した。
同居は、必ずしもサポートを意味しない。この事件が突きつけるのは「家族の中の孤立」という構造的な問題だ。

被告の姉が法廷で涙を流したように、背景には多くの人が胸を痛める事情がある。
それでも裁判所は実刑を選んだ。判断の分岐点はどこにあったのか。

 

 

 

なぜ執行猶予がつかなかったのか──「軟骨が折れる力」が分けた量刑

2025年12月11日、大津地裁は山田かなえ被告に懲役2年6月の実刑を言い渡した。犯行態様が「残忍」と認定されたことが、実刑と執行猶予の分かれ目になった。

殺人罪の27%は執行猶予がつく

殺人罪で有罪になった被告のうち、実は約27%に執行猶予がついている。
弁護士法人グラディアトルの解説が、この統計を紹介している。

介護疲れが背景にある事件では、執行猶予が認められるケースも少なくない。
では、なぜこの事件は実刑になったのか。

⚠️ 判決のポイント

京都新聞の速報は判決を「軟骨が折れるほどの力で首を絞めた」「残忍」と報じた。
検察も公判で「強固な殺意に基づくしつようなもの」と指摘している。

 

 

 

懲役2年6月は法的な「これ以上軽くできない最低ライン」

殺人罪の法定刑は「死刑、無期懲役、または5年以上の懲役」。
最低でも5年のため、執行猶予の条件である「3年以下の懲役」をそのままでは満たせない。

弁護士JPの解説によると、自首や酌量減軽しゃくりょうげんけいが認められた場合、刑の下限を2分の1にまで引き下げられる。
殺人罪なら懲役2年6月が下限だ。

つまり、懲役2年6月とは酌量減軽で到達できる最も軽い刑にあたる。
裁判所は介護の苦しみを最大限くみ取ったうえで、それでも執行猶予はつけなかった。

犯行の態様が「残忍」「しつよう」と認定されたことが、実刑と執行猶予の分かれ目になったと見られる。


他の介護殺人事件との比較

近年の介護殺人事件と比べると、判決の分岐点がより鮮明になる。

事件 判決 自首
草津市・夫殺害 懲役2年6月・実刑 報道なし
和歌山・夫殺害 懲役3年・執行猶予5年 あり
東京国立・母殺害 懲役3年・執行猶予5年 通報あり

和歌山の事件では自首が認められ、裁判長が「被告人の心情は理解できる」と述べた。
国立の事件では12年間ほぼ一人で102歳の母を介護していた孤立が重視された。

草津の事件にも介護疲れという共通の背景がある。
だが「軟骨が折れるほどの力」で首を絞め続けた行為が、酌量しゃくりょうの範囲を超えたと裁判所は判断したのだろう。

2年6月という刑は、同情と厳罰のぎりぎりの境界線にある。
裁判所は背景を認めつつも、犯行態様を理由に実刑を選んだ。

では、こうした悲劇を繰り返さないために、何ができるのか。

 

 

 

9日に1件起きている介護殺人──追い詰められる前にできること

介護疲れによる殺人・心中事件は毎年平均39件。ほぼ毎週、日本のどこかで介護をめぐって命が失われている。

数字が示す深刻さ

関西テレビの報道が、日本福祉大学の湯原悦子教授の調査をもとに伝えた数字だ。
9日に1件。ほぼ毎週、日本のどこかで介護をめぐって命が失われている計算になる。

介護殺人・心中

毎年平均39件

10年間の死者数

少なくとも129人

厚生労働省のまとめでは、こうした事件で亡くなった高齢者は10年間で少なくとも129人にのぼる。
同省の調査による老々介護の割合は63.5%で過去最多を更新した。

介護する世帯の3世帯に2世帯が、高齢者同士で支え合っている。

💡 介護殺人は特殊な事件ではない

年間39件、9日に1件。制度の隙間で、誰の身にも起こりうる。

 

 

 

「相談すればいい」が通用しない壁

追い詰められた人に「相談すればいい」と言うのは簡単だ。
だが現実には、介護される本人がサービスを拒むという構造的な壁がある。

関西テレビの同じ特集では、94歳の認知症の母を死亡させた元弁護士がこう証言している。

「介護サービスを受けるよう繰り返し説得しても、施設に入れられると思い込み、その提案を拒否された」
──被告の法廷証言(関西テレビ)

法律のプロでさえ、母親の拒否を乗り越えられなかった。

介護事業大手「ツクイ」の執行役員で、自身も両親を介護する原優実さんの場合、親が第三者の介入を受け入れるまでに2年半かかったという。
同番組で原さんは、元気なうちから家事代行などを利用して「他人が家に入ること」への抵抗感を下げておくべきだったと振り返っている。

草津の事件でも、被告の姉は「知らせてくれたら」と悔やんだ。
被告は他人に相談しない性格だったとされるが、仮に相談していたとしても、認知症の夫がサービスを受け入れたかは分からない。


今日できる「最初の一歩」

もし自分が同じ状況に置かれたら、正常な判断ができるだろうか。
そう考えたとき、この事件は他人事ではなくなる。

追い詰められる前に知っておきたい相談先がある。

相談先 どんなとき使うか
地域包括支援センター 介護の悩み全般。市区町村に必ずあり、電話1本で相談できる
認知症の人と家族の会 認知症介護の経験者同士で話したいとき
弁護士(法テラス) 経済面や法律面の問題が絡むとき。守秘義務があり安心
配偶者暴力相談支援センター 認知症による暴力・暴言で追い詰められているとき

弁護士JPの記事で安達里美弁護士は、「被害者が『自分が悪いかもしれない』と思っているケースも多い。第三者に話すことで初めて自分の状況に気づく場合がある」と指摘する。

関西テレビの特集で西脇亨輔弁護士が語った言葉が印象に残る。
介護をタブーにしないこと。元気なうちに家族で話し合っておくこと」。

✅ 今日できること

この事件を知った誰かが、今日、地域包括支援センターの電話番号を調べるかもしれない。
そのひとつの行動が、次の悲劇を防ぐ最初の一歩になる。

 

 

 

まとめ

  • 介護する側自身が要介護2という「ダブル要介護」。現行制度は介護者が倒れたときの支援が手薄なまま
  • 同居家族がいても介護が一人に集中する「家族の中の孤立」。同居はサポートと同義ではない
  • 殺人罪の量刑は介護疲れだけでは決まらない。犯行態様が「残忍」と認定されれば、最大限の酌量でも実刑になる
  • 介護殺人は9日に1件。追い詰められる前に地域包括支援センターへの相談、家族との対話を

よくある質問(FAQ)

Q1. 介護殺人で亡くなる高齢者は年間何人ですか?

厚労省のまとめで10年間に少なくとも129人。湯原教授の調査では殺人・心中事件が毎年平均39件、9日に1件のペースで起きています。

Q2. 草津市の老老介護殺人事件の判決は?

2025年12月11日、大津地裁が山田かなえ被告に懲役2年6月の実刑判決を言い渡しました。「軟骨折れる力で首絞め」と認定されています。

Q3. 介護殺人なのに執行猶予がつかないのはなぜ?

殺人罪の27%に執行猶予がつきますが、犯行態様が「残忍」「しつよう」と認定されると最大限の酌量をしても実刑になります。

Q4. 殺人罪で一番軽い刑はどのくらい?

酌量減軽により法定刑の下限を2分の1にできるため、殺人罪なら懲役2年6月が最も軽い刑にあたります。

Q5. 介護殺人の原因は何ですか?

裁判所が認める主な要因の80%は介護疲れです。加えて経済的困窮や介護者自身の疾病も背景にあります。

Q6. 介護サービスを本人が拒否したらどうすればいい?

地域包括支援センターに相談するのが第一歩です。元気なうちから家事代行など第三者が家に入ることに慣れておくと拒否のハードルが下がります。

Q7. 地域包括支援センターとはどんなところ?

市区町村に必ず設置されている高齢者向けの総合相談窓口です。介護の悩み全般を電話1本で相談でき、費用はかかりません。

Q8. 老老介護の割合はどのくらい?

厚労省の2022年国民生活基礎調査で63.5%と過去最多です。介護世帯の3世帯に2世帯が高齢者同士で支え合っています。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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