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パスポートや免許証は、旧姓だけでは使えない。
「旧姓単記」を打ち出した高市首相自身が、3月2日の国会でそう認めた。
背景にはパスポートの国際ルールという壁がある。
しかも保守派・別姓推進派の双方から批判が噴出している。
この記事でわかること
高市首相「旧姓単記」指示から一転、パスポートや免許証は「併記の検討が必要」
全ての書類で旧姓だけが使えるようになるわけではない。
2月19日に「旧姓の単記も可能とする検討」を閣僚に指示した高市首相が、わずか11日後の3月2日、衆院予算委員会でブレーキをかけた。
結婚で姓が変わった人にとって、他人事ではない話だ。
「単記」と「併記」は何が違うのか
まず言葉を整理したい。
産経新聞の報道によると、高市首相は第2次内閣の指示書で平口洋法相と黄川田仁志男女共同参画担当相に「旧氏の単記も可能とする基盤整備の検討」を明記した。
ここで出てくる単記と併記は、まったく別ものだ。
| 単記 | 併記 | |
|---|---|---|
| 記載内容 | 旧姓のみ | 現在の姓+旧姓 |
| 免許証の例 | 山田花子 | 鈴木花子(山田花子) |
| 現在の制度 | 認められていない | 住民票・免許証等で可能 |
総務省の公式ページでも示されているとおり、今の制度で使えるのは併記だけだ。
単記は原則として認められていない。
なぜ「全書類で単記」にならなかったのか
産経新聞によると、高市首相は3月2日の衆院予算委で次のように述べた。
「厳格な本人確認に用いられるパスポート、運転免許証、マイナンバーカードなどは旧姓と現姓の併記を求める検討が必要」
つまり、名刺や社内書類のように本人確認のゆるい場面では旧姓の単記が使える方向だ。
しかしパスポートや免許証のように身分証明に使う書類は、現在の姓も一緒に載せる併記にとどまる。
あらゆる書類から現在の姓が消える → 書類の厳格さによって単記と併記を使い分ける。
これが制度の実像だろう。
では、なぜパスポートだけは特別に扱われるのか。
そこには日本の法律だけでは変えられない国際的なルールがある。
パスポートに旧姓単記ができない理由――ICチップに記録されない「国際ルールの壁」
パスポートは国内法だけで自由に書き換えられない。
パスポートに旧姓が書いてあれば、海外でもそのまま使えると思うかもしれない。
名前が2つ並んでいても、旧姓のほうを指させばいいだけだと。
外務省の公式見解
ところが、外務省の公式ページにはこう書かれている。旧姓の併記は「ICAO文書には規定されていない例外的な措置であるため、ICチップ及びMRZ(機械読み取り欄)には記録されません」。
ICAOとは、パスポートの国際ルールを決めている国際民間航空機関のことだ。
日本のパスポートはこのICAOの規格に準拠して作られている。
ICチップに入らないと何が困るのか
海外の入国審査では、パスポートのICチップを機械で読み取る。
チップに入っている名前と、ビザや航空券に書かれた名前を照合する仕組みだ。
旧姓はこのチップに記録されない。
だから査証も航空券も旧姓では取れない。
外務省自身が「査証及び航空券を右呼称で取得することは困難」と注意をうながしている。
意外と知られていない事実
入国審査でパスポートを差し出したとき、旧姓の併記を見た審査官から説明を求められる場面もある。外務省はそのために英語のリーフレットまで用意している。制度を作った側が「トラブルになりうる」と認めているようなものだ。
なぜ日本だけこの問題が起きるのか
フランスやイタリアでは、結婚しても法律上の名前は出生時の姓のまま変わらない。
パスポートにも最初からその姓が記載されるため、旧姓問題がそもそも起きにくい。
アメリカやイギリスでは、氏名変更時に社会保障番号の名義も書き換える。
名前が変わっても番号で追跡できるため、どちらの姓を使うかは個人の自由だ。
⚠️ ここからは推測です
日本では本人確認の鍵がいまだに「氏名」に頼っている。
マイナンバーが普及しつつあるとはいえ、欧米のように番号だけで個人を特定できる段階には達していないのではないか。
この氏名ベースの本人確認という古い仕組みが、旧姓単記の壁になっているといえそうだ。
パスポートの国際ルールが壁になるのであれば、この制度で結局何が変わるのか。
賛否の双方から不満の声が上がっている。
保守派も別姓推進派も不満――「旧姓単記」をめぐる三つどもえの構図
旧姓単記は、誰のための制度なのか。
高市首相は選択的夫婦別姓に反対する立場から、旧姓の通称使用を「第三の道」として打ち出した。
ところが、味方であるはずの保守派から真っ先に矢が飛んできた。
参政党・吉川里奈議員の追及
3月2日の衆院予算委で、参政党の吉川里奈議員はこう迫った。「旧氏を単独で使用できる場面が広く認められれば、実質的には夫婦別氏、親子別氏に近い状況が生じる」(TBS NEWS DIG)。
保守派から「実質的に夫婦別姓と変わらない」と批判されているのだ。
夫婦別姓を防ぐための代替案が、当の保守陣営から「それは夫婦別姓だ」と言われている。
首相の反論と、別姓推進派の不満
高市首相は同じ答弁でこう反論した。
「選択的夫婦別氏制度と、この旧氏の通称使用というのはもう全く別物でございます」(産経新聞)
戸籍上の姓は変わらないのだから別姓ではない、という理屈だ。
一方、選択的夫婦別姓を求める側も納得していない。
LIFULL HOME'Sの解説記事が指摘するとおり、金融機関や一部の公的手続きでは戸籍名が求められる場面が残る。
パスポートは先述のとおりICチップに入らない。
旧姓使用の法制化だけでは不便が解消されないというのが別姓推進派の主張だ。
法案の行方と、見えない着地点
TBS NEWS DIGによると、高市首相は2月27日の衆院予算委で「法案を通常国会に提出し、成立を目指す」と明言している。
産経新聞の報道でも、自民党と日本維新の会の連立政権合意書に旧姓使用の法制化が盛り込まれている。
法案が提出されること自体はほぼ確実だろう。
ただ、「厳格書類は併記」という条件がつく以上、パスポートや免許証の扱いをめぐる議論はこれからが本番だ。
結論
旧姓単記は、左右双方から不満が噴出する三つどもえの状態にある。保守派は「実質的な夫婦別姓」と警戒し、別姓推進派は「根本的な解決にならない」と批判する。その中間にある旧姓単記が、どこに着地するかはまだ見えない。
まとめ
- 高市首相は旧姓の「単記」検討を閣僚に指示したが、パスポート・免許証・マイナカードなど厳格な本人確認書類は「併記の検討が必要」と述べた
- パスポートの旧姓併記はICAO規格の例外措置で、ICチップにも機械読み取り欄にも記録されない。航空券やビザも旧姓では取れない
- 保守派は「実質的に夫婦別姓」、別姓推進派は「根本的解決にならない」と、双方から批判が出ている
- 法案は通常国会に提出される見通しだが、書類ごとの単記・併記の線引きが今後の焦点になる
よくある質問(FAQ)
Q1. 旧姓の「単記」と「併記」は何が違う?
単記は旧姓のみ記載。併記は現在の姓と旧姓を両方記載する。現行制度で使えるのは併記だけ。
Q2. パスポートに旧姓だけを記載できるようになる?
ICAOの国際規格により、旧姓はICチップに記録されない。パスポートは併記の検討にとどまる見通し。
Q3. 旧姓併記のパスポートで海外でトラブルにならない?
旧姓はICチップに未記録のため入国審査で説明を求められることがある。外務省が説明用リーフレットを用意している。
Q4. 旧姓単記と選択的夫婦別姓は何が違う?
旧姓単記は戸籍上の姓を変えず通称として旧姓を使う制度。選択的夫婦別姓は戸籍上の姓自体を別々に選べる制度。
Q5. 旧姓単記はいつから始まる?
高市首相は通常国会に法案を提出し成立を目指すと明言。ただし具体的な施行時期は未定。
Q6. 免許証に旧姓を併記するとどう表示される?
表面の名前の後にかっこ書きで旧姓が記載される。裏面に記載後、再交付で表面に印字することも可能。
Q7. なぜ保守派が旧姓単記を批判している?
公的書類で旧姓のみ使えると社会生活上は夫婦別姓と同じ状態になり、戸籍制度が形骸化すると懸念しているため。
Q8. 旧姓通称使用の法案の内容は?
国や企業に旧姓使用への配慮を努力義務として求める新法案が検討されている。詳細な条文は未公表。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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📚 参考文献
- 産経新聞「パスポート、免許証、マイナカードは旧姓併記検討 高市首相『単記も可能』への懸念に説明」(2026年3月2日)
- 産経新聞「高市首相『旧氏の単記』検討、担当閣僚に指示」(2026年2月19日)
- TBS NEWS DIG(dメニューニュース)「高市総理 厳格な本人確認が必要な書類は『旧姓の併記を求める検討も必要』」(2026年3月2日)
- 外務省「旅券(パスポート)の別名併記制度について」(2021年4月1日)
- LIFULL HOME'S「『旧姓使用』が法制化へ!?変更点と夫婦別姓との違い」(2026年1月26日)
- note(論客)「公的証明書の『旧姓の単記』とは何か」(2026年2月25日)
- アゴラ(池田信夫)「『旧姓単記』で夫婦同姓か夫婦別姓かという問題はなくなる」(2026年2月22日)
- TBS NEWS DIG「旧姓の通称使用の法制化めぐり 高市総理『法案を通常国会に提出し、成立を目指す』」(2026年2月27日)
- 総務省「住民票、マイナンバーカード等への旧氏の併記について」