| 読了時間:約5分
疝痛(せんつう)という「腹痛」が、なぜ名馬の命を奪うのか。
2026年6月8日 、北海道苫小牧市の ノーザンホースパーク で、元重賞馬 ラストインパクト が 16 歳で息を引き取った。
死因は「疝痛」——腸の異常による腹痛を意味する言葉だ。
柔らかい響きとは裏腹に、この病は馬にとって命取りになりうる。
しかもこの馬には、同じ「疝痛」と因縁を持つ名馬の血が流れていた。
この記事でわかること

6月8日、「ラスパク」が逝った
「 とても悲しいお知らせをしなければなりません 」—— ノーザンホースパーク が6月9日早朝、公式X(@northern_horse)に投稿した言葉だ。
とても悲しいお知らせをしなければなりません。⁰6月8日、ラストインパクトが疝痛のため亡くなりました。⁰今月初めに発症し、回復を願ってクリニックにて治療を続けてまいりましたが、残念ながらその願いは叶いませんでした。… pic.twitter.com/Y05kJfZlyD
— ノーザンホースパーク (@northern_horse) June 9, 2026
ラストインパクト は 2010 年生まれの牡馬。
父は ディープインパクト 、母は スペリオルパール という血統だ。
現役時代は重賞を 3 勝し、通算成績は 36 戦 7 勝を残した。
父ディープインパクト・母スペリオルパールの産駒として生まれる
栗東・松田博資厩舎から2歳でデビュー
小倉大賞典・京都大賞典・金鯱賞を同年に制覇。
重賞を3つ全て1年で勝利
ジャパンカップでショウナンパンドラにクビ差及ばず2着
ジャパンカップ14着を最後に現役引退。
ノーザンホースパークで乗馬に転身
疝痛のため死亡。
ノーザンホースパークが翌9日に公式発表
2026年 6月初旬に 疝痛を発症 し、クリニックで治療を続けた。
しかし回復は叶わず、 6月8日 に 16 歳で亡くなった。
ノーザンホースパークが 日刊スポーツ が伝えるかたちで発表した。
これが事実のすべてだ。
では、この馬が引退後にどんな9年間を過ごしたかを、あなたはどれだけ知っているだろうか。
広告
引退後9年間、彼は何をしていたか
「 穏やかで紳士的な性格の馬でした 」——ノーザンホースパークが公式Xにつづった言葉には、9年間の乗馬生活が凝縮されている。
日刊スポーツ によると、引退後の「 ラスパク 」はマラソン大会やホースパレード、馬術大会など多彩なイベントに出演した。
「ラスパク」という愛称で来園者に親しまれ続けた。
ここで少し意外に思う人もいるかもしれない。
重賞を 3 勝した牡馬なら、 普通は種牡馬(種付けをする父馬)になる のではないか、と。
実はそうとは限らない。
父がディープインパクトの産駒は非常に多く、その中で G1(最高格のレース)未勝利 の馬が種牡馬市場で求められるケースは限られていたのではないかと思われる。
だからこそラストインパクトは乗馬への道を歩んだのだろう。
繁殖用の父馬として牧場で過ごす。
ディープインパクト産駒の中でG1未勝利馬の需要は限られる
ノーザンホースパークで乗馬に転じ、マラソン大会・ホースパレードなどに出演。
ファンと直接触れ合う馬生
2017 年のジャパンカップを 14 着で終えた後、ラストインパクトはノーザンホースパークで乗馬に転じた。
競馬場を疾走していた馬が、子どもたちや観光客と触れ合う日々を送るようになった。
広告
では、その穏やかな9年間の終わりに待っていた「疝痛」とは、いったいどんな病気なのか。
「腹痛」が馬を殺す、その本当の理由
人間なら一晩寝れば治る「腹痛」が、 馬の世界では命取りになる ——その理由は馬の体の構造そのものにある。
疝痛(せんつう)とは
腸の炎症・便秘・痙攣(けいれん)・ねじれ(捻転)・詰まり(閉塞)などによって生じる腹痛の総称。
馬の場合、軽症から腸捻転(致死的)まで重さに大きな差がある。
「腹痛」という言葉から受けるイメージより、はるかに深刻な状態に発展することがある。
公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナル によると、馬は 嘔吐(おうと)ができない 体の構造をしている。
消化管の不調があっても吐き出す手段がなく、ガスや毒素が逃げ場を失う。
軽症なら回復する。
しかし 腸捻転(腸がねじれて詰まった状態) へと発展すると、緊急手術が必要になる。
治療しても助からないケースは少なくない。
「今月初めに発症し、回復を願ってクリニックにて治療を続けてまいりましたが、残念ながらその願いは叶いませんでした」というノーザンホースパークの言葉は、そのギリギリの戦いを示しているのではないか。
「腹痛」という言葉の柔らかさからは想像しにくい、深刻な闘いがあったことになる。
広告
ここまで読んで、「疝痛がなぜ怖いか」は伝わったと思う。
だが実は、この病とラストインパクトの間には、さらに深い「因縁」が存在する。
ナリタブライアンの「甥」に起きた、血統を超えた因縁
1998 年、 ナリタブライアン も疝痛を発症した後に胃破裂で逝った。
その「甥」にあたる馬が、 28 年後に同じ病で逝った。
ラストインパクトの母・ スペリオルパール の半兄(異父兄)には、 ビワハヤヒデ と ナリタブライアン という名前がある。
サンケイスポーツ も、「母がビワハヤヒデやナリタブライアンの半妹という良血馬」と伝えている。
ナリタブライアンは 1994 年に三冠(皐月賞・ダービー・菊花賞)を制した伝説的名馬だ。
そのナリタブライアンは 1998 年、疝痛を発症した後に 胃破裂で命を落とした 。
Number Web はこの事実を記録している。
疝痛発症→胃破裂で死亡。
ラストインパクトの母の半兄
疝痛発症→6月8日に死亡。
甥にあたる馬が28年後に同じ病で
同じ「疝痛」という病が、名血統の中で異なる世代を超えて繰り返された。
これはただの偶然だろうか。
広告
馬の消化器は嘔吐できない構造を持ち、腸も複雑な走行をしている。
この進化的な弱さは、血統がどれほど輝かしくても変わらない。
どれだけ名血統を重ねても消えない生き物としての弱点が、 28 年の時を経て 同じ形で現れたのではないか 。
「強い馬=病気に強い」というイメージは、人間側の思い込みにすぎないのかもしれない。
馬という生き物の前では、名血統も一頭の動物にすぎない。
それを静かに教えてくれるのが、この偶然の一致だ。
では、そうした名馬が引退後に過ごせる環境は、競走馬全体でどれほど用意されているのだろうか。
広告
年間6000頭が引退、「ラスパク」は恵まれていたのか
馬の平均寿命は 27 歳。
16 歳での死は「 寿命の約6割 」での別れだ。
しかし、そこまで生きられる引退馬は多くない。
東京新聞 によると、 2021 年に約 6369 頭の競走馬が引退した。
そのうち乗馬などに転じた馬は 2508 頭。
行き先が見つからない馬も少なくない のが実態だ。
年間約6369頭が引退。
乗馬などに転じた馬は2508頭で、余りの行き場は限られている
ノーザンホースパークでマラソン大会・ホースパレードなどに出演。
ファンに愛称で呼ばれた
ノーザンホースパークのように、観光施設でファンと触れ合いながら余生を送れるのは、引退馬の中でも 恵まれた環境だった といえるだろう。
愛称で呼ばれ、多くの人に直接撫でてもらえる馬生は、すべての馬に用意されているわけではない。
広告
あなたが競馬中継を楽しんでいるとき、そのレースを走った馬の「その後」まで想像したことはあるだろうか。
ラストインパクトの9年間は、そういう問いを投げかけている。
馬房前の献花台は6月24日まで
北海道苫小牧市の ノーザンホースパーク には今、かつてラスパクが暮らした馬房がある。
📍 献花台の設置情報
期間: 2026年6月10日(水)〜24日(水)
場所:ノーザンホースパーク内・ラストインパクトの馬房前(北海道苫小牧市)
公式X(@northern_horse)では随時情報を発信しているため、訪問前に確認するとよい。
「 ラスパク、たくさんの思い出をありがとう。
天国では心おきなく駆け回ってください 」—— ノーザンホースパーク公式X に残されたその言葉が、この馬の全てを語っている。
広告
名馬の血を持ちながら、疝痛という生き物としての弱点から逃れられなかった一頭の馬の物語は、競走馬という存在の奥深さを改めて教えてくれる。
まとめ
- ラストインパクトは2026年6月8日、疝痛のため16歳で死亡した。ノーザンホースパーク公式Xが当日発表し、6月10日から24日まで馬房前に献花台が設置される
- 疝痛とは腸の痙攣・捻転・閉塞による腹痛の総称で、馬は嘔吐できない体の構造から重症化しやすく、腸捻転に発展すると致死率が高い
- 母の半兄にあたるナリタブライアンも1998年に疝痛発症後に胃破裂で死亡しており、同じ「疝痛」が28年の時を経て血縁馬を奪ったことになる
- 引退後は乗馬転換し「ラスパク」の愛称で9年間ファンに親しまれた。馬の平均寿命27歳に対し16歳での別れは「寿命の6割」にあたり、行き場を失う引退馬も多い中、恵まれた余生だったといえるだろう
どれだけ名血統の馬でも、生き物としての弱点は変わらない——そのことを、ラストインパクトの死が静かに教えている。
よくある質問(FAQ)
Q1. ラストインパクトの死因は何ですか?
疝痛(腸の異常による腹痛)のため、2026年6月8日に16歳で亡くなりました。
6月初旬に発症し、クリニックで治療を続けましたが回復できませんでした。
Q2. 疝痛とはどんな病気ですか?馬にとってなぜ危険なのですか?
腸の炎症・痙攣・ねじれ(捻転)などによる腹痛の総称です。
馬は嘔吐できない体の構造のため毒素が逃げ場を失い、腸捻転に発展すると致死率が高くなります。
Q3. ラストインパクトは引退後どこで何をしていたのですか?
北海道苫小牧市のノーザンホースパークで乗馬に転じ、「ラスパク」の愛称でマラソン大会やホースパレード、馬術大会などのイベントに出演していました。
Q4. ノーザンホースパークの献花台はいつまで設置されますか?
2026年6月10日(水)から24日(水)まで、ノーザンホースパーク内のラストインパクトの馬房前に献花台が設置されます。
Q5. ラストインパクトとナリタブライアンはどんな関係ですか?
ラストインパクトの母・スペリオルパールの半兄がナリタブライアンです。
ナリタブライアンも1998年に疝痛発症後に胃破裂で亡くなっており、同じ疝痛という病が28年の時を経て血縁の馬を奪ったことになります。
Q6. ラストインパクトの主な競走成績はどのようなものでしたか?
通算36戦7勝で重賞を3勝(小倉大賞典・京都大賞典・金鯱賞、すべて2014年)。
2015年ジャパンカップで2着、2016年ドバイシーマクラシックで3着という実績を残しました。
Q7. 引退馬の余生はどのような状況ですか?
2021年に約6369頭が引退した中で乗馬などに転じた馬は2508頭です。
行き先が見つからない馬も少なくなく、ノーザンホースパークのような施設での余生は恵まれた例といえるでしょう。
📚 参考文献
- 日刊スポーツ「とても悲しいお知らせを…ラストインパクトの死をノーザンホースパークが発表 16歳」 (2026年6月9日)
- サンケイスポーツ「重賞3勝馬ラストインパクトが死す ノーザンホースパークがXで報告」 (2026年6月9日)
- ノーザンホースパーク公式X(@northern_horse)投稿 (2026年6月9日)
- Number Web「《現役馬が急死》ワグネリアンの未来を奪った"内臓疾患"はなぜ競走馬にとって危険なのか?」 (2022年1月7日)
- 公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナル「疝痛との闘い(イギリス)」 (2013年8月)
- 東京新聞「競走馬、引退したら…余生を支援、機運高まる」 (2023年2月28日)
- ja.wikipedia.org
- uma-furi.com
- x.com
リアルタイムニュースNAVI 編集部
reaitimenews.com
話題のニュースを「なぜ?」の視点で深掘りするニュースメディアです。法律・心理学・経済など専門分野の知識をもとに、報道だけではわからない背景や理由をわかりやすく解説しています。
広告