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1975年生まれの日本女性のうち、28.3%が生涯一度も子どもを持たなかった。
OECD加盟26カ国で最も高く、少子化が深刻なイタリアやスペインすら上回る。
なぜ日本だけが突出したのか。
その答えは「個人の選択」ではなく、30年かけて作られた構造の中にある。
この記事でわかること
日本の「生涯子なし率」28.3%はなぜ世界一なのか——9割が結婚を望んだ世代の真実
OECDが2024年6月に公表した報告書で、衝撃的な数字が明らかになった。
1975年生まれの日本女性のうち、子どもを持たない割合は28.3%。
比較できる26カ国の中で断トツの1位だった。
📊 OECDの報告
日本経済新聞の報道によると、1955年生まれの女性と比べて16.4ポイント上昇しており、増加幅もOECD加盟国で最大だった。
「子どもを持たない女性が3割」と聞くと、価値観が多様化して女性が自ら産まない道を選んだ、と受け止める人は多いだろう。
SNSでも「個人の自由」「産まないのも立派な選択」という声はよく見かける。
ところが、事実は違う。
甲南大学教授・前田正子氏の分析によると、1975年生まれの未婚女性に「いずれ結婚するつもりか」と尋ねた調査では、9割前後が「いずれは結婚するつもり」と答えていた。
結婚したくなかったのではない。
結婚できなかった——それがこの数字の正体ではないだろうか。
母親世代の3倍——たった20年で何が変わったか
母親にあたる1955年生まれの女性で、生涯子どもを持たなかった割合はわずか12%だった。
20年後の1975年生まれでは28.3%。
3倍近くに跳ね上がった。
| 国 | 生涯無子率 |
|---|---|
| 日本 | 28.3% |
| スペイン | 23.9% |
| イタリア | 22.5% |
| OECD平均 | 16.2% |
ダイヤモンド・オンラインの記事でも同じ数字が確認できる。
日本の28.3%はOECD平均の約1.7倍にあたる。
少子化のイメージが強いイタリアやスペインでさえ、日本には届かない。
「年収100万円未満で交際相手なし」が増えた
では、結婚を望みながらなぜ実現しなかったのか。
前田氏が引用する守泉理恵氏の研究は、25〜39歳の独身女性を分析した。
結婚や子どもをあきらめる「無子志向」が増えていたのは、「交際相手がおらず年収が100万円未満」のグループだった。
恋人がいる人や年収300万円以上ある人では、無子志向はむしろ低い。
つまり「結婚なんてしたくない」という価値観の変化ではなく、経済力とパートナーの不在が結婚を阻んでいた。
この構造がどう作られたのか。
1975年生まれの女性が社会に出た時代を振り返ると、その輪郭がはっきりする。
就職氷河期・派遣法改正・保育園反対——結婚できない構造はこう作られた
1975年生まれの女性が就職したのは、バブル崩壊直後だった。
世に言う「就職氷河期」のまっただ中である。
前田正子氏の記事(前編)によると、2000年代半ばまで大学卒業生の2割前後が無業かアルバイトのまま社会に出ていた。
低賃金の若い労働力がどんどん供給されていた時代だ。
⚠ 非正規雇用の拡大
1999年、派遣法が改正された。
非正規で働く人が急増し、育児休業などの両立支援策は正規雇用の人しか使えなかった。
制度はあっても、使える人が限られていた。
女性の貧困は「見えない問題」だった
男性の非正規雇用は30代で転職し安定する人もいた。
だが女性の場合、「結婚すれば経済問題は解決する」と見なされ、長く問題として認識されなかった。
前田氏は現代ビジネスの記事でこう書いている。
「女性は結婚すれば、経済問題は解決する」として、長く女性の問題は見過ごされてきたのだ。
初職から非正規のまま未婚で、不安定な生活を続けている女性も少なくなかった。
家にいても「家事手伝い」で済まされ、社会問題として浮上しなかった。
あなたの周囲に、非正規のまま40代や50代を迎えた女性がいないだろうか。
彼女たちの多くは「望んで独身を選んだ」わけではない。
保育園も子育て支援も、社会が拒んだ
構造の問題はもうひとつある。
前田氏は2003年から2007年まで横浜市の副市長を務め、保育園の整備を担当した。
そのとき直面したのが、住民の猛烈な反対だった。
「保育園ができるのは迷惑だ」——近隣住民がそう訴え、新設計画に反対運動が起きた。
子育て支援を広げようとしても、「若い親を甘やかしている」「昔の母親は冷蔵庫も洗濯機もない時代に何人も育てていた」という声が全国から寄せられた。
💡 社会の矛盾
少子化を嘆きながら、子どもを育てる環境づくりを「甘え」と退けた社会。
この矛盾に気づいたのは、ずっと後のことだった。
団塊ジュニア世代の問題が「個人の責任ではない」と認識されたのは、2008年のリーマンショック後に開かれた年越し派遣村がきっかけだった。
だが、そのときすでに1975年生まれは33歳。
出産の適齢期は過ぎつつあった。
こうして「第3次ベビーブーム」は訪れなかった。
最も人口の多い団塊ジュニア世代が、世界一の無子率を記録した世代になるという皮肉。
そのツケは、もうすぐ跳ね返ってくる。
2040年、「生涯子なし世代」が高齢者になるとき
推計より現実は速く進んでいる。
国立社会保障・人口問題研究所は、出生数が70万人を割る時期を2038年と見込んでいた。
だがnippon.comの報道によると、2025年の出生数は速報値で70万5809人。
日本人のみのカウントでは、すでに70万人を大きく割り込んでいる。
⚠ 推計を大幅に前倒し
推計より13年も前倒しで70万人割れに到達した。
少子化は「将来の問題」ではない。すでに起きている。
3人に1人が高齢者の社会
2040年、団塊ジュニア世代は65歳以上になる。
厚生労働省の白書によれば、そのとき日本の高齢化率は約35%に達する。
3人に1人以上が高齢者だ。
人口は現在より1000万人以上減る。
2025年から2040年にかけて、働き手にあたる生産年齢人口だけで約1100万人が消える。
| 年 | 30歳になる女性の数 |
|---|---|
| 2030年 | 約58万人 |
| 2040年 | 約52万人 |
| 2050年 | 約41万人 |
前田氏が前編で示したこの数字は決定的だ。
30代女性の人口そのものが58万人→52万人→41万人と急減する。
仮に出生率が改善しても、「母親になりうる女性」の数自体が減るため、出生数の大幅な回復は望めないだろう。
「生涯子なし3割」の世代が突きつけるもの
⚠️ ここからは推測です
以下の内容は、確定した事実ではなく筆者の分析に基づく推測を含みます。
「生涯子なし」が3割を占める世代が高齢者になるとき、子どもに介護を頼れない人が大量に発生する。
年金・医療・介護の担い手は足りなくなり、社会保障の維持は今よりはるかに厳しくなるだろう。
2000年代に団塊ジュニアの出産を支えていれば、30代女性の急減を10年は遅らせることができたのではないか。
前田氏はそう指摘する。
今の少子化は、30年前に「やらなかった」ことの帰結だ。
「今から14年後への準備と覚悟は私たちにあるだろうか」
——前田正子氏
まとめ
- 1975年生まれの日本女性の28.3%が生涯子どもを持たなかった。OECD加盟26カ国で最高で、平均16.2%の約1.7倍にあたる
- 背景にあったのは個人の「選択」ではなく、就職氷河期による非正規雇用の拡大・女性の経済問題の不可視化・子育て支援への社会的拒絶という構造的要因だった
- 未婚女性の9割が「いずれ結婚するつもり」と答えていたにもかかわらず、その希望は実現しなかった
- この世代が高齢者となる2040年、高齢化率は約35%に達する。出生数の減少は推計を13年前倒しで進行しており、回復は極めて困難な局面にある
よくある質問(FAQ)
Q1. 「生涯子なし率」とは何ですか?
50歳時点で一度も子どもを持たなかった女性の割合です。人口学では50歳を区切りに「生涯無子」とみなします。
Q2. 日本の生涯無子率はどれくらいですか?
OECDの報告書によると、1975年生まれの日本女性で28.3%です。比較可能な26カ国で最も高い数字でした。
Q3. 他の国の生涯無子率はどれくらいですか?
OECD平均は16.2%。2位スペイン23.9%、3位イタリア22.5%で、日本が大きく引き離しています。
Q4. なぜ日本の生涯無子率は世界一なのですか?
就職氷河期による非正規雇用の拡大と低賃金が結婚を阻み、未婚のまま出産に至らなかった女性が急増したためです。
Q5. 男性の生涯無子率はどれくらいですか?
OECDの統計は女性のみですが、50歳時未婚率は男性28.25%で女性17.81%より高く、無子率も男性が上回るとみられます。
Q6. 2040年問題とは何ですか?
団塊ジュニア世代が65歳以上になり、高齢化率が約35%に達する時期です。人口は現在より1000万人以上減る見込みです。
Q7. 出生率が改善すれば少子化は止まりますか?
30代女性の人口が2030年58万人→2050年41万人と急減するため、出生率改善だけでは出生数の大幅回復は難しいでしょう。
Q8. 結婚している夫婦で子どもがいない割合は?
2021年の出生動向基本調査では、結婚後15〜19年経過した夫婦の7.7%が子どもゼロで過去最高でした。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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📚 参考文献
- 現代ビジネス「51歳日本女性の『生涯子なし』率は世界一…その衝撃の割合」(2026年3月2日)
- 現代ビジネス「『近所に保育園ができるのは迷惑』と市民が猛反対…子どもを嫌う人々」(2026年3月2日)
- 現代ビジネス「なぜ日本の『49歳の女性たち』は世界で一番子どもを産んでいないのか」(2024年12月)
- 日本経済新聞「『生涯子なし』日本突出 75年生まれ女性の28%、OECD」(2024年6月20日)
- ダイヤモンド・オンライン「『なぜ母親にならなくてはいけないの?』少子化対策の"しわ寄せ"に悩む職場の女性たち」(2024年9月26日)
- 厚生労働省「厚生労働白書(令和元年版)第1章」
- nippon.com「出生数70万人割れが目前、10年連続で最少更新」(2026年2月26日)