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電力先物2割高でも電気代は夏まで上がらない?その仕組みと落とし穴

電力先物2割高でも電気代は夏まで上がらない?LNG備蓄3週間の猶予と燃料費調整制度のタイムラグを解説するアイキャッチ

| 読了時間:約8分

電力先物価格が2割高になっても、家庭の電気代がすぐ上がることはない。

日本経済新聞は3月3日、「日欧の電力先物価格が2割高」と報じた。
ホルムズ海峡の事実上の封鎖とカタールLNG施設への攻撃が、電力市場にまで波及し始めている。

ただし「先物2割高」の意味と、実際の電気代が動くタイミングには大きなズレがある。

 

 

 

電力先物価格が2割高騰しても、電気代がすぐ上がらない理由

家庭の電気代は、先物市場の値動きとは別のルートで決まる。

「先物が2割上がったなら、来月の電気代も2割上がるのでは」。
そう心配した人は多いだろう。
だが電気代の仕組みは、そこまで単純ではない。


3月2日、LNGとガスの指標は一斉に跳ね上がった

まず、何が起きたかを数字で押さえておく。

日本電力調達ソリューションの報告によると、アジア向けLNGのスポット指標であるJKMは3月2日に100万BTUあたり15ドルをつけた。
前週末の約10.7ドルから40.9%の上昇だ。

欧州のガス指標も急騰

朝鮮日報の報道では、オランダTTF先物が1メガワット時あたり47.44ユーロまで急騰。前取引日比で最大48%上昇し、2022年のウクライナ侵攻以来、約4年ぶりの上げ幅となった。

LNGもガスも、1日で4〜5割上がった。
電力先物の2割高は、この燃料価格の急騰が背景にある。

 

 

 

なぜ「先物2割高」が来月の電気代に直結しないのか

鍵を握るのは燃料費調整制度ねんりょうひちょうせいせいどだ。

家庭の電気料金には「燃料費調整額」という項目がある。
電力会社が仕入れる燃料の価格変動を、電気代に反映させるための仕組みだ。

燃料費調整の反映ステップ

Step 1. 過去3ヶ月間の燃料の平均輸入価格を算出する

Step 2. それを「燃料費調整単価」に換算する

Step 3.2ヶ月後の電気料金に反映する

つまり、3ヶ月間の平均を出し、さらに2ヶ月後の料金に反映する。
合計で3〜5ヶ月のタイムラグが生じる。

FNNプライムオンラインの報道でも、専門家は「夏ごろ以降の電気・ガス料金が上がる」と指摘している。
3月の燃料高騰が請求書に現れるのは、どんなに早くても6月以降だ。

結論

家庭の電気代に反映されるのは、早くても2026年の夏以降になる。

もうひとつ見落とされがちな事実がある。
電力市場の専門家による分析によれば、日本の電力先物市場(TOCOM)は流動性がまだ低い。

大手電力会社は取引所を通さない相対取引あいたいとりひきでヘッジするのが主流で、先物チャートの値動きが電力業界全体の動きを映しているわけではない。

「先物2割高」は危険信号ではあるが、来月の請求書とイコールではない。
ここを混同すると、不要なパニックにつながる。

では、そもそもLNGの調達自体は大丈夫なのか。

 

 

 

原油ほど中東に頼っていない——LNG調達先の意外な実態

中東が止まればLNGも全滅LNGの中東依存度は約11%。原油の95%超とはまるで構造が違う。

「ホルムズ海峡が封鎖されたら、電気の燃料もストップするのでは?」。
Yahoo!知恵袋にはそんな質問が殺到している。
だが原油とLNGでは、調達先の偏り方がまったく異なる。


原油95%超、LNG11%——この差が明暗を分ける

アラブニュースの報道によると、日本は昨年カタールから340万トンのLNGを購入した。
年間取引量は約4,000万トン。
中東全体からの輸入を合わせても約700万トンで、供給量の約11%にとどまる。

項目 原油 LNG
中東依存度 95%超 約11%
最大の調達先 サウジ・UAE 豪州(41%)
国家備蓄制度 あり(254日) なし

ロイターの報道で赤沢経産相も、カタール産LNGは日本の輸入量の4%にすぎないと明言した。

調達先が分散しているぶん、ホルムズ海峡の封鎖がLNG供給に与える直接のダメージは、原油に比べてはるかに小さい。

 

 

 

ただし「間接爆弾」がある

直接の依存度が低くても、安心はできない。

カタールは世界のLNG供給量の約20%を担う。
ロイターの報道にあるとおり、米国に次ぐ世界第2位の輸出国だ。
その供給が止まれば、欧州やアジアの買い手が一斉に代替調達に走る。

スーパーの棚からひとつの商品が消えたとき、隣の商品まで値段が上がるのと同じだ。
カタールの穴を埋めようとする争奪戦が、世界のLNGスポット価格を押し上げる。
JKMが1日で40%跳ねたのは、まさにその動きだ。

ゴールドマン・サックスの予測

朝鮮日報の同報道によれば、ホルムズ海峡の輸送が1ヶ月停止した場合、欧州のガス価格が現在の倍以上に跳ね上がると予測している。

さらに、同報道ではグローバル大手保険会社が3月5日からペルシャ湾海域の戦争危険補償せんそうきけんほしょうを停止する予定だと伝えた。
保険なしではLNG船の運航コストが膨らむ。
スポット価格がさらに上振れする展開も十分にありうるだろう。

LNGの調達先は分散している。
だが在庫が3週間しかないことに変わりはない。
この3週間が尽きる前に、何が起きるのか。

 

 

 

LNG備蓄「3週間」の猶予で何が起きるか——2022年との決定的な違い

石油は254日分。LNGはわずか3週間分。この非対称が、いまの危機の急所だ。

リアルタイムニュースNAVIの報道によると、石油備蓄254日の内訳は国家備蓄146日、民間備蓄101日、産油国共同備蓄7日。
半世紀かけて積み上げた3層構造だ。

一方、LNGに国家備蓄制度は存在しない。
天然ガスは−162度以下に冷やさないと液体を保てず、石油のようにタンクで長期保存ができない。

石油備蓄

254日分

LNG在庫

約3週間分

電力・ガス会社が自前で抱える在庫が3週間分。
それが全てだ。


2022年と何が違うのか

ウクライナ危機を覚えている人は「あのときも乗り越えた」と思うだろう。
だが今回は質が違う。

2022年は、ロシアが欧州へのガス供給を絞った。
「売り手が売らなくなった」危機だった。
買い手はほかの売り手を探して代替調達ができた。

今回は「運べない」危機だ。
ホルムズ海峡という物理的な輸送路が塞がれている。

  2022年 2026年
原因 供給制限 海峡封鎖
性質 売らない 運べない
影響範囲 欧州中心 日欧アジア
代替手段 別の売り手 迂回路が限定的

東洋経済オンラインのインタビューで専門家は、ホルムズ海峡の本格的な封鎖は歴史上一度も起きたことがなかったと指摘した。
湾岸戦争でもイラン・イラク戦争でも、この海峡だけは封鎖されなかった。
影響が大きすぎて、どの国も踏み込めなかったのだ。

前例がない以上、過去の危機から類推するのには限界がある。

 

 

 

3週間の猶予で何が決まるか

ロイターの報道によると、赤沢経産相は「短期的には影響ない」との認識を示した。
必要ならスポット調達や事業者間の融通で対応するという。

だが「短期的」の賞味期限は長くない。
電力大手からは「4月以降は影響が出る」との声も上がっている。

⚠️ ここからは推測を含みます

トランプ大統領は戦争の期間について「4週間程度」と言及している。仮にその通りなら、3週間のLNG在庫でぎりぎり持ちこたえられる計算になる。だが4週間で終わる保証はどこにもなく、機雷が敷設されれば除去だけで数週間を要するとの見方もある。

封鎖が長期化した場合の試算もある。
FNNプライムオンラインの報道では、野村総合研究所の木内登英氏がシナリオ別の影響を示した。

シナリオ ガソリン価格
衝突の激化・長期化 204円/L
完全封鎖が1年継続 328円/L

ガソリン1リットル328円
通勤で毎日車を使う人なら、月の燃料代が1万円以上増える水準だ。

電気代はガソリンより遅れてやってくる。
燃料費調整制度のタイムラグがあるぶん、影響が表面化するのは夏以降になるだろう。
逆に言えば、夏までの数ヶ月が備えの猶予期間でもある。

 

 

 

まとめ

  • 電力先物が2割高でも、家庭の電気代にすぐ反映はされない。燃料費調整制度のタイムラグで、影響は夏以降になる
  • LNGの中東依存度は約11%。原油(95%超)とは調達構造がまるで違う
  • ただし世界的なLNG争奪戦による間接的な価格高騰リスクは大きい
  • 石油備蓄254日に対し、LNG在庫はわずか3週間。この非対称がいまの急所
  • ホルムズ海峡の本格封鎖は歴史上初。2022年のウクライナ危機とは質が異なる

電気代への直撃はまだ先だが、LNG在庫3週間という時間制限は動いている。
封鎖の行方と、政府のエネルギー対策の動きを注視しておく必要がある。

 

 

 

よくある質問(FAQ)

Q1. 電力先物価格が2割高になると電気代はすぐ上がりますか?

すぐには上がりません。燃料費調整制度に3〜6ヶ月のタイムラグがあり、反映は夏以降になる見通しです。

Q2. 燃料費調整制度とは何ですか?

燃料の輸入価格の変動を電気料金に反映させる仕組みです。過去3ヶ月の平均価格を算出し、約2ヶ月後の料金に反映します。

Q3. 日本のLNGの中東依存度はどのくらいですか?

約11%です。最大の調達先はオーストラリアで全体の約41%を占め、原油の中東依存度95%超とは大きく異なります。

Q4. LNGの備蓄は何日分ありますか?

電力・ガス会社が保有する在庫は約3週間分です。石油の254日分と異なり、LNGには国家備蓄制度がありません。

Q5. ホルムズ海峡が封鎖されると日本はどうなりますか?

原油輸入の約80%がホルムズ海峡を通過するため大きな打撃を受けます。LNGは中東依存度が低く直接影響は限定的です。

Q6. ガソリン価格はどこまで上がりますか?

野村総研の試算では軍事衝突の長期化で約204円、完全封鎖が1年続けば約328円まで上がる恐れがあります。

Q7. 2022年のウクライナ危機と今回は何が違いますか?

2022年は「売り手が売らない」危機でしたが、今回は海峡封鎖による「運べない」危機です。物理的な輸送路の遮断という点で質が異なります。

Q8. LNGの調達先は中東以外にどこがありますか?

オーストラリア(41%)、マレーシア(16%)、ロシア、米国などです。中東以外からの調達が約9割を占めています。

Q9. 電力先物とは何ですか?

将来の電力を前もって売買する市場の価格です。日本ではTOCOM、欧州ではEEXで取引されています。

Q10. 電気代への影響を抑えるために何ができますか?

政府の電気・ガス料金の補助金制度の動向を確認し、電力プランの見直しや節電対策を早めに検討するのが有効です。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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