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糖尿病薬「マンジャロ」SNS転売で書類送検、余った薬を1本売るだけでも違法になる理由

| 読了時間:約5分

「病院で処方されて余った薬で、客がつけば販売するつもり」——それだけで、書類送検された。

2026年6月2日、 大阪府警生活環境課 は20〜30代の男女3人を薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性を確保するための法律)違反の疑いで書類送検した。
3人は互いに面識がなく、それぞれ別のサイバーパトロールをきっかけに摘発されている。

共通点は、SNS上で糖尿病治療薬「 マンジャロ 」を転売しようとしていたことだけだった。

糖尿病薬「マンジャロ」SNS転売で書類送検、余った薬を1本売るだけでも違法になる理由

「処方されて余った薬」でも売ったら即アウトのワケ

「処方されて余った薬で、客がつけば販売するつもり」——この言葉が、書類送検に直結した。

「余った薬を売るくらい、せいぜいマナー違反じゃないの?」と感じる人は多いだろう。

しかし 薬機法第24条 (医薬品の販売に関するルールを定めた条文)は、販売許可を持たない人が医薬品を「売ること」を禁じているだけではない。

「売るために持っておくこと」自体も禁止 している。

「売るつもりで保管」も違反
薬機法第24条では、販売許可がない人が医薬品を販売目的で保管することも禁止している。
「まだ1本も売っていない」という段階でもアウトになる。

つまり今回の22歳男性の場合、「まだ1本も売っていない。

ただ売ろうと思って保管していただけ」という段階で、すでに違反が成立する。

1回か複数回か、無料か有料か、余り物か新品か という事情は、 いっさい考慮されない。

違反した場合に科されうる罰則は、 3年以下 の懲役または 300万円以下 の罰金だ(薬機法第84条)。
日本経済新聞 によると、今回の20代男女2人については、大阪府警が検察に「起訴を求める」意見を付けて送検している。

「余った薬を1本」という感覚と、最大で懲役刑という現実の間には、大きな落差がある。

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「処方されて余った薬をSNSで売るくらいなら問題ないだろう」という感覚が広まっているとみられるが、法律の構造は全く異なる。

では、なぜここまで多くの人が「余った薬を売ろう」と考えるほどマンジャロへの需要が膨れ上がったのか。

1日1億円が動く市場で起きていたこと

407億円 —— 読売新聞 によると、2025年3月期のマンジャロ売上高は前年比 5倍超 に跳ね上がった。

407億円を365日で割ると、1日あたり約 1億1000万円分 が動いていた計算になる(単純計算)。

マンジャロが日本で承認された2022年当初、この規模は想定されていなかった。

407億円(年間売上高) ÷ 365日 = 約1億1000万円/日 単純計算。田辺ファーマ2025年3月期・前年比5倍超

需要を一気に引き上げたのは、ダイエット目的での自由診療処方の急増だ。

マンジャロは 米製薬大手イーライ・リリー が開発した糖尿病(血糖値が慢性的に高くなる病気)の治療薬で、 日本経済新聞 によると、インスリンの分泌を促しながら食欲を抑える効果もある。

その「食欲が落ちる」という側面が、SNS上で「痩せ薬」として広まった。

オンライン診療でも入手可能で、ダイエット目的の自由診療なら1か月分(4本)が 1万〜3万円 程度のクリニックも存在する。

ただし 厚生労働省 は、「 糖尿病治療以外での使用は安全性が確認されていない 」と注意を呼びかけている。

正規の使い方
医師の処方
2型糖尿病の治療目的
問題の使われ方
SNS転売
ダイエット目的・無許可販売

マンジャロをダイエット目的で処方する自由診療の広がりが、「余ったら売れる」という転売の連鎖を生む土台になったとみられる。

市場が急拡大する中で、なぜ今このタイミングで摘発が始まったのか。

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そして互いに知らない3人が、なぜ同じ時期に「独立して」摘発されたのか。

バレないつもりが3人同時に摘発されたカラクリ

3人は互いに面識がなく、それぞれ別々のサイバーパトロールをきっかけに摘発された。

この事実が示しているのは、警察が「特定の組織」を追ったのではなく、SNS上に出回る投稿全体を日常的に監視していたということだ。
時事通信 によると、大阪府警でマンジャロをめぐる摘発は今回が初めてだという。

その一方で、 東京新聞 (共同通信配信)によると、東京都は2025年度だけでX(旧ツイッター)上の問題投稿に対して 497件 の警告を発出しており、そのうち約 75% にあたる 375件 がマンジャロなどの糖尿病治療薬の取引に関するものだった。

行政は「問題投稿を1件ずつ追う」から「 SNS全体を巡回してリプライで直接警告する 」という面的な監視手法に移行している。
東京都庁薬務課 の公式アカウントが「マンジャロ 売ります」などの投稿に「許可等なく販売等することは薬機法に違反します。

直ちに中止してください」と直接リプライする対応は異例として話題になった。

行動経済学に「 楽観バイアス 」と呼ばれる認知の偏りがある。

「自分が被害を受ける確率は、平均よりも低い」と無意識に信じてしまう心理のことだ。

「SNSで売ってもどうせバレない」「自分だけは大丈夫」という感覚は、この楽観バイアスの典型的な形だと考えられている。

しかしこの心理が通用するのは、摘発が「偶然の発見」に頼っている場合だけだ。


「自分だけはバレない」という感覚が機能するのは、摘発が「点」の偶発的な発見に頼っている場合だけだ。
行政監視が「面」的な網羅的パトロールに変わった今、3人が互いに無関係のまま同時に摘発されるという事態は必然的な帰結だったと考えられる。

時事通信 によると、大阪府警での初摘発となった今回、20代男女2人には検察に「 起訴を求める 」意見が付けられた。

売る側のリスクはわかった。

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では、SNSでマンジャロを「買った側」には何も問題がないのだろうか。

「買う側」にもリスクがある、知られていない落とし穴

SNSで購入した場合、 副作用が出ても「救済制度」が使えない可能性がある。

「買う側は違法じゃないの?」という疑問は自然だ。

個人が購入する行為への直接の処罰規定は限定的だが、問題は健康リスクの方にある。

日本イーライ・リリー (マンジャロの開発元)の医療関係者向けサイトが公開している添付文書には、重大な副作用として以下が記載されている。

  • 急性膵炎 すい臓が急激に炎症を起こす病気。激しい腹痛・嘔吐が起き、放置すると命に関わる(頻度0.1%未満)
  • 低血糖 血糖値が急に下がり、意識を失うこともある重大な状態(頻度不明)
  • アナフィラキシー 全身で起こる急激なアレルギー反応。血圧低下・呼吸困難に陥ることがある(頻度不明)
  • イレウス 腸が動かなくなる腸閉塞。高度の便秘・腹部膨満が続く場合は投与を中止する(頻度不明)

読売新聞 によると、薬の副作用情報を集める国の機関「 医薬品医療機器総合機構(PMDA) 」には、2023年以降、嘔吐・脱水・膵炎などの事例が 800件以上 寄せられているという。

さらに見落とされがちな問題がある。
医薬品副作用被害救済制度 (副作用で健康被害を受けた人を国が救済する仕組み)は、「適切な使い方をした場合」が対象だ。

医師の管理なしにSNSで入手した薬で副作用が出た場合、この救済制度の対象外になるおそれが高い。
副作用が出ても、すべて自己責任になる。

副作用が出ても救済されない。

売る側・買う側の双方にリスクがある。

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では、この問題で最も深刻なダメージを受けるのは、実は全く別の人たちかもしれない。

本当の被害者は「糖尿病患者」だった

マンジャロを最も必要としている人たちが、薬を手に入れにくくなっている。

この事件は「転売した若者が捕まった」という個人犯罪の話として報じられがちだ。

しかし問題の本質は別のところにある。

MBSニュース によると、今回書類送検された35歳の女性は「処方された薬をSNSで販売していた」と供述している。
処方された薬がSNSに流れるということは、本来の治療患者に届くはずだった薬が市場から抜け出しているということだ。


ダイエット目的の人
需要が急増
供給を奪い合う
糖尿病患者
供給が不足
治療に直接影響

適応外使用(本来の目的以外で使うこと)の急増によって、本来の2型糖尿病患者がマンジャロを入手しにくくなる供給の逼迫(ひっぱく=物が足りなくなること)が懸念されており、 日本糖尿病学会 もその懸念を示しているとされる。

血糖値のコントロールが崩れることは、糖尿病患者にとって命に直結する問題だ。

行政が取り締まりを強化している本当の理由も、「ダイエット需要のSNS転売が、治療を必要とする患者の薬を奪っている」という構図にある。

あなたがSNSで見かけた「マンジャロ 売ります」という投稿は、誰かの治療に使われるはずだった薬かもしれない。

転売市場が膨らむほど、本来この薬を必要としている糖尿病患者への供給が削られる。

問題の本質は「誰が逮捕されたか」より、そこにある。


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まとめ

  • 薬機法は「売る行為」だけでなく「売るために保管する行為」も禁じており、処方されて余った薬を1本持っているだけでも摘発の対象になる
  • 2025年3月期のマンジャロ売上高は前年比5倍超の407億円(単純計算で1日約1億円)に急拡大し、ダイエット需要が転売市場を生んだ
  • 東京都は2025年度に497件の投稿警告を発出し、そのうち75%がマンジャロ等の糖尿病治療薬関連だった。「面的なサイバーパトロール」が定着した今、「自分だけはバレない」という感覚は通用しない
  • SNSで購入した側も、副作用が出た場合に国の救済制度が使えないおそれがあり、健康被害はすべて自己責任になる

よくある質問(FAQ)

Q1. マンジャロを処方されて余ったら売ってもいいの?

売ることも、売るために持っておくことも薬機法第24条で禁じられている。
1回・少額・余り物という事情は考慮されず、違反した場合は3年以下の懲役または300万円以下の罰金になりうる。

Q2. マンジャロをSNSで買うのは違法?

購入者自身への直接の処罰規定は限定的だが、医師の管理なしに使用した場合の副作用被害は国の救済制度(医薬品副作用被害救済制度)の対象外になるおそれがあり、健康被害は自己責任になる。

Q3. 薬機法違反でどんな罰則がある?

無許可で医薬品を販売・保管した場合、薬機法第84条により3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されるおそれがある。

今回の20代男女2人には検察に「起訴を求める」意見が付けられた。

Q4. マンジャロのダイエット目的での使用は違法?

医師の処方を受けてクリニックで入手する自由診療は合法だが、厚生労働省は「糖尿病治療以外での使用は安全性が確認されていない」と注意を呼びかけている。

個人間の転売は別途薬機法違反になる。

Q5. マンジャロの副作用にはどんなものがある?

添付文書には急性膵炎・低血糖・アナフィラキシー(全身アレルギー反応)・イレウス(腸閉塞)などの重大な副作用が記載されている。

国の機関PMDAには2023年以降800件以上の副作用事例が報告されているとされる。

Q6. なぜ今マンジャロの転売摘発が増えているの?

東京都は2025年度にX(ツイッター)上の問題投稿に対し497件の警告を発出し、約75%がマンジャロ等の糖尿病治療薬関連だった。

行政がSNS全体を面的に巡回する監視手法に切り替えたことで、摘発が加速している。

Q7. マンジャロの転売は書類送検後どうなる?

書類送検は逮捕なしに証拠を検察へ送る手続きで、その後検察が起訴・不起訴を判断する。

今回の20代2人には警察が「起訴を求める」意見を付けており、略式起訴や正式起訴につながる可能性がある。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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