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医療同意を家族が拒否したら?成年後見人でもダメな理由

| 読了時間:約6分

「父が倒れた。連絡した息子は『関わるつもりはない』と言った」。医療現場で起きているこの現実は、多くの人が抱く「家族なら当然協力する」という前提を揺るがす。

では、家族が医療同意を拒否したら、その患者は治療を受けられなくなるのだろうか。
結論から言うと、治療は止まらない。
ただしその「理由」は、多くの人が想像するものとはまったく違う。

父が入院、息子は「関わりたくない」──医療同意を拒否された現実

70代の男性が外出先で倒れ、外傷性くも膜下出血で救急搬送された。意識はない。病院が連絡を取った息子はこう言った。「関わるつもりはない」。

この事例は愛知医科大学病院で起きた。
男性は一人暮らしだが、同じ県内に娘と息子がいる。
ただし男性本人も子供の電話番号を把握しておらず、自治体職員には「何十年も疎遠だ」と話していた[1]

対応した医療ソーシャルワーカーの森下祐一さんは、息子に電話をかけた。
相手の返事は「関わるつもりはない」の一言だった。

多くの人はこう考えるだろう。「家族なのに」「非常時なのに」。
しかしこの事例は特別ではない。
全国各地の医療現場で、疎遠な家族や「身寄りがない」と呼ばれる患者をめぐる困難な判断が日常的に起きている。

医療現場の現実──家族でも同意を拒否できる

医療機関には、拒否する家族を「強制」する法的な手段はない。
そして家族でも同意を拒否できる。それが現実だ。

ではなぜ、「家族の同意」が必要だと思われているのに、家族は拒否できてしまうのか。
医療同意の法的な正体をひもとく必要がある。


医療同意の「正体」──実は「家族の義務」ではない

多くの人が「手術の前には家族のサインが必要」と思っている。しかし医療同意の本質は「家族の義務」ではなく「本人の権利」だ。

医療行為への同意は、本人の 一身専属性いっしんせんぞくせい が極めて高い。
この考え方を国がかかわる文書で初めて明確にしたのは、2019年の厚生労働省研究班ガイドラインだった[2][3]

「一身専属性」とは何か。
分解して考えよう。「一身」は「その人自身」、「専属」は「独占的に属するもの」。
つまり「他の誰かが代わりに決めていいものではない」という考え方だ。

医療同意は「家族がサインするもの」ではなく「本人が決めるもの」

家族の同意はあくまで「慣行」であり「法的義務」ではない。
これが医療同意の正体だ。

ではなぜこの原則が重要なのか。
自分の体や命に関わることを、たとえ家族でも他人に決められたくない。
これは「自己決定権」の根幹に関わる問題だ。

この原則があるからこそ、家族が同意を拒否しても「法的な義務違反」にはならない。
医療機関も家族を強制できない。

【誤解】

医療同意は家族の義務

【事実】

本人の一身専属的な権利

では、本人が判断できないときはどうするのか。
「成年後見人に頼めばいい」と思うかもしれない。
だがそこにも大きな落とし穴がある。

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成年後見人に医療同意権はない──「それなら後見人を」では解決しない理由

「判断能力が不十分になったら成年後見人を立てる」。そう考えている人は多い。しかし医療同意に関して、成年後見人は何の権限も持っていない。

成年後見人に医療同意権はない(厚生労働省ガイドラインより)

成年後見人に医療同意権はない。
医療行為の同意は一身専属的な権利であり、他者が代行できる性質のものではない[4]

なぜなら、厚生労働省のガイドラインにも「成年後見人等の第三者が医療に係る意思決定・同意ができるとする規定はない」と明確に書かれているからだ[4]

では成年後見人は何ができるのか。
できることとできないことを整理しよう。

成年後見人の権限 可否
財産管理(預金の管理・不動産売却など) ✅ 可
契約手続き(施設入所契約など) ✅ 可
福祉サービスの利用契約 ✅ 可
医療行為の同意 ❌ 不可
婚姻・離婚などの身分行為 ❌ 不可

この違いはなぜ生まれるのか。
自分の命や体に関わる決定は「その人が生きている間に自分で決める権利」だからだ。
この考え方は欧米の「自己決定権」の思想とも通じる。

「成年後見人を立てれば全て解決する」実際は医療同意はできない。

令和6年の成年後見制度への申立件数は4万1841件、12月末時点の利用者数は25万3941人に上る[5]
しかし認知症高齢者は約471万人と推計され、成年後見制度の利用者はごく一部にとどまる[1]

「後見人を立てれば全て解決」という思い込みがどれだけ危険か。
多くの人がこの誤解をしているからこそ、事前の備えがおろそかになっている。

成年後見人でもダメなら、医療現場はどう対応しているのか。
実は国を挙げたガイドラインが存在する。

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医療現場のリアル──「身寄りがない人」への対応とガイドライン

医療現場は手探りで対応している。しかし国は2019年に「身寄りのない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」を作成した。

厚生労働省ガイドラインの定義(2019年)

「法的な親族がいても、患者との関係を拒否する場合には『身寄りがない人』に含める」──これが厚労省ガイドラインの定義だ[3]

つまり疎遠な家族がいるケースも、このガイドラインの対象になる。
関係を拒否する親族は「いない」と同じと見なされる。

【一般的イメージ】

身寄りがない=孤独なお年寄り

【ガイドラインの定義】

法的な親族がいても、関係を拒否する場合は含まれる

甲府市の事例集には、医療同意者が不在でも成年後見人と地域包括支援センターが関わっていることを理由に入院を受け入れられた事例が掲載されている[6]

しかしガイドラインは「正解」を与えるものではない。
医療現場では毎回「この患者さんの最善は何か」をケースバイケースで判断している。
それでも受け入れを断る医療機関が少なくないという現実がある[3]

厚生労働省研究班の調査結果(2024年)

医療機関では27%、介護施設では36.5%が「保証人がいないために断られた」経験があるという調査結果もある[3]

この問題は「他人事」ではない。
そして、備えられることはある。

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「自分ごと」として備える──今からできる3つのこと

国は制度を整えつつあるが、それでも「自分で備える」ことが最も確実だ。特に疎遠な家族がいる場合、話し合いのタイミングは「今」しかないかもしれない。

1
備え1:ACP(アドバンス・ケア・プランニング/人生会議)の実施

「もしものとき」に自分が望む医療やケアを事前に話し合い、文書化しておく取り組みだ。
厚生労働省が推奨しているが、全国的な認知度はまだ低い。
調査によると「知らない」と答えた人が約72%に上ったというデータもある。

2
備え2:任意後見制度の検討

元気なうちに信頼できる人に後見人を依頼しておく任意後見契約。
成年後見と異なり、本人の判断能力があるうちに契約できる。
医療同意はできないが、それ以外の生活面での支援者を確保できる。

3
備え3:医療ソーシャルワーカーとの事前相談

かかりつけの病院があれば、MSWに「疎遠な家族がいる場合の対応」を事前に相談しておくことも有効だろう。
地域包括支援センターも頼りになる。

ただし──確実な解決策ではない

医療同意の一身専属性という原則がある限り、本人の意思を「誰かが代わりに決める」ことは制度的に難しい。
それでも「備えておく」ことと「備えていない」ことでは、いざというときの対応に大きな差が出るだろう。

この問題の難しいところは、本人が「判断できない状態」になって初めて表面化する点だ。
元気なうちは「自分は大丈夫」と思いがちだが、だからこそ「今」話し合う習慣が重要になるかもしれない。

疎遠な家族がいる場合、その関係性を「修復する」という選択肢もある。
しかしそれが難しい場合、第三者の支援機関(地域包括支援センターなど)に自分の情報を預けておくという方法も考えられるだろう。

あなたの連絡先は、親が把握しているだろうか。
70代で突然倒れることもある。
そしてそのとき、疎遠になっている子供に連絡がいく。
これは誰にでも起こりうる話だ。


まとめ

  • 医療同意は「家族の義務」ではなく「本人の権利」。家族が拒否しても法的な問題にはならない。
  • 成年後見人には医療同意権がない。この誤解が最も危険だ。
  • 国はガイドラインを整備している。「身寄りがない人」の定義には疎遠な親族も含まれる。
  • 備えられることはある。ACP(人生会議)、任意後見、事前相談。完全な解決策ではないが、備えがないよりははるかにましだろう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 家族が医療同意を拒否したら治療は止まるの?

治療は続く。医療同意は本人の権利であり、家族の拒否で治療を止める法的根拠はない。

Q2. 成年後見人に医療同意権はあるの?

ない。医療同意は一身専属的な権利のため、成年後見人にも同意権はない。

厚労省ガイドラインも明確に否定。

Q3. 医療同意は誰がするの?

原則として本人がする。本人が判断できない場合でも、家族や成年後見人に法的な同意権はない。

Q4. 身寄りのない人の医療同意はどうなるの?

国ガイドラインに従い医療機関が対応。「身寄りがない」には疎遠な親族も含まれる。

Q5. ACP(人生会議)とは何?

もしもの時に自分が望む医療やケアを事前に話し合い、文書化する取り組み。厚労省が推奨。

Q6. 一身専属性ってどういう意味?

その人自身だけに関わる性質。医療同意は本人固有の権利で、他者が代わりに決められないという考え方。

Q7. 任意後見制度で医療同意はできるの?

できない。任意後見人も成年後見人と同様、医療同意権はない。

一身専属性のため。

Q8. 医療同意の事前準備として何ができる?

ACP(人生会議)の実施や任意後見契約の検討。かかりつけ医やMSWへの事前相談も有効。

Q9. 死後事務委任契約と医療同意の違いは?

死後事務委任は死亡後の手続き。医療同意は生前の医療行為に関する判断で、全く別の契約。

Q10. 身元保証人がいなくても入院できる?

できる。身元保証人は法的に必須ではない。

ただし医療機関によって対応が異なる場合がある。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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