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SP首位のマリニンが8位に沈んだ夜、ミラノのリンクでは三つの逆転劇が起きていた。
2026年2月13日、ミラノ五輪フィギュア男子フリー。
金はSP5位から逆転したシャイドロフ(カザフスタン)、銀はSP2位の鍵山優真、銅はSP9位の佐藤駿。
3人のメダリストには、それぞれ語られるべきドラマがある。
鍵山は金を逃したのか、攻めた結果の銀なのか。
佐藤はなぜSP9位から銅に届いたのか。
マリニンには何が起きたのか。
鍵山優真が「攻めの銀」を手にするまで――今季初の4回転フリップとミラノ100周年の「トゥーランドット」
鍵山優真は合計280.06点で2大会連続の銀メダルを獲得した。
「マリニンが崩れたから棚ぼたで銀が来た」。
そう思った人もいるだろう。
ところが、フリーの演技内容を見ると印象はまるで変わる。
鍵山はこの試合で、今季一度も実戦投入していなかった大技に挑んでいた。
今季封印の4回転フリップを五輪で解禁
Olympics.com公式の結果によると、鍵山のフリーは176.99点。
冒頭の4回転サルコウで着氷が乱れ、続く4回転フリップでも手をついた。
注目ポイント
この4回転フリップは今シーズンの国際大会で一度も跳んでいない。五輪に照準を合わせ、練習で仕上げてきた「切り札」だった。
構成をしっかりと上げて挑戦することに意味があると思って挑んだ。成功という形にはならなかったが、4回転フリップという形で残せた
――鍵山優真(Olympics.com)
着氷は乱れた。
それでも、今季初の4回転フリップに挑んだ「攻めの銀」だった。
「守って拾ったメダル」とはまるで違う。
父の言葉とトゥーランドット100周年
演技前、父であり指導者でもある鍵山正和コーチからこんな言葉をもらっていた。
例え全部転んだとしても最後まで戦ってきてくれればそれでいいから
――鍵山正和コーチ(Olympics.com)
中盤以降は立て直し、4回転トウループのコンビネーションを決めた。
スピンとステップは全て最高評価のレベル4。
演技そのものの質の高さは健在だった。
フリーの曲は「トゥーランドット」。
サンスポの報道によると、この曲は1926年にミラノのスカラ座で世界初演された。
知ってた?
「トゥーランドット」はちょうど初演100周年。2006年トリノ五輪では荒川静香がこの曲で金メダルを獲得している。同じイタリアの地で、20年の時を経て再び日本人スケーターが表彰台に立った。
鍵山の五輪メダルは通算4個。
北京大会の団体銀・個人銀、ミラノ大会の団体銀・個人銀で、日本フィギュア史上最多の記録を更新した。
鍵山が攻めの銀を手にした同じ夜、SP9位から会場の空気を一変させた男がいた。
佐藤駿はなぜSP9位から銅メダルを取れたのか――「眠れぬ夜」と6分間練習後の「SEIMEI」
佐藤駿はフリー186.20点を叩き出し、SP9位から13.85点差を覆しての銅メダルを獲得した。
メダル圏外からの逆転。
しかもほぼノーミスのフリー。
これを五輪の大舞台でやってのけた裏には、前夜の葛藤と、本番直前のある行動がある。
SPの失敗と「眠れない夜」
スポーツ報知の報道によると、佐藤はSPで4回転-3回転の連続トウループに力が入りすぎ、後ろが2回転になった。
88.70点の9位。演技直後は謝るように手を合わせ、四方に頭を下げていた。
問題はここからだった。
フリーに向けて構成をどうするか。
4回転フリップ投入
基礎点UP=逆転の確率UP
ただし今季未投入
従来構成のまま
団体戦でノーミス済み
安定感は高い
佐藤本人のインタビューにはこうある。
正直ものすごい悩んで、昨日も全然寝れなくて。どうしよう、どうするべきかって考えて
――佐藤駿
日下匡力コーチに相談すると、返ってきた言葉はシンプルだった。
「駿の思った通りにやればそれが正解だと思う」。
佐藤は4回転フリップの投入を見送り、団体戦でノーミスを出した構成のまま臨む決断をした。
三浦佳生の言葉と「SEIMEI」
SP後、佐藤は同じ日本代表の三浦佳生と食事に行った。
三浦自身もSP22位で悔しい状況だったが、佐藤にこう言ったという。
諦める点差ではない。駿はいけるから。この前ノーミスしてきてるんだから、もうあとはやるだけだから
――三浦佳生(佐藤駿インタビューより)
この言葉で「決心がついた」と佐藤は語っている。
自分は何をしにミラノまで来たのか。メダルを取りに来たのだと。
そしてフリー当日。
6分間練習を終え、一度控室に戻った佐藤は、スマートフォンを手に取った。
再生したのは羽生結弦の平昌五輪フリー「SEIMEI」。
SPの前には見られなかったのが失敗の原因だと、本人は笑いながら明かしている。
本番直前の"お守り"
6分間練習後に羽生結弦の平昌五輪フリー「SEIMEI」を見た。それが佐藤にとっての"お守り"だった。
「火の鳥」で舞い上がった逆転劇
リンクに戻った佐藤は、フリー「火の鳥」で別人のような演技を見せた。
冒頭の4回転ルッツを鮮やかに着氷。
3回転半-オイラー-3回転サルコウも流れるように決めた。
4回転トウループ-3回転トウループのコンビネーション、単発の4回転トウループと、ジャンプを次々に成功させていく。
出来栄え点でマイナスがついた要素は最後のトリプルルッツ1本だけ。
ほぼ完璧な演技だった。
フリー186.20点、合計274.90点。
暫定首位に立った佐藤は、その後の上位選手の演技を見守ることになる。
スポーツ報知の経歴報道によると、佐藤は4年前の北京五輪で代表入りを逃している。
全日本選手権で肩を脱臼し、病院のテレビから日本チームを応援するしかなかった。
今季も右足首の骨挫傷に苦しんだ。
それでも初めての五輪で、初メダル。
初五輪で初メダルは、憧れの羽生結弦と同じだ。
本当に信じられない。今も幻かなと思っている
――佐藤駿(Olympics.com)
佐藤がノーミスのフリーを滑り終えた後、会場はもうひとつの衝撃に包まれることになる。
マリニン「五輪の呪い」とシャイドロフの涙――SP1位から8位への崩壊、カザフスタン初の金、3大会連続ダブル表彰台
世界選手権2連覇、国際大会12連勝。"4回転の神"イリア・マリニンはSP首位からフリーで2度転倒し、8位に沈んだ。
Forbesによると、NBCの中継で解説陣はマリニンがジャンプのミスだけで約72点を失ったと推計した。
フリー総得点の約3分の1が消えた計算になる。
「技術の調子が悪かったのだろう」と思うかもしれない。
しかしマリニン本人の言葉は、それとは違う方向を指していた。
「圧倒された」――4回転アクセル唯一の成功者が語った重圧
Olympics.comのマリニン詳報には、フリー後の生々しい証言が記録されている。
スタートポーズに入る前、いろいろな経験や記憶、思い、そしてプレッシャーが押し寄せてきて、ただただ圧倒された。正直、その瞬間どう対処すればいいのか分からなかった
――イリア・マリニン(Olympics.com)
マリニンは4回転アクセルを国際大会で成功させた史上唯一の選手だ。
2022年の全米選手権で2位に入り、北京五輪の代表にあと一歩まで迫った。
しかし当時18歳。代表にはベテランのジェイソン・ブラウンが選ばれている。
「もし北京に派遣されていたら、あんな滑りはしなかったと思う」。
キス・アンド・クライでスコアを待ちながら、マリニンはそうつぶやいた。
フリーでは冒頭の4回転フリップこそ決めたものの、代名詞の4回転アクセルがシングルアクセルにパンクした。
4回転ループもダブルに。
さらに4回転ルッツで転倒し、最後のジャンプでも崩れた。
フリー156.33点はフリーだけで15位。
合計264.49点で最終8位に終わった。
I blew it(やらかした)
――マリニン(NBC中継後のインタビュー、Forbesより)
SP5位から金メダル――シャイドロフとデニス・テンの系譜
マリニンが崩れたことで浮上したわけではない。
SP5位のミハイル・シャイドロフは、実力で金を勝ち取った。
スポーツ報知の報道によると、シャイドロフは4回転4種類5本を組み込む攻めの構成で臨んだ。
冒頭の3回転半-オイラー-4回転サルコウという高難度コンビネーションを成功させ、フリー198.64点。
合計291.58点は2位の鍵山に11.52点差をつける圧勝だった。
| 選手 | SP → 最終 | 合計 |
|---|---|---|
| 🥇 シャイドロフ | 5位 → 金 | 291.58 |
| 🥈 鍵山優真 | 2位 → 銀 | 280.06 |
| 🥉 佐藤駿 | 9位 → 銅 | 274.90 |
| マリニン | 1位 → 8位 | 264.49 |
カザフスタンのフィギュアスケートで五輪メダルを獲得したのは、2014年ソチ大会で銅メダルに輝いたデニス・テン以来。
テンは2018年、暴漢に刺されて25歳で命を落としている。
シャイドロフの金はカザフスタンにとってフィギュア初の五輪金メダルだった。
羽生結弦の影響と3大会連続ダブル表彰台
21歳のシャイドロフは、インタビューでこう語っている。
彼(羽生結弦)は僕にとって今も、そしてこれからも大きなアイドル。スケーティング、動き、ジャンプ、そして彼の考え方。すべてにおいて、僕がずっとお手本にしてきたスケーター
――シャイドロフ(スポーツ報知)
金メダルのシャイドロフと銅メダルの佐藤。
表彰台の3人中2人が「羽生結弦に憧れた」と語った。
プロに転向した羽生はミラノのリンクにはいない。
だが、その影響は2026年の表彰台にまで届いている。
日本男子3大会連続ダブル表彰台
2018年平昌(羽生金・宇野銀)→ 2022年北京(鍵山銀・宇野銅)→ 2026年ミラノ(鍵山銀・佐藤銅)。
日本男子フィギュアは3大会連続でダブル表彰台を達成した。
まとめ
- 鍵山優真は今季封印していた4回転フリップを五輪で解禁し、攻めた結果の2大会連続銀。五輪メダル通算4個は日本フィギュア最多
- 佐藤駿はSP9位から眠れない夜を越え、6分間練習後にSEIMEI動画で気持ちを高めてノーミスのフリーで銅メダル
- シャイドロフは4回転4種5本の圧巻のフリーでカザフスタン初のフィギュア金。マリニンは五輪の重圧に圧倒され8位
- 日本男子は平昌→北京→ミラノで3大会連続ダブル表彰台。羽生から宇野、鍵山、佐藤へバトンは確かにつながっている
よくある質問(FAQ)
Q1. ミラノ五輪フィギュア男子の金メダルは誰?
カザフスタンのミハイル・シャイドロフ。SP5位からフリー198.64点を出し、合計291.58点で逆転優勝した。
Q2. 鍵山優真はなぜ金メダルを取れなかったの?
今季初投入の4回転フリップで着氷が乱れるなどフリーで176.99点にとどまり、シャイドロフに11.52点差をつけられた。
Q3. 佐藤駿はSP9位からどうやって銅メダルを取れた?
フリー「火の鳥」でジャンプをほぼ全て成功させ186.20点を記録。上位選手のミスもあり13.85点差を逆転した。
Q4. マリニンはオリンピックで何位だった?
SP首位からフリーで2度転倒するなどミスが相次ぎ、合計264.49点で8位に終わった。
Q5. マリニンが崩れた原因は?
本人は「想像以上のプレッシャーに圧倒された」と語っており、五輪特有の重圧が要因とみられる。
Q6. シャイドロフとはどんな選手?
カザフスタン出身の21歳。2025年世界選手権銀メダリストで、羽生結弦に憧れて育った選手。
Q7. 日本男子フィギュアのダブル表彰台は何回連続?
平昌(羽生金・宇野銀)→北京(鍵山銀・宇野銅)→ミラノ(鍵山銀・佐藤銅)で3大会連続。
Q8. 鍵山優真のフリー曲「トゥーランドット」とミラノの関係は?
1926年にミラノのスカラ座で世界初演された曲で、2026年のミラノ五輪はちょうど初演100周年にあたる。
Q9. 鍵山優真は引退する?
本人は「もっともっと強くなりたい」と発言しており、来月の世界選手権に向けた意欲を示している。
Q10. 佐藤駿がフリー前に見た「SEIMEI」とは?
羽生結弦が2018年平昌五輪フリーで演じた伝説的プログラム。佐藤は6分間練習後に動画で見て気持ちを高めた。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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📚 参考文献
- Olympics.com「鍵山優真が2大会連続の銀メダル、佐藤駿は銅メダルを獲得」(2026年2月14日)
- BBC「フィギュアの鍵山優真が銀メダル、佐藤駿が銅メダルを獲得」(2026年2月14日)
- Forbes「Olympic Men's Figure Skating Results: Malinin Misses Podium, Shaidorov Stuns For Gold」(2026年2月13日)
- スポーツ報知「佐藤駿がSP9位から涙の銅メダル獲得」(2026年2月14日)
- スポーツ報知「シャイドロフ『信じられない』大逆転でカザフスタン初の金」(2026年2月14日)
- Olympics.com「フィギュアスケート世界王者イリア・マリニン 悪夢のフリーで衝撃の8位」(2026年2月14日)
- サンスポ「鍵山優真、フリーの勝負曲『トゥーランドット』とは」(2026年2月13日)
- Excite(スポーツ報知)「佐藤駿が涙の銅メダル 演技前に羽生結弦さん伝説演目『SEIMEI』見て『気持ち高めた』」(2026年2月14日)
- 日刊スポーツ「鍵山優真が五輪日本フィギュア界最多のメダル4個」(2026年2月14日)
- Deep Edge Plus「3大会連続の『ダブル表彰台』」(2026年2月14日)