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モーグルコースの「葉っぱ」は雪不足じゃない?正体は松の葉だった

モーグルコースに散らばる松の葉のイメージ。白い雪斜面に暗い点が散らばっている

| 読了時間:約8分

「モーグルのコースに草が生えてる?」――五輪中継を見た視聴者の間で、ある"違和感"が話題になっている。

ミラノ・コルティナ五輪のモーグル予選が行われた2月10日、コース上に散らばる茶色い斑点にSNSがざわついた。
「雪不足では?」「コースが荒れている?」――温暖化による雪不足が叫ばれるこの冬季五輪で、視聴者の心配は無理もない。

だが、解説を務めた上村愛子氏のひと言で、疑問は一気に氷解した。

あの黒いポツポツの正体は何なのか。そしてなぜ、わざわざコースに撒くのか。
調べてみると、そこにはFISの国際競技規則に裏打ちされた、選手を守るための意外な知恵があった。

 

 

 

モーグルコースの「葉っぱ」の正体は松の葉――フラットライト対策の知恵

あの茶色い斑点は、選手の安全のために撒かれた「松の葉」だ。

「雪が足りないんじゃ……」と心配した人はかなり多い。
ネット上には「モーグルコースは草だらけやな」「積雪が少ないのかな?」「世界中から雪を運んであげようよ!」といった声があふれた。

THE ANSWERの報道によると、TVerの公式Xアカウントも「コース上に散らばる黒いポツポツは、視認性を上げるため、意図的にまかれた松の葉です」と注記し、この投稿は125万表示を超えた。
同じ疑問を持った人がそれだけ多かったということだろう。

五輪5大会連続出場のレジェンド・上村愛子氏は、NHKの中継でこう解説した。

雪がちらついてきているので、太陽の光が届きにくくなっていますね。コブの凹凸がちょっと見えにくくなるんですけど、予選開始の前に松の葉っぱを撒いてくれていたので、選手としては一応コブの凹凸は葉っぱのおかげで見える状態になっていると思います

ここで出てくる「コブが見えにくくなる」現象は、スキーヤーの間でフラットライトふらっとらいとと呼ばれている。
曇天や降雪のとき、太陽の光が雲に遮られて拡散すると、雪面から影が消える。すると斜面全体がのっぺりとした白一色になり、コブの凹凸がまるで見えなくなってしまう。

モーグルのコースは全長約235m、平均斜度は約28度
IOC公式サイトによると、今大会の会場であるリヴィーニョ・エアリアル&モーグルパークもこの規格に沿って設計されている。
この急斜面を時速数十キロで駆け下りる選手にとって、コブの位置がわからないのは命に関わる。

松葉の役割はシンプルだ。
白い雪面の上に暗い色の点が散らばることで、コブの輪郭が浮かび上がる。
選手はその濃淡の差を手がかりに、高速でコブを捉えていく。

視聴者から見ると

「コースが汚れてる」

選手から見ると

「コブが見える目印」

つまり、あの斑点は雪不足やコースの荒れFISの国際競技規則に基づいて、選手の安全のために意図的に撒かれたものだった。

だが、なぜ「松の葉」なのか。他の素材では代用できないのだろうか。
その答えは、FISの国際競技規則にあった。

 

 

 

FIS国際競技規則が定める「松葉」――なぜ松なのか、染料ではダメなのか

松葉をコースに撒く行為は、「なんとなくの慣習」ではない。FISが定める国際競技規則に明記された、れっきとした公式手順だ。

曇りの日のゲレンデで、急に足元のコブが見えなくなって焦った経験はないだろうか。
あの恐怖を、世界トップの選手たちも味わっている。だからこそ、規則で対策が定められている。

FISの国際競技規則(ICR・2025年11月版)にはこう書かれている。

In all events the course, at the direction of the Jury, may be marked using: small pine needles or similar material spread on the course and/or coloured dye

全日本スキー連盟が公開する日本語訳では「小さな松葉または類似の材質をコース上に撒く」「着色染料」と訳されている。
大会審判団(ジュリー)の指示のもとで行われる正式な手順であり、個々の大会の判断に任されている。

ではなぜ、数ある素材のなかで「松葉」なのか。

海外のスキーフォーラム・snowHeadsでは、モーグルのジャッジを名乗るユーザーが興味深い証言を残している。
「松葉はスキー板に引っかからない。雪に沈み込むが、フラットライトのなかでも視認性は保てる。エアの後に着地点を"見つける"ために必要なんだ」という趣旨の投稿だ。

匿名の証言ではあるが、松葉の物理的な特性――細くて軽く、樹脂質でなめらか――を踏まえると、筋の通った説明ではないだろうか。

規則には松葉のほかに「着色染料」も選択肢として挙がっている。両者の違いを整理するとこうなる。

  松葉 着色染料
FIS規則 明記(正式手順) 明記(正式手順)
散布のしかた 面的にばらまく 線的に塗る
向いている場面 コブ全体の凹凸を浮かび上がらせたいとき コースの境界線や斜面変化を示したいとき
板への影響 雪に沈み込み、引っかかりにくい 雪に染みこむ

染料はアルペンスキーで旗門間のラインを示すのによく使われる。
一方、モーグルのようにコース全体のコブを「面」で見せたい場合は、ばらまける松葉のほうが適している。

そしてもうひとつ、面白い事実がある。
モーグル特有の慣行アルペンスキーの国際競技規則にも、まったく同じ文言が載っている。
アルペンスキーの国際競技規則にも「松葉やそれに近い物をコース上にまく」と書かれており、スキー競技全体に共通する知恵なのだ。

この慣行は今大会で始まったものではない。
実は五輪のたびに、視聴者は同じ疑問を抱き、同じ驚きを味わってきた。

 

 

 

北京五輪でも同じ反応があった――「松葉の驚き」は五輪の隠れた風物詩

この話、4年前にもまったく同じ展開があった。

Xでは「北京の時も『コース汚れてる』みたいに言われてた」という投稿が注目を集めている。
2022年の北京五輪でも、モーグルコースの黒いポツポツを見て「コースが汚い」と心配する声が上がり、そのたびに「あれは松の葉です」と説明される――いわば五輪のたびに繰り返される定番のやりとりだ。

北京五輪では、モーグルだけでなくスキージャンプでも松が活躍していた。
人民日報の英語版によると、スキージャンプ会場の着地斜面には松の枝が植えられていた。

目的はモーグルとは異なり、「着地点の距離感をつかませるため」。
飛行中の選手が地面との距離を判断するための目印として、松の枝が等間隔に並べられていたのだ。同記事では「松の枝はしなやかで、選手の動きやスキー板を傷つけず、滑走面への損傷も防げる」と、松が選ばれる理由にも触れている。

スキー競技と「松」の知恵

モーグルでは松葉でコブの視認性を確保し、スキージャンプでは松の枝で着地点の距離マーカーに。競技も場所も違うが、「雪の白さに目印を加えて選手の安全を守る」という発想は共通している。ちなみに日本の札幌では、松の枝の代わりに笹が使われるという。

ただし、温暖化による雪不足の問題そのものは、たしかに深刻だ。
今季のモーグルW杯では3か国で雪不足による開催中止が起きている。

THE ANSWERの報道はこの事実を伝えており、ミラノ・コルティナ五輪全体でも東京ドーム2杯分の人工雪が必要だとの指摘がある。
視聴者がモーグルコースの異物を見て「雪不足では」と反応したのは、こうした報道が頭にあったからだろう。

ここが今回の話のポイントだ。
松葉はフラットライト対策であって、雪不足とは無関係。だが、温暖化の報道が続くなかで視聴者の不安が増幅され、「コースの異物=雪が足りない証拠」と結びつきやすくなっていた。

両者をきちんと分けて理解しておくと、次にモーグルを観るときの見え方が変わるはずだ。

 

 

 

まとめ

  • モーグルコースの「黒いポツポツ」は松の葉。雪不足ではなく、フラットライト対策として意図的に撒かれたもの
  • FISの国際競技規則に「松葉または類似の材質をコースに撒く」と明記されている正式な手順
  • モーグルだけでなく、アルペンスキーの規則にも同じ文言がある
  • 北京五輪でも同じ反応が起きており、五輪のたびに繰り返される"定番の驚き"
  • 温暖化による雪不足は別問題として深刻だが、松葉とは切り分けて理解する必要がある

今夜の女子モーグル決勝や明日の男子決勝を観るとき、コースに散らばる松葉に気づいたら、それは「荒れている」のではなく「選手を守っている」サインだと思い出してほしい。

 

 

 

よくある質問(FAQ)

Q1. モーグルコースの黒いポツポツは何ですか?

選手がコブの凹凸を視認できるよう、フラットライト対策として意図的に撒かれた松の葉です。

Q2. なぜ松の葉を使うのですか?

松葉は細くて軽く、スキー板に引っかかりにくい上、雪に沈み込んでも暗い色で視認性を保てるためです。

Q3. 松葉を撒くのはFISの規則で決まっているのですか?

はい。FIS国際競技規則に「小さな松葉または類似の材質をコース上に撒く」と明記されています。

Q4. コースの雪不足とは関係がありますか?

関係ありません。松葉はフラットライト(曇天で雪面の凹凸が見えなくなる状態)への安全対策です。

Q5. 北京五輪でも松葉を撒いていましたか?

はい。北京五輪でも同様に撒かれ、視聴者から「コースが汚い」と同じ反応が起きていました。

Q6. フラットライトとは何ですか?

曇天や降雪時に太陽光が拡散され、雪面全体が白一色になりコブの凹凸が見えなくなる現象です。

Q7. 松葉のほかにコースを見やすくする方法はありますか?

FIS規則では着色染料も認められており、旗門間のライン表示などに使われます。

Q8. モーグルのコースの長さはどれくらいですか?

全長約235m、平均斜度は約28度で、一般的なスキー場の上級コースに匹敵する急斜面です。

Q9. モーグルの採点はどうなっていますか?

ターン60%、エア20%、スピード20%の配分で合計100点満点を競います。

Q10. スキージャンプでも松の枝を使うのですか?

はい。ジャンプでは着地斜面に松の枝を植え、選手が着地点との距離感をつかむ目印にしています。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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