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月120時間残業でも過労死否定?佐久市職員自死で遺族提訴へ

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月120時間以上の残業——それだけ聞けば「これは過労死だ」と思える数字である。しかし長野県佐久市の職員・小金澤昇さん(当時51歳)のケースでは、最初は「公務災害に当たらない」と判断された。なぜか。「喫煙のための離席」という証言があったからだ。実はその証言が残業時間から差し引かれたからだ。

2022年5月、佐久市土木課に勤める小金澤さんが自死した。自死前の2カ月間、時間外労働は月120時間を超えていた——いわゆる「過労死ライン」を大きく上回る数字である。しかし県の一次判断は「公務災害に当たらない」だった。認定までに約4年を要し、そして今、遺族は市を提訴しようとしている。

なぜ「月120時間以上の残業」がありながら、最初は過労死と認められなかったのか。なぜ遺族は認定を得た後もさらに提訴するのか。その答えは、「喫煙離席」という日常的な行動が時間外労働から差し引かれたという驚くべき判断と、地方公務員の過労死認定制度が抱える構造的な課題にある。


約4年を経ての「公務災害」認定——なぜ審査会が覆したのか

約4年の歳月を経て、2026年4月6日に公務災害認定が公表された

2026年4月6日、長野県佐久市職員・小金澤昇こがねさわ のぼるさん(当時51歳)の過労自死が公務災害と認定された。しかしその認定には、約4年という歳月と、上級審査会による「覆し」があった。

2019年の台風19号による被害の影響で道路損壊の連絡が休日や夜間、早朝でも相次ぎ、小金澤さんは2020年4月から土木課に勤務。午後11時前に帰宅できない日々が続いたという(毎日新聞 2026年4月6日付)。2022年5月、51歳で自死した。

遺族が記者会見を開き、公務災害認定と提訴方針を公表したのは2026年4月6日だ(東京新聞・共同通信)。この日までに、審査会の裁決が下りていた。

この事案の特異な点は、同じ「時間外労働の算定」を巡って県支部長と上級審査会で全く異なる結論が出たことだ。支部長は約4年前の段階で既に判断を下していたが、遺族はそれを不服として審査請求を行った。

審査会の裁決が下りたのは2026年3月9日付。そこに至るまでに、審査会は単に「残業が多い」というだけではなく、「どのような証拠に基づいて残業時間を算定するか」という根本的な問題に踏み込んだ。

審査会の裁決内容(毎日新聞 2026年4月6日付)

審査会は携帯電話の通信記録から、県支部長の認定より26時間半多い約123時間(前月は約127時間)と再算定し、公務災害と判断した。

携帯電話の通信記録という「動かしがたい客観証拠」が決め手となった。審査会は「関係者の証言には偏りもあり得る」として、主観的な証言よりも客観的なデータを優先する判断を示したのである。

では、県支部長はなぜ「認定しない」という結論に至ったのか。その判断の根幹には「喫煙のための離席」という言葉があった。


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「喫煙のための離席」——なぜ月120時間超の残業が認められなかったのか

県支部長は職場の証言を基に1日1時間を減算した

月120時間以上の残業——それだけ聞けば「これは過労死だ」と思える数字である。しかし県支部長は、職場関係者の「喫煙離席があった」という証言を基に、小金澤さんの時間外労働を1日当たり1時間減算した。

多くの人は「過労死ラインを超えていれば、当然認定されるだろう」と考える。しかしこのケースでは最初は認定されなかった。なぜか。喫煙のための離席——そうした「働いていない時間」があったからだ。その「働いていない時間」を残業から差し引いたからだ。

県支部長は職場関係者の証言から「喫煙などのための離席時間があった」として、1日当たり1時間減らして時間外労働を算出した(毎日新聞)。公務災害の基準は「発症直前の2カ月間でおおむね月120時間以上の時間外労働」。県支部長は減算の結果、この基準に満たないとして公務災害を認めなかった。

ここで考えたいのは「職場関係者の証言」の重みである。県支部長は同僚の「喫煙のために席を離れていた」という証言を事実として採用し、1日1時間を減算した。もしこの証言が過大評価だったとしたら——あるいは、証言者が記憶違いをしていたとしたら——。

審査会が指摘した「証言の偏り」の問題

審査会はまさにその点を問題視した。「関係者の証言には偏りもあり得る」という判断は、職場の同僚の証言が必ずしも正確ではないという現実認識に立っている。誰も悪意はなくても、記憶は曖昧になり得る。ましてや亡くなった同僚の働き方を正確に再現することは容易ではない。

対照的に、携帯電話の通信記録は改変できない客観的事実である。審査会は「現場対応の記録」というデジタルデータを根拠に、時間外労働を26時間半も上乗せして再算定した。証言と記録——どちらが真実に近いかは明白だったのではないか。

こうして約4年の歳月を経て公務災害認定を得た遺族だったが、彼女たちはそこで立ち止まらなかった。なぜ「認定された」だけでは終わらないのか。


認定されても終わらない——遺族が「市を提訴する」理由

遺族が提訴するのは「認定まで約4年」への怒りからだ

公務災害に認定されれば、遺族補償が支給される。それでも小金澤さんの遺族は佐久市を提訴する方針を表明した。そこには「補償では償えない何か」と「認定までのあまりにも長い道のり」への怒りがあった。

遺族側は市を相手取り、安全配慮義務違反があるなどとして近く提訴する予定だ(毎日新聞au Webポータル)。安全配慮義務とは、使用者が労働者の生命や健康を危険から守る義務を指す。小金澤さんが自死に追い込まれたのは、市がこの義務を果たさず、長時間労働を放置したからだ——これが遺族側の主張だろう。

舩尾遼弁護士はこう指摘する。「職場の証言を過大に評価して過労自死を認めなかったために、遺族が数年間救済されなかったのはあまりにもひどい」(毎日新聞)。

妻の恵美理さんは当時を振り返ってこう話した。「夫は亡くなる1カ月ぐらい前『仕事がつらく、自分はこのままじゃまずい』と言っていたのを覚えている。仕事を辞めさせてあげたかった」(毎日新聞)。

今後の訴訟の争点——労働時間把握義務の有無

争点の一つは「市は小金澤さんの労働時間を適切に把握していたか」である。審査会が携帯電話の通信記録から時間外労働を再算定したという事実は、市の労働時間管理に問題があった傍証と見なされるかもしれない。

賠償額は現時点で不明だ。しかし過労死訴訟の過去事例では数千万円規模の請求がなされることが多い。金額以上に、この提訴には「二度と同じ悲劇を繰り返させない」というメッセージが込められているように思えてならない。

この事案は決して特殊な例ではない。地方公務員の過労死認定を巡っては、長年にわたり構造的な問題が指摘されている。


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「喫煙離席」問題が映す——地方公務員過労死認定の構造的課題

この事案は地方公務員過労死認定の構造的問題を示す

なぜ「喫煙のための離席」を残業時間から差し引くという判断が、最初は通ってしまったのか。それは地方公務員の過労死認定制度そのものが抱える問題と無関係ではない。

この事案を「異常な判断」として片付けるのは容易い。しかし、県支部長がなぜそのような判断を下せたのか——その背景には、地方公務員災害補償基金という制度の運用実態があるのではないか。審査請求制度が存在しても、一次判断で「認定しない」とされれば、遺族はそこから長い審査の旅路を強いられる。

毎日新聞の報道によれば、中皮腫という特定の疾病に限定したデータではあるが、民間労災の認定率が約94%だったのに対し、地方公務員では約52%にとどまっている毎日新聞 2026年4月6日付「公務災害と労災、格差なお」)。神奈川新聞の2016年の記事では、脳・心疾患に限れば民間44.5%に対し地方公務員20.3%と、さらに大きな開きがあった(毎日新聞引用)。統計の時期や対象は異なるものの、「地方公務員の認定が厳しい」という構造的な傾向が存在する可能性を示唆していると言えるのではないか。

もし民間企業だったら——早期認定されていた可能性

もし同様の長時間労働が民間企業で発生していたら——おそらく早い段階で労災認定されていたかもしれない。小金澤さんが「過労死ライン」を大きく超えて働いていたのは事実だ。それなのに、約4年もの歳月を要した。これは一人の遺族の苦しみという次元を超えて、制度そのものの在り方を問いかけているように見える。

地方公務員として働く人、あるいはその家族にとって、この事案は「自分ごと」として捉える必要があるだろう。「過労死ラインを超えていても、証言次第で認定されない」——それが現実なのだから。


この記事のポイント

  • 小金澤昇さん(当時51歳)は2022年5月に自死。自死前2カ月間の時間外労働は月120時間を超えていた。
  • 県支部長は「喫煙のための離席」という職場の証言を基に1日1時間減算し、当初は公務災害を認めなかった。
  • 審査会は携帯電話の通信記録を基に時間外労働を再算定し、約4年を経て2026年3月9日付で公務災害と認定した。
  • 遺族は安全配慮義務違反を理由に佐久市を提訴する方針を表明した(2026年4月6日)。
  • 地方公務員の過労死認定率は民間より低い傾向があり、この事案は制度の構造的問題を浮き彫りにしている。

よくある質問(FAQ)

Q1. 公務災害の認定基準は何ですか?

業務上の負傷・疾病・障害・死亡に対して補償が行われる。過労死の場合、発症前2カ月間に月120時間以上の時間外労働が目安。

Q2. なぜ月120時間以上の残業がありながら最初は過労死と認められなかったのですか?

県支部長が職場の証言を基に「喫煙離席」として1日1時間を残業から減算。基準を下回ると判断したため。

Q3. 過労自死で市を提訴できるのですか?

できる。安全配慮義務違反(使用者が労働者の安全を守る義務)を理由に損害賠償請求が可能。

Q4. 安全配慮義務違反とは何ですか?

使用者が労働者の生命や健康を危険から守る法律上の義務。長時間労働の放置は違反と見なされる。

Q5. 地方公務員災害補償基金とはどんな機関ですか?

地方公務員の公務災害を審査・補償する機関。都道府県に支部、国に本部がある。

Q6. 審査会はなぜ県支部長の判断を覆したのですか?

携帯電話の通信記録という客観証拠を採用。「職場の証言には偏りもあり得る」と判断した。

Q7. 遺族はなぜ公務災害認定を得た後も提訴するのですか?

認定まで約4年かかったことへの怒りと、市の労働時間管理体制に問題があったと考えるため。

Q8. 地方公務員の過労死認定率は民間より低いのですか?

過去の統計では低い傾向がある。中皮腫で民間94%に対し地方公務員52%、脳心疾患で20.3%との報告も。

Q9. 佐久市の訴訟で請求される賠償額はどのくらいですか?

現時点で未公表。過労死訴訟の過去事例では数千万円規模の請求が多い。

Q10. 「喫煙離席」を残業から差し引く判断は妥当だったのですか?

審査会は「証言には偏りもあり得る」として否定。客観的証拠がない場合、証言だけでは不十分とされた。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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