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中国にレアアースを止められたら日本はどうなるか。
その答えが、アフリカ・ナミビアの砂漠にあった。
日本政府がナミビアで重希土類の大規模な埋蔵を確認した。
鉱山を開発する企業の募集もすでに始まっている。
朝日新聞の報道によれば、政府は2028年末までに一部レアアースの中国依存度ゼロをめざすという。
だが、掘れば解決するほど話は単純ではない。
精錬という壁、南鳥島との役割分担、そして日本がすでに動き始めている三正面作戦の全体像を見ていく。
この記事でわかること
中国にレアアースを止められたら——GDPに約5兆円の打撃
日本はレアアースの60〜70%を中国から輸入している。
2026年1月、中国が対日輸出管理を厳格化し、供給途絶リスクがかつてないほど高まった。
EVのモーター、スマホの振動部品、エアコンの省エネ性能。
こうした身近な製品を支えるレアアースの大半が、中国からやってくる。
⚠ 2026年1月の輸出規制強化
中国政府は2026年1月6日、軍民両用品の対日輸出管理を厳格化すると発表した。みずほリサーチ&テクノロジーズのレポートによると、レアアースがこの規制対象に含まれる見方が強まっている。
2010年のレアアースショックを振り返る
これは初めてのことではない。
2010年、尖閣諸島沖の漁船衝突事件をきっかけに、中国がレアアースの輸出を事実上止めた。
当時、日本の対中依存度は約9割。
わずか2か月の供給途絶で、自動車の生産は15%超も落ち込んだ。
みずほの試算によれば、この2か月だけでGDPは約0.25%押し下げられた。
では、今回はどうか。
同じくみずほの試算では、中国からのレアアース輸入が1年間止まった場合、GDPを約0.9%押し下げる。
日本のGDP規模に照らすと、約5兆円の損失に相当する。
15年かけても依存度は7割
2010年のショック以降、日本は調達先の分散を進めてきた。
オーストラリアやベトナムからの輸入を増やし、リサイクル技術も磨いた。
ところが、依存度は9割から7割へと15年かけても2割しか減っていない。
なぜか。
Japan Forwardの報道によれば、中国はレアアースの採掘で世界の約6割、鉱石から金属を取り出す精錬では約9割を握っている。
鉱石を掘る国を増やしても、それを使えるかたちに加工する工程が中国に集中している。
だから依存構造は簡単には崩れない。
| 2010年 | 2024年 | |
|---|---|---|
| 対中依存度 | 約9割 | 約7割 |
| 供給途絶の影響 | GDP▲0.25%(2か月) | GDP▲0.9%(1年試算) |
| 依存の特徴 | 採掘の依存が中心 | 精錬の依存が深刻 |
こうした危機感の中で、日本政府がナミビアで確認したレアアースの埋蔵は、打開策になるのだろうか。
Lofdal鉱山の正体——日本のジスプロシウム需要の約75%をカバーする鉱床
JOGMECの調査で埋蔵が確認されたのは、ナミビア北西部クネネ地方のLofdal鉱山にあるジスプロシウムとテルビウムだ。
報道では「ナミビアでレアアースが見つかった」と伝えられている。
だが正確には「見つかった」のではない。
NHK Worldの報道によると、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は2020年からカナダのNamibia Critical Metals社と合弁事業を組んでいた。
📌 6年がかりの調査
The Extractor Magazineによれば、JOGMECは最大2,000万米ドルを投じて50%の権益取得をめざしている。JVは2020年に契約、2022年に拡大された。今回初めて見つかった → 6年間の調査でようやく確認されたのだ。
PFSが示す具体的な数字
2025年12月、Namibia Critical Metals社が発表した事前採算性調査(PFS)で、この鉱山の経済性が明らかになった。
PFSとは、鉱山が商業的に成り立つかを検証する調査のことだ。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 年間生産見込み | ジスプロシウム119トン、テルビウム17.8トン、イットリウム841トン |
| 確認埋蔵量 | 3,200万トン |
| 含有量 | ジスプロシウム酸化物4,503トン、テルビウム酸化物692トン |
| 鉱山寿命 | 13年 |
| 建設費 | 約3.48億ドル(約520億円) |
| 税引後NPV | 2.76億ドル(ベースケース) |
年間ジスプロシウム119トンという数字がどれほどの規模か。
日本のジスプロシウム年間消費量は推定約160トン。
つまり、この鉱山ひとつで日本が1年に使うジスプロシウムの約75%をまかなえる計算になる。
鉱石の90%が重希土類——中国外では最大級
Lofdal鉱山のもう一つの特異な点がある。
The Extractor Magazineによれば、鉱石の約90%が重希土類で構成されている。
通常のレアアース鉱山では、ネオジムやプラセオジムなど軽希土類が主体だ。
ジスプロシウムやテルビウムといった重希土類はわずかしか含まれない。
重希土類は、EVモーターの永久磁石が高温でも磁力を失わないために不可欠な素材だ。
中国外でこれほど重希土類に特化した鉱床はほぼ存在しない。
「掘れたら安心」ではない——精錬という壁
ナミビアで鉱石が採れるようになったとしても、それだけでは足りない。
鉱石から不純物を取り除いて使える金属にする精錬という工程がある。
この精錬の約9割を中国が握っている。
鉱山を中国の外に確保しても、精錬を中国に頼るなら依存構造は変わらない。
🔧 精錬ルートの確保も進行中
日経新聞の報道によると、日本政府はLofdal鉱山での採掘に加え、精錬工場の建設も検討している。さらにJOGMECは2025年3月、岩谷産業とともにフランスのCarester社が建設する重希土類の分離工場に1.1億ユーロを出資した。
採掘と精錬の両方で中国を迂回するルートを築こうとしているわけだ。
⚠️ ここからは推測
PFSが完了した段階から商業生産までには通常3〜5年を要する。Lofdal鉱山の商業生産開始は2020年代末から2030年代初頭になるのではないか。
日本はナミビアだけに頼っているわけではない。
もう一つの切り札——南鳥島沖のレアアース泥にも手を伸ばしている。
ナミビア・南鳥島・豪ライナス——日本の「脱中国」三正面作戦
中国依存から抜け出す手段は、ナミビアだけではない。
中国以外からの重希土類の調達はすでに始まっている。
双日の発表によれば、同社は2025年10月に、オーストラリアのライナス社から日本初となる重希土類の輸入を始めた。
双日とJOGMECはライナスに合計約380億円を出資している。
ジスプロシウムとテルビウムの最大65%を日本向けに供給する契約だ。
「これから」ではなく、すでに動いている。
南鳥島——深海6,000mに眠る国産資源
一方、日本の排他的経済水域にある南鳥島沖では、まったく別のアプローチが進んでいる。
サイエンスポータルによると、探査船ちきゅうは2026年2月、水深約6,000メートルの深海底からレアアース泥を引き揚げることに成功した。
2027年には1日350トンを目標に本格的な採掘実証を行う。
2030年ごろの商業採掘を視野に入れている。
南鳥島のレアアース泥はジスプロシウムやテルビウムを含む。
だが水深6,000メートルという技術的なハードルが高く、商業化にはまだ時間がかかるだろう。
三つのルートの役割分担
ナミビア、南鳥島、豪ライナスの三つのルートは、時間軸もレアアースの種類もリスクも異なる。
| 豪ライナス | ナミビアLofdal | |
|---|---|---|
| 現在の段階 | 商業生産中 | PFS完了・企業募集中 |
| 生産の目安 | すでに供給開始 | 2020年代末〜か |
| 主なレアアース | 重希土類(Dy・Tb) | 重希土類(Dy・Tb・Y) |
| 最大のリスク | 単一企業への依存 | 鉱山建設・精錬ルート |
| 南鳥島 | |
|---|---|
| 現在の段階 | 試掘成功 |
| 生産の目安 | 2030年ごろか |
| 主なレアアース | 軽〜重希土類(広範) |
| 最大のリスク | 深海技術・採算性 |
ライナスは「今すぐ使える」代替調達先。
ナミビアは「数年後に本格稼働」する中期的な柱。
南鳥島は「長期的な国産資源」としての位置づけだ。
「中国依存度ゼロ」の対象は?
朝日新聞が報じた「2028年末までに中国依存度ゼロ」の対象は、一部のレアアースに限定される。ライナスからの重希土類の供給が軌道に乗り、ナミビアの開発が進めば、ジスプロシウムやテルビウムがその「一部」に該当するのではないか。
日経新聞の報道では、レアアースの需要は2040年までに2024年比で2倍以上に増えるとの予測もある。
調達先の分散は、中国リスクへの備えであると同時に、拡大する需要を取り込むための投資でもある。
まとめ
- 日本政府がナミビアのLofdal鉱山でジスプロシウムとテルビウムの埋蔵を確認。年間Dy119トンの生産見込みは、日本の年間消費量の約75%に相当する
- ただし精錬の約9割を中国が占めており、掘るだけでは依存構造は変わらない。精錬工場の建設やフランスでの分離事業への出資で迂回ルートを構築中
- ナミビア・南鳥島・豪ライナスの三正面作戦が進行中。ライナスからの重希土類輸入はすでに始まっており、段階的に中国依存を下げていく戦略だ
よくある質問(FAQ)
Q1. ナミビアで見つかったレアアースとは何ですか?
EVモーターの磁石に不可欠なジスプロシウムとテルビウムという重希土類で、JOGMECの調査で埋蔵が確認されました。
Q2. Lofdal鉱山の埋蔵量はどのくらいですか?
確認埋蔵量は3,200万トン。ジスプロシウム酸化物4,503トン、テルビウム酸化物692トンを含みます。
Q3. 日本のレアアースの中国依存度はどのくらいですか?
輸入の60〜70%を中国に頼っています。2010年の約9割から下がりましたが、精錬は依然として約9割が中国に集中しています。
Q4. 中国依存度ゼロはいつ実現しますか?
政府は2028年末までに一部レアアースで中国依存度ゼロをめざしています。対象はジスプロシウムやテルビウムとみられます。
Q5. 南鳥島のレアアースとナミビアのレアアースは何が違いますか?
南鳥島は水深6,000mの深海泥で軽〜重の広範なレアアースを含みます。ナミビアは地上鉱山で重希土類に特化しています。
Q6. レアアースの精錬とは何ですか?
鉱石から不純物を取り除き、使える金属に加工する工程です。この精錬の約9割を中国が握っています。
Q7. ナミビアのLofdal鉱山はいつ商業生産を始めますか?
PFS完了段階で、商業生産までは通常3〜5年かかります。2020年代末から2030年代初頭の開始が見込まれます。
Q8. レアアース関連の日本企業はどこですか?
双日がJOGMECと共同で豪ライナスに出資し、2025年10月に日本初の重希土類の輸入を始めています。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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📚 参考文献
- NHK World「Japan's government moving to secure rare earth resources in Namibia」(2026年2月12日)
- 日本経済新聞「政府、ナミビアでレアアース埋蔵確認 鉱山開発の企業募集」(2026年2月28日)
- Namibia Critical Metals Inc.「Pre-Feasibility Study Press Release」(2025年12月3日)
- みずほリサーチ&テクノロジーズ「中国レアアース輸出規制の日本経済への影響」(2026年1月22日)
- サイエンスポータル「南鳥島EEZでレアアース試掘に成功」(2026年2月6日)
- The Extractor Magazine「Namibia joins Africa's rare earth map」(2025年11月7日)
- The Extractor Magazine「Lofdal rare earth project to cost N$6.34 billion to build」(2025年12月4日)
- Japan Forward「レアアース包括的協力でナミビアと一致」
- 朝日新聞「レアアース『中国依存度ゼロ』めざし政府計画 アフリカで鉱山開発へ」(2026年2月27日)
- 双日「豪州由来レアアース(重希土類)の輸入を開始」(2025年10月30日)