リアルタイムニュースNAVI

話題の出来事をリアルタイムで深掘り

石油不足でプラスチックが消える?254日分の備蓄では足りない理由

石油不足でプラスチックが消える?254日分の備蓄では足りない理由

| 読了時間:約10分

スーパーの食品トレーも、衣服も、点滴パックも──実は全部石油でできている。

2026年2月28日、米国とイスラエルによるイラン攻撃をきっかけにホルムズ海峡が事実上封鎖された。
それ以来、ガソリン価格が注目を集めているが、OBSラジオで 構想日本 の加藤代表が警鐘を鳴らすのはもっと深刻な問題だ。

石油不足の影響は、ガソリンより先に「プラスチック製品」を通じて私たちの日常を直撃するおそれがある。
日本には 254日分の石油備蓄があるはずなのに、なぜプラスチック製品が「消える」と言われているのか。

スーパーの食品トレーも学生服も点滴も──全部石油でできている

食品トレーを手に取ったことがある人なら気づくはずだ。
あの薄いプラスチックの正体は、石油から作られる。

衣服のポリエステル、薬のカプセル、点滴のパック、手術用の手袋。
これら全てが、石油を精製して得られる ナフサ なふさ という液体を原料にしている。

ガソリンが高くなった、というニュースはよく見る。
だが石油不足の本当の怖さは、ガソリンよりずっと広い範囲に及んでいる。

 

 

ジェトロ(日本貿易振興機構)の発表 によると、日本の原油輸入の 93.5% は中東に依存している。
そのほとんどがホルムズ海峡を通過する。
2026年2月28日、米国とイスラエルによるイラン攻撃でこの海峡が事実上封鎖された。


OBSラジオ番組に出演した構想日本の 加藤秀樹 代表 は、こう指摘する。

「私たちの生活はガソリンだけでなく、スーパーの食品トレーや容器、衣類、薬、家具、電気製品に至るまで、あらゆる面で石油に依存している。」

TBSニュースDIGの報道 によると、医療現場では事態がすでに深刻だ。
いとう王子神谷内科外科クリニックの 伊藤博道 院長はこう語っている。

「プラスチック製の手袋は発注ができない状況です。 手術ができなくなる。緊急処置ができなくなる。 酸素投与もできなくなるとか、医療の質を担保することは難しくなってくる。」

石油不足が命に関わる理由

点滴のパックも注射針もプラスチック製だ。
現代の医療はプラスチックで成り立っている。
石油不足は、 命に関わる問題として医療現場にすでに現れている。

「254日分ある」は本当か── ナフサ なふさ は"生鮮食料品"と同じ

政府は「日本の石油備蓄は 254日分ある 」と強調する。しかしプラスチックの原料となるナフサについては、この数字はあてにならない。

 

石油備蓄254日分という数字は、精製前の原油ベースの話だ。

ナフサとは、原油を精製して得られる透明な液体で、プラスチックをはじめ衣類・洗剤・医薬品など、あらゆる化学製品の出発点となる物質だ。
このナフサには、原油とは全く別の「弱点」がある。

OBSラジオ番組での構想日本・加藤代表の発言 によると、ナフサは「生鮮食料品のようなもの」で、 2〜3週間分の備蓄しかできない という。

 

原油備蓄

254 日分

長期保存が可能

ナフサ備蓄

約20 日前後

「生鮮食料品」と同様

物流専門誌「LOGISTICS TODAY」の2026年4月の報告 によると、ナフサ単体の在庫は20日前後にとどまる。
「254日分」という安心感の裏で、プラスチックの原料は数週間で底をつく構造なのだ。


さらに追い打ちをかけたのが、韓国の動きだ。
2026年3月27日、 韓国産業通商資源省 がナフサの全量輸出禁止を 5か月間 にわたって発動した。
日本のナフサ輸入に占める韓国の比率は9.4%で、代替調達先がさらに狭まった。

つまり、こういうことだ

原油の貯金は8か月分ある。
しかしプラスチックの素となるナフサは、冷蔵庫の中のヨーグルトと同じで、 2〜3週間で使い切るしかない。
しかもその仕入れ先が次々と閉まっている。

 

 

今、日本の工場で何が起きているか

これは「これから起こるかもしれない話」ではない

2026年4月時点で、日本の主要工場の 半数がすでに動いていない。

日本にはエチレンを生産する設備が12基ある。
エチレンとは、ナフサを加熱・分解して作る基礎化学品で、プラスチックの素材だ。


LOGISTICS TODAYの報告 によると、このうち 6 基の減産は続いている。
半数だ。

減産に入った工場の名前と時期を並べると、連鎖の速さが分かる。

 

  1. 3月6日 三菱ケミカル 鹿島(茨城県神栖市)が減産開始
  2. 3月10日 三井化学 の千葉・大阪の2基が減産開始
  3. 3月11日 旭化成・三菱ケミカル共同運営のAMEC水島が減産開始
  4. 3月16日 出光興産 の千葉・徳山の2基が減産開始

 

ホルムズ海峡が事実上封鎖されてから、わずか 10日間 で大手化学メーカーが次々と生産を落とした。


価格も急変している。
LOGISTICS TODAYによると、2026年4月3日時点の日本着ナフサスポット価格は1トンあたり 1190ドル だ。
封鎖前は600ドル台だった。

封鎖前の600ドル台 4月3日で1190ドル(92%上昇) ──ほぼ2倍になった。

「不足が解消されたわけではない。
不足を抱えたまま、 2倍のナフサで生産を続ける局面 に入っている。
」──これが現場の実態だ。

この価格高騰はすでに最終製品に波及している。
2026年4月1日出荷分から、 旭化成 がポリエチレンを1キロ 120円以上 値上げした。
東レ は合成繊維の全品目を緊急値上げした。

値上げが始まった品目

紙おむつの原料・ポリエステル・食品包装フィルム──全て2026年4月1日出荷分から値上がりが始まっている。

石油化学工業協会・工藤会長のコメント(2026年3月24日)

「4月は稼働維持が可能だが、 5月以降が焦点だ。

出典: LOGISTICS TODAY(2026年4月)

5月が近づくにつれ、さらなる供給制約が起きるおそれがある。
三菱ケミカル鹿島では、5月からの定期修理が予定されたままだ。
減産中の設備が定修に入れば、その期間の供給はさらに絞られる。

 

 

ガソリン補助金より先にやるべきこと

OBSラジオ番組での構想日本・加藤代表の主張 は明快だ。政府の 8000億円 のガソリン補助金 は「新しい原油を増やさない」ため、問題の根本解決にはならない。

 

「ガソリン価格を170円程度に抑えるため、約8000億円の補助金を投入すると言っているが、ガソリンに補助金を出したところで新しい原油が入ってくるわけではない。」

この発言は、補助金政策の本質的な限界を突いている。
石油が届かない以上、値段を補助しても物自体は増えない。

では何をすべきか。
参考になるのは1973年の第一次オイルショック時の対応だ。
野村総合研究所の分析 によると、当時の政府は国民と企業に「石油節約運動」を強く求めた。


1973年の石油節約運動 令和版(2026年)のアップデート
日曜日の自家用車利用の自粛 リモートワーク・公共交通の優先
高速道路での低速運転 IEAが速度制限10km引き下げを提案
暖房設定温度の引き下げ 電力・ガスの節約継続
深夜のテレビ放送自粛 宅配サービスの見直し

ジェトロが伝えるIEA(国際エネルギー機関)の提案 によると、2026年3月20日に10の具体策が発表された。
在宅勤務の推進、公共交通機関の利用促進、ナンバープレートによる自家用車のローテーション制度など、令和の生活スタイルに合わせた内容だ。

加藤代表はさらに、宅配サービスの見直しも提唱している。
「過疎地や高齢者の利用を除いて控えてもいいのではないか」という。
当日・翌日配送が当たり前になった今、その利便性の裏に交通と環境への大きな負荷があることを見直す機会だと指摘する。

補助金と節約運動──方向性の違い

ガソリン補助金が「消費者が痛みを感じないようにする措置」だとすれば、節約運動は 「痛みを受け入れながら石油を長持ちさせる措置」 だ。
二つは方向性が全く逆を向いている。

 

 

「石油危機」が本当に問いかけているもの

報道の文脈では、今回の事態は「ホルムズ海峡封鎖によるエネルギー供給不足」として伝えられている。
ガソリン価格が上がり、補助金が出て、備蓄が放出される。
そういう話として処理されている。

しかし報道された事実をもとに別の角度から見ると、今回の危機は別のことを示しているとも読める。

日本は原油輸入の 93.5% を中東に依存し、そのタンカーの9割がホルムズ海峡を通る。
この一点に日本のエネルギー安全保障の全重量がかかっている。


韓国の中東依存度が約7割、台湾も同程度だという中で、日本の 94%という数字は際立って高い。
今回の危機は、「中東に何かあれば日本は止まる」という構造を、教科書ではなく現実の出来事として見せた。


では、なぜこの脆弱な構造は何十年も放置されてきたのか。
石油が安く、安定的に届いている間は、依存を問い直す動機が生まれにくい。


再生可能エネルギーへの転換や、国内のナフサ代替技術の開発は、平時には「コストがかかる」と先送りされる。
今回の危機は、その先送りのツケが一気に来た局面だという見方もある。

エチレン設備の半数が動かず、衣類・医療・食品包装の全てに同時にひびが入っているのは、サプライチェーン全体が単一の原料に頼りすぎていることの証明だろう。
プラスチックに代わる素材の開発、バイオマス由来のエチレン生産、そして電力の脱炭素化。


これらは「環境のための話」として語られることが多かった。
しかし今回の事態は、エネルギー安全保障の観点からも全く同じ答えを指し示している。

⚠️ 筆者の考察について

ここからは筆者の考察であり、確定情報ではない。
今回の石油危機を「再エネ転換が遅れたことの帰結」と断定することはできない。


エネルギー政策には安全保障・経済・技術・国際関係など多くの要素が絡む。
しかし少なくとも、 ナフサ2〜3週間分という備蓄の脆さが浮き彫りになったことは事実だ。

一つ問いを立てるとすれば、こうなる。
ガソリン価格を補助金で抑えながら「石油依存」を維持する選択と、補助金をエネルギー転換の投資に回す選択──どちらが10年後の日本を安全にするか。
その問いに、今回の危機は静かに答えを迫っている。

まとめ

  • 石油不足の影響はガソリンより先に、プラスチックを通じて食品・衣類・医療に及ぶ
  • 政府が強調する「254日分」の備蓄は原油ベースの数字で、プラスチックの原料・ナフサの備蓄は20日前後にすぎない
  • 2026年4月時点で、日本のエチレン設備12基のうち6基がすでに減産中。4月1日から大型値上げが始まった
  • 8000億円のガソリン補助金は原油を増やさない。構想日本の加藤代表は1973年型の節約運動を現代に合わせてアップデートすることを提唱している
  • 今回の危機は、中東依存93.5%という日本のエネルギー構造の脆さをあらためて示した

よくある質問(FAQ)

Q1. ナフサとは何ですか?

原油を精製して得られる透明な液体。
プラスチック・衣類・医薬品・洗剤など、あらゆる化学製品の原料になる物質だ。

Q2. 石油備蓄が254日分あっても大丈夫ではないのですか?

254日分は原油ベースの数字。
プラスチックの原料・ナフサの備蓄は20日前後で、全く別の計算が必要だ。

Q3. エチレン設備の減産は今も続いていますか?

2026年4月時点で12基のうち6基が減産中。
4月に追加停止は広がらなかったが、5月以降がさらなる焦点だ。

Q4. ナフサ価格はどのくらい上がりましたか?

2026年4月3日時点で1トンあたり1190ドル。
ホルムズ海峡封鎖前の600ドル台から92%上昇した。

Q5. ガソリン補助金8000億円はなぜ意味がないと言われるのですか?

補助金は価格を抑えるだけで原油の量を増やさない。
石油が届かない根本問題は解決しないためだ。

Q6. 令和の節約運動として今すぐできることは何ですか?

公共交通の利用・在宅勤務の活用・宅配サービスの見直しなど。
IEAも2026年3月に10の具体策を発表している。

Q7. 洗剤やトイレットペーパーも値上がりしますか?

洗剤の界面活性剤・紙おむつの吸水材など石油由来成分を使う日用品全般に波及するおそれがある。

Q8. いつから生活への影響が本格化しますか?

衣類・食品包装は2026年4月1日から値上げ開始済み。
5月の定期修理集中でさらなる供給制約が起きるおそれがある。

N

リアルタイムニュースNAVI 編集部

reaitimenews.com

話題のニュースを「なぜ?」の視点で深掘りするニュースメディアです。
法律・心理学・経済など専門分野の知識をもとに、報道だけではわからない背景や理由をわかりやすく解説しています。

📚 参考文献