リアルタイムニュースNAVI

話題の出来事をリアルタイムで深掘り

初任給40万でも辞める——なぜ入社式当日に退職代行が増えるのか

入社式当日に退職代行——初任給40万円でも辞める新卒が増えるのはなぜか

| 読了時間:約7分

入社式の当日、退職代行への依頼が後を絶たない。
初任給を破格まで引き上げ、ギネス記録まで狙う企業の隣で、この春も「もう無理」の声は続いている。

なぜ企業がこれほど必死になっても、新卒は辞めてしまうのか。その構造を読み解く。

 

 

 

 

爆音とギネス記録と「初任給40万円」——2026年の入社式は何かがおかしい

2026年4月1日、日本の各地で企業が「いつも以上」の入社式を開いた。ギネス記録への挑戦、爆音の激励、元五輪選手のサプライズ。そして初任給最高40万円という数字が飛び出した。

時事通信の報道によると、愛知県豊田市の本社会場でレーシングカー「GR GT3」がエンジンの爆音を響かせた。

トヨタ自動車の入社式での出来事だ。同日就任した近健太社長は「勉強し働いて、もっと自分自身を成長させてほしい」と呼びかけた。


一方、NTTドコモは国立競技場に1390人が集結し、企業ロゴの人文字でギネス世界記録を更新した。

JALは紙飛行機を一斉に飛ばし、住友商事は元スピードスケート五輪選手の高木美帆さんをサプライズ登場させた。NECは自社の顔認証技術を使い、800人の受け付けを大型パネルの前を通るだけで完了させた。

入社式がここまで派手になったのは、採用競争が限界まで激化しているからだ。


「初任給40万円」の中身

そのなかでも特に注目を集めたのが、家電量販店大手ノジマの新制度だ。

ノジマの公式発表によると、「出る杭入社」という名称の採用枠が新設された。自社でアルバイトとして1年以上働いた学生を成長の度合いで評価し、初任給最高40万円で採用する仕組みだ。

ただし、ここには重要な「実は」がある。

全員が40万円をもらえる対象は586名の内定者のうち5名前後だ。一般的な初任給も34万4千円に引き上げられたが、「40万円」の文字が独り歩きしている側面は否めない。

 

 

 

2026年度・大手各社の初任給(TBS報道局経済部の取材より)

企業 初任給(最大)
ノジマ 40万円
ファーストリテイリング 37万円
サイバーエージェント 42万円
大和証券(エキスパート職) 52万円〜

これらの数字はあくまで「大手の上限」だ。その文脈は、次のセクションで明らかになる。


67.5%が引き上げた——でも「どれくらい」上げたか

帝国データバンクの2026年度調査によると、初任給を引き上げた企業は67.5%に達した。3社に2社が給料を上げた計算だ。

平均引き上げ額は9,462円。前年の9,114円をわずかに上回った。

これほどの努力が積み重なっている。それでも、同じ4月1日に退職代行の電話は鳴り続ける。

次のセクションで明かされる「本当の退職理由」は、多くの読者の予想を裏切るはずだ。

 

 

 

退職理由は「給料が低い」ではなかった——データが覆す思い込み

退職代行を使う新卒と聞いて、どんな企業を想像するだろうか。「残業が多い」「給料が低い」——そう思った人が多いはずだ。ところが、データはまったく別のことを言っている。


「話が違う」が最大の理由

退職代行モームリを運営するアルバトロス社が2025年度の新卒退職データを公開した。

2025年度に退職代行を利用した新卒は1,072名。前年の805名から267名増えた。

そのなかで、退職理由の最多は何だったか。給料ではない。

認知転換:退職の本当の理由

給料が低いから辞める「入社前の契約内容・労務条件と勤務実態の乖離」が4割超でトップ
つまり「話が違う」から辞めるのだ。


具体的に何が「違った」のか

データには実際の体験談も含まれている。いくつか紹介しよう。

あるIT系企業に入った女性はこう語っている。「会場の端から端まで聞こえる声での挨拶を強要された。講師の挨拶に笑顔はなく、ただ叫んでいるだけで軍隊のようだった」。

運送業に就いた男性は「大学に来た求人票では基本給16万円だと思っていたが、実際は12万8千円だった」と述べた。別の男性は「給与が20万円と書いてあったのに、実際は9万円台だった」という。

合宿研修で3泊4日、約30キロを歩かされた女性は「脱落者はペナルティと脅されながら完走した。両足の裏の皮がめくれ、血豆ができた」と記している。

これらは「給料が低い会社」の話ではない。「入社前に聞いていた話と、入社後の現実が食い違った」という話だ。


なぜZ世代は「話が違う」に敏感なのか

⚠️ ここからは事実に基づく考察であり、確定情報ではありません

心理学に「期待値違反」という考え方がある。事前の期待と現実のギャップが大きいほど、不快感や不信感が強まるという理論だ。

Z世代はSNSを通じて、リアルな職場の口コミや内情に以前より簡単にアクセスできる。その分、入社前に抱くイメージが「より具体的」になっている。

具体的なイメージを持って入ると、現実とのズレへの感度も高くなるのではないだろうか。また、退職代行という選択肢が広く知られたことで、行動に移すまでの心理的ハードルが下がっているとも言えそうだ。

これほどの体験をした新卒が「辞めます」と言うことは、果たして責められるのだろうか。

 

 

 

「初任給40万円時代」という言葉が隠しているもの

67.5%が引き上げ、40万円、42万円、52万円——この数字が並ぶと「初任給がどんどん上がっている」という印象になる。だが、一度立ち止まって考えてほしい数字がある。


「40万円」の下に広がる実態

帝国データバンクの同調査では、2026年度の初任給の金額分布も公表されている。

最も多いのは「20万〜25万円未満」で、61.7%の企業が該当する。「40万円」を出せる大手はごく一部だ。

小規模企業

引き上げ50%止まり

25万円以上:17%

大企業

引き上げ65.6%

25万円以上:30%

特に深刻なのが小規模企業しょうきぼきぎょうだ。引き上げ割合は前年より12.2ポイント低下した。同じ調査には、ある中小企業の声が掲載されている。「大企業と対抗することは諦めている」。


数字の「読み替え」が必要な理由

「初任給30万円時代が来た」というフレーズも最近よく聞く。確かに「25万〜30万円未満」の企業は約2割に増えた。

しかしこれは「ようやく3割近くの企業が25万円以上に到達した」という話でもある。「40万円」「50万円」という数字が報道を占領するなかで、「多くの会社がようやく25万円の手前にいる」という現実は見えにくくなっている。

初任給の引き上げ競争を勝ち抜けるのは体力のある大企業だけだ。同じ「売り手市場」の春が、企業規模によってまったく異なる景色を見せている。


「逆転現象」という新たな歪み

もう一つ、報道では目立たない問題がある。

初任給だけを大幅に引き上げると、入社したての社員が長年勤めてきた既存社員より高い給料をもらう「逆転現象」が起きる。

帝国データバンクの調査でも「既存社員との賃金バランスを考えると難しい」という声が複数の企業から上がった。初任給を上げる動機は採用力の強化だ。しかし組織全体の給与体系を変えなければ、今度は「古参社員の不満」という別の問題が生まれる。

売り手市場への対応が、組織内部に新たな摩擦を生んでいるとも言えそうだ。

 

 

 

「おもてなし入社式」が問いかけるもの——もう一つの読み方

⚠️ ここからは事実に基づく考察です。確定情報ではありません。

報道では、豪華な入社式は「人材確保のための企業の努力」として描かれている。爆音で激励し、ギネス記録に挑戦し、元五輪選手をサプライズで呼ぶ。それは確かに本当だ。ただ、別の角度からこの現象を眺めると、少し違う輪郭が浮かび上がってくる。


入社式は「選抜の場」でもある

以下は筆者の考察だ。企業が豪華な入社式を開くとき、何を見ているか。

新入社員の反応だ。社長の話を聞いたとき、サプライズ演出に接したとき、その場の空気にどう溶け込むか。組織への適応力や熱量は、採用段階では測りにくい。

入社式という「最初の場」は、企業にとって新入社員を「リアルに観察する」最初の機会とも言えるのではないだろうか。NECが顔認証で受け付けを完了させたことは、技術のアピールであると同時に、個人識別データを入社初日から蓄積し始めることでもある。

ノジマが「出る杭入社」という個人評価制度を持ち込んだことは、「横並びでは測れない個人の能力を見極める」という意思の表明とも読める。こうした視点から見ると、豪華入社式は「迎える儀式」であると同時に「見極める儀式」の側面も持つとも言えそうだ。


「話が違う」問題の本質

もう一歩踏み込むと、別の構造が見えてくる。

企業が採用戦線を勝ち抜くために「良い話」を前面に出せば出すほど、入社後のギャップは広がりやすくなる。退職代行の最多理由が「入社前の条件と実態の乖離」であることは、採用時の情報提供のあり方に根本的な問題があるという見方もできる。

豪華入社式で「すごい会社に入った」と感じさせることと、「実際の労働条件を正確に伝える」ことは、必ずしも同じ方向を向いていない。企業の「選ばれたい気持ち」が強くなるほど、説明が後回しになるリスクがあるのではないだろうか。

売り手市場は「新卒が強い」市場と言われる。しかし「入社前に聞いた話と違う」と感じて退職代行を使う新卒が増え続けているという事実は、「強い立場で選んだはずなのに、なぜか後悔している」という構造を示している。どちらが本当に「得をしている」のか、一度立ち止まって考える価値はあるのではないだろうか。

 

 

 

2026年春の入社式から読める4つの事実

  • 企業はレーシングカー、ギネス挑戦、初任給40万円まで動員して人材確保に動いた。ただし40万円の対象は586名中5名前後にすぎない
  • 退職代行利用の新卒は2025年度だけで1,072名。退職理由のトップは「給料」ではなく「入社前と話が違う」
  • 初任給を引き上げた企業は67.5%だが、小規模企業は50%止まり。大半の会社の初任給はいまだ25万円未満だ
  • 豪華入社式は採用競争の産物だが、同時に「採用時の情報ギャップ」という問題を拡大するリスクも持つ

企業が「選ばれる側」になった時代、初任給を上げるだけでは離職は止まらない。新卒が求めているのは「高い給料」ではなく「言ったことと違わない職場」だと、データは語っている。


よくある質問(FAQ)

Q1. 新卒が退職代行を使う理由で一番多いのは何ですか?

「入社前の契約内容・労務条件と勤務実態の乖離」が最多で、4割を超えています。給料の問題ではなく「話が違う」が主因です。

Q2. ノジマの初任給40万円の条件は何ですか?

自社で1年以上アルバイト経験があり、卓越した成果と提案力を持つ学生が対象です。内定者586名中わずか5名前後が該当します。

Q3. 2026年度に初任給を引き上げた企業はどれくらいありますか?

帝国データバンクの調査では67.5%の企業が引き上げました。ただし小規模企業は50%止まりで、大企業との格差が広がっています。

Q4. 2025年度に退職代行を使った新卒は何人いましたか?

退職代行モームリの発表では1,072名で、前年の805名より267名増えました。ピークも5月から4月へ前倒しになっています。

Q5. 入社式当日に退職代行を使うことはできますか?

法律上は入社1日目での退職が可能です。退職代行を使えば本人が会社に連絡しなくても退職の意思を伝えることができます。

Q6. 大卒の初任給の平均はいくらですか?

帝国データバンクの2026年度調査では「20〜25万円未満」の企業が約62%で最多です。40万円超は大手の一部にとどまります。

Q7. なぜ企業は入社式に力を入れるようになったのですか?

少子化による人手不足で採用競争が激化しているためです。新入社員に「この会社を選んでよかった」と感じさせる狙いがあります。

N

リアルタイムニュースNAVI 編集部

reaitimenews.com

話題のニュースを「なぜ?」の視点で深掘りするニュースメディアです。法律・心理学・経済など専門分野の知識をもとに、報道だけではわからない背景や理由をわかりやすく解説しています。