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速球派の名を持つ男が、球を打たれながら完封した。
2025年4月3日、東京ヤクルトスワローズの小川泰弘投手(34)が神宮球場での広島戦に先発した。
9回を投げきって失点はゼロ。
球数はわずか92球。
三振はたった4個しかなかった。
それでも相手打線を完全に封じ込め、「100球未満での完封勝利」という希少な記録を達成した。
「完封=三振をたくさん奪う」というイメージとは、まったく逆の形で生まれた快挙だった。
この記事でわかること

100球未満で完封する「マダックス」って何?
年に 1〜2 回しか生まれない記録が、2025年4月3日の神宮に現れた。
野球において「 マダックス 」とは、先発投手が9回以上を 100 球未満で投げ、完封勝利を収めた場合に与えられる称号だ。
名前の由来は、1986年から2008年にかけてMLB(米大リーグ)でカブスやブレーブスなどに在籍し、通算 355 勝を挙げた大投手 グレッグ・マダックス 。
「精密機械」と呼ばれた抜群のコントロールで打者を打ち取り続けた右腕で、この記録を本人が 13 度も達成したことから、 MLB日本語公式 によると、野球ライターの ジェイソン・ルークハート がその名を冠した。
どれくらい珍しい記録なのか。
SPAIA の分析によると、2002年以降のNPB(日本のプロ野球) 20 シーズンで達成回数は 35 回だ。
年平均に換算すると約 1.75 回。
1シーズンに 720 試合近くが行われる中で、この記録が生まれるのは年に1〜2試合だけになる計算だ。
同じ期間のノーヒットノーランは 13 回だ。
単純な件数で比べると、マダックスは 2 倍以上多い。
ただ、「100球未満で9イニングを投げきる」——つまり 1イニング平均11球以内で抑え続けること の難しさは、またべつの話だという見方が広がっている。
数が多いからといって「簡単」なわけでは決してない。
小川はその記録を、 2安打・無四球・92球で達成した 。
東京ヤクルトスワローズ公式 も達成翌日に記念グッズの受注販売を告知し、2025年のセ・リーグで完封一番乗りとなる快投を球団として祝った。
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では、92球という数字は具体的にどれほど異常なのか。
試合時間2時間14分が証明する省エネ投球の正体
三振はわずか 4 個。
それでも 27 個のアウトを、 92 球で積み上げた。
BASEBALL KING によると、この試合で小川が取った27個のアウトの内訳は フライアウト(打ち上げて捕られたアウト)が15個、ゴロアウトが8個、三振が4個 だ。
三振が少ない分、打たせてアウトを取る形が圧倒的に多かった。
NPBの先発投手が1イニングに投げる球数の平均は 16.5 球とされている。
1アウトに換算すると約 5.5 球だ。
小川は92球÷27アウトで、 1アウト当たり約3.4球 で抑えた計算になる。
この差が9回分積み重なって、試合時間がわずか 2時間14分 という短さになったのではないか。
【1アウト当たりの球数・比較】
NPB平均:16.5球 ÷ 3アウト = 約 5.5 球/アウト
小川(この試合):92球 ÷ 27アウト = 約 3.4 球/アウト
→ 平均より約 38% 少ない球数でアウトを積み重ねた計算
日本テレビNEWS NNN によると、5回終了時点での球数は 53 球だった。
後半5回を残した段階でまだ 39 球の「余裕」があった。
通常の試合なら5回終了時点で80〜90球に達することも珍しくない中で、この53球という数字が投球の効率の良さを物語っている。
なぜ昨季 2 勝に終わった 34 歳のベテランが、今季の初登板でここまでの完成形を見せられたのか。
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昨季2勝の34歳が今季初登板でなぜ達成できたのか
「文句はつけられない」—— 高津監督 が思わず漏らした一言は、復活の凄みを表している。
日刊ゲンダイDIGITAL によると、小川の2024年シーズンの成績は 12 試合登板・ 2勝5敗・防御率4.65 だった。
5 度の登録抹消(一時的に出場登録を外されること)を経験し、プロ 13 年でワーストの内容に終わった。
2020年に結んだ4年契約も切れ、今季は1年限りの単年契約でスタートしている。
12試合・2勝5敗・防御率4.65。
5度の登録抹消でプロ入り後ワーストの成績
4年契約が終了。
5000万円減となる推定年俸1億1000万円で単年契約更改
沖縄キャンプで高津監督直伝のシンカーを習得。
古田元監督にもアドバイスを求め、左足を高く上げる投球フォームを復元
今季初先発で92球・無四球・マダックス達成。
3年ぶりの完封勝利
その状況から、小川はオフに 3 つの変化を加えた。
同記事によると、まず2025年2月の沖縄キャンプでは現役時代にシンカー(手元で沈む変化球)を決め球にしていた 高津監督 から直接指導を受け、新球として習得した。
次に臨時コーチとして来た 古田元監督 にも積極的にアドバイスを求めた。
さらに昨季は一時やめていた、左足を高く上げるダイナミックな投球フォームも復元している。
スポニチアネックス の報道では高津監督が「今まで引っ張ってきたのは石川と小川」とコメントしたことが伝えられている。
1年限りの契約で「ここで結果を出さなければ終わり」という状況が、今季初登板への集中をもたらした可能性があるだろう。
技術的な変化は分かった。
では実際の打席で、打者はどう翻弄されたのか。
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そしてあの愛称と不思議な関係が見えてくる。
三振4個で完封できたのはなぜか
速球で打者を圧倒する投手の名を持つ選手が、速球を使わずに 27 個のアウトを取った。
「完封=三振をたくさん奪う」 ——そう思っているなら、この試合の数字は裏切る。
三振はわずか 4 個。
15個のフライアウトと8個のゴロアウト が、アウトの大半を占めた。
打者たちは「打ち損じた」のだ。
なぜそうなったのか。
BASEBALL KING で解説を担当した 谷沢健一 氏は「詰まった当たりが多い。
泳がされた当たりが多い」と述べ、「徹底的に1つの球種を狙い打つとか、変化球に的を絞るとか、 それが全くできていなかった 」と指摘している。
同じく解説者の 齊藤明雄 氏は「逆方向に打っている打球が無かった。
みんな引っ張りのバッティングで、術中にはまってしまった」と話している。
これらは試合に直接コメントした発言だ。
ここで「 名前の逆説 」が浮かび上がる。
小川の愛称「ライアン」は、MLBで通算 5714 奪三振というメジャー記録を持つ速球派の大投手 ノーラン・ライアン の投球フォームを参考にしたことに由来する。
一方、今回達成した「マダックス」という記録の名前の由来は、 グレッグ・マダックス だ。
三振を奪うのではなく打たせて取る「精密機械」と呼ばれた技巧派で、制球力でキャリア 355 勝を積み上げた。
通算5714奪三振
速球で圧倒する
「速球派」の象徴
通算355勝
打たせて取る
「精密機械」の象徴
速球で圧倒するライアンと、技で捌くマダックス——この 2人は投球の哲学として正反対の投手 だ。
「速球派のライアン」という名を持つ投手が、「打たせて取る技巧派の記録」を達成した。
この逆説は偶然ではなく、小川が意識的に力で押すスタイルから技で捌くスタイルへ転換してきた軌跡の到達点である可能性があるだろう。
そして認知心理学には「 スキーマ干渉(schema interference) 」と呼ばれる現象がある。
人は事前に持っているイメージ(スキーマ)と違う刺激が来たとき、処理が遅れてしまうとされている。
「速球派ライアン」を相手にしているつもりで打席に入った打者が、実際には変化球でコースを突かれる投球に次々と翻弄された——フライ 15 個という数字は、その表れだったのではないか。
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「速球派ライアンの名を持つ小川を相手に、打者が『速球ありきの読み』で打席に入るほど、精密な変化球とのギャップが大きくなり、詰まったフライが量産された——この逆説は、小川が意識的に技巧派へ転換してきた軌跡の到達点を体現しているのではないか。
」
職場での話のネタとして言い換えると: 「ライアンって速球派のイメージがあるじゃん、だから打者も速球を待ちがちになって、逆に変化球でコロコロ打ち取られた」というのが今回の面白い逆転の構図だ。
東京ヤクルトスワローズ公式アカウントは試合後、X(旧Twitter)にこう投稿した。
ライアン小川
— 東京ヤクルトスワローズ公式 (@swallowspr) April 3, 2025
マダックスおめでとう
そして、ありがとう
お疲れ様でした。 #swallows #捲土重来 #小川泰弘 pic.twitter.com/FjqJrKl2NG
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この逆説は1試合限りではない。
では神宮という舞台と、39年という時間の話をしよう。
神宮で39年生まれなかった記録と今後の注目点
神宮球場で最後にこの記録が生まれたのは 1986 年——38年前に生まれた 小川泰弘 はまだ存在していなかった。
スポニチアネックス によると、ヤクルトの投手が神宮でマダックスを達成したのは 1986 年 7 月 27 日の大洋戦(当時の球団名)で 宮本賢治 投手が記録して以来、 39 年ぶりとされる。
球団に在籍する現役選手で、この記録を神宮で経験した人間はいない計算だ。
さらにこの試合には、もう一つの記録が重なっている。
日本テレビNEWS NNN によると、小川は3回の第1打席でライトへの二塁打を放ち、 ルーキーイヤーから13年連続安打を達成した 。
投手としてシーズンの初打席でも安打を記録し続けているという、投手にとっては異例の連続記録だ。
次に小川が神宮のマウンドに上がるとき、見るべきポイントは球数だ。
試合を通じて何球で何個のアウトを取り、アウトの内訳がフライ・ゴロ・三振でどう分かれているかを追うと、「 技巧派への転換が定着しているか 」が一目で分かる。
1試合で終わらない物語として、神宮での登板を追いかける面白さがある。
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「速球派の名を持ち、技巧派の記録を達成する」——その逆転劇を体現した小川の次の登板が、今季のヤクルトを占う最初の試金石になる。
まとめ
- 「マダックス」は100球未満での完封勝利のことで、2002年以降のNPBで年に1〜2回しか生まれない記録だ
- 小川の92球のうち、三振は4個だけ。フライアウト15個という内訳が「技で打ち取った」ことを示している
- 昨季2勝という危機的な状況から、高津監督直伝のシンカー習得・フォームの復元という複数の変化を加えて今季初登板で達成した
- 愛称の由来「ライアン(速球派)」と達成した記録の名前「マダックス(精密機械)」が、投球哲学として正反対の投手に由来するという逆説が、今回の快挙の本質を映している
- 神宮でのヤクルト投手によるマダックスは、スポニチの報道では1986年以来39年ぶりとされる
よくある質問(FAQ)
Q1. マダックスとは何ですか?
100球未満で9回を投げきり、完封勝利を収めること。
MLB通算355勝の投手グレッグ・マダックスの名に由来する。
NPBでは2002年以降の20シーズンで35回しか生まれていない。
Q2. マダックスの達成条件は?
先発投手が9回以上を投げて、投げた球数が100球未満で完封勝利を収めることが条件だ。
四球・安打の有無は問われないが、相手を無得点に抑えることが必須。
Q3. 小川泰弘はなぜ「ライアン」と呼ばれているの?
大学時代にMLBの大投手ノーラン・ライアンの著書を参考に、左足を高く上げるダイナミックな投球フォームを習得したことが由来。
本人がプロ入り時に「ライアンと呼んでほしい」と希望した。
Q4. 小川泰弘の昨季(2024年)の成績は?
12試合の登板で2勝5敗、防御率4.65。
5度の登録抹消を経験し、プロ入り後でワーストの成績に終わった。
4年契約の最終年でもあり、2025年シーズンは1年限りの単年契約となった。
Q5. 小川泰弘が復活できた理由は?
2025年2月の沖縄キャンプで高津監督直伝のシンカーを習得し、古田元監督にもアドバイスを求めた。
昨季やめていた左足を高く上げる投球フォームも復元し、複数の変化を同時に加えた。
Q6. 三振が少ないのに完封できるのはなぜ?
フライアウトやゴロアウトでも打者を打ち取ることができるため。
三振は球数を使いやすいが、打たせてアウトにすると少ない球数でイニングを終えられる。
小川のこの試合は27アウトのうち15個がフライアウトだった。
Q7. 小川泰弘の2025年の今季初登板はいつ?
2025年4月3日(木)、神宮球場での広島東洋カープ2回戦が今季初先発・初登板だった。
この試合でマダックスを達成し、ヤクルトが3対0で勝利している。
📚 参考文献
- 東京ヤクルトスワローズ公式「小川泰弘マダックス達成記念グッズの受注販売」 (2025年4月5日)
- 日刊ゲンダイDIGITAL「ヤクルト小川泰弘が崖っぷちから復調アピール!92球"マダックス"達成で高津監督も《文句はつけられない》」 (2025年4月4日)
- BASEBALL KING「広島、わずか2安打で小川泰弘にマダックス献上…谷沢健一氏『徹底的に1つの球種を狙い打つとか全くできてなかった』と喝」 (2025年4月4日)
- 日本テレビNEWS NNN(Yahoo!ニュース)「【ヤクルト】小川泰弘がわずか92球で"マダックス"達成!試合時間はなんと2時間14分 3年ぶり完封劇でチームも2連勝」 (2025年4月3日)
- MLB日本語公式「100球未満の完封『マダックス』 マダックスは史上最多の13度達成」 (2024年4月24日)
- SPAIA「『マダックス』は技巧派投手の勲章、さらに難易度高い『100球未満の完投』」 (2021年10月16日)
- Infoseekニュース(スポニチアネックス)「ヤクルト・小川が自身2度目のマダックス達成!92球で今季セ初完封 神宮で宮本賢治以来球団39年ぶり」 (2025年4月3日)
- デイリースポーツ「ヤクルト・小川 3年ぶり完封星、わずか2安打無四球 セ一番乗りマダックスで決めた『若い子には負けたくない』」 (2025年4月4日)
- x.com
リアルタイムニュースNAVI 編集部
reaitimenews.com
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