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1011万円持ち去りなぜ窃盗じゃない?大阪府警警部補逮捕の罪名を解説

大阪府警警部補が変死体の捜査現場から1011万円を持ち去り逮捕された事件の解説アイキャッチ

| 読了時間:約6分

大阪府警の52歳の警部補が、変死体が見つかった部屋から現金約1千万円を持ち去って逮捕された。
容疑は「窃盗」ではなく「占有離脱物横領せんゆうりだつぶつおうりょう」。
この聞き慣れない罪名には、刑法上の意外な理屈がある。

事件のあらまし──捜査に向かった刑事が1,011万円を持ち去る

変死体の捜査で訪れた部屋から、刑事課の警部補が現金1,011万円を持ち出して逮捕された。

逮捕されたのは、南堺署 刑事課 強行犯係の警部補・後藤伸容疑者(52)。

朝日新聞の報道によると、大阪府警は2026年3月4日、後藤容疑者を占有離脱物横領せんゆうりだつぶつおうりょう容疑で逮捕した。
大阪府警の監察室が発表した内容は次のとおり。

📋 監察室の発表

後藤容疑者は3月2日、変死体が見つかった堺市南区の一室を捜査で訪れた際、室内にあった現金1,011万円を持ち去った疑い。
(出典:朝日新聞 2026年3月4日)

強行犯係とは、殺人や強盗など重大な犯罪を担当する部署だ。
変死体が発見されれば、事件性の有無を調べるために刑事が現場へ向かう。

その捜査の最中に、部屋にあった大金を持ち出したことになる。
犯行からわずか2日後のスピード逮捕だった。

 

 

 

なぜ「窃盗」ではなく「占有離脱物横領」なのか

死者には「占有」がない。だからそばの現金を盗んでも、法律上は窃盗にならない。

1千万円を盗んだのに、窃盗罪ではない。
ここに違和感を覚えた人は多いだろう。

この2つの罪は、刑罰の重さがまるで違う。

罪名 法定刑 根拠
窃盗罪 10年以下の懲役または50万円以下の罰金 刑法235条
占有離脱物横領罪 1年以下の懲役または10万円以下の罰金 刑法254条

1千万円以上を持ち去っても、占有離脱物横領なら最高刑はたった懲役1年だ。
窃盗ならその10倍。なぜ軽い罪になるのか。

死者のそばにある現金は「誰のものでもない」

カギは「占有」という法律上の考え方にある。

窃盗罪が成り立つには、盗んだ物が「誰かの支配下」にある必要がある。
店の棚にある商品は店の占有下。家にある財布はその人の占有下。だから盗めば窃盗になる。

💡 ポイント

ところが、死体は「人」ではない。占有する意思を持てない。
法律事務所シリウスの解説によると、死体のそばにある現金は「誰の占有下にもない物」として扱われる。
だから窃盗ではなく、落とし物をネコババしたのと同じ扱いになる。

ただし例外がある。
犯人自身が相手を殺して、そのあとで金品を奪った場合だ。

この場合は窃盗罪、さらには強盗殺人罪が成立しうると最高裁が判示している(昭和41年4月8日判決)。

後藤容疑者は捜査のために現場を訪れた立場だ。
変死体の死亡に関与したわけではないため、占有離脱物横領が適用されたとみられる。

 

 

 

「現場の現金を盗む警察官」は前例がある

警察庁は2023年に同種事案の発生を受け、全国の警察に再発防止の通達を出していた。

この種の事件は、今回が初めてではない。

警察庁が2023年に出した異例の通達

警察庁が2023年7月14日付で出した通達の冒頭に、こんな一文がある。

⚠️ 警察庁通達の原文

警察署地域課員が、臨場した死体取扱現場において、当該現場に残されていた現金を領得する事案が発生した
(出典:警察庁丁捜一発98号「死体取扱時における貴重品の適正な取扱い等について」)

つまり、警察庁はすでに同じような事件を把握していた。
通達では再発防止のため、貴重品の確認は必ず複数人で行うこと、単独での作業を禁止することなどを全国の警察に指示している。

この通達が出されてから約2年半。
対策をすり抜けるかたちで、今回の事件は起きた。


38年前の堺でも──「警察官ネコババ事件」

舞台が堺であることにも因縁がある。

1988年、堺南署(現在の西堺署)で、派出所の巡査が拾得物の現金15万円を着服した。
Wikipediaの記載によると、問題はその後にある。

署の幹部は不祥事の隠蔽を図り、現金を届けた妊娠中の女性を犯人に仕立てあげようとした
読売新聞の報道でこの隠蔽が明るみに出て、署長は引責辞職。大阪府警本部長まで処分を受ける大事件になった。

📌 堺の因縁

今回の南堺署は、1989年にこの堺南署から分かれてできた署だ。
38年の時を経て、同じ「堺」を管轄する署で、警察官による金銭の持ち去りが繰り返された。

 

 

 

大阪府警に何が起きているのか

2025年の懲戒処分は26人で前年の約1.8倍。不祥事は止まらない。

「またか」。
この事件を聞いてそう感じた人は少なくないはずだ。

大阪府警の不祥事は、ここ1年で異常なペースで続いている。

毎日新聞の報道によると、2025年に懲戒処分を受けた全国の警察官・警察職員は337人で、過去10年で最多だった。

なかでも大阪府警だけで26人が懲戒処分を受け、前年から12人増えている。

朝日新聞も、情報公開請求によってこの26人という数字を報じた。

📋 朝日新聞の報道

大阪府警で2025年、警察官ら26人が懲戒処分を受けていた。懲戒は前年より12人増えた。
(出典:朝日新聞 2026年2月5日)

捜査4課の集団暴行、情報漏洩、パパ活…

2025年には捜査4課の捜査員が家宅捜索中に対象者へ集団で暴行し、6人が起訴された。
2026年1月には35人が一斉に処分される事態に発展している。

ほかにも、捜査情報の漏洩で警部補が逮捕されたり、銀行口座の不正提供で別の警部補が処分されたりと、事件が途切れない。


そして2026年3月、今度は捜査現場からの現金持ち去りが発覚した。

組織として立て直しを図っている最中の逮捕だ。
通達も出されていた。複数人での作業も義務づけられていた。

それでも起きた
大阪府警にとって、信頼の回復がいかに難しい課題かを、この事件は突きつけている。

 

 

 

まとめ

  • 南堺署の警部補(52)が変死体の現場から現金1,011万円を持ち去り、占有離脱物横領容疑で逮捕された
  • 罪が「窃盗」ではないのは、死者には占有がなく、現金が法律上「誰の支配下にもない物」になるため
  • 占有離脱物横領罪の法定刑は最高でも懲役1年で、窃盗罪の10年と大きな差がある
  • 警察庁は2023年に同種事案を受けて通達を出していたが、再発を防げなかった
  • 大阪府警では2025年に懲戒処分が26人と前年の約1.8倍に増え、不祥事が続いている

よくある質問(FAQ)

Q1. 逮捕された警部補は誰?

南堺署刑事課強行犯係の後藤伸容疑者(52)。大阪府交野市在住。

Q2. なぜ窃盗罪ではなく占有離脱物横領なの?

死者には占有の意思がなく、そばの現金は法律上「誰の支配下にもない物」になるため。

Q3. 占有離脱物横領罪の刑罰はどのくらい?

1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料。窃盗罪の10年以下と大きな差がある。

Q4. 現金はいくら持ち去った?

堺市南区の変死体発見現場から現金1,011万円を持ち去ったとされる。

Q5. 警察庁は過去に同様の事件を把握していた?

2023年7月に死体取扱現場での現金領得事案を受け、再発防止の通達を全国の警察に出していた。

Q6. 大阪府警で不祥事が相次いでいるのは本当?

2025年の懲戒処分は26人で前年の約1.8倍。捜査4課の集団暴行では35人が処分された。

Q7. 殺した犯人が死体から金品を奪った場合は?

自ら死亡させた場合は窃盗罪が成立し、当初から奪う目的なら強盗殺人罪にもなりうる。

Q8. 後藤容疑者の処分はどうなる?

逮捕は2026年3月4日。今後の処分内容は未発表だが、懲戒免職となった前例が複数ある。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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