リアルタイムニュースNAVI

話題の出来事をリアルタイムで深掘り

大津保護司殺害に無期懲役 なぜ恨みなき保護司が狙われたのか

大津保護司殺害事件で飯塚紘平被告に無期懲役判決。恨みなき殺害の動機と保護司制度の課題を解説するアイキャッチ画像

| 読了時間:約8分

大津地裁は飯塚紘平被告(36)に求刑通り無期懲役を言い渡した。
保護司・新庄博志さん(当時60歳)を殺害した事件で、「守護神様の声」という主張は退けられた形だ。

判決の争点と事件の背景、そして揺れる保護司制度の現実を整理する。

 

 

 

飯塚紘平被告に求刑通り無期懲役――「守護神様」の主張はどう判断されたか

2026年3月2日、大津地裁の谷口真紀裁判長は飯塚紘平被告に無期懲役の判決を言い渡した。

殺人・公務執行妨害こうむしっこうぼうがい・銃刀法違反の罪すべてで有罪となった。
検察の求刑がそのまま通った形だ。

被告は裁判で「守護神様の声に従ってやりました」と述べていた。
精神的な問題で減刑されたのでは、と思う人もいるだろう。
しかし、この主張は裁判で退けられている。

精神鑑定の結論

精神鑑定を行った大阪赤十字病院の和田央医師は、「守護神様」の声について「統合失調症などの幻聴げんちょうと明らかに異なる」と証言した。
被告の発言は「自分の思考の一部を外からの声のように感じている」もので、病的な幻聴ではないと結論づけた。
産経新聞の報道より)

さらに鑑定では、被告に自閉スペクトラム症じへいスペクトラムしょうの傾向があると認められた。
ただし時事通信の報道によると「事件への影響は限定的」とされ、検察は完全責任能力かんぜんせきにんのうりょくを主張していた。


裁判で検察と弁護側の主張は真っ向から対立していた。

  検察側 弁護側
責任能力 完全責任能力あり 心神耗弱しんしんこうじゃく(著しく低下)
「守護神様」 自己思考であり幻聴ではない 守護神様を妄信していた
計画性 現場の下見あり。凶器を準備 精神疾患の影響下で制御不能
求める量刑 無期懲役 無罪または有期刑

ここで争点になった「責任能力」について補足する。
刑法では、犯罪が成立するために2つの能力が求められる。

弁識能力

やってはいけないと
分かる力

制御能力

分かったうえで
思いとどまる力

弁護側の臨床心理士は「善悪の判断はできたが、気持ちが負けてしまう」と証言した。
つまり1つ目の能力はあったが、2つ目がなかったという主張だ。

裁判所の判断

検察は、被告が事前に現場を下見し、ナイフとおのを持ち込んだ計画性を根拠に「行動を制御できていた」と反論。
裁判所は検察の主張を採用し、求刑通りの無期懲役とした。
なお、判決理由の詳細は速報段階ではまだ報じられていない。

では、飯塚被告はなぜ自分を支えてくれていた保護司を殺害したのか。
事件の経緯をたどる。

 

 

 

「制度に打撃を与えたかった」――約5年の支援の果てに起きた殺害

飯塚被告は新庄さん個人を恨んではいなかった。
裁判で「恨みは一切ない」と明言している。

動機はもっと異質なものだった。

検察が明かした動機

産経新聞の報道によると、検察は論告で被告の動機をこう説明した。
「仕事が長続きしないのは国のせいだと思い、保護司を殺害すれば国にダメージを与えられると考えた」。
被告は個人的な恨みではなく、保護観察制度に打撃を与え、国に報復するために犯行に及んだ。

2人の関係は2018年にさかのぼる。
飯塚被告は大津市内のコンビニ強盗で保護観察ほごかんさつ付きの執行猶予しっこうゆうよ判決を受けた。

翌2019年7月、新庄博志さんが担当保護司ほごしになった。
毎日新聞の報道によれば、月2~3回のペースで面談を重ねていた。

MBSの取材では、新庄さんが被告の就職先を探して奔走していた事実も明かされている。
紹介した職場を2か月で辞めた被告に対し、新庄さんは更生保護の関係者に相談していた。
約5年にわたる支援だった。


最後まで保護司であり続けた新庄さん

2024年5月24日夜、定期面談のため新庄さんの自宅を訪れた被告は、持ち込んだナイフとおので新庄さんの胸や首を複数回切りつけた。
死因は出血性ショックしゅっけつせいショックだった。

カンテレの報道が伝えた犯行時の被告供述は生々しい。
被告は保護司を「監視者が自分の領域に偵察に来る」ように感じていたと述べた。

そして血を見てパニックになり「どこ刺しているかもわからない。止まりませんでした」と語った。

同じ報道には、新庄さんの最期の言葉も記録されている。
切りつけられながら、新庄さんはこう叫んだ。

やめとけ、なんでこんなことするんや。社会に戻るんやろ

最後の瞬間まで、新庄さんは保護司として被告の更生を願っていた。

 

 

 

「息子と話すように」と「茶番」――埋まらなかった認識の溝

裁判での遺族の証言が、この事件の核心を映し出す。

産経新聞の報道によると、妻は法廷で新庄さんが被告との面談を「息子と話すような気持ちだったのでは」と語りかけた。

一方、被告は面談を茶番、意味がないやり過ごすものと述べていた。

新庄さんの認識

「息子と話すように」

被告の認識

「茶番」「国の監視」

同じ時間、同じ場所にいた2人の認識はまるで違っていた。
保護司は家族のように接し、被告は国の監視だと感じていた。
この溝が埋まることはなかった。

息子は被告の「守護神様」主張を「聞くに堪えない他責思考たせきしこう」と批判した。
そして新庄さんの教えを紹介した。

「周りが何をしてくれるかではなく、自分は人のために何をできるのかを考えなさい」

他者のために生きた父と、すべてを他者のせいにした被告。
遺族はその対比を法廷で突きつけた。


新庄さんの更生支援を受けて立ち直った人もいる。
MBSの取材に応じた谷山真心人さん(27)は、服役中に新庄さんから受け取った手紙を大切にしている。

「皆さんの温かさに報いてもいないうちに、自分の夢を語るのは早すぎます。社会復帰ではなく、我々の社会の門を叩き、しっかり門をくぐって来てくれる事を念じて止みません」

谷山さんは「何も恩を返してないうちにお別れしてしまった」と悔やんだ。
この事件は1人の保護司の命を奪い、同時に保護司制度そのものに深い問いを突きつけた。

 

 

 

保護司は「無報酬のボランティア」――法改正でも埋まらない6,500人の空白

保護司は公務員で給料をもらっている実態は無報酬のボランティアだ。

保護司は非常勤の国家公務員という位置づけではある。
しかし給与は支払われない。
交通費などの実費弁償金が出る程度にとどまる。

しかも面談場所として自宅を使う保護司も多かった
新庄さんも自宅に被告を招いて面談していた。
犯罪をした人と1対1で、自宅で向き合う。
その安全対策は長年、保護司個人の判断に委ねられてきた。


改正保護司法で何が変わったか

この事件を受けて、制度は動いた。
日本経済新聞の報道によると、2025年12月に改正保護司法かいせいほごしほうが成立した。

主な変更点は3つある。

① 保護司の安全確保を国の責務として明記

② 面談場所の確保を国が担う

③ 任期を1期2年から3年に延長

法改正は2026年12月までに施行される予定だ。
自宅以外の面談場所の確保や、複数の保護司で対応する方法も検討されている。

 

 

 

定数5万2,500人に対し「8人に1人が欠員」

法律は変わった。
しかし肝心の「人」が足りない。

日本財団の調査によると、2025年時点の保護司は約4万6千人。
法律で定められた定数は5万2,500人だから、約6,500人が不足している。
8人に1人が欠員という計算になる。

平均年齢は65歳を超えた。
定年退職後の年齢層が中心を担っている状態だ。

しかも大津の事件以降、「やめたい」という声も上がっている。
Yahoo!知恵袋には「保護司をして5年です。大津の事件があり、自分もおりたくなりました」という投稿もあった。

構造問題は残る

法改正で安全対策の責任が国に移ったのは前進だろう。
しかし無報酬で犯罪者と向き合うという基本構造は変わっていない
制度を支える人が減り続ける中、法律の枠組みだけで問題が解決するとは言いがたい。

MBSの取材で龍谷大学の浜井浩一センター長はこう指摘している。
「保護司さんを支えるのは、保護観察所だけの役割ではなくて、地域の役割でもある。支援者を孤立させない支援がすごく大事」。

新庄さんが遺した言葉がある。
「自分は人のために何をできるのかを考えなさい」。
保護司制度の未来は、この問いにどう答えるかにかかっている。

 

 

 

まとめ

  • 大津地裁は飯塚紘平被告に求刑通り無期懲役の判決を言い渡した
  • 「守護神様の声」は幻聴ではなく自己思考と鑑定され、完全責任能力が認定された
  • 被告の動機は保護司個人への恨みではなく「保護観察制度への攻撃」だった
  • 事件を受けて改正保護司法が成立し、安全確保が国の責務となった
  • 保護司は依然として無報酬のボランティアで、約6,500人の欠員を抱えている

判決理由の詳細や、弁護側が控訴するかは今後の報道を待つ必要がある。

よくある質問(FAQ)

Q1. 大津保護司殺害事件の判決は?

2026年3月2日、大津地裁は飯塚紘平被告に求刑通り無期懲役の判決を言い渡した。

Q2. 飯塚紘平被告の「守護神様」の主張は認められたか?

鑑定医が「統合失調症の幻聴と明らかに異なる」と否定し、完全責任能力が認定された。

Q3. なぜ飯塚被告は保護司を殺害したのか?

個人的な恨みではなく、保護観察制度に打撃を与え国に報復するためと供述している。

Q4. 保護司はボランティアなのか?

保護司は無報酬の民間ボランティア。非常勤国家公務員の位置づけだが給与は支払われない。

Q5. 保護司殺害事件の犯人は誰?

飯塚紘平被告(36)。2018年のコンビニ強盗で保護観察付き執行猶予判決を受けていた。

Q6. 改正保護司法でどう変わるのか?

保護司の安全確保が国の責務に明記され、任期が2年から3年に延長された。2026年12月までに施行予定。

Q7. 保護司は減っているのか?

定数5万2,500人に対し実員は約4万6千人で約6,500人が不足。平均年齢も65歳を超えている。

Q8. 飯塚紘平被告は控訴するのか?

2026年3月2日の判決直後の時点では控訴の有無は報じられていない。

Q9. なぜ死刑ではなく無期懲役だったのか?

判決理由の詳細は速報段階では報じられていない。被害者1名の殺人事件で死刑判決は極めて限定的とされる。

Q10. 被害者の新庄博志さんはどんな人だったか?

大津市の保護司として活動し、被告の就職先探しにも奔走。約5年間にわたり更生支援を続けていた。

N

リアルタイムニュースNAVI 編集部

最新ニュースをわかりやすく、いち早くお届けします。

📚 参考文献