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試合が始まる前から、スタジアムに"空気"が流れていた。
2026 年 6 月 23 日、米国・ボストン。
W杯グループリーグL組の第2節、イングランド対ガーナの試合前に、両チームの選手が横一列に並んだ。
握手を交わす儀礼の中で、ガーナのMFトーマス・パルティの名前が場内放送で読み上げられた瞬間、スタジアムにブーイングが響いた。
パルティは英国で強姦罪(ごうかんざい)など複数の容疑で起訴中の選手だ。
「なぜ出場できているのか」という疑問は、試合が始まる前からピッチ全体を包んでいた。
実はこの問いを掘り下げると、FIFAにもイングランドサッカー協会にも選手を止める権限がないという構造が見えてくる。
さらに、カナダへの入国拒否には「刑事容疑があったから」より深刻な、別の原因があった。
この記事でわかること

握手したのは1人以外全員だった
イングランドの選手たちはほぼ全員、列を進みながらパルティと手を合わせた——例外は、 右手をポケットに入れたまま通り過ぎた 1 人だけ だった。
その1人は、DFジェド・ スペンス (トッテナム・ホットスパー)だ。
フットボールゾーン によると、テレビ中継の映像は決定的な瞬間を捉えきれなかった。
しかし別の映像には、スペンスが手をポケットに入れたままパルティの前を通り過ぎる様子が映っていたという。
パルティはその場で一時的に振り返り、驚いた表情を見せてから歩き去った。
英紙「デーリー・メール」も同じ行動を報道した。
その記事によれば、ほかのイングランド選手たちは握手または拳を合わせており、 スペンスだけが例外 だったという。
イングランドサッカー協会(FA) は、握手について選手たちと事前に話し合っていなかった。
つまり、これはFAの組織的な判断ではなく、スペンス個人の行動だ。
スペンスが意図的に握手を拒否したのかどうかは、本人からの公式な発言が確認されていない。
「個人的な意思表示だろう」と解釈する声が広がっている。
ただ、その行動の重さを測るには、パルティが何をした人物かを知る必要がある。
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そもそもパルティは何をした人なのか
追加の起訴があったのは 2026 年 2 月、 W杯開幕のわずか 4 か月前 だった。
しかしガーナ代表は彼をスタメンで起用した。
トーマス・パルティ はアーセナルに所属していた 2020 年から 2022 年にかけて、 4 人の女性から 7 件の強姦罪と 1 件の性的暴行罪で英国の検察当局に起訴されている。
本人はすべての容疑を否認しており、裁判はロンドンのサウスワーク・クラウン・コート(ロンドンの刑事裁判所)で 2027 年 6 月に予定されている。
さらに、 2026 年 2 月には王立検察局(英国の検察当局)が別の女性への 2 件の強姦罪を追加で起訴した。
事案は 2020 年に起きたものだという。
ESPN によると、パルティ本人は試合前日に「サッカーの外で起きることは自分でコントロールできない。
でも今は準備ができている」と語った。
ガーナ代表監督カルロス・ ケイロス は「川が海に出会う日に、真実が分かる」と述べ、パルティへの支持を示した。
これだけの起訴件数があるにもかかわらず、カナダへの入国をめぐる一連の混乱は「起訴されているから」という単純な話では終わらなかった。
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カナダに入れなかった「本当の理由」
ビザ申請書の問いに「なし」と書いた—— 逮捕歴も、刑事告発歴も、起訴歴も、何もないと。
多くの報道は「強姦容疑があったためカナダに入国拒否された」と伝えている。
しかしカナダ連邦裁判所の文書には、より深刻な事実が記録されていた。
パルティはビザ申請書の中で「逮捕されたことも、刑事告発を受けたことも、起訴されたことも、有罪判決を受けたこともない」と申告していた。
これは虚偽の申告だ。
⚠️ ビザ申請書での虚偽申告という「別の問題」
日刊スポーツ によると、パルティはカナダ入りする際の審査で「過去に逮捕歴や犯罪容疑での起訴歴はない」と告げたことにより入国できなかった。
カナダ連邦裁判所は、この 虚偽申告 を含む事実を踏まえて入国拒否取り消しを求める控訴を棄却した。
つまり、カナダへの入国拒否は「起訴中だから」という一点だけが原因ではない。
申請書に事実と異なる内容を記入したという、全く別の問題が重なっていた。
この事実は「入国拒否」という報道の表面だけを見ていると見落としやすい。
カナダの移民法は、申請書の虚偽記載を独立した拒否の理由にしている。
問題の性質が一段違う話だろう。
ガーナ政府は「起訴段階でのビザ拒否は国際法に反する」と抗議声明を出した。
しかし実際には「起訴があったこと」と「それを隠して申告したこと」が重なった結果、連邦裁判所もガーナ政府の控訴を認めなかった。
ではなぜ、隣国アメリカはパルティを通したのか。
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なぜ同じ北米でカナダだけ入れなかったのか
カナダの国境は「有罪かどうか」ではなく「起訴されているかどうか」を基準に動く。
米国の国境は「有罪かどうか」を基準に動く。
カナダの移民法には「 Criminal Inadmissibility (刑事的な入国不適格)」という規定がある。
これは、他国でその国の刑法に照らして起訴犯罪に相当する行為で起訴されている場合でも、入国を拒否できるという仕組みだ。
つまりカナダは、 有罪判決がなくても「起訴されているだけで入国拒否できる」 場合がある。
一方、米国は考え方が違う。
サッカーキング によると、米国税関・国境警備局は「現時点では彼は犯罪で有罪判決を受けておらず、ビザの発給を受けて入国している」と説明した。
有罪判決がない以上は入国を認める 、という立場だ。
同じ北米の隣国でありながら、「誰を入国させるか」の判断基準がそもそも異なる。
W杯という同じ大会の開催国でも、片方には入れて片方には入れないという逆転現象が起きた背景はここにある。
ガーナ政府が「推定無罪(裁判で有罪が確定するまでは無罪として扱うという法律の大原則)」を根拠に抗議したのは、多くの法体系から見れば理解できる立場だろう。
では、FIFAはこの状況に対して何ができたのか。
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FIFAに選手を止める権限はあるのか
「FIFAは選手のビザ審査に関与しない。
入国を許可するのはホスト国の政府だ」—— これがFIFAの公式声明の全てだった。
「FIFAが出場を認めた」という印象を持つ人もいるかもしれない。
しかし実際には、 FIFAには起訴中の選手を競技から排除する制度的な仕組みがない。
FIFAの権限は「競技のルール」にある。
反則・ドーピング・八百長といった競技の公正さに関わる問題には介入できる。
しかし選手の刑事的な身分や道徳的な評価に口を挟む法的な根拠を、 FIFA は持っていない。
サッカーキング によると、FIFAは「我々はホスト国の入国プロセスに関与しない。
過去のFIFA大会と同様、ホスト国の政府が最終的に誰にビザを発行し、誰を入国させるかを決定する」と公式に発表した。
FIFAが止めなかった のではなく、 「止める権限がなかった」 のだ。
ここに社会心理学の「 責任分散 (diffusion of responsibility)」と呼ばれる現象が重なっているのではないか。
これは、「自分には関係ない」「あの組織がやるべきだ」という判断が組織と個人の間でたらい回しにされ、結果として誰も責任を取らない状態になる現象だ。
FIFAは「ホスト国の問題」と言い、FAは「個々の選手の判断に委ねる」と言った。
その構造の中で、唯一"行動"したのはポケットに手を入れたスペンス 1 人だった。
スポーツ統括組織が制度上「止める権限がない」事実と、組織的な責任分散が重なることで、道徳的判断の矢面に立つのは個人だけになっているのではないか。
FIFAも協会も「俺には関係ない」と言える仕組みになっていて、結局1人の選手だけが「ポケットに手を入れる」かどうかの判断を一人で背負わされた——これがこの騒動の本質的な構造だ。
では実際のところ、パルティはこのまま大会に出続けられるのか。
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パルティはこのまま出場し続けられるか
「試合の外で起きることは自分でコントロールできない。
でも今は準備ができている」—— ESPN によると、パルティは試合前日にそう語った。
実際にパルティはイングランド戦に先発出場した。
東スポWEB によると、試合はイングランドが 18 本のシュートを放ったにもかかわらず、ガーナに 1 本も決められずに 0-0 のドロー。
ガーナの 9 倍ものシュートを放った優勝候補が引き分けに終わったが、試合よりもパルティへの視線に話題が集まった。
● 今後の注目ポイント:決勝トーナメントでの再入国問題
Goal.com によると、ガーナがグループ 2 位になった場合、決勝トーナメント 1 回戦の舞台が再びカナダになる可能性がある。
そうなればパルティは 同じ入国問題に再び直面する だろう。
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裁判は 2027 年 6 月の予定であり、次のW杯( 2030 年)の前には判決が確定する見通しだという。
「推定無罪」という法律の大原則と、スポーツの場での倫理的な判断、そのどちらを優先すべきかという問いは、 2027 年の裁判が結論を出すまで宙吊りのまま続く。
まとめ
- パルティがW杯に出場できた理由は「FIFAが黙認した」からではなく、FIFAにも協会にも起訴中の選手を止める制度的な権限がそもそもないからだ。
- カナダへの入国が拒否された直接の原因は刑事容疑の存在だけでなく、ビザ申請書に「逮捕・起訴歴なし」と虚偽を記入したことが連邦裁判所の文書で確認されている。
- カナダは「起訴段階でも入国拒否できる」移民法を持つが、米国は「有罪判決なし=入国可」という判断基準を持つ。同じW杯の開催国でも、法律の設計が違えば結論が真逆になる。
- 握手を拒否したように見えたのは、数十人いるイングランド選手の中でスペンス1人だけだ。FAは事前に選手への指示を出しておらず、判断は個人に委ねられた。
- 裁判は2027年6月の予定。ガーナが決勝トーナメントに進めば、同じ入国問題が再び浮上する可能性がある。
FIFAも協会も制度上「止める権限がない」と言える仕組みの中で、最終的に行動の判断を一人で背負ったのは、ポケットに手を入れたままパルティの前を通り過ぎた1人の選手だった。
よくある質問(FAQ)
Q1. トーマス・パルティはどんな容疑で起訴されているの?
英国で強姦罪7件と性的暴行罪1件、さらに2026年2月に2件追加の合計9件以上の容疑で起訴中。
本人はすべての容疑を否認しており、裁判は2027年6月の予定だ。
Q2. パルティはなぜW杯に出場できているの?
FIFAには起訴中の選手を競技から排除する制度的な権限がなく、有罪判決がない以上は出場資格に影響しない。
米国は「有罪判決なし」を根拠にビザを発給したため、アメリカ開催の試合には出場できた。
Q3. パルティがカナダに入れなかった理由は?
ビザ申請書で「逮捕・起訴歴なし」と虚偽の申告をしたことがカナダ連邦裁判所の文書で確認されており、これが入国拒否の直接原因となった。
控訴も棄却されている。
Q4. カナダとアメリカで入国の扱いが違うのはなぜ?
カナダの移民法は起訴段階でも入国拒否できる規定があるが、米国は有罪判決がなければ原則として入国を認める。
同じW杯の開催国でも、移民法の基準が異なるため判断が分かれた。
Q5. 握手を拒否したイングランドの選手は誰?
DFジェド・スペンス(トッテナム・ホットスパー)が試合前の握手でパルティの前を右手をポケットに入れたまま通り過ぎたと英ガーディアン紙などが報じた。
他のイングランド選手はほぼ全員がパルティと握手をした。
Q6. FAはパルティとの握手について選手に指示を出したの?
イングランドサッカー協会(FA)は試合前、握手について選手と事前に話し合っていなかった。
判断は個々の選手に委ねられた形になっている。
Q7. パルティはこの先もW杯に出続けられるの?
ガーナが決勝トーナメントに進んだ場合、再びカナダ開催の試合が組まれる可能性があり、同じ入国問題が再浮上するだろう。
裁判は2027年6月の予定で、それまで出場資格には影響しない見通しだ。
📚 参考文献
- サッカーキング「強姦容疑のパルティがW杯出場も…イングランド代表DFは試合前の握手を拒否?」 (2026年6月24日)
- 日刊スポーツ「強姦容疑のパーティー、因縁イングランド戦で握手拒否にブーイング浴びる」(Yahoo!ニュース) (2026年6月24日)
- フットボールゾーン「イングランドDF、ガーナMFと"握手拒否" キックオフ前の異変を現地報道」 (2026年6月24日)
- 東スポWEB「イングランドDFスペンスがガーナMFパーティーとの握手を"拒否"」(Yahoo!ニュース) (2026年6月24日)
- ESPN「Ghana's Thomas Partey 'ready' for England, visa issues 'out of control'」 (2026年6月23日)
- Ghana Broadcasting Corporation「Thomas Partey in spotlight over rape charges as Ghana take on England at World Cup」 (2026年6月23日)
- Sports Illustrated「Why Thomas Partey Is Allowed to Play for Ghana vs. England—2026 World Cup」 (2026年6月23日)
- サッカーキング「ガーナ政府、MFパルティのカナダ入国拒否に抗議声明…推定無罪の原則を主張」 (2026年6月14日)
- Goal.com「ガーナ、ワールドカップのパナマ戦を前に司法に救済を求める」 (2026年6月)
- football-zone.net
- x.com
- x.com
- x.com
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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