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「鏡に向き合うたびに絶望」——美容施術でしこりが残った女性3人が、クリニックに計約1850万円の賠償を求めて提訴した。
しわやたるみの改善を期待した施術の正体は、診療指針が「行わないこと」を勧める処置だった。
この記事でわかること
女性3人が約1850万円の賠償請求——「プレミアムPRP」訴訟の全容
2026年2月27日、東京都内のクリニックで美容施術を受けた女性3人が、しこりのリスクを事前に説明されなかったとして、計約1850万円の損害賠償を求め東京地裁に提訴した。
共同通信の報道によると、東京都内のクリニックで美容施術を受けた女性3人が、目の下や頬にしこりができたとして損害賠償を求めた。
請求額は3人合わせて約1850万円にのぼる。
「人前で笑えず、鏡に向き合うたびに絶望が突き付けられる。医師は残酷さを理解しているのか」——原告の60代女性は記者会見でこう語った。
しわやたるみをとるために受けた施術で、笑えない顔になった。
若返りを求めた結果が、その正反対だった。
これは「初めての訴訟」ではない
3人が受けたのは「プレミアムPRP皮膚再生療法」という施術だ。
2018年から2022年にかけて、顔に薬剤を注入する処置を受けた。
原告代理人の梶浦明裕弁護士は、「説明義務違反が横行している」と指摘している。
梶浦弁護士はレーシック集団訴訟やHIFU問題の調査にも携わってきた、美容医療訴訟の専門家だ。
注目ポイント
この訴訟は最初の1件ではない。2025年1月にも同じ「プレミアムPRP皮膚再生療法」をめぐる訴訟が確定していた。
NHK NEWS WEB(日本美容医療リスクマネジメント協会転載)によると、前回の訴訟では別の女性が聖心美容クリニック横浜院で同じ施術を受けた。
目の下やこめかみにしこりができ、東京地裁がクリニック側の説明義務違反を認定し、解決金の支払いを命じている。
訴訟の時系列
- 2017〜2019年:前回訴訟の原告が施術を受ける
- 2018〜2022年:今回の原告3人が施術を受ける
- 2023年12月:前回訴訟が提起される
- 2025年1月:前回訴訟が解決金支払いで確定
- 2026年2月27日:新たに3人が提訴
1件目が確定してから、わずか1年あまりで次の訴訟が起きた。
個別の医療事故ではなく、同じ施術名をめぐって被害が繰り返されている構図が浮かぶ。
では、「プレミアムPRP皮膚再生療法」とは何なのか。
なぜしこりが生じるのか。
「自分の血液だから安全」の落とし穴——PRPと「プレミアムPRP」は別物
問題の核心は「PRP」と「PRP+bFGF」の違いにある。自分の血液由来のPRP単体は比較的おだやかな施術だが、成長因子bFGFを添加すると細胞が過剰に増殖し、しこりや膨らみの原因になる。
PRPは安全な施術だと思っていないだろうか。
PRP(多血小板血漿)は、自分の血液から血小板を濃縮した液体だ。
アレルギーのリスクが低く、抗炎症作用が期待される。
スポーツ医療でも使われている、比較的おだやかな施術である。
ところが、「プレミアムPRP」には決定的な違いがある。
添加されていたのは「火傷の治療薬」
ヒフコNEWSによると、プレミアムPRP皮膚再生療法にはbFGFという成長因子が添加されている。
bFGFは細胞を増殖させる作用を持つ。
この成長因子の正体が衝撃的だ。
前回訴訟で裁判所が認定した事実によると、使われていたフィブラストスプレーは、本来やけどや褥瘡(床ずれ)の治療に使う外用のスプレー剤だった。
顔の皮下に注射する用途では薬事承認を受けていない。
| PRP単体 | プレミアムPRP | |
|---|---|---|
| 成分 | 自分の血液由来の血小板 | 血小板+成長因子bFGF |
| 薬事承認 | 再生医療法の対象 | 皮下注射は未承認 |
| 診療指針 | 弱く推奨 | 行わないことを弱く推奨 |
| しこりリスク | 低い | 報告が多い |
「プレミアム」という名前から、PRPの上位版だと受け取る人は多いだろう。
しかし実態は、安全な上位版 → 承認されていない用途で火傷の治療薬を顔に注射する施術だ。
診療指針は「安全性を保証できない」と明記
日本皮膚科学会の美容医療診療指針(PDF)は、PRP+bFGFについて「行わないことを弱く推奨する」と記している。
さらに踏み込んだ表現もある。
「安全性を保証できない」「注入部の硬結や膨隆などの合併症の報告も多く、bFGFの注入投与は適正使用とは言えない」——診療指針がここまで厳しい評価を下している施術は珍しい。
⚠️ bFGFのリスク
bFGFには細胞を増殖させる作用がある。注入した部分の組織が過剰に増え、しこりとして残ることがある。
お茶の水美容形成クリニックの解説によれば、深刻なのはしこりが「一度できたら終わり」ではない点だ。
しこりが増殖を続け、周囲の組織と同化して、除去すら不可能になるケースもある。
エコーで見ても、どこまでがしこりか判別できなくなるという。
この施術がなぜ今も提供されているのか。
そして、消費者はどう身を守ればいいのか。
「説明義務違反が横行」——美容医療トラブル急増の構造と自衛策
美容医療のトラブルは、この訴訟だけの話ではない。相談件数は年間1万件を超え、弁護士が指摘する「説明義務違反の横行」は氷山の一角にすぎない。
政府広報オンラインによると、全国の消費生活センターに寄せられた美容医療の相談件数は、2024年度に年間1万件を超えた。
1日あたり約27件。10年前の約5倍にまで膨れ上がっている。
📊 美容医療トラブル相談件数
「美容医療サービスに関する相談件数は、令和5年度(2023年度)は6,000件程度でしたが、令和6年度(2024年度)は10,000件を超えています」——政府広報オンライン
弁護士が指摘した「説明義務違反の横行」は、氷山の一角にすぎないだろう。
なぜ問題のある施術が放置されるのか
美容医療は自由診療だ。
保険診療とは異なり、どの施術を提供するかはクリニックの裁量に委ねられる部分が大きい。
診療指針が「行わないことを弱く推奨」としていても、法的な拘束力を持たない。
指針に従わなくても罰則はなく、施術を続けることは制度上は可能だ。
ただし、この状況は変わりつつある。
美容ヒフコによると、2025年12月に改正医療法が公布された。
美容医療を行う医療機関に安全管理体制の報告義務が新たに設けられ、2026年4月から順次施行される。
⚠️ ここからは推測です
この提訴は規制強化の流れと同時期に起きている。今後、同様の説明義務違反を争う訴訟は増えるのではないか。改正医療法の施行が進めば、クリニック側の対応も変わらざるをえないだろう。
施術前に確認すべき4つのポイント
大手クリニックだから安心 → 前回の訴訟で説明義務違反を認定されたのは、全国展開する大手クリニックだった。
この思い込みは、今回の訴訟が覆している。
施術名だけを聞いて安心するのは危険だ。
あなたが美容クリニックで施術を受ける前に、「この薬剤の承認状況は?」「しこりなど合併症のリスクはどの程度か?」と尋ねたことはあるだろうか。
| 確認項目 | 具体的に聞くこと |
|---|---|
| 薬剤の承認状況 | 「使う薬剤は国の承認を受けた用途ですか?」 |
| 添加物の内容 | 「PRP以外に何か成分を混ぜますか?その成分名は?」 |
| 合併症リスク | 「しこりや膨らみが残る確率はどのくらいですか?」 |
| 同意書の記載 | 「リスクが同意書に具体的に書かれていますか?」 |
特に大事なのは、施術名だけでなく、添加されている成分を尋ねることだ。
「プレミアムPRP」という名前だけでは、bFGFが入っているかどうかはわからない。
名称が実態を覆い隠している——今回の訴訟が突きつけた教訓はそこにある。
まとめ
- 2026年2月27日、「プレミアムPRP皮膚再生療法」でしこりが生じた女性3人が、リスクの事前説明がなかったとして約1850万円の賠償を求め提訴した
- 「プレミアムPRP」に添加されるbFGFは火傷の治療用外用薬の成分で、顔への皮下注射は薬事承認されていない
- 美容医療診療指針はこの施術を「行わないことを弱く推奨」「安全性を保証できない」と評価している
- 美容医療トラブルの相談は年間1万件超。施術前には「施術名」ではなく「中身」——薬剤名・承認状況・合併症リスク・同意書の記載を確認してほしい
美容施術を検討しているなら、使われる薬剤の名前と承認状況、合併症のリスク、同意書への記載。
この3点を施術前に尋ねるだけで、知らないまま受けるリスクは大きく減る。
よくある質問(FAQ)
Q1. プレミアムPRP皮膚再生療法とは何ですか?
自分の血液から作ったPRPに成長因子bFGFを添加して顔に注入し、しわやたるみを改善する美容施術です。
Q2. PRPでしこりができるリスクはありますか?
PRP単体のリスクは低いですが、bFGFを添加すると細胞が過剰に増殖してしこりや膨らみが生じる報告が多くあります。
Q3. PRPとPRP+bFGFの違いは何ですか?
PRPは自分の血液成分のみ。PRP+bFGFは火傷の治療用外用薬の成分を添加しており、診療指針は非推奨としています。
Q4. PRP施術のしこりは治りますか?
ステロイド注射や切除で小さくできる場合もありますが、組織と同化して除去が不可能になるケースもあります。
Q5. 美容施術を受ける前に何を確認すべきですか?
薬剤の承認状況、PRP以外の添加成分の有無、しこり等の合併症リスク、同意書への記載内容の4点を確認してください。
Q6. 美容医療でトラブルに遭ったらどこに相談すればよいですか?
最寄りの消費生活センター(局番なし188)に電話すると相談できます。
Q7. 美容医療のトラブル相談は年間何件ありますか?
2024年度は年間1万件を超え過去最多。1日あたり約27件が消費生活センターに寄せられています。
Q8. 改正医療法で美容医療はどう変わりますか?
2025年12月公布の改正医療法で美容医療機関に安全管理体制の報告義務が新設され、2026年4月から順次施行されます。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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📚 参考文献
- 共同通信(熊本日日新聞転載)「美容医療で副作用、女性が提訴 都内のクリニックに賠償請求」(2026年2月27日)
- 一般社団法人日本美容医療リスクマネジメント協会「"説明義務怠った"美容クリニック解決金支払う決定受ける」(2025年1月7日)
- 美容ヒフコ「PRP+bFGF、施術後しこりの訴えで美容クリニックが解決金」(2025年1月9日)
- お茶の水美容形成クリニック「PRP+FGF治療の危険性とその背景にある問題点」(2025年9月4日)
- 公益社団法人日本皮膚科学会「美容医療診療指針」(PDF)
- 政府広報オンライン「美容医療サービスの消費者トラブル」
- 美容ヒフコ「改正医療法が順次施行 美容医療の監視と情報公開が制度化へ」(2025年12月20日)