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成年後見「終身制廃止」で何がどう変わる?25年ぶりの民法改正を解説

成年後見「終身制廃止」で何がどう変わる?25年ぶりの民法改正を解説

| 読了時間:約8分

認知症の親を守るはずの制度で、14年間に311億円が横領されていた。

2026年4月3日、政府はその欠陥を直す民法改正案を閣議決定した。同時に「デジタル遺言」という新制度も誕生する。

それぞれ何が変わるのか、整理する。

 

 

 

「守る制度」が年22億円の横領を生んできた

後見人こうけんにんによる横領は、25年間放置されてきた問題だ。

最高裁判所の統計によれば、2011年から2024年の14年間で、後見人こうけんにんによる横領など不正の被害額は累計で少なくとも311億円に上る。

1年あたりに換算すると22億円。1日あたり約600万円が消えてきた計算になる。

最高裁判所の統計より(2011〜2024年)

不正被害の累計額:311億円以上
年平均被害額:約22億円
横領するのは第三者の専門家被害額の92%は親族後見人によるもの
出典:成年後見センター「成年後見制度の現状と課題」

「横領するのは悪徳な第三者の弁護士や司法書士では?」と思っていないだろうか。

赤の他人が犯人 → 実は逆だ。被害額の92%は家族や親戚、つまり親族後見人によるものだった。信頼すべき家族こそが、最大のリスクだった。

これが25年間続いた現実だ。


なぜ「やめられない」制度が問題なのか

現行の成年後見制度せいねんこうけんせいどには、決定的な欠陥がある。一度始めたら、本人が亡くなるまで原則として終えられない「終身制」だ。

実際にこんなケースがあった。相続の遺産分割いさんぶんかつのためだけに成年後見を申し立てたAさん。遺産分割が終わっても後見は続き、月3万円の報酬を10年以上払い続けることになった。

費用負担の実態

専門職後見人(弁護士・司法書士など)が付いた場合、月額2〜6万円の報酬が終身にわたって発生する。10年続けば、最大720万円の費用負担になる。
出典:行政書士奥村法務事務所

費用だけではない。利用者の少なさも深刻だ。成年後見センターの調査によれば、2024年時点で制度を使っている人は約25万人にすぎない。

潜在的な後見ニーズは推計約1300万人。充足率はわずか2%だ。

100人が必要としている制度を、2人しか使えていない。その理由のひとつが「一度始めたらやめられない」という恐怖感だろう。改正はこの欠陥を正面から直そうとしている。

 

 

 

改正の3本柱——何がどう変わるのか

共同通信の報道によれば、今回の民法改正案は3つの柱で構成される。

「どうせ小手先の改正では?」と思う人もいるかもしれない。ところが今回は制度の根幹を変える内容だ。

変更点 現行制度 改正後
類型 後見・保佐・補助の3種類 「補助」1種類に一元化
利用期間 原則終身(やめられない) 必要がなくなれば家裁が終了
報告義務 規定なし(随時) 担当者が年1回の状況報告義務

最大の変更は補助ほじょへの一元化だ。現行制度では判断能力の程度に応じて3種類があったが、改正後は最も柔軟な「補助」に統一される。

「補助」とは何か。「この不動産の売却だけ手伝ってほしい」というように、必要な行為だけに限定して後見人の権限を設定できる仕組みだ。現行の「後見」のように財産管理をすべて任せる必要はなくなる。


「終身制廃止」は何を意味するか

神戸新聞(共同通信配信)によれば、改正案では補助の必要がなくなれば家庭裁判所が職権で終了させる。家族から終了を申し立てることもできる。

「遺産分割が終わった」「財産管理が家族でできるようになった」などの事情があれば、後見を打ち切れる。担当者には年1回の状況報告が義務付けられ、必要性を継続的に確認する仕組みになる。

改正のポイント

改正後は「必要なとき・必要な範囲だけ」使えるオーダーメード型の制度になる。費用も期間も、現行より大幅に抑えられる見通しだ。

ただし例外がある。日本弁護士連合会の会長声明によれば、重度の認知症など「事理弁識能力を欠く常況にある者」に対しては、例外的に特定補助人という厳格な制度が設けられる。

「補助への一本化=全員が同じ扱い」ではない点に注意が必要だ。


国連の圧力という裏側

「なぜ25年間動かなかった制度が今動いたのか」という問いには、国内事情だけでない背景がある。

司法書士事務所つじの解説によれば、2022年10月に国連障害者権利委員会が日本に対して勧告を出した。内容は「意思決定を代行する制度を廃止する観点から民法を改正すること」というものだ。

国連から「廃止せよ」と名指しされた日本の後見制度。高齢化対策という国内事情に加え、国際社会からの圧力が改正を後押しした側面もある。

 

 

 

「スマホで遺言」の落とし穴——デジタル遺言の本当の中身

「デジタル遺言が作れる」と聞いて、「スマホでサッと書いて送信すればOK」と思った人もいるだろう。スマホで完結する実はそうではない。

正式名称は保管証書遺言ほかんしょうしょいごん。パソコンやスマートフォンで遺言書を作成し、法務局に保管申請できる新しい方式だ。しかし弁護士事務所アイアイローの解説によれば、手続きには重要なステップがある。

デジタル遺言(保管証書遺言)の手続きの流れ

  1. 遺言の全文をパソコン等で作成する
  2. 法務局(遺言書保管官)に保管を申請する
  3. 本人確認を受ける(原則対面、例外的にオンライン)
  4. 遺言者が全文を口述する(読み上げる)
  5. 法務局が保管する(紙またはデジタルデータ)

アイアイロー法律事務所の解説によれば、遺言者が全文を口述するという手続きが設けられている。「本当に本人の意思か」を確認するためだ。

高齢者がすべての文章を声に出して読まなければならない場面を想像すると、必ずしも「楽になる改正」とは言い切れない。


3つの遺言方式を比べると

方式 作成 検認
自筆証書遺言 全文手書き必須 必要
公正証書遺言 公証人と作成 不要
保管証書遺言(新) デジタル作成可 不要

アイアイロー法律事務所の解説によれば、保管証書遺言は検認が不要になる。検認とは遺言書の内容を確認するための家庭裁判所の手続きだ。相続開始後の手続きが遅れる原因のひとつだったため、その点は確かな改善だ。

一方、デジタル遺言の細かい仕様(ファイル形式・電子署名の方式など)は省令で今後決まるとされており、現時点では未確定の部分が残っている。

 

 

 

施行はいつ?今から何をすべきか

「閣議決定された」イコール「すぐ使える」ではない。これが今回の改正で最も誤解されやすい点だ。

閣議決定は「国会に法案を提出する準備が整った」という段階にすぎない。司法書士事務所つじによれば、法務省は衆院選後の国会に改正案を提出する予定だ。施行時期は現時点で未定となっている。

専門家の間では2027〜2028年頃と見る向きもあるが、これはあくまで見込みだ。

改正法成立までのスケジュール

  1. 2026年4月3日 民法改正案を閣議決定(←いまここ)
  2. 衆院選後の国会 改正案を提出・審議
  3. 国会成立後 施行日を別途決定
  4. 2027〜2028年頃(見込み) 新制度スタート

施行まで何をすればいいか

⚠️ ここからは推測です。施行前の行動指針については専門家への個別相談が前提となる。

新制度が使えるまでの間、以下の3つが現実的な選択肢となる。

手段 向いている人
任意後見契約 判断能力があるうちに備えたい人。自分で後見人を選べる
家族信託 不動産・金融資産の管理が主な目的の人。継続報酬なし
自筆証書遺言保管制度 今すぐ遺言を残したい人。現行制度で法務局に保管可

「改正が来るなら待つ」という判断は合理的に見えるが、施行前に認知症が進んだ場合は選択肢が大きく絞られる。

判断能力があるうちに動けることが前提になる点は、現行制度と変わらない。

 

 

 

この改正が問いかけていること——「守る」から「自分で決める」へ

⚠️ ここからは事実に基づく考察であり、確定情報ではありません。

今回の改正を「成年後見制度の使いやすさ改善」として読むのが一般的な見方だ。高齢化社会に対応し、利用率2%という低迷を打破する——その文脈は正しい。

しかし別の文脈で読むと、違う問いが浮かぶ。


「代わりに決めてあげる」という発想の終わり

障害者福祉の分野では、長年「意思決定支援」という考え方が広まってきた。本人が自分で決められるよう支援するのが支援者の役割であり、支援者が代わりに決めることは本来あるべき姿ではない、という考え方だ。

現行の成年後見制度は、この考え方と真逆の設計だった。「判断能力が不十分な人の財産管理を、後見人が丸ごと代行する」という構造は、本人の自己決定権を事実上停止させていた。その帰結が、前述の311億円という被害額だ。代行する権限があるから、横領できる。

今回の改正で「補助への一本化」と「必要な範囲への限定」が打ち出されたのは、「守ってあげる」から「自分で決めることを支える」への転換だ、という見方もある。この方向性は、2022年に国連が日本に突きつけた勧告とも一致している。


25年間変わらなかった理由を考える

⚠️ 以下は筆者の考察です。

では、なぜ25年間この転換が起きなかったのだろうか。ひとつの読み方として、「後見制度の受益者が誰か」という問いがある。

制度を利用する高齢者・障害者本人ではなく、後見人として報酬を受ける専門職、あるいは財産管理を担いたい親族——制度の外側にいる人々の利益と制度の設計が、長年結びついていたという見方もある。「終身制」は、本人のためというより、後見人の継続的な報酬を保障する仕組みとして機能していた側面が否定できない。

今回の改正は、その構造をどこまで変えるのか。施行後に「補助の必要がなくなれば終了できる」という規定が実際にどう運用されるか、そして年1回の状況報告が形骸化しないかどうか。日弁連の会長声明も「司法審査が形骸化することがないようにしなければならない」と明確に指摘している。

この改正が問いかけていること

法律の文言が変わることと、現場の運用が変わることは別の話だ。「代わりに決める」文化が根付いた専門職の世界で、「本人が決める」への転換がどこまで実現するか——改正案の閣議決定は、その問いの始まりにすぎないのではないだろうか。

まとめ

  • 2026年4月3日、成年後見制度の終身制廃止を盛り込んだ民法改正案が閣議決定された
  • 現行の後見・保佐・補助の3類型は「補助」に一元化。必要な範囲だけ・必要な期間だけ使えるオーダーメード型になる
  • 後見人の横領被害は14年間で累計311億円。改正の背景には深刻な制度疲労がある
  • デジタル遺言(保管証書遺言)は「スマホで完結」ではなく、法務局への申請と全文の読み上げが必要
  • 施行時期は未定。衆院選後の国会審議を経て成立後に決まる。2027〜2028年頃と見られるが確定ではない

よくある質問(FAQ)

Q1. 成年後見の終身制廃止とはどういう意味ですか?

一度始めたら亡くなるまで続く原則を廃止し、必要がなくなれば家庭裁判所が終了できる仕組みに変わります。

Q2. 新しい成年後見制度はいつから始まりますか?

施行時期は未定です。衆院選後の国会で審議・成立後に決まります。2027〜2028年頃と見られています。

Q3. 成年後見人による横領や不正はどれくらいありますか?

最高裁統計によると2011〜2024年の14年間で累計311億円。被害の92%は親族後見人によるものです。

Q4. 成年後見制度はなぜ普及しないのですか?

「一度始めたらやめられない」という終身制や、専門職への月2〜6万円の継続費用が利用を妨げてきました。

Q5. 補助への一本化とはどういう意味ですか?

現行の「後見・保佐・補助」の3種類を廃止し、最も柔軟な「補助」1種類に統一することです。

Q6. デジタル遺言とはどんな制度ですか?

パソコンやスマホで作成した遺言書を法務局に保管申請できる新制度です。正式名称は保管証書遺言といいます。

Q7. デジタル遺言はスマホだけで作れますか?

スマホで作成できますが、法務局への申請と遺言者本人による全文の読み上げ(口述)が必要です。

Q8. 現在すでに成年後見を利用している人はどうなりますか?

経過措置は今後の国会審議で明確化される予定です。現時点では未確定の部分が残っています。

Q9. 任意後見と新しい成年後見制度はどう違いますか?

任意後見は本人がまだ判断能力があるうちに後見人を自分で選ぶ制度。法定後見とは設計が根本的に異なります。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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