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新富町F-35B騒音で全町民に2万円、なぜ国でなく町が自腹か

| 読了時間:約6分

宮崎県新富町が全町民に年2万円を配る。
財源は国ではなく、町の自腹だ。

新田原にゅうたばる基地に配備されたステルス戦闘機F-35Bの騒音対策として、2026年3月3日に町議会へ提案されたこの制度は、基地をもつ自治体としては全国初の試みとみられる。

4年間の総額は約13億円
その裏には、防衛省が覆した「ある約束」がある。



新富町が全町民に年2万円を給付——対象・期間・総額の全容

0歳児を含む全町民が対象になる。

MRT宮崎放送の報道によると、新富町は2026年度の当初予算案に、町民1人あたり年2万円の現金給付を盛り込んだ。

対象はおよそ1万6000人の全町民で、年1回の給付を2026〜2029年度の4年間つづける。

💬 小嶋崇嗣町長の発言

「耐える町民の皆さまへ精神的、物理的、負担の軽減対策として一人一人への現金給付をためらうことなく講じてまいります」

毎日新聞の報道によれば、基地関係自治体が騒音対策で住民に直接現金を給付するのは全国初とみられる。

厚木や嘉手納、岩国など各地の基地周辺で騒音訴訟は繰り返されてきた。
だが裁判を待たずに自治体が全住民に現金を配る例はなかった。


「2万円は少なすぎる」のか——訴訟の賠償額と比べる

町民の受け止めは割れている。

MRT宮崎放送の取材に対し、ある町民は「一時的ななぐさめじゃないかな」と話した。
別の町民は「2万円より飛行機をどうにかしてもらったらいいと思いますけど」と答えている。

比較項目 爆音訴訟の賠償 今回の給付
金額 最大月2万円(年換算で最大24万円) 年2万円
対象 訴訟の原告178人 全町民 約1万6000人
性質 違法な騒音への損害賠償 精神的・物理的 負担の軽減策
財源 国(賠償金) 町の一般財源

2024年8月、福岡高裁 宮崎支部は新田原基地の騒音を「受忍限度がまんの限界を超える違法なもの」と認定し、国に賠償を命じた。

訴訟の賠償は年に換算すると最大24万円になる。
給付の年2万円はその約12分の1だ。

金額だけ見れば少ない。
だが訴訟の対象は原告178人にとどまるのに対し、給付は全町民に届く。
被害補償ではなく「今すぐ届く負担軽減策」という性格が、この給付にはある。

しかしこの13億円、財源はどこから出るのか。
基地のある町には国から交付金が届いているはずだ。



国の交付金では配れない——町が自腹で13億円を出す理由

国からの交付金は住民への直接現金給付に使えない。

基地をもつ自治体には「国が面倒をみている」という印象がある。
実際、新富町は2025年度に特定防衛施設周辺整備 調整交付金として過去最高の7億6648万円を受け取った。

前年度から57.8%の増額で、F-35B配備を反映した数字だ。

⚠️ 交付金の使途制限

交付金から住民に直接配れる道路や公共施設の整備には使えるが、住民への直接の現金給付は認められていない
だから新富町は、町が自由に使える一般財源から4年間で13億円を捻出する道を選んだ。

年間歳出143億円の町にとっての「13億円」

この13億円がどれほど重いか。
町の財政規模と並べてみる。

指標 金額 13億円との比率
一般会計 歳出 約143億円 年間給付3.25億円=歳出の約2.3%
調整交付金 7億6648万円 年間給付3.25億円=交付金の約43%
基金残高 約48億円 13億円=基金の約27%

新富町の財政資料によると、令和6年度の一般会計 歳出は約143億円。
年間の給付額3億2500万円は歳出の約2.3%にあたる。

国からの調整交付金7.6億円と比べれば、給付額はその約43%に相当する。
町の基金残高は約48億円で、13億円は基金の約27%に相当する

毎日新聞の取材に対し小嶋町長は「町にとっては大きな額だが、(基地は)町民の負担の上に成り立っている。国はこうした現状を理解し、騒音対策を前進させてほしい」と話した。

では、なぜここまでの負担を町に強いるほどF-35Bの騒音は深刻なのか。



防音住宅でも「地下鉄の車内」——F-35Bの騒音と防衛省の約束転換

あなたの家で地下鉄の走行音が1分以上鳴りつづける生活を想像してほしい。
それが防音工事を終えた住宅内で起きている。

数字で見る「騒音の壁」

防衛省の騒音測定資料によると、F-35Bの垂直着陸時の騒音は着陸パッドから約75mの地点で123.1dBに達する。

約300mで115.6dB。
基地から約3km離れた新富町役場の屋上でも91.9dBだった。

測定地点 垂直着陸時 日常音の目安
約75m(基地内) 123.1dB 近くの落雷
約3km(町役場屋上) 91.9dB カラオケ店内
防音住宅の室内 約70dB 地下鉄の車内

UMKテレビ宮崎の取材では、基地正門前に住む農家の男性が防音住宅のリビングでテレビを見ていたところ、F-35Bの垂直着陸が始まった。

約1分半にわたり家全体が音に包まれ、防音工事をした住宅の中でも70dB前後——地下鉄の車内と同じ水準だった。

テレビの音は聞き取れず、電話では「飛行機が飛んでいるので聞こえません」と相手に伝えなければならない。

MRT宮崎放送の調査報告によれば、2025年11月の訓練で記録された騒音の最大値は120.5dBで、近くの落雷に匹敵する。



防衛省はなぜ「約束」を覆したのか

F-35Bは短距離で離陸し、垂直に着陸できる。
この垂直着陸が従来のF-15より長く大きな騒音を生む。

📄 防衛省の当初説明(2021年)

防衛省は2021年、地元に対して「緊急時等を除き通常は垂直着陸を行わない方針である」と説明していた。
垂直着陸訓練は鹿児島県の馬毛島まげしまに建設する施設で行うとしていた。

ところが2025年春、防衛省は方針を転換する。
馬毛島施設の工期が遅れ、完成が2030年3月末にずれ込む見通しとなったこと、安全保障環境の変化が理由だった。

防衛省の資料にはこう記されている。
「ご地元の皆様からすれば、令和3年度にご説明した内容と異なると受け止められることは当然であり、改めてお詫び申し上げます」。

国が公式に「お詫び」する異例の文言だ。


📅 F-35B配備から給付決定までの経緯

  1. 2021年 防衛省が「緊急時以外は垂直着陸しない」と地元に説明
  2. 2025年春 馬毛島の工期遅延を理由に方針転換
  3. 2025年8月 F-35B初の3機が新田原基地に配備
  4. 2025年11月 飛行訓練を開始。垂直着陸も実施
  5. 2026年2月 3機追加で計8機に。来年度さらに4機を追加予定
  6. 2026年3月 新富町が全町民への2万円給付を議会に提案

防衛省は2031年度ごろまでに計42機のF-35Bを新田原基地に配備する計画だ。
垂直着陸訓練の回数は現時点で月平均 最大約80回にのぼる。

馬毛島の施設が完成すれば訓練の一部は移管される見通しだが、それまでの間、新富町の町民は騒音と向き合いつづける。

新富町が2029年度を給付の期限とした理由はここにある。
馬毛島施設の完成で垂直着陸訓練の頻度が下がる時期を見据えた、4年間の「つなぎの支援」だ。



まとめ

  • 新富町は全町民約1万6000人に年2万円を4年間給付する。総額約13億円、全額が町の自腹
  • 国の基地交付金は住民への直接給付に使えず、町が一般財源から捻出
  • 背景には防衛省の方針転換がある。「垂直着陸はしない」との約束が覆り、防音住宅内でも地下鉄レベルの騒音が日常化した
  • 給付の期限は馬毛島施設の完成を見据えた2029年度まで
  • 基地自治体が騒音対策で全住民に現金を配るのは全国初

新富町の決断は、安全保障の負担を引き受ける地域にどう報いるかという問いを国に突きつけている。
町議会の審議と、それに対する国の反応が次の焦点になる。

よくある質問(FAQ)

Q1. 新富町の2万円給付はいつからもらえる?

2026年度から2029年度まで年1回、0歳児を含む全町民約1万6000人が対象。町議会での審議を経て実施される。

Q2. 新富町の2万円給付の財源はどこ?

国の基地交付金は住民への直接現金給付に使えないため、町の一般財源から4年間で約13億円を捻出する。

Q3. F-35Bの騒音はどれくらいの大きさ?

垂直着陸時は着陸パッド75m地点で123dB(落雷レベル)。防音住宅内でも70dB前後で地下鉄車内と同程度。

Q4. 新田原基地にF-35Bは何機配備される?

2025年度に8機の配備が完了。来年度4機を追加し、2031年度ごろまでに計42機を配備する計画。

Q5. 馬毛島基地が完成したら給付は終わる?

給付は馬毛島施設の完成を見据えた2029年度が期限。施設完成で訓練の一部が移管され頻度が下がる見通し。

Q6. 新富町の基地交付金はいくら?

2025年度の特定防衛施設周辺整備調整交付金は過去最高の7億6648万円。前年度から57.8%増。

Q7. 他の基地自治体でも同じ給付はある?

基地関係自治体が戦闘機の騒音対策で住民に直接現金給付するのは新富町が全国初とみられる。

Q8. 防衛省はなぜ垂直着陸訓練を始めた?

当初は緊急時以外しないと説明していたが、馬毛島施設の工期遅延と安全保障環境の変化で方針を転換した。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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