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順法闘争とは?なぜスシローで80年前の戦術が復活したのか

順法闘争とは?なぜスシローで80年前の戦術が復活したのか

| 読了時間:約8分

順法闘争じゅんぽうとうそうとは、法律やマニュアルを完璧に守ることで業務を遅らせる合法的な争議行為そうぎこういだ。
2026年3月1日、スシロー宮崎恒久店で回転寿司ユニオンがこの戦術を決行した。
その背景には、80年前の国鉄から受け継がれた知恵がある。

 

 

 

順法闘争とは「ルールを完璧に守る」闘い——スシローで何が起きたのか

「闘争」なのに「ルールを守る」とはどういうことか

順法闘争とは、法律やマニュアルを一字一句守ることで業務を遅らせ、会社に圧力をかける闘い方だ。

「闘争」と聞くと、過激な行動を思い浮かべないだろうか。
仕事を止めるストライキや、デモで声を上げる姿を想像する人がほとんどだろう。

ところが順法闘争は真逆だ。

日本大百科全書(コトバンク)によると、順法闘争(遵法闘争じゅんぽうとうそうとも書く)とは「法令、労働協約、就業規則あるいは労働契約が日常的には使用者によって守られていないという実態のもとで、逆にこれらの諸規範を厳格に守ることを目的あるいは要求実現の手段として利用する労働者の集団行動」だ。

かみくだくと?

ルールを完璧に守ることで業務を遅らせ、会社に圧力をかける闘い方のこと。
英語では「Work-to-Rule」と呼ばれる。

2026年3月1日、スシロー宮崎恒久店でこの順法闘争が始まった。
回転寿司ユニオンの公式Xは「#マニュアル400ページ守ってみた」というハッシュタグとともに開始を宣言している。


なぜ「マニュアルを守る」だけで仕事が遅くなるのか

あなたの職場にも、分厚いマニュアルはないだろうか。
全ページを一字一句守ったら、仕事はどうなるか想像してほしい。

どんな現場でも、マニュアルだけで仕事が回ることはまずない。
ベテランの経験則やちょっとした省略、効率化のコツ。
そうした文字にならないノウハウで現場は動いている。

 

 

 

経営学ではこれを「暗黙知」と呼ぶ。
マニュアルに書いてある知識が「形式知」なら、現場で培われた省略やコツが暗黙知だ。

つまりどういうこと?

順法闘争とは、この暗黙知を「あえて封印」し、形式知だけで働くことで業務を減速させる戦術だといえるだろう。
裏を返せば、日ごろ会社がどれだけ従業員の自主的な工夫に頼っているかを可視化する行為でもある。

しかも今回のスシローの場合、皮肉がもうひとつある。
労働政策研究者・今野晴貴氏のYahoo!ニュース記事によると、会社は春闘交渉で「レシピ・マニュアル違反がありロスがある」と従業員に責任を転嫁し、賃上げを拒んだ。

「マニュアル違反がロスの原因」だと言うのなら、マニュアルを完璧に守ってみせよう——これが順法闘争に踏み切った直接の動機だ。


始まりは1946年の国鉄だった

順法闘争の歴史は80年に及ぶ。
精選版 日本国語大辞典(コトバンク)によると、1946年、国鉄の労働組合が安全運転の規則を厳格に守る闘争を行ったのが最初だ。

当時の国鉄は、法律でストライキが禁じられていた。
そこで運転規則を一字一句守り、列車を遅延させるという方法が生まれた。
1973年にはこの戦術が長期化し、乗客の怒りが爆発して上尾事件や首都圏国電暴動にまで発展している。

鉄道マンから回転寿司のアルバイトへ。
80年の時を経て、順法闘争は新しい担い手を見つけた。

では、同じ争議行為であるストライキとは何が違うのか。
そして、なぜスシローの労働者はストライキではなく順法闘争を選んだのか。

 

 

 

ストライキとの決定的な違い——「働きながら闘う」という選択

仕事を止めるか、仕事を続けるか

ストライキは仕事を止める闘い。順法闘争は仕事を続けながら遅らせる闘い。この差は労働者にとって非常に大きい。

  ストライキ 順法闘争
行動 仕事を全面的に止める 仕事をしつつマニュアルを厳守
賃金 スト期間中は無給 出勤中のため賃金が発生
会社の対抗策 代わりの人員を投入できる 出勤中の社員を排除する名目がない

弁護士ドットコムの解説記事によると、ストライキは憲法28条で保障された権利だ。
順法闘争も同様に、労働組合法で守られた正当な争議行為とされている。

どちらも合法。だが、現場で起きることはまるで違う。


25年春闘の「スト破り」が戦術を変えた

スシローの労働者が順法闘争を選んだ背景には、苦い経験がある。

2025年3月、宮崎恒久店で回転寿司ユニオンがストライキに踏み切った。
J-CASTニュースの報道によると、組合員20人のうちシフトの14人がストに参加した。

 

 

 

しかし、会社は大分や鹿児島から社員を続々と集め、通常営業を維持した。
ユニオン側はこれを「スト破り」だと批判したが、客足が止まることはなかった。

ストライキが不発に終わった——とまでは言えないが、会社が代替要員を送り込む限り営業は止まらないという現実を突きつけられた。

だから戦術を変えた

26春闘では、出勤して働きながらマニュアル厳守で業務を減速させる道を選んだ。
出勤しているのだから代わりの人員を送り込む理由がなく、かつ賃金も発生する。
会社にとっては対処がはるかに難しい闘い方だといえるだろう。

回転寿司ユニオンの26春闘特集ページによると、2月19日の第2回春闘交渉で再びゼロ回答を受け、「あらゆる争議行為をかまえてたたかうことを確認した」うえで、拠点職場での順法闘争が決まった。

25年のストライキで学んだ教訓を、26年の順法闘争に昇華させた。
労働運動における一種の「戦術の進化」と見ることもできるだろう。

では、そもそもなぜスシローの非正規労働者は闘わなければならないのか。

 

 

 

回転寿司ユニオン結成から4年——非正規労働者はなぜ闘い続けるのか

アルバイトが労働組合をつくり、最大200円の賃上げを勝ち取った

回転寿司ユニオンは2022年結成。4年で最大200円/時の賃上げを実現してきた。

飲食チェーンのアルバイトに交渉力はない実績が覆す

回転寿司ユニオンは2022年8月、スシローのアルバイト従業員が中心となって結成された。
ユニオンの公式サイトによると、4年間の歩みはこうなる。

① 2022年8月:スシローのアルバイトで回転寿司ユニオン結成。賃金計算の1分単位化を実現

② 2023年3月:「非正規春闘」に参加し全国でストライキ。東京・ヤエチカ店で最大200円/時の賃上げを獲得

③ 2024年4月:未払い賃金を全従業員に遡及そきゅうして支払わせることに成功

④ 2025年3〜5月:宮崎恒久店で職場の半数を組織しスト決行。60円/時の賃上げを獲得

⑤ 2026年1月:はま寿司・根室花まるを含む回転寿司各社に26春闘要求を申し入れ

⑥ 2026年3月1日:スシロー宮崎恒久店で順法闘争を決行

アルバイトであっても、憲法28条のもとで労働組合は自由につくれる。
非正規だから声を上げられないということは法律上まったくない。

 

 

 


26春闘で突きつけられた「ゼロ回答」の矛盾

順法闘争に踏み切った直接の原因は、26春闘における会社のゼロ回答だ。

回転寿司ユニオンの26春闘特集ページによると、1月28日の第1回交渉、2月19日の第2回交渉ともに、全店舗で賃上げゼロという回答だった。

しかも、会社の説明はこうだ。

会社のゼロ回答の理由

人員が足りない店舗には「人手が不足しており売上が取りきれていないから賃上げできない」。
人員が足りている店舗には「人手が充足しているので賃上げする動機がない」。
——回転寿司ユニオン26春闘特集ページより要約

人手が足りなくても賃上げしない。人手が足りていても賃上げしない。
どちらに転んでも結論が同じなら、それはゼロ回答ありきの理由づけだろう。
ユニオン自身も「賃上げしない理由探しの回答」だと批判している。


飲食業界が抱える構造的な問題

この問題はスシロー1社にとどまらない。

今野晴貴氏の記事によると、飲食店の非正規雇用への依存率は8割にも達する。
大企業の正社員が春闘で5%超の賃上げを勝ち取る一方、非正規労働者にはその恩恵がほとんど届いていない。

 

 

 

弁護士ドットコムの報道では、25春闘時点の宮崎恒久店の基本時給は1,000円
近隣の競合チェーンより最大100円低く、当時の宮崎県最低賃金との差はわずか48円だった。

25春闘の結果、ユニオンの速報によると、時給は1,060円に上がった。
だが26春闘での要求は1,300円。まだ開きは大きい。

25春闘後の時給

1,060円

26春闘の要求

1,300円

非正規雇用が飲食産業を支えているにもかかわらず、その賃金は最低賃金すれすれに張りついている。
順法闘争やストライキは、この構造に風穴を開けようとする動きだ。

26春闘の行方は、スシローだけの問題ではなく、飲食業界全体の非正規労働者の待遇を左右するだろう。

 

 

 

まとめ

  • 順法闘争とは、法律やマニュアルを一字一句守ることで業務を減速させる合法的な争議行為
  • ストライキが「仕事を止める」闘いなら、順法闘争は「仕事を続けながら遅らせる」闘い
  • スシローでは、25春闘のスト破り経験を経て、26春闘で順法闘争に戦術を切り替えた
  • 会社側はゼロ回答を続け、「マニュアル違反がロスの原因」と主張したことが順法闘争の引き金になった
  • 回転寿司ユニオンは2022年の結成以来、4年間で最大200円/時の賃上げを勝ち取ってきた実績がある

順法闘争の結果がどう出るかはまだわからない。
ただ、「ルールを守ることが闘いになる」という逆説は、飲食業界に限らず、あらゆる職場に通じる問いかけだ。
あなたの職場のマニュアル、全ページ守ったら何が起きるだろうか。

よくある質問(FAQ)

Q1. 順法闘争とは何ですか?

法律やマニュアルを一字一句守ることで業務を遅らせ、会社に圧力をかける合法的な争議行為です。

Q2. 順法闘争とストライキの違いは?

ストライキは仕事を止める闘い方。順法闘争は仕事を続けながらマニュアル厳守で業務を減速させます。

Q3. 順法闘争は違法ではないのですか?

憲法28条と労働組合法で保護される正当な争議行為であり、違法ではありません。

Q4. 回転寿司ユニオンとは何ですか?

スシロー・はま寿司・根室花まるなどで働くパート・アルバイト・正社員でつくる労働組合です。2022年結成。

Q5. スシローでなぜ順法闘争が行われたのですか?

26春闘で会社が賃上げゼロ回答を繰り返し、「マニュアル違反がロスの原因」と主張したことへの対抗です。

Q6. マニュアル400ページとは何のことですか?

スシローの業務マニュアルの分量を指し、回転寿司ユニオンが「#マニュアル400ページ守ってみた」として発信しました。

Q7. スシローの順法闘争で客に影響はありますか?

マニュアル厳守により調理や提供の速度が通常より遅くなる場合がありますが、営業自体は行われています。

Q8. 非正規春闘とは何ですか?

2023年に始まった、パート・アルバイトなど非正規雇用の労働者が企業の枠を超えて参加できる賃上げ交渉です。

Q9. スシローの賃上げ交渉はどうなっていますか?

26春闘では2回の交渉ともゼロ回答。25春闘では宮崎恒久店で60円/時の賃上げを獲得しています。

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リアルタイムニュースNAVI 編集部

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