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首都直下地震で帰宅困難者になったら、歩いて帰ろうとしてはいけない。
「3.11のときも歩けたから大丈夫」という経験が、次の巨大地震ではむしろ命取りになる。
この記事でわかること
「歩いて帰る」は最悪の選択——840万人の帰宅困難者が直面する現実
首都直下地震で帰宅困難者になったら、歩いて帰ろうとしてはいけない。「3.11のときも歩いて帰れた」という経験は、次の巨大地震ではむしろ命を危険にさらす行為になる。
15年前の成功体験が"落とし穴"になる
「地震で電車が止まったら歩いて帰ればいい」。
そう思っている人は多いだろう。
内閣府の被害想定報告書によると、首都直下地震がおきた場合の帰宅困難者は最大約840万人と推定されている。
15年前の東日本大震災でも帰宅困難者は大きな問題になった。
当時の首都圏の帰宅困難者は約515万人。
内閣府の調査では、約37%が徒歩で自宅にたどり着いた。
あのとき歩いて帰れた記憶が、「次も大丈夫」という思い込みを生んでいる。
3.11と首都直下地震はまったく別の災害
ところが、あのときの東京は震度5弱だった。
首都直下地震の想定は震度6強から7。建物が倒れ、火災が同時多発する。
| 東日本大震災 | 首都直下地震 | |
|---|---|---|
| 首都圏の震度 | 5弱 | 6強〜7 |
| 帰宅困難者 | 約515万人 | 約840万人 |
| 建物被害 | 限定的 | 全壊・焼失 約40万棟 |
| 徒歩帰宅 | 多くが帰宅できた | 群衆雪崩のリスク |
840万人は515万人の約1.6倍にあたる。
大阪府の人口とほぼ同じ規模だ。
しかも揺れの強さがまるで違う。
震度5弱なら立っていられるが、震度6強では立てない。
看板が落ち、ビルの窓ガラスが割れ、ブロック塀が倒れる。
その中を数百万人が歩くことになる。
政府広報オンラインは「むやみに移動しない」「原則3日間は帰宅せずに会社の中にとどまる」と呼びかけている。
歩いて帰ること自体が、犠牲者を増やす行為になりかねないからだ。
なぜ「歩く」が「犠牲者を増やす」につながるのか。
72時間以内は人命救助のデッドラインとされている。
倒壊した建物の下に閉じ込められた人の生存率は、72時間を境に急激に下がる。
この72時間に帰宅困難者が道路にあふれれば、救急車も消防車も通れない。
助かるはずの命が失われる。
だから政府は「帰るな、とどまれ」と言っている。
では、もし840万人のうち600万人がいっせいに歩きだしたら、東京の道路はどうなるのか。
電話ボックスに6人——600万人「一斉帰宅」シミュレーションの衝撃
600万人が一斉に徒歩で帰宅した場合、東京駅周辺の歩道は電話ボックスほどの空間に6人以上が詰め込まれる密度になる。この異常な密集が、群衆雪崩と救急車の通行妨害を引きおこす。
歩道が"満員電車以上"になる
600万人が同時に徒歩で帰宅した場合のシミュレーションがある。
日本テレビの報道によると、東京駅周辺の歩道は電話ボックスほどの空間に6人以上が詰め込まれる密度になる。
電話ボックスは約1㎡。そこに6人以上。
朝の満員電車のピーク時でさえ、1㎡あたり3〜4人程度だ。
その倍近い人が歩道に立つ。
もはや「歩く」以前の話だろう。身動きすら取れない。
3つの致命的リスク
この異常な密集が引きおこす危険は3つある。
①群衆雪崩
大勢が密集した状態で誰かが倒れると、将棋倒しのように人が折り重なる。圧迫による窒息で命を落とす。2022年の韓国・梨泰院の事故では、狭い坂道に密集した群衆が崩れ、159人が亡くなった。首都直下地震後の東京駅周辺は、あれに匹敵する密度になりうるのではないだろうか。
②余震による落下物
大きな地震のあとには余震が何度もくる。
揺れでビルの外壁や看板が落下し、帰宅途中の人を直撃する危険がある。
③救急車が通れない
道路が人と車で埋め尽くされれば、救急車や消防車は現場に到着できない。東京都と埼玉県が共同で配布するリーフレットは、「群衆雪崩などの二次災害に巻き込まれ危険」「72時間はむやみに移動せず安全な場所に留まってください」と訴えている。
内閣府の帰宅困難者対策ガイドラインもはっきりこう書いている。
「まとまった距離を移動する帰宅困難者自身が余震や群集事故などの二次災害に遭う危険を避けるため、発災後の混乱が収拾する前の移動は控えるべきである」。
東日本大震災では歩いて帰れた。
だが首都直下は帰宅困難者の数も揺れの強さも桁が違う。
「あのときと同じ」は通用しない。
歩いて帰ることがこれほど危険なら、帰宅困難者はどこで何をすればいいのか。
帰宅困難者になったら「3つのステップ」で命を守れ
帰宅困難者になったときの基本は、①むやみに動かない、②安否確認と情報収集、③安全な場所で72時間待機の3ステップだ。
あなたは帰宅困難者になるか?
まず、自分が帰宅困難者にあたるかを確認しよう。
内閣府の定義では、自宅から10km以内なら全員帰宅できるとされる。
20km以上なら全員が帰宅困難者だ。
10〜20kmの間は、1km遠くなるごとに帰宅困難者が10%ずつ増える。
東京駅から渋谷駅まで約4km。池袋駅まで約7km。
この距離なら歩いて帰れる範囲に入る。
一方、東京駅から立川駅は約30km。横浜駅は約28km。
あなたの通勤距離はどうだろうか。
3ステップの行動指針
帰宅困難者になったとき、取るべき行動は3つにまとめられる。
STEP1:むやみに動かない
まずは安全を確認する。建物の中にいるなら、揺れがおさまるまで机の下に隠れる。屋外なら建物から離れ、落下物のない広い場所へ移動する。
STEP2:安否確認と情報収集
電話はつながりにくくなる。
災害用伝言ダイヤル「171」に電話し、声のメッセージを残す。
インターネットが使えるなら災害用伝言板「web171」でテキストを登録できる。
災害時には無料Wi-Fi「00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)」が開放されるため、スマホの通信が止まっても接続できる。
STEP3:安全な場所で72時間待機
勤務中なら会社にとどまる。外出中なら一時滞在施設を探す。一時滞在施設とは、帰宅困難者を一時的に受け入れてくれる場所で、水・食料・トイレ・休憩スペースが提供される。各自治体の防災ホームページや防災アプリで、最寄りの施設を検索できる。
コンビニやガソリンスタンドが「災害時帰宅支援ステーション」になっていることもある。
黄色いステッカーが目印で、水道水の提供やトイレの利用ができる。
「会社が備蓄してくれている」は本当か
会社にとどまるにしても、水や食料がなければ72時間は持たない。
東京都帰宅困難者対策条例は、企業に従業員1人あたり3日分の水と食料の備蓄を求めている。
水は1日3リットル、3日分で9リットル。2リットルのペットボトルにして4.5本分だ。
ただし、この備蓄義務は努力義務であり罰則はない。
日経新聞の報道によれば、飲料水・食料の備蓄がゼロの事業者は都内で6割を超えるとされる。
「会社が何とかしてくれる」という前提は、かなり危ういのではないだろうか。
だからこそ個人の備えが生死を分ける。
職場のデスクに500mlの水を2〜3本と栄養補助食品を置いておくだけでも違う。
通勤カバンには「防災ポーチ」を入れておきたい。
| 防災ポーチの中身 | 用途 |
|---|---|
| モバイルバッテリー | スマホの充電。情報収集と安否確認に必須 |
| 簡易トイレ | トイレが使えない場合に備える |
| 飲料水500ml | 最低限の水分補給 |
| ホイッスル | 閉じ込められたとき、声より遠くまで届く |
| 小銭と千円札 | 停電でキャッシュレス決済が使えなくなる |
子どもが学校や保育園にいる場合、すぐにお迎えに行きたくなるだろう。
しかし学校には子どもを安全に保護する体制がある。
親が道路に出ることで混雑を悪化させ、救助活動を妨げるリスクもある。
家族との安否確認手段を事前に決めておき、まずは自分の安全を確保することが先だろう。
首都直下地震の帰宅困難者は840万人。そのとき「歩いて帰る」は最悪の選択になる。
72時間は安全な場所にとどまり、個人の備蓄で乗り切る。
この原則を知っているかどうかが、命を左右する。
まとめ
- 首都直下地震では最大840万人が帰宅困難者になると想定されている
- 一斉に歩いて帰ると群衆雪崩や救急車の通行妨害で犠牲者が増える
- 政府は72時間はむやみに移動せず安全な場所にとどまるよう呼びかけている
- 企業の備蓄は努力義務で罰則なし。個人の備え(防災ポーチ・職場備蓄)が命を守る
- 今すぐ「自宅から職場までの距離」を調べ、一時滞在施設の場所を確認しておこう
よくある質問(FAQ)
Q1. 首都直下地震で帰宅困難者は何人になる?
2025年12月公表の政府被害想定で最大約840万人。東日本大震災時の約515万人の約1.6倍にあたる。
Q2. 帰宅困難者とは何km以上の人?
内閣府の定義では自宅から20km以上で全員帰宅困難。10km以内なら全員帰宅可能とされる。
Q3. 地震で帰宅困難になったらどうすればいい?
むやみに動かず、安否確認をし、会社や一時滞在施設で72時間待機するのが原則。
Q4. 帰宅困難者対策として企業の備蓄は義務?
東京都の条例で3日分の水・食料の備蓄が求められるが努力義務で罰則はない。
Q5. 一時滞在施設はどうやって探す?
各自治体の防災ホームページや防災アプリで最寄りの施設を検索できる。
Q6. 災害用伝言ダイヤル171の使い方は?
電話で171にかけ、録音「1」を押して相手の番号を入力し伝言を録音。再生は「2」を押す。
Q7. 子どものお迎えに行くべき?
学校・保育園には保護体制がある。親が移動すると道路混雑を悪化させるため、まず安否確認を優先する。
Q8. 防災ポーチには何を入れればいい?
モバイルバッテリー、簡易トイレ、飲料水500ml、ホイッスル、小銭と千円札が基本。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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📚 参考文献
- 内閣府「首都直下地震対策検討ワーキンググループ報告書 概要」(2025年12月)【権威】被害想定の数値
- 日本テレビ「首都直下地震で最大840万人 もし帰宅困難者になったら」(2026年3月2日)【専門】一斉帰宅シミュレーション
- 政府広報オンライン「首都直下地震に備えよう!」(2026年2月)【権威】個人がとるべき行動
- 東京都・埼玉県「一斉帰宅抑制リーフレット」【権威】72時間待機の呼びかけ
- 楽天保険「帰宅困難者になったら?対策や受け入れ施設など」(2025年2月)【専門】帰宅困難者の定義・安否確認手段
- 内閣府「帰宅困難者対策ガイドライン」(2024年7月改定)【権威】一斉帰宅抑制の根拠
- 東京都「帰宅困難者対策条例の概要」【権威】企業の備蓄義務